ニセコイ Under Tale Color Wars 作:ゆうびん
オリキャラが多く出ます。ついでに藍川のフルネームが出ます。
いつもと同じ部活時間になるはずだった。少なくとも莉緒はそう思って、否、そんなこと考える必要もないくらい当たり前過ぎることだった。下校時間のチャイムが鳴るか、天候を見て判断するか、あるいは納得いくまでギターを弾くだけ弾いて一通り終われば部活は終了。こうして今日も1日が終わっていくはずだった。すこし違うと言えば、クラスメイトの春が自分を応援してくれるといったこと。それだけで莉緒にとってどれだけの励みになったことか、その喜びようはギターを爪弾く彼女の横顔から察せられよう。
「ン~ン、ン、ン...、ふぅ、メロディアスになってきたけどもうすこしエッジを利かせたいな、アンプ調節してみよ」
そういって走りの部分を弾き終えるとヘッドホンを首におろし愛用のギターを壁に立て掛け、音楽室の黒板の横にある扉から準備室へ入り鼻歌まじりに機材を探る莉緒。今日はずいぶん調子がいいらしく足取りも軽やかだ。
...後にその浮き足立っていた自分を悔やんでも悔やみきれないほど後悔することになるとは知る由もなかった...
「今の声...莉緒ちゃん!?」
時は進み、突如聞こえてきた悲鳴の方向に急ぎ足で向かう春とそれを追う藍川。その行き先とは音楽室、先ほど春と莉緒が話し込んでいた廊下のすぐ側だ。春達がいた空き部屋から音楽室までは幸い距離がそれほど離れておらず、到着はすぐだった。
「莉緒ちゃんッ!だいじょ...キャッ」
音楽室の扉を開けようとした春だったが、自分が開けるよりも先に勝手に開いた、というより内側から勢いよく開けられた扉に驚いて思わず仰け反る。
その扉から男が出てきた。薄く染めた坊主頭に趣味の悪いピアスを顔中に付け、カーゴパンツと腰に巻いた作業着が目に付く、一般的に見ていかにも“悪そう”といった風貌だ。この学校の校舎の中ではまず見かけないであろう姿にただでさえ男性が苦手な春は尻込みしてしまうが、ある一点の違和感が春の視線をその男からそらす事を許さなかった。
その肩に背負ってる荷物はどう見ても莉緒が持っていたギグバッグにそっくりだったのである。さらにそのバッグに付けているキーホルダーも同じものであった事も春は気づき、なんらかの理由でこの男が莉緒のギターを持ち出しているところであると判断した。
「そ、それ...、莉緒ちゃんの...」
「退けやッ!」
ほんの数秒間金縛りにあったかのように動けなかったが、何とか言葉を切り出した春だったが男が怒鳴り散らすように振り払われる。当然小柄な春は簡単に振りほどかれ、そのまま倒れそうになる。
「危ないッ」
遅れて到着した藍川が春の両肩をつかむ様にして支える。その隙に男は莉緒のギターを背負ったまま階段を足早に駆け下り、その場を後にした。
「あっ、藍川君、そろそろ離してくれても...」
「...し、失礼...」
藍川が自分の肩をつかんだままであったことを思い出しやんわりと手を離すように促す春、藍川もそれに従う。
「ありがとね...、っていうか今の人って...。それより!莉緒ちゃん!」
出て行った男の正体も分からぬまま音楽室の中に入る春、中ではダンボールが散乱し争った跡とその中にうずくまるように莉緒が倒れていた。
「大丈夫!?莉緒ちゃん、なんだったの、今の?」
血相を変えた春に抱きかかえられるように起こされる莉緒、朦朧としながら目を開く。
「痛たた、...あれ?春っち...」
「莉緒ちゃん!良かった、大丈夫みたいだね」
「ウチ...あのとき...、ッ!?」
おもむろに立ち上がり辺りを見渡して何かを探す様子の莉緒。大体検討はついており、若干辛そうな顔でそれを見ていた春だったが、思い切ったように莉緒に声をかける。
「莉緒ちゃん...、ギター探してるんだよね...、さっきのヘンな人が持ってっちゃったんだけど...」
「.........そっか」
必死になって探すも薄々気づいていたのか、莉緒は一言だけ呟いて地面にぺたりと座り込んでしまった。俯いたその顔からポタポタと涙の雫がこぼれおちる。
「うっ、グスッ、ウチのギターが...、うえぇぇ...」
そのまま堰を切ったように泣き出してしまった。
「莉緒ちゃん、大丈夫?立てる?」
しばらく泣いていた莉緒を見ていた春だったが、さすがにこのままではどうにもならないと思ったのか、莉緒を促しハンカチを差し出す。莉緒も俯きながらではあるがそれに応じ春に肩を組んで貰うような形で立ち上がる。
「グスン、...ウチのギター、入学したときに買って貰ったのに...ずっと大事にしてたのに...」
莉緒のギターについては春も聞かされていたとおりだ、己の半身ともいえる大事な道具。事態はよく掴めていないがきっと望んでなったものではないだろう、莉緒の様子からそれは察することができた。
「とりあえず職員室行こ?先生に言ったら何か手があるかもしれないし」
「.........」
無言のままコクリと頷いた莉緒の腕を取り職員室へと向かう春、音楽室を出たところで廊下から見ていた藍川と目があった。
「藍川君、莉緒ちゃんの鞄持って来て貰っていい?」
「...わかった、いいよ」
春の申しつけに一瞬だけ複雑そうな顔をしたが、そのまま後をついて行くことにした。春達の数歩後ろを歩く藍川だったが、ふと足をとめ窓から外を眺め。
「...雨が来そうだな」
そう呟いたのだった。
「何、ギターを盗まれた? 知らない人に?」
先ほどの一部始終を偶々職員室近くにいた春達のクラスの副担任の三川に伝え。近くの相談室に場所を移し、内容を詳しく聞き出していく。二つ並べた長机に座る副担任の向かいの春の隣に座る莉緒は、準備室で機材を探していた時、音楽室の方から、乱暴に扉を開ける音や、やたらと目立つ足音が聞こえてきた。上履きから出るような音でもなかったし、そして何より本能的な危機感を全身で感じた。黙ってられないと思った莉緒は、思い切って準備室を出て音楽室へと入ったが、そこで目にしたのはいかにも悪人と言った風貌の大柄な男が自分の愛用のギターを担ぎ、周りに注意を払いながら部屋を出て行こうとするところだった。当然驚いた莉緒は悲鳴をあげ、持って行かれまいと男に食いさがる。最初は焦っていた男だったが、一呼吸置くと、乱暴に莉緒を突き飛ばし背後の棚にぶつける。その衝撃で棚の上の備品が入ったダンボールが落下し、そのまま莉緒は気を失ってしまった。幸い莉緒に怪我はなかったが、ギターを盗まれたのは宣告の通りだ。この事の顛末を、未だスンスンと鼻をすする莉緒は伝えた。
「ウチのギター...どうなっちゃうんだろ...」
最後にそう消え入りそうな声で呟いた莉緒の手を春はギュッと握り励ます。
「大丈夫だよ!きっと先生達が犯人見つけてくれるって!ね、先生」
「...う、うん...何とかなるかな...」
「先生!もっとマジメにお願いします!莉緒ちゃんあのギター大切にしてたんですよ!」
真剣な顔で教師に詰め寄る春、若干引き攣りながら三川は応対する。
「とはいえだな...、この学校...というか君らの一つ上の先輩に、その~、特殊な家系の人たちが多くてな、備品や設備の一つが壊されても学校の方針でそういう事件を大事にしすぎないようにしようってなってるんだ」
それを聞いて春はウググと言葉を詰まらせた、そのことに自分も多大に関係してると理解したからだ。
(間違いない、先輩達のことだな...)
「あ、今の内緒な」
最後に苦し紛れにそう付け加えた三川、気持ちは重々察しているが動きにくいといったところだろうか。
「でも!莉緒ちゃんのギターとは関係無いじゃないですか!そのこととは」
それでもなお引けなかった春だった、莉緒のギターに懸ける情熱をよく知っていたからだ。詳しく知ったのは今日だったが、その熱意は本物だとよく分かった、だから引けなかったのだ。
「...ん~、分かった!さすがに今回はそのままやり過ごせないもんな。先生も何とか学校や警察に動いて貰えないか当たってみる!桃昇!先生に任せとけ!」
そういって立ち上がりドンと胸を叩く三川、春の目に彼の姿がほんのすこしだけ頼もしく見えた。
「ところで盗まれたギターはそんなに高価なものなのか?」
座り直した三川が、ようやく落ち着いた莉緒に聞く。
「ウチも気になったんですけどウチのギター、普通にお店で買えるようなヤツで、それほど価値があるモノじゃないんです。でも、お父さんが...入学のお祝いに買ってくれた...大事な...」
再び言葉を詰まらせ涙ぐむ莉緒、春は見兼ねて肩に手を添える。それを見た三川は気まずくしてしまった、とバツが悪そうにオホンと咳払いし、視線を入り口側に移す。
「そういえば藍川、お前が居るなんて珍しいな。この曜日はいつも早く帰っていただろ?」
「...使わせてもらっている部屋の施錠を忘れてたのを思い出して戻ったんですけど、...まぁいろいろありまして」
「ウチも今日天気予報で雨だって言ってたから、雨が降りそうな日はギター置いて帰るんですけど、そのまま帰ってたら今も気づかないままだったのかな...」
しばらく黙って聞いていた三川だったが、手をパンと叩いて、三人の視線を集める。
「よく分かった!とりあえず、三人とも今日はもう帰った方がいい、桃昇は...よかったら送っていこうか、先生車で来てるし」
「...ありがとうございます」
「藍川も小野寺も、もうすぐ雨が降りそうだから早く帰った方がいいぞ!?」
そう言うや否や、三川は莉緒を連れて相談室を出て行った。残った藍川と春は二人とも空き部屋に鞄を置いたままであることに気づき、取りに行くことにするが、さすがにあんな事があったためか終始無言である。
四階に上がり、先ほど事件のあった音楽室の前を通ると春は何かを見つけたのか突然廊下を見つめ、何やら指を擦りつけていた。
「.........!」
「...どうかしたの?」
「う、ううん!何でもないよ。さ、鞄取って帰ろ!」
無理に張り切ったように早足で歩き、空き部屋に到着する。部屋に入り直ぐさま鞄を取る二人だったが、春はなぜか藍川の気を逸らそうと部屋を出るように促す。
「さ、早く出て出て!」
「...出るのはいいけど、鍵持ってるの俺だから君が出ないと閉められないんだけど」
「そ、そうだよね~、アハハところでさ、藍川君の下の名前って何?」
苦し紛れに作り笑いや、質問をしてくる春に辟易する藍川
「...一宥、《藍川 一宥》だよ!もういいからそういう話しは出てからしてもらえるかな」
さすがにしびれを切らしたのか語気を荒げる藍川改め一宥、そんな彼を尻目に春は愛想笑いをしながらそそくさと部屋を出る。だが一宥は気づいていなかった、自分を怒らせるようにして気を逸らされた隙に春がダンボールの中から“黒いジャケット”を掠めとった事を。
「...忘れ物無いよね、じゃ、気をつけて帰って」
「う、うん、ゴメンね。アハハ」
無愛想に一言残して鍵をした空き教室を後にする一宥と一人廊下に残った春。鞄を担ぎ直すとグッと拳に力を込め...
(待っててね、莉緒ちゃん、きっと見つけてきてあげるから!)
心の中で呟いたのだった。
もっと改行の仕方とか勉強したいなとか思っています。
そういうサイトとか見てみようかな…
それでは次回もよろしくお願いします。