カルデア側の描写を入れたら2分割で収まらなくなったので、適当なところで3分割!
「ふう……」
大きく息を吐いて顔を上げると、疲れた目に部屋の内装がぼやけて見えた。気づかないうちに、随分と集中していたようだ。
思い切り背中を反らせば、あちこちで骨の鳴る音が聞こえる。疲労を心地よいものだと感じるのは、本当に久々のことだった。
「やあ所長、少し相談したいことがあるんだが、休憩がてらにコーヒーでもどうだい」
「レオナルド、いつの間に」
「ドアをノックしたけど、返事がなかったからね。勝手に入らせてもらったよ」
そう告げると、侵入者レオナルドはさっさと応接用のソファに身を沈める。カルデアは自分の庭で、この執務室は己の魔術工房ではない。そう思って最低限以上の
そういえば、こういう自由気まま過ぎる振る舞いは芸術家肌のサーヴァントに時折見られるものだから気にするな……そう忠告してくれたのはレオナルド自身だったか、いや、厨房にこもりきりの赤い弓兵だったかもしれない。
彼……エミヤと名乗るサーヴァントは、ふと気づいたらカルデアに現界していた。その存在に気づいたのが彼の料理を食べた後だったからか、誰も彼を追いだそうとはしなかったのだ。今も、厨房で黙々と次の仕込みをしているのだろう。
いや、あるいは、エミヤという魔術師、もとい魔術使いの在り方を知る者がいたからかもしれない。エミヤシロウ。第五次聖杯戦争の勝者である彼は2015年において未だ存命だったはずで、それがサーヴァントとして、しかも守護者として召喚されているというのは随分奇妙な状況である。聞けば、あちこちの聖杯戦争に顔を出す歴戦のサーヴァントであると言うし……
まあ、もっと重大かつ深刻かつ奇妙な事態に陥っているカルデアの職員たちは、最早誰もそんなことを気になどしないのだが。
「……レオナルド? 休憩はともかく、肝心のコーヒーの姿が見えないのだけど」
「ああ、そろそろ来るはずだよ」
言葉に違わず、ドアをノックする音が響く。返事を返すと、まさに赤い外套を纏った男がコーヒーとケーキを盆に乗せて運んできた。
「ご注文の品は以上かな?」
「ああ。払いはロマニにツケておいてくれたまえ」
「……いや、別に金は取っていないのだがね」
苦笑するような表情が、随分と似合う。というか、それ以前にウェイターみたいな立ち居振る舞いの馴染み方が尋常ではない。
「所長、呆けていないで座ったらどうだい」
「え、ええ。いただくわ……いい香りね」
「それは良かった。とはいえ、私はコーヒーにも覚えがあるが本領は紅茶でね。興味があれば、またの機会に注文してくれ」
ちゃっかり宣伝しながら踵を返すその男を呼び止めたのは、この部屋にロマニを含めて部下の職員が誰もいなかったからだろうか。
「何だね? メニュー変更の希望なら、まだ受け付ける時間はあるが」
「……それはいつもどおり任せるわ。味も栄養バランスも文句のつけようがないし……じゃない! ええと、あなた、聖杯戦争の経験が豊富なのよね?」
「そうだな。我々サーヴァントは時間空間を越えて呼び出される存在であるし、特に私のような守護者は体良くあちこち駈けずり回されるものだ。ああ、マスターとしても多少の経験はあるが……そちらは余り参考にならないと思うぞ」
「その……今、我々がオルレアンの特異点修復を行っているのは知っているわよね? 現地では随分苦戦しているようだし、サポートのロマニもそういう訓練を受けているわけじゃないから……もし良ければ、彼らに助言をしてもらえないかしら」
「ふむ……」
エミヤは何やら難しい顔をして黙り込んだ。対面で何も言わずにコーヒーを啜るレオナルドの妙に優しげな視線が鬱陶しい。なに、何か問題のあること言った?
「……評価はありがたいが、やはり辞退させてもらおう。それは、今の私の役割ではない」
「……役割?」
「ああ。今の私はカルデアのマスターと契約しているわけではないからな。君たちの任務に直接口を出すべきではない。料理を振る舞うのも、わりとぎりぎりの線だと思って欲しい」
「線?」
「ここは、部屋がやや狭いのを除けば概ね居心地の良い場所だが……人理焼却の影響で2015年における周囲の時間から切り離されてしまっているからな。ある意味ではここも特異点みたいなものだ。だから、よーく心眼を凝らせば、そこらにサーヴァントたちの姿が見えるはずだ。君たちのまだ出会っていない、契約していないはずのサーヴァントの姿が……」
「なにそれこわい」
「そういう
「……ねえ。それって、これから知らないサーヴァントが出てきますよって布石?」
「さて? 私が言えるのは、私同様未契約の彼らを差し置いて、私だけが君たちに協力することはできないということだ。モテモテというやつだな、ここのマスターは」
「……納得はできないけれど。貴方の立場を理解はしたわ。それで、厨房にこもっていたのね」
「…………………………ああ。その通りだよ」
沈黙。気まずい沈黙。
「……じー」
「その目をやめたまえ! 私はただの赤い料理人だ、後ろめたいことなど何もないぞ」
誤魔化そうと言うのか。ならば、当方にも迎撃の用意がある。
「……第五次聖杯戦争の勝者は衛宮士郎という日本人で、アーサー王を召喚したそうね?」
「……そうだったかな。あいにく、記憶が摩耗してしまってね」
「そういえば、うちのぐだ子も冬木特異点でアーサー王を召喚した気がするわ」
「ほう。それは頼もしいことだ」
「あなたが厨房で目撃されるようになったも、ちょうどその頃じゃなかったかしら……」
「……」
「あなたの料理にはとても感謝しているの。だから、オルレアンの人理修復が終わったら、一緒に彼らをお出迎えしましょう?」
「おおっと、鍋の様子を見に行かねばな。料理が焦げては一大事だ。すまないが失礼するよ」
すたすたパタン。
無駄に熟練のウェイターめいた動きで空の皿とカップを回収し、エミヤは去っていった。
「……はあ。結局、変人が増えたわけね」
「英霊なんて大概変人さ。さて、では私も御暇しようかな。良い物も見れたしね」
「?」
「こんなに根を詰めてあれこれ解析したり、経験者に助言を頼んだり。カルデアのスタッフは良い上司に恵まれたようだ」
「!」
「ロマニも、向こうで遭遇戦からの離脱が長引いているみたいでつきっきりだが、所長の心配りを伝えてあげれば元気百倍というものだね!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「うん?」
「違うの、そうじゃない、ほら、ぐだ子は私をカルデアスからサルベージしてくれたし、ヒッポノオスも私の肉体を救出してくれたわけでしょう? そう、借り、借りがあるのよ! 等価交換! 私が借りを返す前に彼らがレイシフト先で死んでしまったら、アニムスフィアの名折れでしょう!」
「……さて。何がどう違うかわからないが……」
「違うの! いいから! 休憩終わり! 出て行け!」
ニヤニヤ笑うレオナルドを部屋から締め出そうとするが、ソファに張り付いたようにビクともしない。自分の知る限り、最も無意味にサーヴァントの筋力が発揮された場面だ!
「いや、そういうわけにも行かなくてね。実は、新しい商品を入荷しようと思っているんだが」
「……? 予算は与えているでしょう」
「まあ見てくれないか、これだ!」
「これは……」
「モナ・リザ! 私の私たる
「……でも、お高いんでしょう?」
「そこを何と! お値段ポッキリ1,000マナプリから! さらに1枚買うと200マナプリ高くなる!」
「……? …………いや、高いし逆でしょう!?」
「値引きはしないよ、するわけがない! この光り輝くモナ・リザを見たまえ、
「不良在庫を抱えるだけだと思うのだけど……」
「そこはほら、商人の知恵さ。他の商品の入荷を止めてしまうとかね。まずは呼符から……」
「悪党! 悪徳商人がいるわ!」
「そこは鷹の目と呼んでくれないか! 天賦の叡智と讃えてくれても構わない」
「で! て! い! け!」
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「へえ、あんたも
「はい! ぐだ子さん、わたしのことは気軽に『マリーさん』って呼んでくださいね!」
「……ま、いっか。所長は所長だし」
オルガマリー・アニムスフィア所長。Dr.ロマンを含め、親しい人は彼女のことをマリーと呼ぶことがある。……先輩はともかく、自分には無理だとマシュは思う。
相手の混乱が予想より長引いたのか、すぐに追っ手が来るということはなかった。逃走中に霊脈地を発見したこともあり、召喚サークルを確立して休憩することになった……その夜のことだ。
「ヒッポノオスさんの方は大丈夫でしょうか……」
「うん? もう一人のマスターの彼かい? 僕らは話す時間もなかったけど」
「はい。……そういえばアマデウスさん、別れ際に言っていたジャパニーズ・セイバー・アサシンって何のことだったんですか?」
「ああ、彼か。いや、僕もこんなところで会うとは思わなかったんだが……」
と、そこにマリーさん……マリー・アントワネット王妃が割り込んできた。
「コジローはわたしたちの味方よ。ちょっと色々あって、今は離れているのですけれど……」
「コジロー……、ですか?」
「はい! わたし、サーヴァントとして召喚されたのですけど、馬車もなく供も付けずに歩き回る事って生前はなかなか無くて。それで、あちこち歩いていたらお腹が空いてしまったの。うふふ。サーヴァントなのにお腹が減るって、おかしいかしら?」
「そんなことはありません! カルデアの赤い人は皆のコックさんですから!」
「あら、素敵なのね。……でも、パンも無いから困ってしまって。そうしたらコジローは、『パンが無ければドラゴンステーキを食べれば良いでござろう☆』と言ってフラッと旅に出てしまったのよ。きっと今頃、美味しいドラゴンを探しているんだわ!」
「こ、個性的な人ですね……」
「土とか花とか、そういうものが好きな男でね。まあ、ドラゴンがいる場所に現れるだろうから、こっちか向こうのどっちかで遭遇できるんじゃないかな?」
「はあ……」
よくわからないままに、夜が更けていく。
「……」パサリ
「あ、毛布ですか。ありがとうございます、アルトリアさん」
「……」コクリ
そう。彼女が戻ってきたのは、逃走を開始してすぐのことだ……
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(以下回想)
ピコーン! ピコーン!
「警報!? ……いや、カルデアじゃない? そっちで何か……」
「非常にまずい状況です! この私、謎のヒロインXの現界時間がそろそろ限界です!」
「何その設定!? 初めて聞いたんだけど」
「言ってませんので。それでは、本邦初公開と参りましょう!
宇宙の果てからやって来た素敵で無敵なセイバーこと謎のヒロインXは、衝突事故によって
「wa……いや、え、じゃあそのピコーンピコーンは?」
「タイマーですよ! 色と音で変身時間を告げるカラ……ごほん、カラフルタイマーです!」
謎のヒロインXさんはバタバタと焦り出し、そして、傍らのジャンヌさんに告げる。
「今回は事情が事情なので見逃しますが、貴女が
「……えっ?」
「そんな! 謎のヒロインXさん!」
非常に強力な戦力である謎のヒロインXさんの突然の離脱に動揺する一同!
……しかし、その十秒後にアルトリアさんが戻ってきたので事無きを得たのでした。
(回想終わり)
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「はぁ……それにしても、お礼も言えなかったのはとても残念です。謎のヒロインXさん、また会えるでしょうか……」
「……」ナデナデ
「アルトリアさん……慰めてくれるんですね、ありがとうございます……」
「……」ナデナデ
……ちなみに先輩は、召喚サークルが確立したので喜び勇んでガチャを回して、「爆死した」そうです。ダ・ヴィンチちゃんに呼符をねだる先輩と、再入荷の予定を教えず新商品の「モナ・リザ」を宣伝するダ・ヴィンチちゃんが夜遅くまで駆け引きを交わしていたので、あまりよく眠れませんでした。
コジロー……小次郎? 小次郎。