休憩を終えた僕たちは、所在が確認されたサーヴァント「エリザベート・バートリー」と接触するため、刃物の町ティエールへと向かっている。あちこちにワイバーンや骸骨兵などがうろついているが、全てを相手取ることなど到底不可能で、ひたすら戦闘を避けながらの道程になった。
フランスは既に敵地。竜の魔女こと黒ジャンヌの暴虐を受け入れない者も多いとはいえ――というか、この時代の情報伝達技術を考えれば、オルレアンの外ではジャンヌの処刑と黒ジャンヌの叛乱についてさえ把握できている人間は少ないんじゃないか――こうも我が物顔で怪物どもに跋扈されては、溜め息の一つもつきたくなる。
「浮かない顔だね、ヒッポノオス君。でも、そんな君に朗報だ!」
「……なんです、ドクター」
「うん。君も知っての通り、我々カルデアによるレイシフトは冬木に続いて二度目。ぶっちゃけ言ってぶっつけ本番だし、病室暮らしだった君に関しては尚の事……で、僕らも初めて知るデータばかりなんだけど、君は意外とマスターの才能があるようだよ!」
「そうなんですか?」
「※ギリシャ系サーヴァントに限る、だけどね。さっきの戦闘で令呪を使いきっただろう? ぐだ子ちゃんに比べても回復が早いようだ。あと半日もすれば、1画は回復すると思うよ」
……そうなのか。サーヴァント召喚を含めた降霊術も、使い魔の行使も、魔術の才能など僕には縁のないことだと思っていたけれど……案外そうでもないらしい。
先のアタランテとの戦闘で、僕は手持ちの令呪を全て放出した。彼女の宝具による矢の嵐はあまりにも激しく、身を挺して僕をかばったメドゥーサとメディアの負傷を回復させつつ『騎英の手綱』発動の魔力を補うには、どうしても3画全てを使う必要があった。回復しながら矢の雨の中にペガサスで突っ込まされたメドゥーサには、申し訳の言葉も無い。
……しかし、本当に全滅の窮地に立たされた時の非常手段である「令呪の全開放」、その切り札を早々に切ってしまった僕が、その回復速度に関してマスターの才能を見出されるとは。なんとも皮肉な話である。
「しかし本当か? 正直、私はマスターからの魔力供給の恩恵をイマイチ感じぬのだが……」
「悪いね小次郎、僕の魔術回路はギリシャ用なんだ」
「……まあ、星1は星1らしく適当にやるでござるよ。束縛せぬ分、女狐よりはマシでござる」
やる気が削がれたのか、雑なござる系SAMURAI口調で拗ねる小次郎。こればっかりは僕にもどうしようもないので、ぐだ子さんと合流したらマスター替えでも提案してみようか。契約の一方的解除、またの名を裏切りといえば、こちらにはプロフェッショナルがいることだし……
「できないわよ」
「えっ」
「システム・フェイトの召喚術式はカルデア式というか……科学と魔術をブレンドして色々いじってあるみたいだし、敵方も冬木聖杯とはちょっと違うやり方で召喚してるみたいね。ほら、ラ・シャリテで戦った女剣士に宝具を使った時も、契約解除なんて出来なかったでしょう?」
「えぇ……」
「残念そうな目で見るのをやめて。とりあえず敵の聖杯を回収したら調べてみるから」
そうか……メディアが無理というなら無理なんだろうなあ。僕が密かに脳裏で思い描いていた「石化の魔眼(足止め)→ルールブレイカー(契約強制解除)」の極悪コンボは成立しないようだ。思いついた瞬間はこれで無敵だと思ったのだが。
「おっと、前方にワイバーンだ!」
「……メドゥーサ、進路修正。これは戦術的撤退ではなく逃走である」
戦闘開始後の撤退はスタミナの無駄だが、最初から逃走するなら状況が動くだけまだマシだ。
……とにかく、手持ちのカードで何とか遣り繰りしていくしかないらしい!
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「……と、そんなこんなでティエールに着いたわけですが。ドクター、解析お願いします」
「お疲れ様。街の中にサーヴァント反応が2騎、戦闘状態ではないようだけど……」
「本当ですか? 一石二鳥かな?」
「エリザベート・バートリー1騎のはずが、もう1騎……ろくでもない予感しかしませんね」
「え」
一瞬喜びかけた僕に冷水を浴びせたのはメドゥーサだ。無表情系の彼女が、珍しく口元を険しくしている……あの一見平和そうな街に、一体何が?
「……来ますよ、マスター。ビリビリ来ます。メドゥーサ的に……ピット器官的に!」
「なっ、街から炎が……! 急ごう、というかメドゥーサ、君ってそこまで蛇だったのか!?」
「……冗談です! ろくでもないのはまず間違いありませんが!」
強引に話を打ち切ったメドゥーサに押されるまま、釈然としない僕を載せて車椅子は町の門を突破し、尚も疾走する。メドゥーサが事務的じゃない発言をしてくれたのは嬉しいが、蛇ジョークは人間には早すぎ……否、遅すぎる! いつか爬虫類より哺乳類が格上なのだと知らしめてやらなければいけないと思いつつ現場に辿り着けば、
「シャー!」
「キシャーッ!」
……ティエールの街中、通行人から遠巻きにされる
かたや火を吐き、かたや怪音を撒き散らす迷惑ぶりである。どうやら喧嘩中のようだが……うん、十中八九ろくでもない連中だね!
「そこまでだ野良サーヴァントたち! 神妙にお縄についてガチャ結果を報告せよ!」
「は?」
「……ガチャ? ナンデスッテ?」
和服の少女とヒラヒラした洋服の少女、どっちも血の伯爵夫人エリザベート・バートリーとは程遠いが、というか血の伯爵夫人こと吸血鬼カーミラとはこの間戦った気がするけれど! とにかく「ガチャ」という言葉に動揺して片言になった洋服ガールが、きっとぐだ子さんの同類だ!
「よし、確保ーッ!」
「確保ーッ!」
ガチャン!
……手首に掛かる、冷たい金属の感覚。
アレ、オカシイナ? 確保するのは僕らで、確保されるのは目の前にいるガチャ廃サーヴァントのはずなのに……僕に手錠をかけつつ険しい表情で睨みつける衛兵さんはナンダロウ?
「……そこまでだ、不審者共。街の門番を強行突破したばかりか、市中で婦女子を
「……ち、ちょっと待ってください! これには事情があって」
「問答無用! 言い訳があるなら詰所で聞こう!」
「あっ手荒に扱わないで、その車椅子、素人が扱うと……ぐえーっ!」
「な……なんだこの不可思議な手応えのなさは!? ええい、なんと怪しい……絶対に貴様らの化けの皮を剥がしてくれるわ!」
車椅子を引き寄せようとした衛兵にそのまま吹っ飛ばされ、カエルめいて家の壁に叩きつけられた僕を、周囲の衛兵たちが無慈悲に回収していく。さっきまで爬虫類ズに向けられていた通行人の冷たい視線が、いまや僕に向かって突き刺さるようだ!
「くっ……だが、僕を逮捕してもいずれ第二のマスターが」
「組織犯だと!? なんと悪辣な……」
「ちょっと! そのむさ苦しい格好で私に近寄らないで! それ以上近づいたら呪うわよ!?」
「隊長ー! この物騒な女どうしましょう、隊長―ッ! あ、突然の動悸・息切れ・めまい・関節痛が……」
「……待って、まだ呪ってないのに体調崩されると女として割とショックなんだけど」
「……(無言でバイザーに手をかける)」
「隊長ー! この物騒な女どうしましょう、隊長―ッ! あ、突然の全身疲労・倦怠感・肩の関節が固く腕が上がらな……」
「メドゥーサ魔眼はやめろォ―ッ!」
「……いえ、まだ何もしていないのですが……」
「……なんということだ、主犯格の貴様ばかりか供回りも凶悪とは……くっ、犠牲になった兵士の仇は絶対に取ってやるからな!」
「……いや、あの、たぶんあれ勝手に威圧されてるだけっていうか気のせいっていうか……プラセボって知ってます?」
「
「あ、ダメだこれ。署で話しましょう、署で」
厳戒態勢で衛兵詰所にドナられていく僕ら。何だったのアレ的な表情で見送る野良サーヴァント二人。僕が不審者判定ならあの和服ガールだって違和感アリアリなのでは……? カワイイは時空を超えた正義だとでも言うのだろうか!
(……って、あれ、小次郎は?)
(気配遮断で逃げたようですね)
(…………マスター、アレはそういう男よ。やたら高い敏捷&幸運ステータスに物を言わせて都合の悪いことは全スルーする系の無責任野郎よ。……自分で言ってて胃が痛くなってきたわ)
(僕は先のことを考えただけで胃が痛いよ……)
次回、取調室編! 僕たちのグランドオーダーはこれからだ!
◆
「……なんだったのアレ。清姫、知ってる?」
「さあ……わたくしも存じ上げませんが、なんというか、破廉恥な格好の方でしたわね」
「確かにね。サーヴァント的に変な格好の連中は見慣れているけど……あの全身ピッチリ感はケルト系かしら?」
「ギリシャと言っておったな」
「「!?」」
気配を感じなかった二人は、びくりとして振り返る。そこに立っていたのは、少女の片割れと同じ和装に身を包んだ長髪の剣士である。
「ああ失敬失敬。それがし小次郎と申す者だが……えりざべぇと・ばぁとり殿はどちらかな?」
「……私だけど」
「ふむ。我がマスターの
「え、子ジカから!?」
うむ、と首肯した剣士は、懐から書付を取り出した。
「では、読み上げよう。
『拝啓、えりざべぇと・ばぁとりぃ様。
以上だ。……おや、随分と震えているが大丈夫か?」
「ど、どどど、どうしよう!? 私ぶっ殺されちゃう!?」
「落ち着きなさい、はしたない。エリザベート、貴女はサーヴァントでしょう。人間のマスターを恐れる必要などないでしょうに」
「き、清姫は知らないから言えるのよ! あの子ジカはやるといったらやる……そういう『凄み』がある子ジカだわ……ちょっと一緒に来なさい! 一緒に謝って!」
「えっ!? わたくし無関係」
「いいから早く! この私が素直に謝ろうっていうのよ!? 素直と正直は貴女の大好きな言葉でしょう――!?」
「……はぁ。仕方ありませんわね……」
「ぐだ子殿は、
「え、ええ、そうするわ! ありがとう、知らない日本の人!」
震える少女に、その主人の居所を示す。剣士自身は、ぐだ子というマスターについて面識あるわけではないが、ふらふら彷徨い歩くサーヴァントを招き寄せる手段として『恐喝』を選んだその女は……どこか、かつての冬木で教会を牛耳っていたという少女を思わせた。
「では、わたくしもお暇を……ああ、そういえばお侍様、エリザベートのマスターの出身地では『拝啓』『ぶっ殺』が手紙文の定形なのでしょうか? 今度安珍様にお送りする手紙の参考にしたいのですが」
「……そのような物騒な習慣はないのでやめておけ。其の方が言うと本当に洒落にならぬ」
「あら残念。でも、そうですわね。『ぶっ殺』などと書く暇があるなら、その間に焼いた方が早いですものね。『ぶっ殺した』ならありかもしれませんが……」
「うむ……? うむ…………まあ、なんだ。連れが待っておるぞ、早く行ってやると良い」
「そうよ、ほら、清姫はやく! 一刻一秒を争う事態なのよ!?」
「あら、では頑張って走るといたしましょう。エリザベート、私に着いてこれまして?」
「当然ッ! アイドルは身体が資本なんだから! じゃあね、お侍さん、今度会ったらお礼に私のライブを最前席で聞かせてあげる!」
「はっはっは、それがし田舎者ゆえ音楽を解さぬ。おぬしの主人を詫び代わりに招待するが吉」
「それもそっか! またねー!」
口早に礼を述べた少女は、小次郎と同郷であろう和服少女の手を引きながら騒々しく走り去っていった。清姫といえば、道成寺の安珍清姫伝説で知られる「蛇・龍に転じた女」の名であるが……
「ふっ……花を見る目より先に地雷を見分ける目が肥えるとは。サーヴァント界の女性事情はまことに修羅同然であることよなあ……」
「嘘つき焼き殺すガール」こと清姫の嘘つきセンサーに接触することなく、エリザベートのライブ招待フラグを立たせることもなく、見事に爬虫類ガールズとの円満離別に成功した小次郎。低幸運揃いのギリシャ勢とは一味違う、幸運Aランクサーヴァントの面目躍如であった。
・続きは土曜か日曜に。
・アタランテ戦は、
アタランテ宝具発動→
矢の雨で味方のHPが0まで削られる前に令呪3画使用→
HPNP全回復からの騎英の手綱(味方はアタランテ消滅まで矢の継続ダメージを受け続ける)
という流れでした。二次創作だからこその敵ターン令呪割り込みということで……ゲームで例えるなら、MOTHER2で致命ダメージを受けた後ドラム式HPが0になる前に回復した感じだと思っていただければ。えっ古いですか? そうですか……