「はぁ…」
いつものように義務教育を果たすべく…ふぅ。つまりは登校路である。思わず気の遠くなるような急な坂道の地平線を眺めながら溜息を吐いた。
「つまりは空っぽって事ですか」
七視さんのまるで的を射た言葉に思わず可笑しくて笑ってしまう。そっか。やっぱり他者から見て僕はそう映ってしまうのか。そういえば中身のない機械と話しているみたいだと誰かに言われた事がある。誰だったっけ…?
「まぁ、いいか」
覚えていないということは、それほど大切な内容でもなかったのだろう。それよりも急がなければ。遅刻はしたくないしね。
「おっはよーございまぁす! 黄泉せんぱぁーい!」
不自然に間延びした妙に甘ったるい声がすぐ近くで聞こえ、振り向くと案の定そこには居た。…しかも出来ることなら必要以上に係わり合いになりたくない人種が。
「やぁ。えーと、誰だっけ?」
「酷いですよぅ、もぅ。…って、そうじゃなくて」
この子は僕の通う三瀧原高校の中等部の一年生、絢ノ瀬遥(あやのせはるか)という。かなり直球に言うなら僕のストーカーで。控えめに言うなら僕の熱烈なファン(いったい何のファンなのかは甚だ疑問だが)。ただ、別に僕に対して恋愛感情を抱いているわけではないらしく。それに今の所害を及ぼす程のものじゃないので放っておいている。
「聞いて下さいよぉ! 実はですねぇ…」
ああ、物語のはじまりってもっと穏やかな日常風景を描写するものだと思っていたんだけど。どうやらこの小説はそんなものまってはくれないらしい。
「……世知辛い世の中だぜ」
そう独り言のように呟いた(独り言だけど)。
「もしかしたら”はくれいじんじゃ”はあたりかもしれない」
一之瀬さんと別れたあの後、学校へ登校義務を果たし、僕は不思議発見部の巣食う廃校舎で貴重な放課後を消費していた。我々発見部の部長にしてこの三瀧原高校の生徒会長である三間坂矢杖は言った。そんな部長を見やり、僕はとりあえず飲み干したお茶のお代わりに部室の倉庫へと注ぎに行くのだった。冷蔵庫からあらかじめ買っておいたペットボトルのお茶を出し空のコップに注いでいく。どうでもいい事だがこのペットボトルには『麦茶、はじめました』という訳のわからないラベルが貼られていたりする。そして自分の席に付き先程淹れたお茶を飲み、一息付いてから福志くんを見やる。まだ同じポーズのまま固まっていた部長を見て、無関心、無表情、無頓着を優々と担ぐ僕にかつてない程の衝撃を与えた。いや動けよ。
「どうぞ続けて下さい」
「はくれいじんじゃはあたりかもしれない」
「それはさっきも聞きました。あと恐らく博麗神社かと」
「博麗神社はあたりかもしれない」
「…………」
なるほど理解。今重要なのは、また傍迷惑な題材を見付け、あまつさえそのスカイブルーの目を爛々に輝かせている部長の相手をする事なんだね。
「な、なんだってー」
「驚くのはまだ早い。どうやらこの情報、本当の本当にあたりなのかもしれない! しかも父のコネをフル活用した調べによると博麗神社付近は行方不明者が多いらしいんだよね」
「な、なんだってー」
今こいつ堂々とコネとか言いやがったよ。むしろそこに驚いたよ。
「それに…」
「な、なんだってー」
「……赤梨くん」
「はい」
「実は信じてないでしょ?」
「はい」
「……まぁ、いい。とりあえず明日、二時に駅前で集合ね?」
「はい?」
「遅れないでくりゃしゃんせ」
「家からでたくないでござる」
「そっか。じゃ、また明日駅でー」
「…………」
どうやら向こうにはこちらの言葉が何らかの電波障害を受け聞こえない状態にあるらしい。なんてこった。博麗神社は徒歩で向かうとそれなりに時間が掛かりかなり遠い。しかし、電車という交通手段があるので五分もせずに着くと思うが。ただ、こうやって貴重な休みが浪費されていくのかと、しみじみと思った。
(。-ω-)zzz. . . (。゚ω゚) ハッ!