Fate/Grand Order 騎英の絆   作:乃伊

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今回はシリアス多め?


第8話 彼とか彼女とかあと諸々の事情

 日が落ち、僕らは野営の準備を整えた。

 場所はヴォークルールの砦から少し離れた林の近く。砦を離れたのはジャンヌの希望で、処刑されたばかりの人間、そして竜の魔女かもしれない人間が近くにいては兵士たちも休まらないだろうと、そう彼女は語った。少し悲しそうな、あるいは困ったような、あるいは心配しているような、そんな表情で。

 

 ……聖人とは、自分を恐れる人々について語る時も、あんな表情ができるものなのか。

 メドゥーサとメディアは既に会話に参加していない。しばらく無言無表情で彼女の話を聞いていたが、ふいと離れていってしまった。彼女たちもまた、生前周囲に恐れられた存在であったが、果たしてジャンヌのような表情をすることがあっただろうか。

 二人は野営地のはずれに集まって何やらガリガリゴソゴソしている。マスターとしてちょっと心配しつつ、気の利いた言葉を考えながら近づいてみると――

 

「さあ、これが最新版:マジカル車椅子メディアカスタムの設計図よ!」 

「成る程、ワイバーンの霊を組み込んで空陸両用を実現するのですね、素晴らしい考えです!」

「ふふふ。メドゥーサ、貴女に褒められるというのも意外と悪い気はしないわね」

「それで――スピードはどのように?」

「ええ、それはもちろん……マッハよ、マッハ3.5!」

「エックセレント!!!」

「名前ももう考えてあるわ。翼持つ車椅子、その名も――完全被甲大鷲(フルメタルイーグル)!」

 

「心配して損したよ! 喰らえ、多重クロス禁止拳――!!!」

「あっ」「あぁっ!」

 

 二人がその辺の棒切れで地面に書いた謎の設計図を素早くデリートした。著作権のない時代に生きた英霊たちはこれだから……! あっそうだ、Fate/Apocryphaの著者であり、Fate/Grand Order第一章ライターでもある東出祐一郎先生の著書『ケモノガリ』好評発売中! 超カッコいい変形車椅子が登場するから超必見! よし、これでオッケー!?

 

「何もOKではありません! 貴方は今、偉大な発明を無に帰したとお分かりですか……!」

「黙れスピード狂! 時代は常に速さよりも防御力と火力だよ! 少しはペガサスを見習え!」

「成る程、いっそ車椅子の形にこだわらず、人型ロボットにでもしてみようかしら……」

「「!?」」

 

 

 

「マシュ、あちらは何やら楽しそうですね」

「はい。ヒッポノオスさんとサーヴァントの皆さんの関係は、先輩とわたしたちの関係とはまた違っていて、とても勉強になります」

「あのように信頼関係を築けるのは羨ましいことです。私は……」

「ジャンヌさん?」

「……いえ。夕食の準備をしましょうか」

「はい!」

 

 

-----------------

 

 

 ジャンヌ&マシュ謹製の夕食を終えた僕らは、車座になってジャンヌの話を聞くことにした。

 相手役は専らDr.ロマンだ。僕らは横で話を聞きつつ疲労回復に専念している。もし今日もう一戦あったら魔力不足でぶっ倒れる自信があった。

 

「では、貴女は処刑されたジャンヌではなく、召喚されたばかりのサーヴァントであると?」

「はい。詳細は分かりませんが、この時代にはもう一人『私』がいるようです。そして、そのジャンヌ・ダルクは国王を殺害し、この国中で虐殺を行っている……」

 

 同じ人間の多重召喚。そんなことも、サーヴァント召喚のシステム上は起こりうるのだという。サーヴァント召喚とは、いわば魂の器たる霊体を用意し、そこへ座にある英霊の情報を複製してダウンロードする儀式。それが二度起きた結果、虐殺者である竜の魔女『ジャンヌ・ダルク(1)』と僕らの目の前にいる『ジャンヌ・ダルク(2)』が出来てしまったというわけだ。

 

 ……まあ僕らの知る伝承から言えば、そして今起きている歴史改変から言えば、むしろ先に現れた竜の魔女ジャンヌのほうが2pカラーという感じであるが。

 ともあれ、本来ジャンヌ・ダルクの活躍によって戴冠しフランス王位の正当性を保つはずだったシャルル7世は既に死去し、竜や魔物たちの登場もあって戦火の収まる気配は遠のいている。

 

「もう一人のジャンヌと竜によってフランスという国家の成立が阻まれ、そこから生まれるはずだった思想も失われる……自由、平等、人権思想。確かに、我々の世界の礎の一つだね」

「そのとおりでしょう、魔術師ロマン。しかし、この国を襲う惨事が今の時代だけでなく、人類史全体に関わる事態だとは思いもしませんでした」

「歴史は時代の積み重ねだからね。これから先の特異点でも、きっとそれぞれの時代に生きる人々の想いを利用して、あるべき歴史を捻じ曲げているのだろうな」

 

 そう、問題はそこだ。レフ・ライノールは力任せに歴史改変を行うのではなく、現地の状況に合わせて歴史の流れに介入しようとしている。

 Dr.ロマンの言うとおりフランスの成立を遅らせるだけなら、「謎の竜の軍団が突如やって来てフランスを全て焼き払いました」でも良いはずだ。わざわざ「非業の死を遂げたジャンヌ・ダルクの復讐」という形を取るのはなぜだろう。聖杯なんてチートを所有するなら、どうにでも出来るだろうに……

 

 ……ん、逆か? どうにでも出来るからこそ、「愚かな人類は自ら破滅しました」というシナリオを演出しているのか。レフ・ライノールも言っていた「人類は自ら袋小路に入り込んだ」という彼らの思想に則るなら、各時代の改変も人類同士の争いの結果として行われるべきだ。それがあくまで思想のためなのか、歴史の修正力や抑止力を逃れるためなのかは知らないが。

 

「歴史の改変。それが事の背景であるなら尚更、私のやるべきことは決まっています。オルレアンの奪回、竜の魔女の排除。道のりは険しくとも、絶対に成し遂げねばなりません」

「伝承以上の人格者ぶりだね。……さて。我々、人理継続保障機関カルデアは、ルーラーのサーヴァント『ジャンヌ・ダルク』との共闘を希望します。お受けいただけるだろうか?」

「……! こちらこそ、よろしくお願いします。感謝いたします」

 

 というわけで、現地サーヴァントであるジャンヌとの共闘が決まった。冬木でも、現地で召喚されていたキャスター……といってもメディアではなくクー・フーリンだったそうだが、彼と共闘し聖杯回収を成し遂げたと聞いている。聖杯を用いてサーヴァントを召喚する手法を使う以上、カウンターとしてのサーヴァントが出現するのだろうと、所長が推測していた。

 

 結局のところ、敵も味方も聖杯戦争のための術式を流用しているのだ。

 冬木の御三家とは思惑も過程も異なるとはいえ、その戦いの在り方はどうしようもなくサーヴァント同士の戦いに、すなわち聖杯戦争の様式に収束していくのだろう。

 

「戦闘時の基本的な指示は、ぐだ子ちゃんかヒッポノオス君に従ってもらう。マスター&サーヴァントで構成する2チーム戦術を基本にする予定だから、適宜どちらかに加勢して欲しい」

「わかりました。では、よろしくお願いしますね。ぐだ子、それにヒッポノオス」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「Jnn……」

 

 おおう。ぐだ子さんは友情復活からというもの完全にジャンヌのひっつき虫と化している。

 ……ならば。

 

「とは言え、ぐだ子さんもその調子ですし、基本的に貴女の指揮は彼女に任せますよ」

「そうですか? 私は構いませんが……」

「JJJJJJJeaaaannnnnnnnnnnnnne!」

「ええ。仲が良い同士で組んだ方がいいでしょう……さて、これ以上はちょっと目の毒ですし、散歩に行ってきます。メドゥーサ、車椅子を頼むよ」

「はい」

「配慮に感謝します、ヒッポノオス。敵には気をつけてくださいね」

 

 ジャンヌに見送られながら、その場を離れる。マシュさんとDr.ロマンが会話に加わって、背後はますます賑やかだ。

 さて、とりあえず近くの林にでも行こうかな。

 

 

------------------

 

 

 ガサリ。ザサリ。

 魔術強化車椅子は林の草むらを容易くかき分けて進む。

 元は人通りのあった林道と見えて、下生えもまだ地面の色を覆い尽くしてはいない。むせ返るような草木の香りと澄み渡る空気を胸いっぱいに吸い込んで堪能する。

 

「ああ、ギリシャの潮風も良いけど、たまにはこういうのも悪くないな」

「そうですね、この空気は私にとっても好ましい」

 

 ポツポツと、雑談という程でもない言葉を交わす。

 遠くにワイバーンの気配を感じるとメドゥーサは言う。近づいてくるようなら、皆のところへ戻る必要があるだろう。

 

 

 

 ガサリ。ザサリ。

 ふと木立が途切れ、ポッカリと開けた空間が姿を見せた。頭上には満天の星空。どちらともなく車椅子を止めて、しばらく空を眺めた。

 

「……ジャンヌを、グダコに押し付けましたね」

 

 メドゥーサが呟いたのは、疑問形ですらない、事実を確認するだけの一言。

 

「ああ……やっぱり、分かる?」

「ジャンヌは気づいていないでしょう。グダコも。彼女たちはまず人の善性を信じ、そして人への愛の為に殉じられる人間ですから」

「ひどいな。僕だって人の善性も愛も信じているさ」

「ええ。……ですが、神は信じていないのでしょう?」

 

 それを、元女神はどんな気持ちで問うたのか。いずれにしても、僕の答えは変わらない。

 

「存在は信じているけどね。いや、知っている、かな? 神は奉り敬意を払うし、苦難の際には助力を請うさ。でも、神が僕らの世界を良くしてくれるとは思っちゃいない。それだけだよ」

「……」

「ジャンヌは良い人だ。さっきも僕らを助けてくれたし……ただ、ちょっと僕には眩しすぎる」

「彼女の信仰が、ですか?」

「うん。ジャンヌ・ダルクは神の啓示を受けてフランスに勝利をもたらし、英雄になった。でも、それで彼女は救われた? 違うだろう? じゃあ、神の啓示は一体誰のためのものだったんだ?」

「……私が見る限り、あのジャンヌ・ダルクに後悔はないようですが」

「知らないよ、そんなことは。彼女が自分の生涯に満足しているとして、彼女を救ったのはあくまで彼女自身の信仰と行動だ。僕はその手柄を神が持っていくのが気に食わないってだけさ」

 

 早口にまくし立てているのが自分でも分かる。感情的になりすぎている。それでも、言葉の向かう相手――背後で車椅子を押すメドゥーサの表情は見えないが、僕が言葉を切って息を継いだ瞬間、彼女がクスリと笑ったのが分かった。

 

「マスターはギリシャゆかりのサーヴァントしか召喚適正がないと聞きましたが……なるほど、その様子ではそもそも信仰に殉じる人間とは大概相性が悪いのでしょうね」

「仕方ないだろ、そういう人間なんだから」

 

 その点、ぐだ子さんは僕のように固執するポリシーなどどこにもないように見える。それは、あらゆるサーヴァントを受け入れられるマスターとして最高の資質なのだろう。

 

「まあ、神様抜きの個人として付き合う分には話は別さ。仲良くやれると思うよ、きっと」

「……大した自信ですね。でしたら、戻って親交を深めるとしましょうか」

 

 メドゥーサが車椅子の向きを反転させる。

 ふと気づけば、敵の気配もどこかへ消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 白刃が闇を斬る。3つの円弧を描いた切っ先が、まさに咆哮をあげんとしたワイバーンの首と両翼を()()()切り落とした。

 

「ふむ、こんなところか。さても南蛮とは奇怪千万の土地よな。空を舞えども鳥にあらず、爪牙を持てども獣にあらず。はてさて、こやつは如何に調理すれば食えたものやら」

 

 

---------------------

 

 

「そうか。英霊ジャンヌ・ダルクはぐだ子ちゃんの指揮で戦う事になったか」

「予想通りといえば予想通りね。それで、レオナルド。頼んでいたものは見つかったかしら」

「うん。確認したまえ」

 

 そう言ってレオナルドはオルガマリーに紙束を渡す。

 そこに書かれているのは、演劇の脚本だ。しかし、ページは飛び飛びで話は繋がっていない。

 

「大部分は散逸してしまったからね。これ以上を求めるなら、それこそ作者を召喚しなきゃ」

「いいえ、これで十分よ」

 

 その脚本を書いた者の名は、エウリピデス。古代ギリシャが誇る三大悲劇詩人の一人であり、『メディア』などの代表作で知られる。

 そして、今オルガマリーの手にあるかつて散逸した演劇の題名は……『Bellerophon』。

 

「結局、これが一番ヒッポノオスの在り方に近いというわけね」

 

 脚本は語る。ペガサスを駆る英雄Bellerophonは天上を目指した。それは、地上に横行する不義不正のあまりのおびただしさに神々の実在を信じられなくなったからである……と。騎英の英雄は、もはや天上の神の国を直接実見せねば善なる神など到底信じられなかったのだと。

 しかしてペガサスに振り落とされ地に落ちたBellerophonは、なお神の正義と公正を信じることができなかった。彼こそ正に神の血と庇護を受けた英雄であるというのに。

 

「εἰ θεοί τι δρῶσιν αἰσχρόν, οὐκ εἰσὶν θεοί. 《神々が恥ずべき行いを為すならば、それは神ではない》」

 

 オルガマリーは深くため息を吐く。そこに記されていたのは、神話にあって神の権威を否定する英雄の姿だった。

 

「騎英の英雄ベレロポン……いえ、ヒッポノオスの正体は――――西()()()()()()()()()よ」

 




というわけで、オリ主ことヒッポノオスの説明回でした。

各所で神様をディスっていた彼ですが、まあこういう背景があったということで。エウリピデスの脚本&元のギリシャ神話&型月世界観を悪魔合体させたので、どうも奇妙な立ち位置になってしまいました。
なお無神論者的なのは悲劇詩人エウリピデス(と彼が描写したベレロポーン)であって、別に神話中のベレロポンが無神論者なわけではありません。

次回から本格的に黒ジャンヌと戦っていく予定。
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