初投稿なのですが、約5000字書くだけでかなり時間が……皆すごいな……
カルデア通信記録
20150731_hhmmss
【再生】
ペガサスを駆って天を目指した僕、つまりベレロポンは、結局のところ天上……神の国へは辿りつけなかった。そして地に堕ち、人として生きることを神々に強いられた僕は、人として死んで終わりにするつもりだった。
「座」にだって行かなかった。それは只人の在り様を逸脱することだから……意地を張っていたのかもしれない。
え、話が長い?
ああ、ごめん。この話をするのは初めてだから、どうにも要点が掴めなくて。
まあ、人類文明の灯が観測できないなんて状況に比べれば、僕みたいな人間の一人や二人、転生したところで大したことじゃあないのかもしれない。
うん。こっちも病室からDr.ロマンに無理を言って繋いでもらっている状況だし、冬木も霊脈地から一歩外に出たら辺りは敵だらけなんだろう?
――手短に行こう。
カルデアの資料によれば、2004年の冬木……聖杯戦争が起こったその時その場所で、
……ただの天馬ならまだいい。だけど、もしその個体が
アレは神代から存在し続ける幻獣で、生半可な神秘じゃ対抗すらできない。君の契約したサーヴァントの、一番強い宝具を全力全開で叩きつけて相殺する……そのくらいの覚悟で挑んで欲しい。
もちろん、他にも強大な英雄たちがいると思う。ただ、現地のサーヴァントにだって、事情を話せば協力してくれる者もきっといるはずだ。
なぜって?
「座」に至るほどの英雄が、人の……人類存亡の危機を見過ごせるはずないだろう?
英雄っていうのはそういうものだよ。「座」にいない僕が言うのも何だけどね。
……とにかく、君だけが頼りだ。幸運を祈る。
【一時停止】
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「と、こんな様子だったわけだけど……ダ・ヴィンチちゃんはどう思う?」
そう言って、ロマニ・アーキマン……通称Dr.ロマンは、通信記録を一時停止した。二人がいるのは人理継続保障機関・カルデアの一室。現時点の所在地は施設内の誰にも伝えていない。
問いかけの向かった先、密談相手たるカルデア技術部の統括者、モナ・リザの生き写しめいた美女レオナルド・ダ・ヴィンチは興味深げにうなずいた。
「ふぅむ。ヒッポノオス君、か。いやはや、ぐだ子ちゃんといい生き残り組は一癖も二癖もある子たちばかりだね! だからこそ生き延びたのかもしれないが」
「ペガサス乗りの英雄ベレロポン、その生まれ変わり……カルデアの面接ではそんなこと一言も言ってなかったのになあ」
「まあ、言われても信じないだろう? ロマニ、君が同じ立場ならどうする?」
「うーん、羨ましいけど教会に知れたら異端扱いマッタナシだよね……アカシャの蛇と類似の現象なのかなあ」
むむむ、と悩むロマニ。強くてニューゲームとは、この世全ての厨二病経験者に秘された欲望である。
「……いずれにしても、今重要なのは彼の記憶の真偽ではないだろう? カルデアのマスターとして適性があるか否か、そこはどうなんだい?」
「ああ、彼はとても優秀なマスター候補だよ。何故かギリシャ系のサーヴァントしか召喚適性が無いのが玉に瑕だけど」
「へぇ。その前世とやらの補正かな」
「かもね。とにかく、色々あったけど冬木特異点の聖杯は回収したし、次なる特異点……オルレアンに向かう前に、彼にもサーヴァントを召喚してもらおうというわけさ」
そう言ってロマニが机上の小型金庫を開くと、ジャラリ、と硬い音を立てて虹色に輝く宝石が顔をのぞかせた。
聖晶石。守護英霊召喚システム・フェイトの動力源である。
カルデアの施設および物資は、先日起きた事故でその多くが損なわれ、辛うじて無事だったものをかき集めながらの運用が続いている。決して余裕のある状況ではなかったが、戦力の拡充は何より優先すべき課題であった。
「当然、ギリシャゆかりの英霊を引くのだろうね。ヘラクレスあたりが来てくれると嬉しいが」
「それは芸術家としての興味かい? でもベレロポンとヘラクレスって縁あったかな……『イリアス』によればベレロポンとカリュドーン王オイネウスには友誼があったそうだから、そこから娘のデーイアネイラ、その夫ヘラクレスと辿っていく……? 友人の娘婿はちょっと遠いねぇ」
「望み薄か……彼の肉体を鑑賞してみたかったんだけど、残念だ。他にも祖父のシーシュポス、孫のサルペドンあたりは有名だね」
「シーシュポス? 神々を欺いた? タルタロスから出てこれるのかなあ……サルペドンはヘラクレスと同じゼウスの子だし、来てくれたら心強いね。あとはポセイドンの子供かな、オリオンとか……」
どうにも真剣さの足りない憶測を交わしながら、ロマニは聖晶石を4つ数えて摘み上げ、別の容器に移す。およそ一回分の召喚をまかなえるだけの量だ。
平素、ロマニは軽佻浮薄な男である。柔和というよりは軟弱、冷静というよりは臆病な類いの人種であるとダ・ヴィンチは判じている。
だが、それは決して彼の無能を誹謗するものではない。彼は間違いなく有能な医療スタッフであり、現在カルデアを襲う非常事態においても、臨時責任者として十全に責務を遂行していた。
ヘラヘラと緩んだ表情は内心の悲哀も恐怖も覆い隠し、垂れ流される軽口は諦めの言葉が口をついて出ることを認めない――それが意図したものであろうとなかろうと。
しかし、それゆえダ・ヴィンチは、彼が今言及しなかった問題の深刻さを推察することが出来た。彼が密談を設定した理由も。
「なるほどなるほど。よく分かったよ。それで――ドクター・ロマニ・アーキマン。ヒッポノオス君の容体はどうなのかな?」
ぴくりと、ロマニの肩がわずかに痙攣した。よく抑えたほうだ。
「治らないんだね?」
「ああ……ああ。そうだよ、レオナルド。ヒッポノオス君は事故の直前にコフィンを飛び出し、爆心地に自ら突っ込んだ。手足がくっついているだけでも大したものさ。直感と自己保存スキルは英雄の嗜みってことかな?」
ははは、と力なく笑う。
「眼はある程度補正できるけど、脚は駄目だ。神経接続も魔術回路も切断されているから、治しようがない。そして、そうまでして彼が助けた――保存した所長の肉体も、依然仮死状態だ」
「仮死状態?」
「レフ・ライノールは所長を殺さなかった。
「……」
「肉体を殺せば、所長を解放できるのかな」
「……レフ・ライノールの介入は、肉体と精神が切り離された状況下で行われた。おそらく、肉体の生死にもはや意味は無いだろう」
「……そうか」
「……」
「ボクは無力だよ。救うべき患者たちが目の前にいるのに、誰にも手を打つことが出来ずにいる」
「ロマニ。君はよくやっている」
「ありがとう、レオナルド……そう、そうだね。今は落ち込んでいる場合じゃない」
そう言って、ロマニは聖晶石の入った容器を手に席を立とうとした。
……確かに、状況はよくないのだろう。
だが――だからこそ、一時の強がりに頼ってはならないとダ・ヴィンチは考える。
「ロマニ。繰り返しになるが君はよくやっているし、もっと気楽になるべきだ。ある意味、時の流れから切り離された我々にとって、時間こそ最大のリソースなのだから、せいぜい楽しまなければいずれ耐え切れなくなるぞ」
「気楽……だって? レオナルド、ボクたちの双肩には人類存亡がかかっているんだぞ」
「だからこそ、だ。何、いずれ嫌でも分かるさ。英雄、かつて人類の希望であった者が、皆しかつめらしく人や世界について考えていたわけではないということを。彼らは時にもっとずっと適当に、思う様生きて、しかしそれゆえ偉業を為したのだということを――」
「……ボクは只の医者だ。英雄じゃない」
「君はそうでも、カルデアは違う。カルデアの一員として、英雄に至る者がどれだけ理不尽な存在か認識した方がいい」
「理不尽って、あのさ」
そのとき。
ピピーピピー。ピピーピピー。
激昂しかけたロマニを、携帯通信機の着信音が遮った。そして、
「ッ……はい、こちらDr.ロマンだよ。どうしたの? …………は? 所長が目を覚ました?」
眉間にしわを刻んでいたロマニの表情が、愕然としたものに変わり、
「ぐだ子ちゃんが所長の精神体をサルベージした? は? カルデアスの中に腕を突っ込んで直接? ……いや、冗談はやめてくれないか。悪いけどこっちはシリアスなんだ」
「なぁ、ロマニ」
「ちょっと黙っていてくれレオナルド! ……え、所長!? 本当に……ええ。こちらは何とか。所長も無事でよかった。電話に出て大丈夫なんですか? すぐそっちに行くから、少し待ってて!」
そう言って駆け出そうとした彼を、ダ・ヴィンチは再び引き止めた。
「ほら、ポケットティッシュだ。眼と鼻を拭ってから行きたまえ」
「君は……いや、ふふ、はははははは! なるほど、理不尽、理不尽ね! 確かにこれは君の言うとおりだ!」
「うん。多少はマシな顔になったね……ロマニ。これから君が目にするのは、荒唐無稽で最新未踏の英雄譚。人類の未来を守る、マスターと英霊たちの物語だ。君も私同様主役じゃないのだし、いつも通り気楽にサポートしてあげればいい。楽しく愉快に人類を救おうじゃないか」
「楽しく愉快に、か。ああ、そうなのかもしれないな――――」
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「それでDr.ロマンは来れないんですか?」
「オルガマリー所長は一応絶対安静ってことでね、彼もつきっきりさ。まあ、私がいれば召喚はできるから大丈夫」
「そうですか。……じゃあ、もう始めていいんですね?」
「いや、ちょっと待ってくれないか。ぐだ子ちゃんも来たいと――」
ついに僕も召喚ができるということで、病室から車椅子を転がしてやって来たのだけれど、Dr.ロマンは忙しいようだ。
ダ・ヴィンチちゃんが見届け役になってくれるというので、召喚の準備を手伝いながら最近の病室生活や車椅子の使い心地なんかを話していると、廊下から声が響いてきた。
「たーんぱつ! たーんぱつ!」
「先輩、ちょっと待って下さい先輩! 確かに聖晶石は用意しましたが、今回召喚するのは先輩じゃなくてヒッポノオスさんです!」
「なん……だと……? ……チッ」
「あっ……やめて下さい先輩、舌打ちしながら無言でまさぐらないで……そこは……ひゃぁ!?」
「おぅおぅ! いい呼符もってんじゃねぇか!」
「ダメです! それは明日のログインボーナスで……!」
「よーびーふ! よーびーふ! よーびーふ! よーびーふ!」
「うぅ……じゃあ明日もちゃんと来てくださいね……」
「おっけー!!!」
プシュゥ、と音がして扉が開く。
そこに立っているのはもう一人のマスター・ぐだ子さんと、彼女と契約しているデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトさんだ。マシュさんが赤面しながらやけに息を荒げているが……放っておくべきだろう。
「召喚しに来たよー!」
がちゃーがちゃーと謎の効果音を発しながら、ぐだ子さんが近づいてくる。
「ぐだ子さんも召喚? 良いサーヴァントが来るといいね」
「……」
と、挨拶がてらに声をかけた途端。
ぐだ子さんの目が「はぁ~~~、こいつ分かってねぇなぁ~~~」みたいな感じに変わった。それはもう。ありありと。
「ああ、新規の人? 悪いけど、『良いサーヴァント』……そんなこと言っちゃう時点で駄目。ガチャなめてる。ガチャっていうのは、もっと……」
そして、そんな意味深な台詞を呟くと、彼女は僕の前に進み出た。
「おや、ぐだ子ちゃんが先に召喚するのかい? 私は構わないが……」
「あ、僕も大丈夫です。お先にどうぞ」
ぐだ子さんに先を譲る。正直、初めての英霊召喚なので少し緊張していたのだ。彼女はそれを見ぬいて、先にお手本を見せてくれるつもりなんだろう。きっと良い人に違いない。
「よし、準備完了。ぐだ子ちゃん、いつでもいいよ」
「……素に銀と鉄。礎に石と契約の大公――」
「先輩、それ無くても大丈夫です」
なにやら謎めいた呪文を唱えたり唱えなかったりしながら、聖晶石の代替エネルギー源『呼符』を召喚装置にセットする。
その装置の名は、守護英霊召喚システム・フェイト。過去に疾走する魔術と未来へ邁進する科学の融合が生んだ、人理継続保障機関フィニス・カルデアが誇る第4の発明。
人々の信仰を受ける英霊たちを召喚しサーヴァントとして使役する、驚異の術式を実現するもの。
一言で言うなら、「座」に至った英雄たちを呼び出すための装置だ――
カッ!
召喚装置から光が溢れ、視界を白く染める。思わず目を閉じた僕が次に目を開いた時、眼前にあったのは英雄の姿――ではなく。
莫大な魔力を感じさせる、大きな真紅の宝石をあしらったペンダントだった。
シリアスは死んだ! もういない!
ライダーさん召喚まで行きたかったけど、長くなってしまったので次回に分割。
参考資料(しょちょーを救出するぐだ子の勇姿):
http://www.fate-go.jp/manga_fgo2/comic01.html
FGOカルデア勢の中では、Dr.ロマンが「ダ・ヴィンチちゃん」と「レオナルド」を使い分けてるのが好きです。
あとヒッポノオスの容姿ですが、ベレロポンは一応イアソンの血の繋がらない親戚に当たるので(といっても、ギリシャ勢は主に某主神ゼウスのせいでだいたい親戚みたいなものですが)、まあ「柔和な感じのワカメ」的なイメージで……あれ、ライダーさんの周り、ワカメだらけだな