新しい朝が来た。人類史希望の朝だ。
喜びに胸を開き、青空を仰げば……どこからか、声が聞こえる。
「……直す……り直す……やり直す……やり直す……やり直す……やり直す……」
「……朝から怖いな!?」
フランスの大地に低く染み込む呪詛めいた声。その音源を探してみると、
「やり直すやり直すやり直すやり直すやり直すやり直すやり直すやり直すやり直す――!」
「せ、先輩! もうやめてください! それ以上は先輩の身体が!」
「フォーウ!」
「フォウフォウさえずる暇があるなら走れよう! 私は絶対に辿り着くって決めたんだ!!」
「無茶です! ただでさえ不安定なカルデアの通信回線を使ってスマホゲームなんて!」
「走れ、走れ、走れ、走ってよう! 今やらなきゃ、今走らなきゃ、ログボ切れちゃうんだ! フレンド切りはもう嫌なんだ! だから――!」
「フォフォ―ウ!」
……見なかったことにしよう。
さて。朝食を終えたカルデア一行は、オルレアンを目指してヴォークルールを出立した。
昨夜その旨をヴォークルールの砦に言付けはしたのだが……
「オルレアンへ向かわれると聞きました。我々も同行いたしますよ」
昨日の中年隊長の部隊がわざわざやってきて僕らへの同行を申し出た。危険だというのに何故かと聞けば、僕らだけではどこの街でも兵士にとっ捕まるだろうから、という。反論できない。
「霊脈を見つけて召喚サークルを確立させれば、服を含め物資の受け取りができるのですが……」
「この辺には無いんだろう? 仕方ないよ、ありがたく提案に乗らせてもらおう」
困り顔のマシュさんだが、実際早めに召喚サークルを確立させないと、いずれ食べるものにも困りかねない。そういう意味でも霊脈探索は喫緊の課題であるし、何より。
「所長……私ちゃんとグランドオーダーやってるのにFGOにログインできないってオカシクないですか……?」
「も、もう少しの辛抱よ! 召喚サークルさえ確立すれば通信が安定するから、いくらでもFGOできるわよ!」
「あ、手が震えてきた……ガチャ引きたいなぁ……ガチャ……」
ぐだ子さんが壊れる前に頑張ろうと誓い合う僕とマシュさんであった。
一方、ジャンヌは何やら兵士たちと話している。彼女も心中複雑なのだろう。
「……ご同道には感謝します。……しかし……良いのですか? 私はジャンヌ・ダルク。処刑されたはずの異端者、魔女なのですよ……?」
「ええ、もちろん。分かっておりますとも。竜の魔女ジャンヌはオルレアンにいる、ここにいるはずがありません。そして貴女は
「
「貴女の正体は!」
「あっはい」
「竜の魔女ジャンヌを呪滅する必殺の存在矛盾術式、すなわち
「考えてみれば、最近の変事は竜の魔女が現れてから起こったことです。つまり、竜の魔女は人の歴史の営みにおいても何か間違った邪悪な存在で、
「過程は色々間違ってるのに結論だけ完全に合ってますね……」
「合っていると申されましたか! 素晴らしい! これは救国の戦いということですな!」
「ウォー! 俺は聖女様と一緒に戦えなかったが、これで故郷に帰ったら自慢できるぜェー!」
「生涯に2度も聖女様の旗の元で戦えるとは、光栄の極み……」
「うわぁぁん! ジャンヌ様、私は貴女があんな悪虐を為すはずがないと信じておりましたァ!」
「み、みなさん……」
何やら誤解と信頼がうんだハッピーエンドの気配である。いや、エンドではないが。
「……ふん。魔女を気取るには良い子ちゃん過ぎるのよ。百年早いわ」
「へえ。じゃあ、そんなメディアさんオススメの魔女アクションは?」
「『突如逆ギレして全殺し』」
「キレたナイフすぎる……というかメディア、それジャンヌに直接言ってあげればいいのに」
「イヤよ、魔女は意地悪だと相場が決まっているんだから」
(そういうところを直せば素直にかわいいと思うんだけどなあ……)
(そこは神話の時代から語り継がれた筋金入りですから)
(メドゥーサ、こじらせてるのは君もだぞ)
(そしてマスターもですね)
(うっ……)
そんなこんなでオルレアンへ向かう僕達であったが、フランスの東端、神聖ローマ帝国にほど近いヴォークルールからオルレアンまでは相当な距離がある。サーヴァントの脚があるとはいっても、一般人の僕らとヴォークルール兵を連れての旅であり、一気に攻め上がるというわけにも行かない。ひとまず、途中のラ・シャリテで情報収集を行うことを目標にした。
「――それじゃあ、今のジャンヌにはサーヴァントとしての記憶がない?」
「はい。『私』が死んで間もないからか、あるいは不完全な召喚だったのか。英霊の座にある記録に触れることも出来ませんし、召喚時に起きるはずの現地知識の提供も受けられません。サーヴァントとして振る舞うのは難しいでしょう」
「そうか……」
「サーヴァントとして邂逅した知人にでも会えば、何か思い出すかもしれませんが……」
「……むむ? ちょっと良いかい、この先のラ・シャリテにサーヴァント反応が接近中――速いぞ! なんだこれ!?」
「ドクター?」
「敵方のサーヴァントでしょうか? だとすれば――ラ・シャリテが危ない!」
「マシュ、急ぐぞ」
「はい、先輩!」
「――待ってくれ、敵の移動が止まった……? いや、この動きは……戦闘か! 君たち、ラ・シャリテを回りこんでその先の森へ向かってくれ!」
「了解!」
◆
白刃が踊る。その長刀は木立の中で振り回すにはあまりに長すぎるように見える。しかし、使い手たる長髪の男が有する超絶の剣技は、周囲の木々など何の障害ともしなかった。
「えぇい、ちょこまかとッ!」
相対するのは無手の女。その両手には無骨な手甲が嵌められているが、本来の得物と思しき十字の杖はやや離れた場所に突き立てられていた。
「……さて。翼竜どもはどうにも食材にならぬと難儀していたが、そなたの亀竜は実に良い出汁が取れそうだ。その上、斬り甲斐も申し分ない」
「ハッ、アンタ……アタシのタラスクを斬れると思ってんの!? 竜殺しの大剣でも持って出直しなさい!」
「我が細腕ではこの刀が精一杯でな。それに……これも存外、よく切れる」
「ッ! タラスク!」
構えを変えた男の姿にゾッとするような寒気を感じた女は、自身と男の間を遮るように、自らに付き従う大鉄甲竜タラスクを召喚する。そして次の瞬間、
「秘剣――」
その声を脳が理解するより早く、三重の剣閃を女は見た。それは一瞬前に出現した巨竜の鉄殻に吸い込まれ――
「ふむ。斬鉄は極めたと思うたが……材の見切りが甘かったか。修練の道は果てなきものよな」
「そう、残念ね。大した腕前だとは思うけど……もう降参でいいのかしら?」
「否。この身も刀も未だ歪み無きゆえ……次は斬る」
「上等ッ――!」
再び、拳と剣が交わる。男の剣は木々の間をすり抜けるように動きまわり、女の拳は周りの木々を撃ち抜き砕く。さながら、互いに喰らい合う二つの竜巻のようであった。
「その拳にも興味は尽きぬが、得物を持っても構わぬのだぞ?」
「あの杖は
「おぉっと!」
一層の捻りを加えて撃ち出された女の右腕を、男は真後ろに飛び退いて躱す。あれが直撃すれば、竜の硬皮ごときは容易く穿ち抜くだろう。
間合いの開いた両者は息を整えながら機を伺う。しかし……突然、二人の全身から殺気が失われた。上空に竜の気配。そして、近づいてくる
「最後までやり合いたいのは山々だが……そちらのお仲間が来てしまったかな」
「そうですわね。残念ですが……水入りということでしょうか」
「そうして猫を被っておれば可憐という他なかろうに」
「……これが猫に見える男に用はないわ」
「それは残念だ。では、また刀でもって相まみえるとしよう」
そう言って木陰に飛び込んだ男の気配は、一瞬後には完全に失われた。一種の気配遮断スキルを持っているのだろう。
「……街に行かずに済んだのは良いけど――結局は時間の問題ってわけか」
女が見上げた空には、こちらに向かって飛んで来る竜たちの姿がある。その先頭で歪に嗤う召喚者の姿を想像し、女は悪態をついた。
◆
「――なんて、滑稽なんでしょう」
ラ・シャリテを通り過ぎた先で、黒いジャンヌは僕らの前に姿を現した。
いや、黒いジャンヌだけではない。その後ろには、付き従うサーヴァントの姿がある。
「ああ、なんて哀れな小娘。こんな羽虫みたいなチッポケな人間に縋るしか無かったなんて……あは、この国って本当に屑なのね!」
黒いジャンヌ……面倒だな、黒ジャンヌでいいか。黒ジャンヌは勝ち誇っているが、彼女が油断している隙にこちらは何か手を打たなければいけない。向こうは戦る気で来ているかもしれないが、こちらは完全に遭遇戦なのだから。
「敵は全部で5騎……駄目だ、なんて戦力だ! 一対一なら戦っても良いだろうが……」
「あの、ドクター……」
「何だい、君たちは全力で生き残ることを考えるんだ!」
「いえ、ドクター……その、同数ですが」
「え?」
「サーヴァントの数……同数ですよ?」
「え、だって敵は5騎いるのにこっちは……マシュちゃん。アルトリアちゃん。メドゥーサちゃん。メディアちゃん。ジャンヌちゃん。ひい、ふう、みい、よお、……あれ?」
「どうでもいいけど、ちゃん付け続けるようなら殺すわよ」
「うわっ!? 分かった、分かったよ、確かに同数だ! だが敵には竜もいる! 避けられるなら避けるべき局面だぞ、そこは!」
ドクターは撤退指示。マシュさんの話を聞くに、ぐだ子さんは交戦も視野に入れているようだ。
「私はジャンヌ・ダルク。主の声は既に失われました。それはすなわち、主がこの国を見捨てたということに他なりません。ならば――主の嘆きを代行し、私がこの愚かな国を焼き滅ぼさねばならない」
黒ジャンヌの声がうるさい。何かジャンヌ頼りのフランスはネズミの国にも劣るからどうこうとか言っているが、そんな国家のマスコット戦略はどうでもいいし例のネズミに勝つとか絶対無理なので、今のうちに打開策を考えなければ……
「……話をッ! 聞きなさいッ!」
絶叫。堪忍袋の尾が切れたようだ。仕方ない、忠告してあげよう。
「あー……黒ジャンヌさん? 人間がネズミに勝つのはたぶん無理だし、黒い服の怖い人が来る前に諦めたほうが良いと思いますよ?」
「何を言っているのです……? ハッ、黒い服も怖い人も私の事でしょうに。私がそんなに怖いのですか? 逃げても良いのですよ。今この一瞬でよければ、命だけは見逃して差し上げます」
「やばいな、さすが人類史を捻じ曲げようとするだけはある……怖いもんなしか」
戦慄する僕らの前に、こちらのジャンヌが進み出る。そして、問いかけた。
「……貴女は……貴女は、誰ですか?」
ざわり。周囲にざわめきが広がっていく。なぜなら、彼女の言葉は存在の根本を問うもので。
「それはこちらの台詞ですが――いいでしょう。私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ、もう一人の“私”」
黒ジャンヌの答えは、どうしようもないほどにジャンヌとはかけ離れていた。
「救国の聖女……? 馬鹿なことを――貴女がジャンヌであるならば、ジャンヌ・ダルクが聖女であるなどという妄言を吐くことは出来ないはずだ!」
「――ハ。貴女は、そうでしょうね。人の悪意から目をそらし、騙され続けて尚変わることの出来ない哀れな小娘! 私は違う。私は今度こそ、竜の炎を以ってこの国を焼き払い主の嘆きを代行する。それこそが、死を超えて成長した新しいジャンヌ・ダルクの救国なのです!」
黒ジャンヌが嘲弄する。……主の嘆きの代行ね。実にまったく気に食わない話だけど……それより。
「おい、竜の魔女は無傷だぞ……?」
「
「まさか、存在否定への対抗術式を見出したのでは!?」
「あれか、『我は影、真なる我』ってやつ!」
「やべぇぞ、それ乗っ取られるじゃん!」
それより、この中世ピープルをどうにかしなければ。
「さて、あちらもジャンヌ、こちらもジャンヌ。どうすればいいと思いますか、ぐだ子さん」
「ジャンヌしか知らないことを聞けばいいんじゃない」
「よし、そうしよう」
「そうしよう」
そういうことになった。
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「では……第一回、クイズDEジャンヌ決定戦を行いたいと思いますが」
「……は? 殺すわよ?」
……まあ、そうなるよね。というか、ジャンヌしか知らないことを僕が知るわけないし。
要するに、僕は主とやらが嘆かなきゃ復讐も出来ないこの少女がどうしようもなく気に食わないだけなので、その辺実際どうなんでしょう? 第一問いきますよ、黒ジャンヌさん?
「……気性が荒いですねー。ぶっちゃけ聞きますけど、貴女、主の嘆きとかジャンヌの救国とか関係ないんでしょう? 許せないから殺すんでしょう?」
「はぁ!? ……何を言っているのですか? 馬鹿馬鹿しい」
「古代ギリシャ人はまだもう少し復讐に素直だったけどなあ……文明が進むと難しいのかなあ」
「チッ……もういいわ。話しても無駄、殺す。貴方達、あの田舎娘とマスター共を始末なさい」
そう言って、黒ジャンヌが一歩下がる。ジャンヌクイズはお預けのようだ。
代わりに、後ろに控えていたサーヴァントたちが前に出た。まず二人、壮年の男性と仮面の妖しい女性。
「では――私が。さあ、血を戴くとしよう」
「あら、いけませんわ王様。美しき者の血肉は私のものです。ふふ。魂は差し上げますわよ」
「……よろしい。では、私はあの美しき魂を」
「……はあ。メドゥーサ、メディア、ひとりずつ抑えろ。まずは敵の出方を見よう」
何やら一瞬、敵の間に険悪な雰囲気が漂ったが、敵対の意思に変わりはないようだ。
サーヴァント戦において最も重要なのは、敵の素性すなわち真名を見極めることである。だが、こんな遭遇戦ではそれも不可能。後方に控える敵サーヴァントたちの動きが読めない以上、迂闊な行動はできない。ならば、なにか敵の情報があれば良いのだが――
「あは! では征きなさい、私のサーヴァントの中でも一際血に飢えた
「……え?」
「ドラクル……?」
「ドラクルだと……?」
勝ち誇る黒ジャンヌに対して、途端にざわざわし始めるヴォークルール兵たち。ん、そういえば1431年って……
「な、何よ!? 彼こそは
「ドラクル……やはり本当にドラクルなのか……?」
「あ」
そうか。確かにドラクルには悪魔という意味があるが、今この時においては――
「
「なっなぜ彼がここに!? ハンガリーにいるはずでは!?」
「いや、そもそもなぜ竜の魔女に味方するのだ!」
「何よ、何なのよ一体……」
ざわざわ。ざわざわ。黒ジャンヌの戸惑いをよそに、混乱し騒ぐヴォークルール兵たち。
1431年。それは、吸血鬼ドラキュラで有名なヴラド3世の父である
特に、ヴラド2世自身が存命・現役であるこの時代では。
ざわざわ。ざわざわ。混乱覚めぬ僕ら一行に、壮年の男……ドラクルは激昂した。
「えぇい止めよ雑兵共が! 我こそはワラキアの王、ヴラド3世である!」
「……ドクター!」
「ああ、聞こえているよ。ヴラド3世、通称"串刺し公"。ルーマニア最大の英雄だ!」
「……チッ。自分から真名を晒すなんて、所詮はバーサーカーね……」
「ヴラド3世……あれ? 何か……」
……初っ端からトンデモナイ相手が出てきたものだ。他の連中も彼と同格だったとすれば、それはかなり厳しい状況であるが……そして何やら奥歯に物の挟まったような顔をするジャンヌ。まさか、記憶が!?
「……ジャンヌ、もしやサーヴァントとして彼と戦ったことがある?」
「……すみません、思い出せません。何か、こう、インパクトの大きい出来事でもあれば……」
彼女の記憶の助けは期待できないか。ならば、実力でやるしか無いが……
「ヴラド3世……?」
「ヴラド3世だと……?」
再びざわざわするヴォークルール兵たち。一体何かと考えて……ああ。思い当たった。
ヴラド3世。誕生日は1431年11月10日……つまりジャンヌ処刑の半年くらい後。
今頃は、母親のお腹の中ですくすく育っている頃合いである。
「風の噂で、お子を身籠ったとは聞いていたが……」
「ヴラド・ザ・サード……誕生していたの!?」
「いや、それでもまだ0歳だ! それがあのヒゲダンディ……東欧の育児技術はバケモノか!?」
「貴様、余を……余を、バケモノと呼んだかッ!」
ヴォークルール兵の一言に、ヴラド3世は激怒した。それは、死後その名を吸血鬼として貶められ続けたゆえの繊細さか。猛然と飛びかかるヴラド3世は、兵士を脳天から股下まで串刺しに――
「……ッ!」
その瞬間、アルトリアさんが飛び出して兵士を庇った。だが、ヴラド3世の異様な腕力で弾かれた彼女は、木々の彼方へ吹き飛ばされてしまう。そして一瞬、こちらに数的な不利が生まれた。
「くっ……メドゥーサ、時間を稼げ! メディア、彼女に支援を」
メドゥーサが前に進み出る。が、敵サーヴァントが一斉にかかってくる様子はない。数を頼む気はないということか。舐められたものだ。
「ならいいさ……メドゥーサ、新しい礼装だ!」
「この『イマジナリ・オブジェクト』を外すのは名残惜しいですが、致し方ありませんね!」
長期戦用の概念礼装、これでもってアルトリアさん復帰までの時間を稼ぎだす! それ行け、先日引き当てたばかりの耐久特化礼装「千年黄金樹」――!
「――って、あれ?」
「マスター、ちゃんと投げてくれませんか? テレビの前の子供が泣きますよ?」
「いや、まっすぐ投げたつもりなんだけど……」
ピカピカ光る杖を持った知らないおっさんが描かれた概念礼装は、魔球もビックリのカーブを描いてまっしぐらに敵ヴラド3世へ――!
「なっ何だこれは! ……ダーニックだと!? 馬鹿な、なぜこんなものが……寄るでない!」
何やら必死に「千年黄金樹」を回避するヴラド3世。ピッタリ張り付くようにその後をつける「千年黄金樹」。あの絵に描かれてるの、ダーニックさんって言うのかあ……ヴラド3世と縁があったのかなあ、あんなに追いかけるなんてよっぽど執着していたんだなあ……あ、くっついた。
「ぐ、ぐわぁぁぁ! 我が魂ぃぃぃ! ダーニック、貴様の妄執、未だ果てぬというのかァ!!!」
「こ、こうかはばつぐんだ……?」
「あれ、ダーニック……魂……あれぇ……?」
苦悶するヴラド3世。戸惑う僕ら。そしてまた何か思い出しそうなジャンヌ。
「AAAAARRRRRRRRGGHHHHHH!!!」
ついに人語さえ失ったヴラド3世は、太陽にその身を焼き焦がしながらも異形に変じていく……
「ヴラド3世から強大な魔力反応! マズイぞ、正真正銘、本物の吸血鬼になろうとしている!」
「そ、そんなの有りなんですか!?」
「目の前で起きているんだから有りに決まってる! 吸血鬼伝承の宝具じゃなく、概念礼装が魂と癒着して吸血鬼化が触発されるなんて、そんなのボクだって信じたくないけどさ!」
「あはははは!!! よくわからないけどいいザマね、
「AAAAAAARGHHHHH……」
そして吸血鬼めいた不定形の怪物と化したヴラド3世が僕らに襲いかかろうとした……その時。
「あっ思い出しました! これ
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
歌うような声で、聖句が紡がれる。バシュゥゥゥゥ……ヴラド3世から蒸発音が響き渡る。
……無言。
その場にいた誰もが、言語機能を忘れたように呆然とその光景を見ていた。
「
「ARRGHHH……AA……アァ……喜劇の吸血鬼とは……道化、ゆえ……これもまたドラキュラの終わりか……ふ、次は……王としての我を呼べ……喜劇の、紡ぎ手よ……」
……ヴラド3世は、消滅した。
「……ふぅ。恐ろしい相手でしたね。もし本当に宝具を用いて吸血鬼化していたならば、私の洗礼詠唱では対抗できなかったかもしれません……」
「あ、そう……というか、何だったんだ、今の……?」
「さあ……?」
「……まあ、確かなことがあるとすれば……」
「何か?」
「また、同数だ」
「チッ……」
アルトリアさんは未だ戻ってこない。あるいは深手を負ったか。だが、ヴラド3世が退場したことで、盤面の均衡は元通りだ。ならば、まだ勝機はある。
「馬鹿馬鹿しい! サーヴァント一人に勝ったくらいで思い上がって! 元からあんな奴には頼っちゃいないわ……竜よ!」
グギャァァァ! ギャオオオオオ!
「竜の咆哮……まずいぞ、完全に周囲を囲まれている!」
「ふん、サーヴァント数人が粋がったところで、この数に敵いはしない! さあ、殺しなさい! とどめをさした奴から喰らうがいいわ!」
竜が押し寄せてくる。咆哮の重圧を、その翼が巻き起こす突風を全身に感じる。そして同時に、残る敵サーヴァント達も前に進み出た。
「さようなら、みじめなジャンヌ、私の残りカス! フランスはこの『ジャンヌ・ダルク』が燃えさしひとつ残さず焼き尽くしてあげるから、安心して死になさい!」
「くっ……」
「さすがに、これだけ竜がいるとキャスターには手の打ちようが無いわね……」
「マスター、撤退するなら早急に指示を。ペガサスを使えば突破口を開くことはまだ可能です」
「駄目だ、ついてきてくれた兵士たちを置いていくわけにはいかない……!」
……どうする。どうすればいい。完全に手詰まりだ。この状況を打破するには、駒が足りない。知識が足りない。時間が足りない。そして何より、竜を殺せるだけの力が足りない――
絶望が僕を支配する。それでも、ここで諦めるわけにはいかない。
人の未来を守る、僕らが生きる世界を守る、そのためには、力が――――
――――その時。
「待てい!」
「!?」
突然、頭上から声が降ってきた。その場の全員が一斉に声の主を振り仰ぐ。
折しも逆光。眩い太陽と彼女の被る帽子によって、その顔を窺い知ることは出来ない。
だが、ただ一つ、この場にいる全員が無意識のうちに理解したことがある。
それは――彼女が、この窮地を覆しに現れたヒーローであることだった。
「――時間を越え空間を越え、想いを叫ぶ者がいる。想いだけでも力だけでも駄目だけど、それでも守りたい世界があるのだと。そして、彼らを守る者がいる。それは最優にして無敵にして素敵。この世全てのマスター達の輝ける希望。人、それを……『セイバー』という!」
「誰ですか貴女はッ!」
「貴様らに名乗る名前はないっ!」
逆上する黒ジャンヌを一声の元に切り伏せる謎のヒーロー……女性だからヒロイン?
……細かい事は良い! とにかく決まったッ! 完全にヒーローの登場演出だ!
これ以上は何も削れず、何も付け足すことの出来ない完全なる
「――ですが、それも不便ですし、とりあえず謎のヒロインXとでも名乗っておきましょう!」
…………まあ、そうだよね。
この期に及んで真っ当なヒーローキャラが来ると思った僕が間違いだった。
とぅっ! という掛け声とともに、謎のヒロインXが軽やかに舞い降りる。
黒ジャンヌと対峙するように。僕らをその背に庇い、竜とサーヴァントの脅威から守るように。
「
次回、セイバーの逆襲が始まる――!(かもしれない)
・一人目退場。ストーリー上の役割がない鯖はどんどん仕舞っちゃおうね~……という話でした。
・マリー「あら、ラストのシーン、わたしの出番ではなくて……?」待て次回。
・謎の長髪剣士、一体何者なんだ……?
というか彼、先週までは出す予定なかったんですが(ワイバーン対策は今回のラストで出てくる人とか、主にネタ方面で処理する予定でした)、ホワイトデーガチャで「プリンス・オブ・スレイヤー」なんて礼装追加されちゃったし出すっきゃないじゃん!? ということで、ねじ込みました。ねじ込まれたせいで原作では滅んでいるラ・シャリテの人々が生還しました。良かったね。