時系列的にはオルレアン完結あたり? あまり細かいことは気にしていません。
本日限定の一発ネタですが、おたのしみください。
「三月二十七日は、全世界的に、安珍様の日です」
「!?」
清姫が突然、そんなことを言い出した。
僕らが彼女と合流したのは、今から36時間……いや、1時間40分前だったか? とにかく、僕にとってはつい昨日の出来事だが、この話を聞く皆さんにとっては多分来週の出来事だ。彼女は最初から僕の言うことを聞かなかった。僕の言う通りにしておけばな……まあ、良い人ではあるが。
と、清姫の紹介を終えたところで。
僕らが現在いるのは1431年初夏のフランス。3月とは一体? ぜんぜんわからないな。
「何言ってるのさ、今日は三月二十七日なんかじゃないよ」
そんな当然の疑問を投げかける僕に彼女が返した返答は……
「ちょっと? 黙っていただけますか? あなたさま?(喉を鷲掴みにする清姫)」
「……オゴッ!?(気道を圧迫されて声が出ないヒッポノオス)」
数秒後、悶える僕から手を離した清姫は、くるりと身を翻し宙に向かい。
「もちろん、画面の向こうの
http://www.minyu-net.com/tourist/fukei/fukei48.html
この通り、本日、三月二十七日は全宇宙的に安珍忌ですわね」
そう言って、ニコリと笑った。全宇宙も何も、どう見たって安珍様とやらの出身地における地域密着型のローカル行事にしか見えないし……いや、もう何でも良いから好きにしてくれ。
「まあ嬉しい。わたくし、今日はマスターのお友達であるヒッポノオスさんに御用がありましたのよ?」
「既にロクでもない予感しかしないけど……何?」
「安珍忌には、安珍念仏踊り(福島県無形民俗文化財)を奉納しなければなりませんの」
「……踊れと!?」
「はい! もちろん、ヒッポノオスさん御自身にとは言いません。歌って踊れるサーヴァントたちを三、四人ほど連れて来てくださると嬉しいのです」
「……あ、一人思い当たった。歌って踊れる自称アイドルことエリザ「却下で」
……注文が厳しい。さて、どうしたものか。
(メドゥーサ、いるんだろ?)
(……すみませんマスター、今回私はお役に立てないようです)
(ん、なぜ?)
(……その、アンチンという仏僧は蛇や龍……長い生き物を怖がるそうでして)
(ああ……)
(清姫から直でお留守番を頼まれています)
(なるほど。ええい、ならばメディア! メディア助けてくれー)
(……私も別件で手が放せないわ。今そっちに竜牙兵が向かってるから、少しお待ちなさい)
ガシャンガシャン。
あ、言葉に違わず骨が地面を叩く音が聞こえる。メディアお得意の竜牙兵だ。
「あら、時間厳守ですわね。時間に嘘をつかない……なんて素敵な響きでしょう……」
「あ、君が何か依頼してたのか。道理でタイミングが良いと思った」
「ええ。特注した、神代の魔術師によるリアルタイム完全同期バックダンサー集団ですわ」
「……すごい気合だね」
「それはもちろん! 年に一度のことですから!」
ふんす、と力む清姫。東洋の宗教儀式はよく知らないけど、念仏踊りというのはバックダンサーを使うのか……大掛かりだね。まあ言われてみれば、確かにインド映画とかすごいもんな。
「では、準備も整いましたし、人員確保と参りましょう」
「このフランスで?」
「いえ、とんでもない! 安珍様に捧げるのですから、全世界全時空から集めても足りませんわ」
「……ドクター」
「レイシフトだね! こっちはいつでも準備オーケーさ! もしゃもしゃ」
「……いつになく手際がいいですね? そして何食べてるんです?」
「これかい? 安珍清姫伝説で有名な道成寺名物・釣鐘饅頭さ。差し入れでもらったんだけど、鐘の形を模した皮の中に黒いアンコが詰まっていて、とっても美味しいよ。もしゃもしゃ」
「……その鐘の中の黒いアンコは、いったい黒焦げの何を模しているんです……?」
「ははは、気にし過ぎだよヒッポノオス君! さてレイシフトだね、どこへ行こうか?」
「とりあえずカルデアへ……一人心当たりがありますから」
「オッケー!」
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「……事情は把握したが。それで、私に何をしろというのかね?」
「踊っていただきたいなと」
「なぜ私が踊れると思うのかね?」
「え、だって日本人名でしょう、エミヤって」
厨房にて。食材の仕込みを黙々とこなす赤い外套の料理人に話を持ちかける。
どこかで小耳に挟んだ話だが、彼は幼少期にジャパニーズ・ヤクザと縁があったそうだ。
YAKUZA = SHINOGI = MATSURIである。MATSURIとは神事。彼が踊れないはずはない……!
「……はあ。君の推測は的外れだが、まあ、やってやれないことは無いだろうさ」
「引き受けてもらえますか!?」
「ああ。女難をこじらせて死んだ例の仏僧殿には、同情の気持ちが少なからずあるのでな」
「よし、あと二、三人か。同じ日本人なら、次はサムライのコジローかな……」
「それはやめておけ」
「え?」
「何かとても嫌な予感がする……いや、奉納される方は喜びそうなのだが……うむ……」
「???」
よくわからないが、やめておくことにする。
だが、そうなると後の候補は……
オルレアン特異点までに僕らが出会ったサーヴァント達、ただし、清姫からの要望で
と、なれば。
「めぼしい候補はマリーさん一行と聖人勢か……そういえば、さっきから何してるんです?」
「見てわからないかね?
「ああ、そういえば今年の復活祭は今日、3月27日でしたっけ……あれ? ってことは」
「マルタも、ジャンヌ・ダルクもゲオルギウスも、今日そちらに関わる時間はないだろうな」
「……そうですか」
これ以上長居しては邪魔になりそうだったので、早々にお礼を言って厨房を辞去する。
しかし、これは不味いぞ。早速、候補が大幅に消えてしまった。特にジャンヌ・ダルク。農村育ちの彼女ならば、こういう地元密着型の祭礼には強いかと期待していたんだけど……
「マリーさん一行か。カルデアの部屋にいるかな?」
まあ、華やかなフランスの王妃様ならば、清姫も文句はないだろう!
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「……」
カルデアの廊下を行く。
「…………」
復活祭の準備に忙しいというのは本当のようで、人の姿もサーヴァントの姿も見えない。
人理焼却の窮地にあっても、なお人々は祭りを楽しみ明日の幸せを願う。それはサーヴァントもカルデアのスタッフも同じで、僕を含めナザレのイエスの教えに服していない者たちだって、それが今日ではないだけだ。
「………………」
さて、目的のマリーさんの部屋はこの先にあるはずなのだが――
「……いや、重いよ!? なんだこの胃にズンと来る感覚は!?」
空気が重い! あまりの重圧に、この空間を満たす空気は知覚可能なレベルで物理的な重さを有するのかと錯覚しかねない、更に心なしか廊下の照明もだんだん暗くなってきた気さえする。
そして廊下の先から聞こえてくるのは、かすかな歌声……
「Joyeux anniversaire…… anniversaiere……」
コワイ!
「(ドクター! ドクター! 応答してください、ドクター!)」
「はいはい、なんだいヒッポノオス君。そんなに小さな声で」
「(音声解析お願いします! たぶんフランス語!)」
「うん? これは……ああ。『誕生日おめでとう』だね! 誰の誕生日だい?」
「(分かりません! マリー・アントワネット王妃の部屋から聞こえてくるんですけど)」
「ふーむ? 彼女の誕生日は11月だったと思うけど……あれ、もしかして……」
ガサゴソ。ガサゴソ。通話先から何やら資料をひっくり返す音が聞こえる。
……これ、もう帰っていいんじゃないか? この空間、明らかに異様だし……
「(ヒッポノオス君! 今マリー王妃の部屋の近くにいるのかい?)」
「(はい、清姫からの頼みごとで、ちょっと……)」
「(直ちにその場から撤退しよう! 復活祭やら何やらでつい忘れていたけど、今日3月27日は彼女の息子
「!!!」
ルイ17世。あるいはルイ=シャルルと呼ばれたマリー王妃の息子は、国王一家をフランス革命が襲ったのち、監獄に幽閉され病死した……詳しく知りたい人は自己責任でwikipediaでも読んで欲しい! 僕は一切責任を取らない!
「Joyeux anniversaire…… anniversaiere……」
(……音を立てるな……ゆっくり静かに、落ち着いて車椅子を反転させろ……)
車椅子の両輪をつかむ両手に、じわりと汗がにじむ。もし今彼女がここに姿を表して、それが泣いていたなら僕は到底いたたまれない気持ちになるだろうし、いや、彼女がこの状況でもいつもの笑顔で僕に笑いかけたりしたら……! 僕はきっと罪悪感で死んでしまうだろう!
(メディア……今日ほど君の仕込んだヘンテコ車椅子に感謝したことはないぞ……!)
宙に浮かんだマジカル車椅子は音も無くその場で向きを反転させ、僕を明るいほうへ……のんきな復活祭会場へと運んでいく……ああ、空気が軽くなってきた……
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「助けて、シロウえも~ん!」
「ええい、私をどこぞの国民的アニメキャラクターのような名前で呼ぶな! いったい何事だ?」
「実は、かくかくしかじか……」
進捗状況を報告する。流石に、アレを見知らぬ他人の供養に勧誘するのはちょっとナシだ。そして、他のフランス勢も普段のマリーさんLOVEっぷりからして、今日一日は皆あんな感じだろう。
「なるほど、そんな事情があったとは知らなかったな。姿を見ないので気にはしていたが……」
(気配りがオカンだ……)
「その分では、食事もまともに取っていないだろう。後ほど機を見て何か差し入れるとしよう」
(完全にオカンだ……!)
「何だね、その目は?」
「いや、頼りになるなあ、と」
「心身の健康は健全な食生活からだ。厨房を預かる者として、為すべき事をしているにすぎんよ」
「ははぁ……」
厨房から見える食堂の風景は、既に復活祭一色だ。清姫、何が今日は全世界的に安珍様の日だ……この光景を見てから言って欲しい!
「あら。ヒッポノオスさん……勧誘の調子はいかがですか?」
「って清姫!? ……ああ、順……いや、まあまあだね。このエミヤが快諾してくれたよ」
「微力を尽くそう」
「……曖昧なお返事ですが、嘘はついていないようですね? うふふ、私も、たった今お願いを聞いていただいたところです」
「え?」
「……清姫、エミヤ……やはり、日本人の日本人による日本人のための祭りに俺は場違いではないか……? 空気を読めず参加表明してしまう男ですまない……」
「こ、この先手を取ってすまながっていくスタイルは!」
「勿論ご存知でしょう! ジークフリートさんです!」
ネーデルラントの王子にして大英雄、参戦である!
……聞けば、キリスト教化前に成立した『ニーベルンゲンの歌』に謳われる英雄である彼は、復活祭の賑わいに溶け込めず、すまない思いをしていたところを清姫に拾われたという。
「なるほど。つまりキリスト教関係者ではなく、フランス王家関係者でもないサーヴァント候補を探せばいいってことか……」
「……ヒッポノオス? 君の言った条件に当てはまるサーヴァントに心当たりがあるのだが」
「本当かい、シロウえもん!?」
「教えてほしかったら即刻その呼び方を止めたまえ……ほら、いるだろう。アイルランドの大英雄にして非キリスト教徒、飲んだり踊ったりが大好きなケルト勢が」
「ああ、彼ですか。でも、あれは……」
僕とエミヤが見やった先にあるのは、巨大な……そう、人間一人くらい余裕で入りそうな巨大な箱だ。それが、内側から声を漏らしながら揺れている。
「おい、畜生、いい加減ここから出しやがれ! 出さねぇって言うならこっちから……アンサズ! 燃えろ! ……チッ、しょうがねぇ、奥の手だ……『原初のルーン・マトリクスオーダイン』!」
ガタンガタン! ゴトンバタン!
おお見よ、あれこそはカルデア七不思議の一つ『動くプレゼントボックス』である……!
「冬木特異点以来ずっとあんな状態だが、いい加減出してあげてはどうかね」
「いやあ、それはぐだ子さん次第というか、『マンガでわかる!~』次第というか……」
あるいは、待て、しかして空の境界コラボを希望せよ?
「とにかく、これで二人目確保だ。正直もう他の候補もいないし、良いんじゃないか?」
「むぅ……できれば後一人くらい欲しいのですけど……」
口を尖らせる清姫。そうは言っても、これ以上は……
「私にいい考えがあります!」
「うわっジャンヌ!」
「はい! 『待て、しかして『ジャンヌです!』でお馴染みのジャンヌ・ダルクです!」
「台詞の中で割り込み芸良くない!」
「話は聞かせていただきました。今日暇なサーヴァントをお探しなのですね!」
「あ、ああ……そうだけど」
「宗派を違えるといえども、死者を弔う気持ちは等しく尊いものです。私も直接協力こそ出来ませんが……ついてきてください」
そう言ってジャンヌは僕をカルデアスの元へ連れて行く。
……え、カルデアス?
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「……いや、ないから。どの面下げて私のところへ来たというのですか」
「どの面であろうと、魂の冥福を祈る気持ちに変わりはありませんよ、ジャンヌ・オルタ」
そう。ここは地獄の一丁目……もとい煉獄だ。なんやかんやあってオルレアン最終決戦で打倒された黒ジャンヌは、ここに舞い戻って霊基を上げているのだとか何とか。
「ええ、それに霊基を上げるというなら人助けはうってつけです! どうでしょうか?」
「どうもこうも! 私が貴女の頼みなど聞くわけがないでしょう――!」
「それなら、僕からもお願いするよ。それに、カルデアの皆も敵視はしないと思う。やりあったのは君だけじゃないし」
「……」
「……ジャンヌ・ダルクにとって、村娘としての体験は一つの礎です。それを、異なる形とはいえども体験してもらえればと思ったのですが……貴女にはその記憶が「「ストップ!」」
シンクロしてジャンヌを止める僕と黒ジャンヌ。頭上に?マークを浮かべるジャンヌ。これだから空気の読めない聖女様というやつは……! 君が安易に岩窟王のネタバレかましたせいで、格好つけてた某エドモンさんが泣いていたんだぞ!
「はあ……わかった、わかったわよ。その話を受けたらその女は帰ってくれるんでしょうね?」
「あ、ああ。ジャンヌ」
「もちろんです! 貴女ならそう言ってくれると信じていました!」
「……」イラッ
「(ありがとうジャンヌ、後は任せて! ほら、早く戻らないと復活祭始まるよ)」
「?」
イライラゲージが臨界に達しようとしている黒ジャンヌを背に、ジャンヌを見送る。背後から凄まじい憤怒が吠え立てているが……とにかく三人揃った! これで依頼は完了だ!
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「さて、それでは安珍忌を始めるといたしましょう!」
「……そうは言っても、清姫。僕らはその肝心の安珍念仏踊りとやらが何かを知らないのだけど」
オルレアンの大地に設営された安珍忌会場。そこに集まったのは、ギリシャ人(僕)、日本人(記憶摩耗)、ネーデルラント人、フランス人である。当然ブッディズムの舞踊など知るはずもなく……そして、清姫は。
「あら、わたくしも存じ上げませんわね」
「はぁ!?」
「……だって、夫の地元に押しかけるなんて。わたくし、恥ずかしくて……」
照れ笑いを浮かべながらくねくねする清姫。
いや。いやいやいやいや。ここまで延々やって来た話は何だったのか!
「……はあ。そんなことだろうと思ったよ。供養の踊りなら盆踊りでも何でも、とにかく踊れれば良いのだろう? こんな事もあろうかと、誰でもできる踊りをバックダンサー担当のメディアに渡しておいた」
「エッエミヤ! なんて先見の明だ……まるで某宇宙戦艦の真田志郎さんのようだ……」
「シロウ繋がりかね? あれ実は本編では言ってないらしいが」
「マジですか!」
そして、竜牙兵たちが一斉にフォーメーションを組み……音楽が流れ出す。
こ、この底抜けに楽しそうで踊りたくなるBGMは……!
「『カーニバル・ファンタズム』! 祭りにはふさわしかろうよ!」
「まさに鷹の目だ、さすがは正義の味方を体現した男エミヤ……む、女子パートが多いな、すまない、俺は役に立てるのだろうか……?」
「ちょっ待ちなさい、こんなカワイコチャンぶった振り付け私にやらせるつもり!?」
「さあさあ、さあさあさあさあ、黒ジャンヌさん。わたくしもオルレアンでの諍いは水に流しますので、踊りましょう! さあさあさあさあ」
カオス! カオスである! いや、選曲は良いと思うけど! 車椅子でも踊れるしね!
「ほらほら、安珍様も喜んでおりますよ! ほら!」
「会場に無造作に設置された釣鐘が振動している!? こ、この中に安珍様が……」
「なるほど、よく震えているな。カニファン未出演の身ですまないが、俺も全力を尽くそう!」
ガタガタガタ! 震える釣り鐘、ヒートアップするBGM、踊り狂う僕達! まさに狂宴である!
「宴と聞いては黙っておれんな! 此度は山門抜きで顕現したゆえ、書割に頼らず踊れるというものよ!」
「あぁっ、突如どこからともなくサムライのコジローが乱入! そして釣鐘がすごい振動してる!?」
「ふっ、見せ所よなぁ!」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!
今にも弾けそうなほどに震えだす釣鐘! 乱入者コジローによって宴の熱は最高潮に達した!
「わたくしの熱も最高潮です……! またですか! そんなにイケメンが好きですか! その性癖ごと何度でも燃やし尽くせ、バーニング安珍ー!!!!」
「火は、火は駄目だ清姫ェ!!!」
「あら、その程度の炎で燃やし尽くせと……? 身を焦がす炎とは、こういうものでしょう! 『吼え立てよ、我が憤怒』!!!」
「うわあああ! 駄目な方向に引火した!?」
宴の狂熱は冷めることなく。
その日、人理焼却を免れたはずのオルレアンの大地に火が絶えることはなかったのだった……
3月27日ネタでした。
……次回は、本編に戻ります。