織斑一夏、神機使いになりたかったんだってよ   作:しじる

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クラス代表決定戦編
Episode2:新たな職場


黒塗りの、フェンリルのロゴが刻まれた車の中で揺られながら、私はこれから行くあの場所を窓から眺めていた。

人工的に作られた学園島。

【IS学園】

それは文字通りの場所。

ISの、ISによる、ISのための学園。

各国の技術を結集させ作られ、警備、防犯、防衛力共に世界レベルであり、なおかつアラガミ防護壁で覆われた第二のエイジスとも言われる場所。

作られたのはエイジスとほぼ同時期だけど、こっちの方が設備はいい。

そしてここに来るのはIS操縦者になりたいうら若き乙女達…と、現役神機使いの女&一人の男。

私と私の護衛対象、織斑一夏だけ。

私は若い少女たちのテンションについてけるか不安だし、織斑一夏は多分女子だけの世界にぶち込まれるのが不安だろう。

いや〜16歳の少女って怖いのよ?

その場のノリでネタに走れる体力あるからねぇ。

…決して自分のことではない、と信じたい。

 

「霧背大尉、そろそろ付きますよ」

 

考えに耽ってると、運転手の人が私へ声をかける。

取り敢えず、「はい」と声をかけ、近付いてくる学園に到着後、すぐ降りられるよう準備することにした。

 

 

 

 

そして数分経たずに車はIS学園へとたどり着き、私は着なれない黒のスーツに身を包み、車から降りた。

…これで黒のサングラス掛けたら完全にソッチの危ない人だよね?

ネクタイも黒だし。

 

「君が霧背ルナ君か?」

 

そんな正直どうでもいいことを考えていたら、学園の正門の方から声を掛けられた。

反応して振り向けば、そこには私と同じく黒のスーツを見事に着こなしたナイスバディの女の人がいた。

身長は私より4センチ小さいくらいかな?

…あれ?

この人どこかで見たことがあるような気がする。

テレビとかでも見た気がするけど、それ以外に一度会っているような?

 

「はい、フェンリル極東支部所属第一部隊隊長、霧背ルナです。現時刻を持って、IS学園へ配属となります。よろしくお願いします」

 

取り敢えず仕事上の挨拶をまずはしないと。

それを聞いた後、前にいた女性も自己紹介を始める。

 

「君がもう1人の副担任をやる1年1組の担任、織斑千冬だ。よろしく頼む」

 

へぇ~織斑一夏と同じ苗字の…織斑千冬?

あの世界一のIS操縦者【ブリュンヒルデ】の?

なるほどどこかで見たことあるなーと思ったら…

もうあれから2年近くたってるもんね、顔立ちも少し変わるかな。

 

「それから、君にしておきたいことがある……」

 

突然何の脈絡もなく彼女が言う。

ん?

千冬さんが私にしたいこと?

なんかあったかな、何か彼女に迷惑かけた覚えはないから殴らせろとかはないだろうし…

あ、でも女尊男卑だったら神機使いってだけで嫌われるし、もしかしたらそうなのかな?

 

「………すまなかった、そしてありがとうっ!」

 

そんなネガティブ的発想とは真逆の返事が来た。

千冬さんは、私に向かって90°の角度で頭を深く下げていた。

……へ?

私何か感謝されることしたっけ?

そんな平謝りされるようなことされたっけ?

 

「あの、私何か感謝されること…」

 

「ああ、君はもう覚えていないかもしれないが……私は忘れたことは無い、忘れられるものか。あの時、一夏や私達を、皆を救ってくれて……本当に感謝している!あの時は後処理などで直接言えなかったから…だから」

 

あれもしかして【モンドグロッソ襲撃事件】のこと言ってる?

 

「【襲撃事件】のことなら気にしないでください、当たり前のことをしただけですから!」

 

「いや、だかその当たり前のおかげで私も一夏も助かったんだ。感謝もしたいさ」

 

「いや、その誠意はよく伝わりましたし嬉しいですけど頭を上げてください、ちょっと何か悪い気がします…」

 

世界のブリュンヒルデに頭を下げさせてるってのはね。

人目付いてないけど、なにかとても失礼な気がする。

 

「だ、だが…」

 

「では、ここでの暮らし方を教えてくれませんか?私はIS適正ないですし、そもそもISに凄く疎いので。そういう事を代わりに教えてください!これなら私はISをブリュンヒルデのあなた直々に教えてもらえるし、あなたは私に恩返しができる。え〜と、これをワン&ワンな関係っていうんでしたっけ?」

 

「…それを言うならWIN&WINでは?」

 

ありゃやらかした、これは恥ずかしい。

ワン&ワンてなんだよ?

なんという形容し難いミスを犯し、羞恥で顔が赤くなってるかも私。

そんな私を見て、少し可笑しそうに笑う千冬さん。

…何か場の雰囲気が和らいだ気がした。

 

「さて、立ち話もそろそろ終わりにして、校舎に入ろう。本当なら学園長にあってもらうはずだったが、どうやら忙しいようでな、そのまま教室に行ってもらう」

 

「あはは……はい!」

 

そんなこんながあり、私たちは教室へ向かうことにした。

 

 

あの後、「その腕輪は着替えの邪魔にならないのか?」とか「神機はどこにあるんだ?」とかいろいろな質問に答えながら、私も「初めてISに乗ったのはいつ?」とか「弟さんはどんな人?」とか質問しながら進んでいると教室の扉前に到着した。

 

「まず私が入る、その後呼ぶから来てくれ」

 

そう言って千冬さんが入っていた。

…数秒して何が叩かれる音が響いた。

中で何があったの?

……ちょっと気になってきた、聞き耳を立ててみよう。

神機使いの5感は人より鋭いからね〜まあ見てな!

とか誰かに言いかけるような考えを浮かべた後、扉に耳を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧背ルナ&織斑千冬到着前

 

 

 

「これは…想像以上にキツイ」

 

それが俺がこのIS学園に来てから真っ先に思ったことだ。

周囲にいる人皆女子女子女子女子女子女子女子女子女子。

もう女子がゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。

さらにはそんな女子たちから刺さる好奇の視線の数、それはもう多いこと多いこと。

外部居住区の犬の気持ちがわかった気がする。

……そう言えば窓側の席に座ってる女子、もしかして箒か?

いやおそらく箒だろう。

…何故か俺から視線をそらしてくるが。

6年ぶりの幼なじみだぞぉ〜、キツイんだ〜視線くらい合わせてくれよぉ。

 

「皆さん初めまして、私は皆さんの副担任をやらせていただきます『山田真耶』と申します!皆さんよろしくお願いします!!」

 

そんなことを考えていたら、いつの間にかクラスの副担任の人が来たみたいだ。

見た目はもう俺達生徒と同じと思えるほどの童顔。

制服きたらわからないんじゃないかな?

だが、先生…ごめんなさい、今の俺にその返事をする気力はない。

他の女の子たちも俺が気になるのかずっと見てくるし、滅茶苦茶辛いんだ。

あーあ、誰からも返事が来ないのが堪えたのか、少し涙目になってる。

あ〜畜生、箒本当に助けてくれぇ~…

本当にどうしてこうなった。

あの時間違えて入ってなければ…いやそもそも迷ってなければこんなことには…

あー自分が不甲斐ない!

 

「織斑君」

 

「ひゃい?!」

 

冷汗ダラダラ垂らしながら思考の奥へ入ろうとした瞬間かけられる声。

思わず変な声が出てしまった。

 

「あ、えっと…大きな声出してごめんね?今自己紹介していて、”あ”から始まって今”お”なの。自己紹介して貰えないかな?駄目かな?」

 

「あ、はい!します!しますから!!」

 

いつの間に始まってたんだ自己紹介!

思考の海にダイブアゲインしたせいか、全くわからなかった。

それにいきなり声をかけられたものだから、自己紹介の内容なんて全く考えてない!

どうする!

とりあえず名前だけでも!!

 

「お、織斑一夏…です」

 

沈黙。

当たり前だ。

皆、「え、もっとほかに無いの?」的な視線で見てくる。

その視線がスゲェ痛い…

ヤバイ、このままだと暗いヤツ認定される!

他になにかないか!

いや、他に何かあるかを探すからダメなんだ!

逆に考えろ!

探さなくてもいいさ、と。

そう、もう思いついたこと全部言っちまえばいいんだ!

 

「ゆ、夢は神機使いになること!憧れの神機使いは【霧背ルナ】大尉!と、得意なことは家事全般!!あとは、あとはえ〜と…」

 

ヤバイ他にもう浮かばないぞ!

焦る俺、詰まる俺。

その瞬間スパーンといい音と共に激痛が頭に走った。

 

「いってぇ!!何が起こっ……」

 

「全く、まともな自己紹介もできんのかお前は?」

 

その声に気付き、高速で振り返る。

そこにいたのは、黒いスーツを身にまとった俺の自慢の姉【織斑千冬】だった。

……ん?千冬姉?

 

「ち、千冬姉!!?なんでここ…にだ?!」

 

言い切る前にまたもスパーンと頭を何かで叩かれる。

その何かは……出席簿?

結構分厚いぞ、それを目に映らない速度で叩いたのか…流石は千冬姉と褒めたいところだが、被害にあってるので言えない。

 

「ここでは織斑先生と呼べ馬鹿者が、さっさと席につけ」

 

ごもっとなお叱りを受け、俺は席へ座る。

てか千冬姉、どんな仕事してるか教えてくれなかったけど、IS学園の教師やってたのか。

なんで教えてくれなかったんだろう?

別に知っても俺は神機使いを目指すだろうし、知らない方が不安だったんだけどなぁ。

そんなことを思っていると、どうやら千冬姉の紹介が始まるみたいだ。

 

「諸君、私が今日から諸君らの教育を担当する織斑千冬だ。私の役目は、弱い15の諸君らを、”多少”使える16歳にすることだ!私が言うことは全て『はい』と答えろ、やれと言ったことは『やれ』!出来なければ出来るまでやらせてやる!私の言うことにはNoとは答えるな、以上だ!」

 

…うわぁお、なんだこの暴君じみた自己紹介は。

これじゃあまるで軍隊じゃないか。

いや、ISはある意味対アラガミ兵器だし、これは間違えてないのかなぁ?

いやでも女子が相手なわけだし、やっぱり間違えているんじゃ…

 

「「「キャーーーー!!」」」

 

……訂正するぜ、間違えてなかった。

俺の耳を破壊するかも知れない程の黄色い悲鳴が響き渡った。

なんで?

なんであの自己紹介で黄色い悲鳴?

 

「本物よ!本物の千冬お姉様!!」

 

「私、お姉様に会うためにやってきました!北九州から!」

 

「まさかと思ってたけどこのクラスの担任だなんて!」

 

「お母さん、産んでくれてありがとう!!」

 

なんかいろいろな大袈裟な人も混じってるような…

というか北九州からって凄いな、素直に驚いた。

あ、なんか千冬姉スゲェ嫌そうな顔し始めた…

 

「はぁ~…私の担当するクラスはいつもいつも…なぜこんな馬鹿者ばかりなんだ……それともわざとか?わざと私の所へ集めているのか?」

 

「あーんお姉様、もっと罵って!」

 

「付け上がらないように躾てぇ!」

 

「そして時には優しくして!!」

 

うわぁ……今、千冬姉が少しだけ可哀想に見えた。

いつもということは、毎年毎年こうだったのか。

そりゃ嫌になるな…俺だったら投げだしてるぜこれ。

 

「……まぁいい…後、あと1人副担任が外にいる。今呼ぶ、先程のようなことはするなよ?いいな!」

 

千冬姉がそう言うと、さっきまで騒がしかった教室が一気に静かになった。

それにしても、もう1人の副担任か。

どんな人だろう。

童顔……大きな胸もちの山田先生、俺の姉の千冬姉こと織斑先生。

かなりインパクトがあるけど、この様子じゃ次の人もかなりインパクトがあるのかな?

……そう考えていた俺は、すぐに、今度は千冬姉の時以上に衝撃を受けた。

まさか、まさかだったものさ。

そりゃ驚くさ。

千冬姉の「入ってくれ」の言葉と一緒に入ってきたその人は、深紅の髪をした目元に一文字の傷跡がある、そして左手にはめられた赤の腕輪持つ。

忘れることなどない俺の憧れの人。

目標の人……

 

「初めまして皆さん、私は極東支部所属第一部隊隊長 【霧背ルナ】といいます!皆さんの副担任兼【アラガミ基本学】と【アラガミ応用学】を教えさせていただきます!どうかよろしくね!」

 

霧背ルナだったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧背ルナ、教室入室直前。

 

 

教室に耳を当ててみてすぐに後悔した。

突如耳を当てなくても聞こえてくるほどの黄色い悲鳴が鳴り響き、脳髄が揺さぶられる。

なにこの音波兵器。

一瞬鼓膜が破れたかと思ったよ…。

さて、どうしたものか……教室の様子を知りたいけど、さっきの黄色い悲鳴が恐ろしい。

かといって呼ばれるまでただ立っているだけってもの辛いものがある。

私は肉体労働派だからね。

いや、ただ落ち着きがないだけかもだけど。

ん〜、よしこうしよう。

もう一回黄色い悲鳴が来たらやめよう。

そう心に決め耳を当てる……前に千冬さんの声が聞こえた。

 

「入ってくれ」

 

あらタイムアップか。

結局わかったのは、このクラスは織斑千冬のファンが凄い多いってことだけ。

何気に心配だ。

でもここで立ちっぱは千冬さんどころかクラスの生徒たちの迷惑でもある。

千冬さんは年上だけど、年下に迷惑はかけられない。

いや年上にも迷惑かけちゃダメか。

とにかく行かなきゃ。

よし、取り敢えず無難な自己紹介と行こうか。

そうやって、自己紹介の内容を纏めた後、私は教室の扉を開け、中へと踏み込んだ。

中には……予想はしてたけど、一番前の席にいる男の子以外は全員女の子だ。

まあそれが普通なんだけど。

うわぁ、視線が刺さる刺さる。

でもウロボロスの複眼に、ジーと見つめられるよりはマシ!

…と考えてなんとか視線の痛さを誤魔化し、先程考えた自己紹介をはっきりと言う。

 

「初めまして皆さん、私は極東支部所属第一部隊隊長 【霧背ルナ】といいます!皆さんの副担任兼【アラガミ基本学】と【アラガミ応用学】を教えさせていただきます!どうかよろしくね!」

 

……うん、我ながら非常に無難な自己紹介だったと思う!

癖で敬礼仕掛けたけど堪えたし、大丈夫な筈!

そう考えた瞬間。

 

「なぁーーーーーーーーー?!?!!!」

 

1人っきりの男子の絶叫が響いた。

直後に千冬さんが「うるさい馬鹿者」といって、手に持つ出席簿で叩く。

うわぁ、痛そう……スパーンていい音もしたし、というか滅茶苦茶速かったよね今の。

カリギュラのブレード攻撃くらいのスピードなかった?

…でもなんでだろう、出席簿で攻撃する姿がツバキさんに重なったような?

 

「さて、時間も押してることだ。あとは各自で自己紹介を終えるように。以上だ、これにてSHRを終る」

 

千冬さんがそう言って私にアイコンタクトをした後教室を出ていった。

…ついてこいって意味だろう。

行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑千冬について行って来た場所は、IS学園の中庭だった。

ここには、近年見られなくなった多くの植物がたくさん生えていて、丁重に手入れされていた。

で、なんでこんなところに連れてきたんだろう。

そんな事を思ってると、千冬さんがさらに歩き出す。

その歩みの先は……業務員のおじいさん?

またしてもアイコンタクトでここに来いという。

なんで業務員のおじいさんのところへ?

 

「おっほ〜、君が神機使いの霧背君かい?」

 

私を見るや否や、おじいさんが話しかけてきた。

何か不思議な感じのおじいさんだな。

直感でそう感じた。

でも取り敢えず返事はしないと。

 

「はい、極東支部所属第一部隊隊長の霧背ルナです。………今は【アラガミ基本、応用学】指導者って言えばいいのかな?」

 

「これはどうもご丁寧に、私は轡木十蔵と申します。しがないただの用務員……と言いたいところですが、実はここの学園長を務めております」

 

あ、ですよね〜。

千冬さんが何もなしに業務員さんのところへ連れてくる訳ないし。

最初に学園長に会わせるって言ってたし。

大方予想はついてたよ。

 

「驚かれないんですね、流石は【人類最強】と言ったところでしょうかな?」

 

「えーと、大体予想ついてましたし。あとその渾名あまり好きじゃないので控えていただけると嬉しいですね」

 

「おや、そうでしたかこれは失礼。それでは、こんな場所で締まりませんが……これより霧背ルナ、貴女は一時的に私達IS学園の所属となります。これからよろしくお願いしますね」

 

そう言って、深く学園長は頭を下げた。

 

「あと、学園長なのは生徒のみなさんに黙っていてくださいね?」

 

直後に楽しそうにそう答えたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、私のIS学園教師生活が始まった。

が、初日から一悶着が起こるなど、この時の私には想像もつかなかったんだ。

 

《Episode2:新たな職場 終 Next Episode→》

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