「えっと…もう1度言って貰えるかなぁ?」
開幕口に出した言葉はそれだった。
信じられなかったと言えばいいのかな?
まさか模擬戦闘を挑まれるなんて考えてなかった。
それも現役IS代表候補生にだよ。
何か恨まれる事をした覚えはないし、この子は成績優秀の入試試験首席の超エリート。
昔にいたらしい、盗んだバイクで走り出すような子じゃない。
だからもう1度、聞き間違えかどうか確かめる為に私は聞いた。
結局帰ってきた言葉は「私と模擬戦闘をしてくれませんか?」で変わらずだったけど。
「え〜と、理由は?」
素直に疑問をぶつけてみる。
当たり前だ、何もわからず戦闘とか乱入だけで十分だよ。
オルコットさんの返答は?
「理由ですか?理由は、【人類最強】と呼ばれた、父の励みになった神機使いと、手合わせをしてみたいなって、そう思ったんです…駄目でしょうか?」
上目遣いでそう聞いてくる。
ヤメテ!
同じ女の子でも私の方が身長と歳が上だから、その純粋な目は私のメンタルに効く!
理由はイマイチわからないけど、まあ詰まるところお父さんの励みになった私と戦いたいってことでしょ?
オルコットさんのお父さんが神機使いってのは驚いたけど、まあこの御時世ISのせいで?おかげで?どちらにせよ男性ならほとんど神機使いだし、不思議でもない。
「ま、まあいいよ私は……織斑先生に出来るか聞いて、ダメだったらあきらめてね?」
結局折れてしまうわけだけど、ここだけは譲れないね。
単独でやって、取り返しのつかないことになんて嫌だし、保険はかけさせてもらった。
これで駄目って言ってくれたら御の字だし、通ったらちゃんと手続きを踏んだアリーナでやれるから、安全性が取れる。
うん、我ながら即興にしては良い案じゃない!
「あ、ありがとうございます!」
そんな感じに、心の底で自画自賛している間にオルコットさんは私に感謝を述べていた。
OKがでるかどうかまだわからないけど、まあこの綺麗な笑顔が見れただけ良しとしよう。
そんなことを思いながら、私はその場を後にした。
それから放課後、職員室へ向かう途中にある道場から音が聞こえた。
人とは好奇心が強い生き物だと私は思ってる。
だからこそ、安易に道場へと足を運んでみた。
そこには二人、胸の大きいポニーテールの少女とあの織斑一夏くんが竹刀をぶつけあってた。
多分剣道かな?
でも二人とも防具は付けてない、じゃあ打ち合い?
そんなことを思っていると、打ち合ってる二人から声が聞こえてきた。
「やるな一夏、腕は健在か!」
「ああ!勉強の合間にずっとやってたんだぜ!!神機使いは勉強だけ出来ても意味無いからな!!」
スパンッスパンッといい音を響かせながら二人の竹刀はぶつかり合う。
私は剣道素人だけど、神機使いとして評価するなら、二人とも良い剣撃だと思う。
真っ直ぐ、ブレもなく、迷いもない良い一撃。
斬って音が似合いそうな一振り。
打ち合いは長く続く、でもやがては終わりが来る。
最後の一閃、一夏くんは上段、ポニーテールの子は中段に構えて互いに突っ込む。
「どおぉぉぉぉぉおおおお!!」
決着は…ズバンッと打ち抜く音が響き、膝から崩れ落ちたのは一夏くんだった。
どうやら、ポニーテールの子の勝ちのようだ。
「私の勝ちだな一夏、良い打ち合いだった」
「つぅ〜生身に胴はやっぱいてぇ…でも、ああ!いい打ち合いだったぜ箒!」
そういって、一夏くんは立ち上がり、彼女、箒ってこの手をとった。
うんうん、青春だねぇ〜。
私にはあんなのはなかったから、ていうかそんなことよりアラガミを喰ってたからねぇ。
なんかいいねぇこういうのは。
「ところで箒、これって結局ISの訓練とどう関係するんだ?」
でも、一夏くんのその一言で私は盛大にずっこけてしまった。
ゑゑゑ!?
ISの訓練をするのになんで剣道!?
私ISに全く詳しくないけど、剣道がISの訓練にならないことくらいわかるよ!?
「いや、それは……そうだ、ISの訓練をしても、基礎体力がなってなければできないだろうが!それに相手はお前よりISを知っているし、いまさら勉強でその差を埋めるより、基礎を上げた方がいいだろう!」
いやその理論はおかしい。
多分おかしい、確かに基礎は大事だけど、その理論だとISの基礎も大事なんじゃ?
…というかこれ、このままだと私完全に覗き見状態だよね?
それって教師的になんか不味そうな気がする。
…もう今来た風を装うか、それとも見なかったことにして逃げるべきか…。
結局、私はその場から全力で逃げた。
彼らの会話内容も気になったけど、そもそも私がこの場所を通りががったのは職員室へ行くため。
なんでも、教員用の部屋割りを張り出しているらしい。
それを千冬さんに教えられて、それを見に行く途中だった。
なら、もう見なかったことにして逃げちゃってもいいよね?
思ったら即実行が私のルール!!
そう思考した時には私は速歩でその場を去ったのであった。
たとえ急いでいても廊下は走らないよー!
と、誰にいうかもわからないツッコミを心でしながら……
数時間後、セシリア・オルコットのルーム
暖かな水滴が、私の肌を流れ落ちていく。
白い湯気が沸き上がり、金の髪を潤すように、優しく包みあげる。
でもそれもすぐに終わり、私はそこを後にする。
柔らかなタオルが、濡れた私の体を抱きしめ、滴る水滴を吹き落としていく。
この瞬間が、私は何気に好きだったりする。
シャワー、それが私は好き。
日本人が考えた風呂というのも好きですけど、やっぱりシャワーのほうが好きだったりする。
…
「はぁ…」
独りごちて溜息をつく。
IS学園に入ってからやたらと溜息をする時が多くなった気がする。
『溜息は幸せを逃がすぞ?お前は笑顔が一番だよセシリア、心配しないで、帰ってくるから』
声が頭に響く。
あの思い出の、最後の声が。
「…本当に、幸せを逃がしている気がしますわ」
呟き、ベットの側に置いてある写真立てを手に取る。
写っているのは私と、亡きお父様とお母様。
今でも鮮明に思い出せる、あの時の記憶。
「…よしましょう、今更思い出しても意味ありませんわ」
誰にいうわけでもなく、また一人で呟いている。
本当に、何なんでしょうね。
…霧背ルナ、お父様の支えになった神機使い。
極東無敗、人類最強。
彼女に戦いを挑む必要なんてあったんでしょうか?
何故あの時の私は彼女に戦いを頼んだんでしょうか?
自問自答が心で起こる。
いやもう本当にやめましょう。
このままだと、いつか頭がショートしてしまいますわね。
どうせ私の頭なんて、世界から見ればちっぽけなんですから。
そう決めつけて、私は下着をさっさと身につけた後、ベットへ身を任せ、眠りへと落ちていくのであった。
同時刻、霧背ルナのルーム
一見した時の感想、すっげぇゴージャスと思ったIS学園の寮の部屋。
私の部屋は千冬さんのすぐ隣だった。
そこまでは良かった、いや別にいいわけじゃないけど、その肝心の部屋の中が凄かった。
私、元々極東支部のベテラン階層の部屋に暮らしていたわけだけど、こんなに豪華じゃなかったよ?
ちょっと狭いかなとは思うけど、ベットはモフモフ、ソファーはフカフカ、テレビまであってしかも最新の薄型液晶!
しかも大画面!
これ本当に一人用なの!?
まだ物を置けるスペースまであるし、本当に贅沢だよこれ。
教員でこれなら生徒はどれだけ凄いのよ…
つい歳を忘れてはしゃぎたくなるけどここは我慢、隣は何度も自分に言い聞かせるけど、あの千冬さんだ。
ここの壁は多分厚いだろうけど、それでも騒いだら聞こえかもしれない以上騒いだら大変だ。
「ふにぁ〜…部屋だけだったらアナグラより天国だよここ〜」
だとしても、わかっていても、腑抜けたことを言いながら、人をダメにしそうなくらいモッフモフのベットに転がりながら呟く私氏。
あ〜、これは本当にダメになるぅ〜。
疲れた体を包み込むように、モフモフがわたしを包み込んで…ハッ!?
「あっぶな!!あと少しで寝ちゃうところだった!!仕事残ってるのに!」
そう、私にはまだ次の授業の為の資料まとめがあるんだ!
寝るわけにはいかない!
カッと目を開き、今日貰った教員教務用パソコンを開き、急ピッチで纏めていく。
多分、どれだけ綺麗にまとめても誰も聞いてくれないだろけど、それとこれは別に。
やるとやらないとでは大違い。
自分の復習にもなるし、こういうのは大事だたと思うんだ。
「…そういえば授業で思い出したけど、セシリア”オルコット”さんの”オルコット”。どっかで聞いたことがあるような…」
不意に思い出す。
そう、授業を一夏くんと一緒にまともに聞いてくれた彼女。
彼女の苗字に何故か私は即見感があったんだ。
結局、それが気になって資料まとめが逆に止まってしまった。
こういう時どうすればいいか、私は知っている。
横道にそれちゃえばいいんだYO!
「思ったら実行!パート2~!!」
そう変なテンションで名簿帳を引っ張りだし、彼女の経歴を調べることにした。
「え〜と…『セシリア・オルコット 、年齢15歳、両親は10歳の時に死別、母親は有名貴族出で、財産は天をつくほど』かぁ〜」
死別というのに目を引いたけど、彼女が10歳の時、つまり5年前、何かあったっけ?
私が14歳の時だよね…イギリス、5年前…
「あっ!?」
唐突に思い出す。
そういえば
思い出した内容を忘れる前に名簿帳を続けて読んでいく。
「『父の生まれは平凡な一般の家ではあったが、優れた旧型神機使いであった』…旧型神機使い!!」
そのワードで、私の中でピースが繋がったのであった。
そうか、そういうことか!
オルコット、旧型神機使い、5年前、イギリス!!
だとすると…
「オルコットさん…君って……」
そこから先の言葉は、私には紡ぐことが出来なかった。
でも知ってしまった以上、本人の口から聞くべきこともあるとも思った。
間違った情報もあるのかもしれないから。
でも、試合前に聞くことじゃないねこれは…
聞くとしたら…試合後。
そう、意思を固めた私は、来たる試合への思いが、別の意味で負けられなくなるのだった。
「…………あ、まとめ終わって無い!!」
でもかっこよく締まらないのが私だったり。
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