ニセコイ Under Tale Color Wars   作:ゆうびん

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我ながらひでえサブタイトルだ


第五話『モミモミ』

 仰向けになった一宥の胸元を片足で踏みつけ容赦なく鉄パイプを何度も振り下ろす男。余程の怒りで空回りしているのか大半は地面に当ててしまっているが、それでも硬い鉄パイプの威力は察して余りある。

 

 

「オラッ、クソが、死ねやボケェッ!」

 

「.........グ...グァッ!」

 

 

 仰向けに寝転がった自分に躊躇いもなく襲い掛かってくる鉄パイプに成すすべもなく、一宥は顔の前で両腕をクロスさせガードしているがそれでも腕にかかるダメージに苦痛の叫びを漏らさずにはいられなかった。そして春はその凄惨な状況を見て何もできず、雨が降る中下着が濡れるのも厭わずその場にヘナヘナと座り込んだ。

 

 

(...ど、どうしよう...、私のせいで...藍川君、あのままじゃ死んじゃう...私のせいだ...でも来てくれなかったら私がヒドイことされてた訳で...あれ?)

 

 

 緊張状態の中、頭が動転してうまく働かず考えを纏められない春。

 

 

(どうにかして...藍川君を助けないと...、でもどうすれば...警察に連絡を...ダメだ、ここがどこかわからない...じゃぁ今度こそ先輩に...だからわからないんだってば!!)

 

 

 そして...

 

 

(藍川君...、ゴメンね、すぐ助けを呼んでくるから)

 

 

 春はその場から逃げようとゆっくり腰を上げその場から去ろうとする、だがそのとき出た足音を男は聞き逃さなかった。

 

 

「オイ女ァ!テメェなにでていこうとしてんだよォ!」

 

「.........ッ!」

 

 

 鉄パイプの殴打を止めこちらを向いてきた男の怒号にビクりと体を震わせる春、体全体をガクガクと揺らして怯える。その様子を見た男はフンと鼻で笑い再び目線を一宥の方に落とす。

 

 

「お前も気の毒だなァ、助けようとした女の子が自分を置いて一人で逃げようとして」

 

「...ちが、わ、私そんなんじゃ...」

 

「フン、どのみちコイツぶっ潰せば次はテメェだからな。楽しみにそこで待ってろよ...」

 

 

 男は再び鉄パイプを振り上げ一宥を見下ろし、踏みつけている足に力を加える。が、なぜかなかなか振り下ろさずそのままの姿勢で固まる。

 一宥は男をにらんでいた。普段から眼鏡と前髪に隠れうかがい知れないが、一宥の底冷えするような視線に男は動きを止めた。

 

 

「...て、てめぇ...」

 

 

 言葉を詰まらせる男、一宥の視線にそれだけ“何か”を感じたということなのだろうか。だがそれは男の心を慄かせることは適わず、逆に怒りという名の火を注いでしまった。

 

 

「何ナメた真似してくれてんだ...、ブッ殺す!」

 

 

 踏みつけていた足をどかすと男は一宥に馬乗りになるように跨り、首に鉄パイプの腹をあてがい体重をかけ首を絞める。

 

 

「...ウ、...ゴホ...グァ」

 

 

 足をジタバタさせもがく一宥を全く気にすることなく、男はさらに手に力をこめる。一宥はベンチプレスをあげるように鉄パイプを押し返そうとするが、散々痛めつけられた体ではそれも適わず眉間に皺を込め無駄な抵抗を続けている。

 

 

「クソが!クソがクソがクソが、俺を誰だと思ってんだよォ!UV(ウルトラ・ヴァイオレンス)の副リーダーだったんだぞ!クソが」

 

 

 怒りのままに鉄パイプを握る手にさらに力を込める男、腰を浮かせてさらに鉄パイプを一宥の首に食い込ませる。

 

 

「今日は最悪だぜ!ガキに見られるは、取引場所は変更になるは、テメェらみてぇなクソに調子こかれるは!...俺をナメた罰だ、ここで死ねや!!」

 

 

 鉄パイプに首を絞められ、とうとう顔が青白くなりかけている一宥、男は相変わらず怒鳴り散らしている。そして春は...

 

 

 

(藍川君...このままじゃ...どうしよう...どうしよう...)

 

 

 辺りを見回す春、すぐそばにあるものを見つける。

 

 

(あの男、怒鳴ってこっちに気づいてない...今しかない!)

 

 

 雨でびしょ濡れになった体で立ち上がりそばに置いてあった木箱を手に取り拾い上げる。

 

 

(...気づかないで...気づかないで...)

 

 

 そして未だに吠え続けている男の背後に立ち寄り、ごくりと唾を飲み一呼吸置いて男の後頭部目掛け振り下ろす。

 

 

(.........えいっ!)

 

 

「...いいかげんくたばれやボケェ!テメェなんざ俺の、...グワァッ」

 

 

「.........!...ッフンッ!」

 

 

 背中に思い切り木箱をたたきつけられて思わず攻撃を止め、声を上げ腰を落とす男。一宥はその隙を逃さず男のわき腹に強烈なフックを打ち込み、男の拘束を解き即座に立ち上がる。そして思いもよらぬ二つのダメージに男はわき腹を押さえてゴロゴロと地面を転がっていたが、何とか壁にもたれながら腰を曲げたままの状態で立ち上がろうとする。が、目の前には完全に本調子を取り戻した一宥が立ちはだかっている。圧倒的優勢だった自身の立場を覆され男の余裕は完璧に崩れていた。

 

 

「わかった!!お、俺が悪かった!もう見逃してやるから!な!もうやめろ!」

 

 

 みっともなく命乞いをする男、だが一宥は着ていたブルゾンを脱ぎ捨て首の骨を鳴らし拳を握る。

 

 

「や、やめろって!UVの武山が頼んでるんだぞ!わかんねぇのかテメェ」

 

「...君が誰かなんて全く興味はないが...」

 

「や、やめ...」

 

「...俺は君を許さない」

 

 

 そう言い残して一宥は、パンと右の拳を左手ではたいて武山と名乗る男の顎に勢いをつけてアッパーカットをぶち込む。そのまま男は壁に打ち付けられ地面に倒れ伏し、気絶してしまった。

 

 

「......ハァ...ハァ...」

 

「藍川君!!」

 

 

 春が駆け寄ってくる、呼吸を落ち着かせた一宥は左腕を押さえながら春の方を振り向く。

 

 

「...小野寺、ケガ...無い?」

 

「う、うん...私は大丈夫...、っていうか!藍川君の方が!バイクで轢かれたり何度も棒で殴られてたでしょ?」

 

「...まぁ、大丈夫だとは思うけど...」

 

「そんな...、ごめんね...さっき、私本当に置いて逃げようなんて思ってなかったの、助けを呼ぼうと思って...本当だよ!!」

 

 

目に涙を溜めて謝る春、その涙は助かった安堵かあるいは身を張ってくれた藍川への申し訳なさなのかは分からない。と、ここで二人の耳に何かが聞こえてきた。

 

 

「この音って...もしかしてサイレン!?どうしよう!!私たち...」

 

「...出よう、ここを今すぐに...」

 

「キャッ」

 

 

 春の手を引き早足で走る一宥、ここに到着するであろう警察にかかわると十中八九面倒なことになる...そう踏んでここからの脱出を図ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッハァッ、ちょ、ちょっと、早いよ!藍川君」

 

「...ご、ごめん...ここまで来たらもう大丈夫かな...」

 

 

 春は一宥に手を引かれ数分間走り続け、どこかの高架下のトンネルになっているところまで行き着いた。一段落着いたためか雨で濡れていた体が一層冷え込み春の体はブルリと震えた。

 

 

「...小野寺?大丈夫?」

 

「どうしよう...さっきの人...大怪我とかしたら私達にも責任とか...捕まったりとかしちゃうのかな?私達とんでもないことしちゃったんじゃ...ねぇ!どうしよう」

 

 

 そう呟いていたかと思うと声を荒げ一宥の両肩を掴んでグワングワンと揺さぶりだす春。心の不安にネガティブな考えが相乗しますます負のスパイラルに陥る。

 

 

「ねぇ!どうしようどうしよう」

 

「...ちょ、小野寺落ち着いて...痛ッ、揺らさないで...」

 

 

 揺さぶられるのが体に響くのか表情を歪ませる一宥、落ち着かせようと両掌を前に突き出し静止のポーズをとるが春は未だに揺さぶり続けている。その時だった...

 

 

「「!?」」

 

 

 “ふにゅ”と一宥の手に柔らかな感触が広がり、春も自分の胸元になにか圧力を感じた。二人が目線を落とすと一宥の両の手が、春の慎ましくも確かに主張する胸を鷲掴みにしていたのだ。

 

 

「ちょ、藍川君...あっ、なにこれ...やぁっ」

 

「...やわっ、あ、いやこれは...ごめっ、ぅおッ」

 

 

 慌てて手を離そうとする一宥だったが、さっきの戦いで足を痛めていたのかバランスを崩し春の背中を壁に押し付ける形で押し倒してしまった。...両手で胸を揉んだまま...

 

 

「「.........」」

 

 

 鼻先がくっつき合おうかという近さまで二人の顔が近づく。勢いをつけて壁に押し付けられより一層強く胸を揉まれた春は顔から湯気が上がらんばかりに赤面するが、それは一宥も同じだった。

 

 

「ちょっ、あっ...い、いつまで...揉...触ってんのよ!このヘンタイ!!」

 

 

 高架下に威勢のいいビンタの音が響き渡ったが、ちょうど上を走っている電車の音にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...大変失礼いたしました...」

 

 

 顔に真っ赤なモミジを付けた一宥が春に平謝りをする。春の方も助けてもらったこともあってかあまり大きな顔をすることもできず胸元を押さえて気まずそうにそっぽを向いている。

 

 

「う、うん...こっちも...ゴメンね、助けてくれたのに」

 

「...お互い今日のことは忘れたほうがいいと思う...、ちょっと勝手だけど」

 

「うん...あー!大変!」

 

「...ど、どうしたの」

 

 

 ギギギと首を一宥の方に向ける春。

 

 

「莉緒ちゃんのギター、置きっぱなしで来ちゃった...」

 

「...なッ...体中が痛くなってきた...」

 

 

 呆れて壁にもたれる一宥、春は申し訳なさそうにうつむく。

 

 

「ご、ごめんなさい...って、藍川君が手を引っ張るからでしょ!おまけにお、乙女の胸を揉みしだくなんて...」

 

「...言うんじゃなかった...」

 

 

 あっという間に形勢逆転してしまった。

 

 

「...とはいえ、桃昇のことだから警察に特徴とかも事細かに伝えてるだろう、ギターに保証書が入ってるかもしれないし。そのほうが安全かもしれないな」

 

「それもそうかもね。あ、雨もやんできた!ちゃんとカバンは持ってるし私このまま帰るね。...はぁ、パンツまでビショビショ」

 

「......そうだな。じゃ、今度こそ気をつけて帰ってね」

 

「うん...じゃあね」

 

 

 踵を返して返事もせず手をヒラヒラと振って歩き出す一宏、うまく見えないようにごまかしているが腕を庇っているように春には見えた。

 

 

「......あ」

 

(ちゃんとお礼言わなきゃ...でも...どう言えば)

 

 

 春はこれ以上言葉を出すことが出来なかった。今日はいろいろあり過ぎてうまく頭が働かず、何も言わず歩き出すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し遡り、武山が殴り飛ばされ春と一宥が走り去っていった直後。

 

 

「ぐ、。体が...イテェ...クソ、あのガキ共、ゆるさねぇ」

 

 

 笑う膝を押さえて何とか立ち上がり二人を追いかけようとするが、そのとき何かの音に気づく。

 

 

「な、なんだこの音、まさか警さ...」

 

 

 ファンファンファンファンファンファ、Pi.........

 

 

「止んだ...誰かいんのか!出て来いや」

 

 

 何故か急にサイレンがパタリと止んでかわりに何者かの足音が武山のもとに近づいてくる。

 

 

「よぉ。コレ、サイレンアプリっていうんだ。便利だろ」

 

「アァ!?てめぇさっきのやつらの仲間か、居所教えろや!」

 

 

 現れた男に相変わらず牙を剥く武山、返事といわんばかりに飛んできたのはハイキックだった。

 

 

「グハァッ!」

 

「とりあえず、そのさっきのやつらについて知ってることとか、いろいろ教えてもらおうか」

 

「グ、グウゥ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、雨も上がり真っ青な空模様が広がる。帰宅後母から小言と姉から心配事を散々聞かされ些か疲れた顔で風呂に入りそのまま布団で泥のように眠ってしまった春も一晩寝ればすっかり元気になり登校し、涼に挨拶する。

 

 

「おはよ!風ちゃん」

 

「おはよう春、昨日はごめんね!先に帰っちゃって」

 

「ううん、今日は一緒に帰ろうね」

 

「うん」

 

「はるっち~~~~」

 

 

 昨日の揉め事もウソのように流れていくような朝の爽やかな空気の中、莉緒が走って春に抱きついてきた。

 

 

「わっ、どうしたの莉緒ちゃん」

 

 

 春は莉緒が言おうとしてることがなんなのか大体は見当がついている、何せ自分が当事者なのだから。

 

 

「ウチのギターが見つかったの、帰ってこないと思っていたのに!」

 

「ホント!よかったね~警察から電話とかあったの?」

 

「春、昨日何かあったの?」

 

「ううん、なんでもないよ風ちゃん」

 

 

 涼からの問いかけにもあくまで平静を装う春、あくまで当たり障りのないように話を進める。

 

 

「それがね、朝部室にいったら置いてあったの、雨でバッグは濡れてたんだけど、ギターは無事だったんだ」

 

「そっかー、部室に置いてあったんだー、...え?」

 

 

 春の表情が一瞬強張る、部室に置いてあるはずはないからだ。昨日のあのあと確かに置き忘れたギターがなぜ音楽室に戻されたのか、その理由が春には分からなかった。

 

 

「おかげで怒られちゃったよ、先生が後で昨日の事聞かせてほしいって言って...はるっち?」

 

「...ハッ!う、うん分かったよ、とりあえずカバン置いてくるね」

 

 

 そういってぎこちない足取りで席に向かう春、道中目があった藍川の表情が少し気になったが今はこちらが先決と机にカバンを掛けるが、机の中に二枚の紙が入っているのに気づいた。その紙の中には...

 

 

 

 

 

「 昨 日 の 一 件 は す べ て 見 て い ま し た 、 今 日 の 放 課 後 屋 上 ま で お 越 し く だ さ い 」

 

 

 

 

 とのメッセージと、昨日の自分たちの戦いが俯瞰で撮られてある写真が入っていた。爽やかな秋空の下、春の額に冷汗が一筋流れた。




今回で第一章は終わりです。

次回から第二章へと続いて行きます、ぜひお楽しみに!!

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