ニセコイ Under Tale Color Wars   作:ゆうびん

4 / 9
今年のニチアサキッズタイムもクオリティ高いですね。

魔法つかいプリキュア可愛すぎ~。

第四話始まラパパ~


第四話『キキテキ』

 一宥が見えなくなったのを確認した春は、改めて先ほど莉緒が襲われた軽音楽部の活動場所である音楽室へと向かう。音楽室の中は、莉緒を見つけた時のように倒れた資材がそのままにされていた。春はそれを一瞥すると男が逃げていった方向に視線を落とす、そこには独特のラメが入ったピンク色のきらめく水滴の痕が残っていた。それを指で擦り付けると痕の表面はもう乾いてしまっているが、僅かに指紋のあとが写った。

 

 

「やっぱり、莉緒ちゃんの鞄から零れたものだ...」

 

 

 春はこの液体に見覚えがあった。この液体の正体はマニキュア、爪に塗る化粧品である。莉緒は普段ギグバッグの外ポケットに化粧ポーチを仕舞っている。校則で派手な化粧は出来ないし莉緒の性格から校内でそんなマネはしないが、入れておくと何かと役に立つということを春は莉緒から聞かされていた。ついでに新しく買ったマニキュアの色も見せてもらっていたので、これについての予測はほぼ確証になっていた。

 

 

(揉みあった末にマニキュアの蓋がはずれて外に漏れ出したなんてかなり無理があるけど、今はこれを信じるしかないよね)

 

 

 その水滴の痕をさながら道しるべのように辿っていく春、男が駆け下りて行った階段を下りて靴を履き替え校舎の外へ出る。そのまま辿って行くと外の道路との間のフェンスのところで行き止まる。フェンスを越えた先に人がいないのを確認するとフェンスを飛び越え、外側へと移る。こちら側の道路は確かにこの時間帯人のとおりが少なく、忍び込むには適しているかもしれない。飛び越えた先で周りを見渡してマニキュアの痕を探す。

 

 

「あった!...あれ?」

 

 

 痕を見つけた春だったが、ここである異変に気づく。

 

 

「痕の間隔が広くなってる...、走って行ったのかな?」

 

 

 男が移動手段を変えたことを察し、次の痕を辿って行く春だったが、数歩歩いた所で足を止める。

 

 

「なんで私こんな事してるんだろ...」

 

 

 盗まれたのは今日になってそこそこ会話するようになったクラスメイトのギター、聞けばあまり高価なものではなくおまけに盗んだのは何の面識もないのに平気で暴力を振るう男。

 

 

「私一人でどうにかなんて...、そうだ!一条先輩を呼べば...」

 

 

 閃いたかのようにケータイを取り出し、一つ年上の先輩である《一条 楽》に連絡を取るべくアドレス帳を開く。お人好しの先輩ならきっと力になってくれるだろう、そんな考えの下での行動である。あとは発信ボタンを押せばコールが届く。

 

 

「.........でも...」

 

 

 春は押せなかった、否押さなかった。この事件に関わったのは自分、莉緒と知り合って色々聞かされて純粋に応援したいと思ったのも自分だ、だから...

 

 

「だから私がやらなきゃ、何の意味もないよ。先輩なんて、関係ない!」

 

 

 吽と口を一文字に結び、怯え腰になっていた自分を無理にでも奮い立たせ、歩き出す春。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分歩き続け、随分細い通りに行き着いた。歩道と車道が分けられていないのでかなり見つけやすかったのか日が暮れる前に見つけられそうである。大通りから裏道に逸れて人通りも少なくなっており、春は一層気を引き締める。

 

 

「大丈夫...、置いてる場所を見つけたら警察に電話して...ッ!」

 

 

 頬に何かが当たるのを春は感じる、空を見上げると先より濃くなった曇り空からポツポツと雨粒が降ってきた。慌てて鞄から黒いジャケットを取り出し鞄を背負った上から羽織る。予想より大きかったのか膝まですっぽりと隠れてしまうが、今はそんなことを気にしている余裕はなく手掛かりの痕が消えないうちに見つけるためにフードをすっぽりとかぶって歩を速める。

 

 

「早く、早く見つけないと...、ここで曲がって...」

 

 

 ビルとビルの合間の細い通路にたどり着いた春。ここらは無人のビルが複雑に入り組んでおり、あまり立ち入らないようにと言われているのを思い出した。細い路地に着いたということはもうゴールが近いということだ、よく見ると心なしか痕の間隔が近くなっている。

 

 

「疲れた...」

 

 

 一言呟いて周りを気にしながら通路を進んでいく、雨の勢いもジャケット越しに感じるぐらいに強くなっていく。一歩歩くごとに心臓がバクバク鳴ってくる、足取りも一歩歩くごとに重くなる。ハァハァと口から息が漏れ出る。

 

 

「大丈夫...、大丈夫だよ...莉緒ちゃん...、きっと見つけるから」

 

 

 まるで自分に言い聞かせるように呟く春。くねくねと曲がった一本道を進み、四方をビルに囲まれた随分広い空間に出た。まるで任侠映画で最初に揉め事が置きそうな誰の目にも入らなさそうな空間だ、まぁそんなもの自分は全然見ないけど、と一人心の中で毒づきながら、春は辺りを見渡す。何故かご丁寧に街灯から白い光が灯され、視界は悪くない。

 

 

「痕が消えかかっている...、早く見つけないと...」

 

 

 雨のせいで地面に付いたマニキュアが少しずつ流れて消えて行くなか、必死に痕を辿る春。すると壁側の屋根つきのサイクルポートのような場所に行き着いた。そしてそこの屋根の梁に莉緒のギグバッグが吊るされているのを見つけた。屋根のおかげで濡れておらず、マニキュアのシミが出来ている以外に目立った傷も無かった。

 

 

「あった...、あったよ莉緒ちゃん!」

 

 

 梁からギグバッグを降ろし肩に担ぐ春。あとはこの場を後にすればいいだけだ、いよいよ雨の勢いも強くなり始めたのもあって踵を返す。

 

 

「警察に連絡しようと思ってたけど、見つかったんならもういいよね。このまま出ていけば」

 

 

 だが、ここである考えが春の頭をよぎった。何でこの場所に誰もいなかったのか、何でここに吊るされていたのか、そもそも何であの男は校舎に忍び込んでまでギターを盗んだのか。ただの嫌がらせでこんな危険なマネをするとは思えないが...

 

 

(まさか、ここに戻ってきたりなんか...)

 

 

 そう心の中で考えていたその時だった。

 

 

「テメェ!!何モンだコラァ」

 

 

 背後から聞こえてきた男の声、間違いなく先ほど自分を振り払ったあの男の声だ。その瞬間、春は自分の体の中で、全血液が一瞬で冷え切ったのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「テメェ!人のモン何勝手に持っていこうとしてんだ!」

 

 

 ツカツカと自分に近寄ってくる男の足音が聞こえてくるが春は後ろを振り向けずにいた。

 

 

(お願い!夢であって、夢であって、夢であって、夢であって)

 

 

 春の今の心情はガクガクと揺れているヒザを見れば一目瞭然である。これが夢であってくれと切に願っているが、そんな都合のいいことは起きるはずもなく...

 

 

(か、体が...う、動かない...)

 

 

 逃げなきゃいけないのは分かっている、だが恐怖に体を縛られ身動き一つとれない。そのうち追いついてきた男に肩を掴まれそのまま正面を向かされ襟を吊りあげられる。

 

 

「テメェ女か...、いい度胸してるじゃネェか...へへへ」

 

 

 片方の襟を掴みあげられたことでジャケットの胸元がはだけ、凡高の特徴的なタイが露わになる。それを見た男はヘラヘラと下品な笑いを顔に浮かべて春を見る。

 

 

「イ、イヤ...!放して...」

 

「連れねぇこと言うなよ。どうやってここ突き止めたかしらねえが、俺に見つかったんだからいい加減あきらめて観念しろよ...」

 

 

 はだけられたジャケットのジッパーを下まで降ろされ強引に剥ぎ取られ、制服越しに体を打つ雨の感触が殊更強くなる。

 

 

「イヤァッ!...や、やめて...お願い」

 

「さっきから想定外のアクシデント連続で本気でイラついてんだ、詫び料として俺を慰めろよ、」

 

 

 両手を壁に押し付けられて身動きもとれずに、身勝手な男の言い分といやらしくギラついた目に春の意識は朦朧となる。

 

 

(だれか...助けて、お父さん、お母さん...、お姉ちゃん...先輩、助けて...、だれか、誰か助けて!)

 

 

 うわ言のように心の中で呟きながら、春はとうとう意識を手放そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉぉ!」

 

 

 声が聞こえる、まるで自分を襲おうとする男を制止するかのように、まるで誰かが自分を助けに来たかのように。

 

 

(そっか...誰かが私を助けに...、...何で?っていうか誰が?)

 

 

 そう自分の中で疑問が浮かんだ瞬間、春の意識は急激に現実に引き戻された。さっきまで自分を掴んでいた男は引きはがされじたばたともがいている、その背には凡高のスラックスにグレーのブルゾン、頭に野球帽といった一風変わった風貌の男性が飛び掛かり羽交い締めにしていた。

 

 

「テメェ!せっかくいいトコだったってのに、ジャマすんじゃねぇ!つーか誰だテメェ」

 

「............」

 

 

 羽交い締めをふりほどき、口角に唾を飛ばしながら怒鳴る男に野球帽の男はあくまで無言を貫きながらにらみ合う。

 

 

「なんとか言えや!!」

 

「............」

 

「クソがっ!」

 

 

 男が何度も殴りかかるも野球帽の男にバックステップで避けられ、ガードで防がれる。

 

 

「ナメやがって...テメェ!」

 

「............」

 

 

 あまり決定的なダメージを与えられなかったのか、しびれを切らし一層大振りなパンチを出そうと一歩下がり間合いを広める。その隙を見逃さなかった野球帽の男は握りっぱなし拳に握っていた砂を男の目に投げつけ視界を遮断し、その場に足止めする。

 

 

「目がぁ~、クッソ!テメェぶち殺す」

 

「......ハァ...ハァ......ッ!」

 

 

 苦し紛れにその場でもがく男に視線を向ける野球帽の男、こちらも疲弊しているのか呼吸するたびに大きく肩が動いている。未だ視力が戻らぬ男にパンッと自分の右の拳を叩いて距離を詰めるべく走り出し、助走をつけて男を全力で殴り飛ばす。その衝撃で野球帽が頭からはずれ雨に濡れた地面に落ち、顔が露わになる。眼鏡は外しているがそのボサボサに跳ねた白い頭髪は春も見覚えがあった、ほんの一時間ほど前に別れたクラスメイトのものだった。春は小さくその名を呟いた。

 

 

「...藍川君...」

 

 

 

 

 

 

 

 殴り飛ばされた男は壁にぶつかり、側に置かれていた廃材がその体の上にガラガラと崩れ落ちる。気絶したのかまだ意識があるのかは分からないが廃材に埋もれ唸りながら蠢いている。

 

 

「...立てる?...早くここを出ないと」

 

「う、うん...」

 

 

 呼吸を落ち着かせた一宥は立ちすくんだままの春に声をかけ気を取り戻させる。

 

 

「でも、何で藍川君がここに?」

 

「...詳しい話しはあと、とりあえずここを出よう。あの男もすぐには動けないだろ」

 

 

 春は剥ぎ取られたジャケットはそのままそこに捨て置き、自分の鞄と莉緒のギグバッグを担ぎ、先に歩き出した一宥の後をついて行く。

 

 

 

 

「.........ぐ、クソがッ、ゼッテェ許さねぇ...、殺す!ぶち殺す!」

 

 

 二人とも男がすぐに目を覚ましていたことには気づいていなかった...

 

 

 

 

 

 

 

 雨も幾分か収まり、連なって歩く一宥と春。来た道とは逆の方向に出ていこうとするが、やたらと長い一直線の一本道が続き、春はそれに辟易しながら一宥に質問を投げかける。

 

 

「なんで私を助けてくれたの?っていうかここをどうして見つけたの?」

 

「...さっきの男が桃昇さんのギターを持ち去った後、追いつかないだろうとは思っていたけど土足のまま上がってきていたから足跡を追っていたんだ」

 

「足跡!?私もマニキュアの痕を見つけて追いかけていたの、足跡もあったなんて知らなかった!」

 

「...で、校舎を出てフェンスを跳び越えてそのまま走り去っていった。校舎からフェンスまでの距離は道路に出るまでの最短で行ける長さのコースだった、計画的な犯行だというのは間違いないと思う」

 

「この学校の事を知り尽くしていたってこと?」

 

「...そう、おまけにそのコースは部活をしている生徒も殆ど通らない、つまり極端に人目に付かない場所だったってことだ。土足で入ってきたのももたついて誰かに目撃されるリスクを無くす為だろう。フェンスを降りた先で大体察したけど、そこで君が尋常じゃない表情をしていたのを見たから...、気になって追いかけたんだ。もっと早く声をかけていれば、よかったかな」

 

「ううん、そんなことないよ...賢いんだね、藍川君」

 

「...まぁ、努力はしてる方だけど...」

 

「じゃ、じゃあさ!何で私を助けたの?今まで殆ど会話もしてないのに...」

 

「.........ッ」

 

「............」

 

「...それは...、君が...俺の...ッ!」

 

「......?...ッ!」

 

 

 異変を感じた二人は会話を詰まらせ元来た道を振り返る、二人を襲ったのは背後からの強烈な光。けたたましいエンジン音とともに先ほど倒したはずの男がスクーターに乗って猛スピードでこちらに向かってきた。

 

 

「オラァ!死ねやテメェ!!」

 

「...くっ!」

 

「キャッ」

 

 

 激しい衝突音が無人のビルの合間一帯に轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春は一瞬どうなったのか分からなかった、先を歩く一宥とこの場を立ち去ろうと歩いていたはずだったのに急に背後から激しい光に照らされ思わず振り返る。そこには倒れて動けないはずの男がとても止まるとは思えないような早さでこちらに突っ込んでくる。先ほど男に乱暴されそうになったときと違って、今度の接近は本当に前フリもなく本当の本当に突然だった。

 

 

 それもあってこのままでは一番手前にいる自分が真っ先にスクーターにぶつかるはずなのに、春の頭は完全に思考を放棄していた。最後の瞬間に感じたのは進行方向に背を向けた自分の背中にいる一宥に右手側にあるビルのすき間の人一人入るのが必死という狭い箇所に放り込まれたこと。

 

 

 そのすき間から目を覚ました春が次に見たのは横転したスクーターが倒れてもなお発するフロントライトの光に照らされた血の付いた鉄パイプを握った男と、同じくライトに照らされた鉄パイプに打ち据えられて力なく地面に横たわった一宥の姿だった。

 




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