クラス代表決定戦当日。
その日の第3アリーナは1年生で満杯だった。
管制塔へ行く途中の通路でさえもたまに生徒を見かけるくらいにはもう一杯にいるよ。
右手にフェンリルのロゴが入った大型アタッシュケースを左手に持ちながら、スーツではなくアナグラにいた頃の服装で管制塔へ向かいながら私はそう思う。
…これ絶対1組以外にいるよね?
1組だけでアリーナの3分の1が埋まるのは流石におかしいし。
実際少し騒がしく感じるほどにはいるはず。
そんなこんな考えながら扉を開け、中へ入る。
管制室は一言で言うと、なんだこのハイテクはだった。
サカキ博士の研究室にある施設を大型化したらこうなるのかなぁ?って考えちゃうくらいにはデカイし凄い。
「霧背先生か…スーツでなくその格好、やるんだな」
「GOサインを出したのは織斑先生ですけどねー」
背を向けたまま、千冬さんが答える。
実はこの前相談した結果、オルコットさんとの戦闘を許可してもらったのだ。
だからこそ神機を引っ張り出して、服装も動きやすいこちらにしたということさ!
ちなみに神機はIS保管庫のすぐ側に、代理保管庫を作ってもらってる。
いずれ本格的につくってくれるらしい。
「で、試合はどうです?予定じゃもう始まってもおかしくなさそうですけど…」
「あぁ、時期に始まる…織斑のISが届くのが遅れてな」
と、千冬さんが私の疑問に答えてくれた。
遅れているんだ…ということはオルコットさんは今待ちぼうけってことかな?
時間を無駄にしてしまっているようで気になるけど、そんなことを考えていたら、ピットからなにか出てくる。
灰色のISだ、おそらく、いや間違いなく一夏くんが乗っているだろう。
でも灰色?
彼は白が似合うと思うけど…
「…疑問に思っているようだな、あれは初期設定状態だ、あのISの本当の姿じゃないぞ」
またしても千冬さんが答えてくれる。
…へ、初期設定?
「あれ初期設定なんですか?!」
「アリーナの使用時間は2時間に限られている、そのうち1時間を霧背先生とオルコットの試合に割いたなら、初期設定でも送り出さんと間に合わん」
うぐぅ!?
ということは一夏くんが初期設定で放り出されたのって私が原因か…ごめん一夏くん!
心の中で南無っと手を合わせ、彼の武運を祈る。
「両者定位置に付いたな、ソレではこれよりクラス代表決定戦を始める!」
千冬さんがアナウンスのマイクを手に取り話す。
さぁて、この勝負、どうなることか…
アリーナにIS白式を纏い、俺は飛び出す。
正直こいつの到着が遅れて、初期設定で行けって言われた時は焦ったけど、いざ乗ってみるとそこまで酷くはない。
「お待ちしておりましたわ」
俺が定位置につくと同時に、オルコットさんがそういう。
流石に待たせたかと思い、俺が謝罪の言葉を言うと。
「いいえ、気にしないでください。あなたが悪い訳では無いのでしょう?」
オルコットさんがそう返す。
それに少しだけホッとする。
だがそれと同時にロックオンの警告音が鳴り響く。
「ですが、だからと言って手は抜きませんわよ?」
気が付けばオルコットさんは銃を構えていた。
いや、銃というにはあまりにも大きい、まるで砲のようなレーザー銃だ。
開始前に見た彼女のISデータが脳裏を走る。
ブルーティアーズ、イギリス製長距離多対数型IS。
レーザー兵器を主軸とし、接近武器はレーザーサーベルのみ、さらには第3世代の特徴武器であるビットを持っていると言われている。
その主砲であるのが今向けられているレーザー銃だろう。
正しく全力で潰しに行きますと宣告しているわけだ。
はっ、上等さ!
どう足掻いても勝てないかもしれないが、やれるだけやるものさ。
なら彼女の胸を借りるつもりでぶち当たるまでさ。
そう思い次第、俺はISから武器を引っ張りだそうとして…硬直した。
何故か、それは武器が一つしかなかったからだ。
いや、正確には二つあるが、一つはまだ使えませんとロックが掛かっていた。
もう一つは問題ないんだがそれは…
「刀だけってマジかよ…」
そう呟くも時間は無慈悲で、俺が脱力した瞬間、千冬姉の声が響く。
戦闘開始の有無を伝えるものだった。
その瞬間、俺は反射的にその場から逃げる。
すると俺のいた位置にはレーザーが通り抜けていて。
「さて、では踊りましょうか…私と、このブルーティアーズが奏でるワルツを!!」
やばそうな
試合が開始と同時に、オルコットさんの武器から青いレーザーが打ち出される。
どうやら既にロックオンしていたみたいだね。
だからこそあの奇襲を一夏くんは回避できたみたいに見えるけど。
「さて、始まったな…君はどう見る、この戦況を」
開始して早々、千冬さんが私に、いや私だけじゃなく山田先生にも問う。
山田先生はその問に
「織斑君のISには射撃武器が一切ありませんので、接近して戦うしかないわけですが、難しいでしょうね。オルコットさんはそんなに簡単に近づけてくれないでしょうし」
と、最もな意見を述べる。
事実、全く近づけずあの砲に撃たれまくっている。
当たってないのはこの前にやってた剣道で感を取り戻しているからかも知れないけど。
でもいずれジリ貧だ。
だけど私はこう述べた。
「逆に近づけば勝てると山田先生は言いたそうですけど、私は近づいても難しいと思います」
「え、どうしてですか?」
「オルコットさんの経歴を調べたんですが、彼女は元々神機使いを目指していたんです、それも新型の。父親の意見で止めたそうですが、新型こと第2世代型神機は、得意不得意もあるでしょうが、近・中・遠の全ての距離で戦えなければいけません。弾が切れたら斬りに行けなければ行けませんしね」
ちなみに私は遠距離戦は大の苦手だったりする。
まあ実際は専用のアンプルで回復できるけど、そんな物を飲むより切る方がダメージも与えられて何より時間短縮にもなる。
あれを飲むのは旧型の遠距離神機使いくらいだ。
即ち、機体はそうだけど彼女自身は接近戦にもなれてる可能性がある。
そうなればいくら剣道をしていても、実戦の剣のほうがいくばか上だ。
それで適当にあしらわれているまた距離を離されれば詰む。
そんなことを考えていた矢先だった。
「っ!?オルコットさんが突っ込んで切り抜けた!!」
山田先生が驚愕する。
つられて私もモニターを見ると、なんと話していた彼女がレーザーサーベルを展開して切り抜けをしている。
「なるほどな、遠距離型だから接近をしてこないという先入観を取った奇襲撃か、しかも良いのが入った。これはでかいぞ」
千冬さんもこの評価。
そりゃそうよ、あんなレーザー銃を引っ下げてあれだけ撃っていれば誰だって接近してくるなと思わない。
完全に不意を疲れた一夏くんは見事にくらい、オルコットさんは一夏くんが怯んだ間に離脱、そして距離が完全に離れたことを確認したあとまたあのレーザー銃で怯んだ彼を撃ち抜いた。
まさか言ったことが現実になるとは私自身思ってなかった。
となるとこれは一夏くん、かなりというかほぼ勝率はないと言えるかもしれない。
彼女は、接近も出来るというのが明かされたからだ。
事実あのコンボでかなりのシールドエネルギーが蒸発した。
もうあの奇襲を食らうことはなくても、あと2、3発貰えば完全に堕とされてしまう。
『それでは、そろそろフィナーレと行きますわ!ブルーティアーズ!!』
モニターごしにオルコットさんの声が響いた。
すると彼女のISの一部が分裂、彼女の周囲へ浮遊し始めた。
「第3世代兵器、ブルーティアーズ…ここで切りますか〜」
そんなしょーもない感想しか出ないけど、とにかくあれがヤバイのは私でも分かる。
ビットというのは、神機使い風にいえばサリエルの傍にいるザイゴートだ。
まああれとは違って、それを自分の意思で動かせるけど、鬱陶しさは変わらない。
多数対1を強引に作り出すことが出来るからだ。
実際今、ただでさえ劣勢たった一夏くんはさらに追い詰められている。
かろうじて避けれていたレーザー銃とは違い、今度は上下左右360度全てからの銃撃、何発かは避けきれずだんだん被弾数も増えていく。
ようやくまともに避けれるようになる頃にはシールドエネルギーはなんと3桁を切っていた。
「やっぱり無理だったんでしょうか?」
山田先生が心配そうに言う。
しかし、山田先生の心配は杞憂に終わる。
『見えたぜ、あんたの弱点!!』
突如一夏くんの動きが良くなった。
まあ、おそらくあのビットの対策でも思いついたのかな?
実際今度は一発も当たってない。
弱点が見えたとも言っていた。
…そういえばよく見てみればオルコットさんのビットは彼の死角に入るように動いていた。
ISは360度見えるシステムがあるらしいけど、そんなもの乗って早々扱えるわけない。
故に見えていても見えていないと思い込む意識の死角が生まれる。
それをオルコットさんは突いていたんだ。
なるほど言われて初めて気づいたよ。
理解してからは彼の行動は速かった、あっという間にビットを斬り落としていく。
1つ、2つと、ついに4つ目。
だけどオルコットさんに焦りの様子はない。
他に何かあるのかな?
「あの馬鹿浮かれているな…」
と、今度は突然千冬さんが呟く。
言われて見れば確かに表情からそういうのが見えるけど、千冬さんはそこを見て判断してない。
どうやって判断したんだろ?
「あれ、なんでわかるんです?霧背先生も」
山田先生はわからなかったようで私達に聞いてくる。
てか、なんで私がわかったのが理解出来て、一夏くんのがわからないんだろう?
とりあえず私からその訳を言うことにした。
「表情とか動きからですかね。新米の神機使いとか、結構見てきたんで。新米さんも、オウガテールとかを倒した後大体ああなるんですよ」
「なるほど、経験からですか…織斑先生は?」
「左手だ、奴が左手を閉じたり開いたりしているだろう?」
千冬さんに言われて見てみる。
なる程確かに閉じたり開いたりしている。
「あれが起こると、たいてい初歩的などうしようもないミスをやる。例えば塩と砂糖を入れ間違えたりな」
それは致命的過ぎる…
つまり、これは一夏くんは間違えなくやらかすということの予言になる。
というか実の姉が断言しちゃったんだ、確実にやる…
カノンちゃんの誤射と同じくらいやらかす。
「でもさすがお姉さんですね、弟さんのそんなところまで見ているなんて!」
とか言ってたら山田先生がやらかした!?
刹那、山田先生は千冬さんに頭を掴まれ宙に浮いていた。
あ~…南無です山田先生。
「え、あの織斑先生?あの痛いです、痛い、痛い痛い痛い痛い!!やめて頭が割れてしまいます!!?」
「山田先生、私はからかわれるのが嫌いだ」
「アッーーーーー!?」
…ほんとに南無。
しかしここは流石というべきなのかな?
千冬さん、あんなことしながら確かに目線はモニターを見ている。
とかそんな2人の(主に山田先生の自爆ショー)やり取りを見ている間に、試合は大詰めになっていた。
一夏くんが攻勢に出た。
ブレードを構え、一気に接近する。
撃ってくるレーザーは全て紙一重で避けきり、最早ブルーティアーズは逃れられない必中の距離。
ついに一発決まるか!
と思われた時だった。
『かかりましたわね?だれがブルーティアーズは4機しかないと言いました!!』
その言葉とともに、ブルーティアーズの腰部にあったスカートパーツが稼働する。
その中身は2門のミサイル砲だ。
最初の4機はハナから落とされるの覚悟の囮。
本命は接近させてよけれない距離まで引き付けて撃つミサイルだった。
今度は一夏くんが避けれない距離に追い込まれる。
今シールドエネルギーは2桁、当たれば間違いなく終わる。
必死で距離を離す一夏くん、しかしミサイルは逃がさないとばかりに追いかけ、着弾するその瞬間オルコットさんのレーザー銃により発破された。
致命打を確実に当てるため、わざと起爆させたんだね。
響きわたる爆音、飛び散るミサイルの破片。
あの距離での着弾。
おそらくもうダメだろう…そう思った時だった。
「機体に救われたな馬鹿者が」
千冬さんの声が放たれる。
そういえばミサイルをもらったにも関わらず、試合終了を告げる合図がならない。
おかしいと思って見てみると、なんと一夏くんのISのシールドエネルギーが僅からながら回復しているではないか!
あまりの事に驚き、改めてモニターを見る。
すると爆炎が晴れ、そこからは現れたのは純白のISを纏った一夏くんだった。
初期設定が終わったんだ。
『まさか、初期設定で私と戦っていたのですか?!』
オルコットさんの驚愕の声が響きわたる。
そりゃそうでしょ、誰だってそんな状態で戦ってるなんて思ってもみないはず。
『別に舐めていたわけじゃないぜ、時間のせいさ』
一夏くんはその驚愕に返答する。
今度はハッキリ、凛として。
『けど、これで
そう言って、彼は右手の刀だけでなく、今度は左手へ何かを出現させた。
それは…
「神機!?」
管制塔の全員が、私をのぞいて驚愕する。
ちょっと嘘ついた、確かに驚くけど2人ほどじゃない。
あれは確かに神機に似てるけど神機じゃないとわかっているから。
神機を使うには腕輪が必要だ。
となるとあれは神機に似た何かな訳だけと…
「白いね…ロングブレードとブラスト、あとはシールドかな?」
彼の神機もどきを観察する。
なる程バランスに特化しているわけだ。
しかし、なんでISに神機もどきが?
だが私の自論が出る前に、試合は動き始めた…
俺は今まさになんとも言えない状況だった。
対戦相手のオルコットさんはとても強かった。
遠距離型のISブルーティアーズを自在に操り、それから生まれる接近してこないという思い込みを利用した近接奇襲。
さらにはビットは最初から落とさせる気で配置させ、ミサイルで撃墜させるという計画。
もし白式が1次移行をあのタイミングでしてくれていなければ、俺は間違いなくやられていただろう。
「まさか、初期設定で私と戦っていたのですか?!」
オルコットさんの驚きの声が聞こえる。
大方、舐められていたのかと思っているのかもしれない。
だがそれは誤解だ、試合時間が限られているからという理由で放り出されただけだ。
だからこと俺はこのことを端的に
「別に舐めていたわけじゃないぜ、時間のせいさ」
そう答える。
しかしかなり時間がかかったな。
「けど、これで
そうつぶやき、俺はさっきまでロックされていた武器を呼び出す。
右手にはもう別の刀を握っているから、代わりに左手に呼び出す。
左手に、粒子から形になっていくそれは汚れなき純白で、長いブレードと大きな盾、そして刀身のしたに折りたたまれた大砲があった。
それを見て、俺はそれが何か直感的にすぐわかった。
「…マジかよ、神機かこいつ…」
「神機!?ISに?!」
向こうも驚いている。
そりゃそうだ、俺だってびっくりした。
しかもこいつは第二世代型、銃器への変形が可能なタイプの神機だ。
でも変だな、神機は神機使いじゃないと使えないはず…俺はまだ神機使いじゃない。
「ま、考えてもわかんねぇか…いくぜオルコットさん、いやセシリア!!」
雄叫び、さあセシリアへと俺は突っ込む…が。
まあ混乱からすぐに復活したセシリアがそんなことを許す訳ない。
すぐさまレーザー銃を構え、青の光弾を吐き出してくる。
俺は神機使いを目指していた、だが実際に神機の使い方を学ぶのは神機使いになってからだ。
本当ならシールドと、この大砲の展開法とかあるんだろうけどぶっちゃけ知らない俺には回避しか方法がない。
来る砲をギリギリで回避し続け、ついに迫るはセシリアの真近。
「うおおおおおおおお!!」
「っ!?」
回避は無理と悟ったのか、右手にレーザーサーベルを展開して、俺のブレードを受け止める。
だけどいくらレーザーサーベルでも、実体ブレードであるこいつほどの威力はないのか、押し負けて刃は彼女へ迫っていく。
勝てる!
俺はそう思い一気に力を入れる。
…だけどこれも彼女の戦略だったんだ。
「えっ?」
いきなりスッと彼女との拮抗力が消える。
体重をブーストによって思いっきりかけていた俺は、そのまま支えを失い、ガクリと体制を大きく崩してしまった。
しまったと思った頃にはもう遅い。
背後を見るとそこにはミサイル砲とレーザー銃を構え、それを撃ち出したセシリアが見えた。
『試合終了!!セシリア・オルコットの勝利です!!』
いやー、見事としか言えない最後の戦いだった。
そんな感想しか浮かばない私。
特にオルコットさんの最後の策。
相手が確実に全重量をかけたタイミングで力を抜き、バランスを崩させるあの技。
一歩間違えれば真っ二つにされていただろう。
その度胸と頭の回転速度、彼女が神機使いになっていたらそれはもう素晴らしい神機使いになっていたかもしれない。
でも今回は一夏くんは惜しかった。
万に一つも無いけど、もし神機の使い方を知っていればあの戦いは一夏くんが勝っていたかもしれない。
あれには高火力のブラストがあり、当たればおそらくゴリッとシールドエネルギーを持っていけただろうし、装甲を使えば最後のあれも防げたかもしれない。
結論を言うと、どっちも凄いって事だ。
…というか、私このあとその凄い子の片方とやるんだよね?
これかなりプレッシャーだよ。
「霧背君」
そんなことを考えていたら、千冬さんが声をかけてきた。
霧背先生ではなく霧背君と。
おそらく先生としてでなく個人で私に言いたいんだろう、何かを。
「…御手柔らかに相手してやってくれ、それと君の力、期待しているよ」
はい、その何かは余計にかかるプレッシャーでした!!
…まあ、受けちゃった私にも問題があるし、もういいけどさ。
結局、なんだかんだいいながら私は神機を大型アタッシュケースから引っ張り出す。
「それでは、行ってまいりますか!」
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