孤独に生きるグリムガル   作:愛と勇気だけが友達つまりボッチ

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2話

 翌日、俺は早速狩人ギルドの門を叩いた。

 ギルドに加入する際、新人義勇兵は8シルバーを払って、7日間の初心者講習を受けることになる。

 これはどこのギルドも一律の料金で、値下げ交渉にも一切応じてくれない。

 どうやらギルドの間でそういった取り決めがあるのだろう。

 ギルドは金に汚い、はっきりわかんだね。

 

 7日間の初心者講習は、初心者講習とは思えないほどのスパルタ(、、、、)を極めた。

 

 俺の担当指導員となったボーゲン先生は、優しげに微笑むナイスミドルな男性だった。

「君のパーティの構成はどんな感じなんだい?」

 何気ないボーゲン先生の一言。

 今思えば、講習が始まる前のこの言葉が、俺の運命の岐路だったのだろう。

「いえ、俺はソロでやろうと思っているんですけど」

 気楽に答えた俺の返事に、ボーゲン先生の表情は凍りついた。

 

「は?」

 

 いつも優しげに微笑んでいる先生が嘘のように、その顔は恐ろしくなっていた。

「……もう一度聞くよ。君は、一人で義勇兵をやるつもりなのかい?」

「ひゃ、ひゃい」

 底冷えするようなボーゲン先生の声音に、盛大に噛んだ。

 しかし、噛んだことを気にする余裕もないほど、俺はびびりまくっていた。

 おそるおそるボーゲン先生の顔を覗き見ると、彼は恐ろしい表情から一転、口角をニヤリと歪めて笑っていた。

 それはまさに悪魔のごとく。

 

「……いいだろう。貴様には特別に初心者講習ハードモードを受けさせてやろう」

「えっ、と。できればノーマルな講習を」

「黙れ。返事ははい、だ」

「ひゃいっ」

 

 それからは地獄だった。

 義勇兵としての基礎的なことは初日のわずか数時間で叩き込まれ、残りの時間をすべて戦闘訓練に当てられた。

 

 先生の狼犬に追いかけ回されながらの体力作り。

 矢を的から外す度に、俺目掛けてナイフが飛んでくる弓の訓練。

 実戦を想定したボーゲン先生との死ぬ気の剣鉈の修練。

 

(……よく生き残れたよな、俺)

 

 しかし、ボーゲン先生もきっと、一人で義勇兵をやるなどと抜かした俺のことを思って、心を鬼にしたに違いない。

 訓練中、俺が怪我を負う度に嬉しそうに笑ってたけど、心配してくれてたんだよね?

 

 そんなこんなで初心者講習(HARD)を終えた俺は、初めての実戦に向かって、一人歩いていた。

 狙いは泥ゴブリンかグール。

 義勇兵たちの暮らす街オルタナの、北の森に生息しているモンスター。

 モンスターの中でも最弱の部類で、新人義勇兵にはもってこいの敵だ。

 初心者講習(HARD)を終えた今の俺ならば、難なく倒せるらしいが、ボーゲン先生には決して油断するなと釘刺された。

 敵がいくら弱くても、何が起こるか分からないのが戦場の常だ。

 加えて、俺は一人。

 非常事態が発生した際にフォローし合える仲間がいない。

 だからこそ、用心に用心を重ねるのに越したことはない。

 

(どうかイレギュラーな展開になりませんように……)

 

 俺はそう呟きながら、森の中へと足を踏み入れて行った。

 

 

 

◇ ◇ ◇ 

 

 探し回ること数十分。

 俺は遠目に森の中で歩いている生物を見つけた。

 あれは……泥ゴブリンか。

 人間の子供くらいの背丈で、肌は煤けた薄緑。服は何一つ身に付けていないが、右手に人間の腕くらいの太さの木の棒を持っている。

 俺は気付かれないように、泥ゴブリンのあとをそっとつけた。

 木々の陰に身を潜めながら、泥ゴブリンの様子を探っていると、どうやら奴は食料を探しにきたらしい。

 時折、身を屈めて雑草をむしり取り、くっちゃくちゃと咀嚼している。

 

(隙だらけだな)

 

 俺は背負っていた弓に矢を番えると、泥ゴブリンに狙いを定めた。

 矢を引き絞り、弦がキリキリと小さく音を立てる。

 風はない。

 呼吸を整えたところで、すっと矢から手を放した。

 

 狙いは泥ゴブの心臓。

 放たれた矢は木々の間をすり抜け、ゴブリンめがけて一直線に飛んで行った。

 

「グギャっ」

 

 当たった。

 しかし、心臓からわずかに右に逸れて、矢は泥ゴブの右肩を貫いていた。

 

 緊張で手に力が入りすぎたか。

 

 小さく舌打ちを鳴らし、俺は泥ゴブに向かって駆け出した。

 腰に差していた剣鉈に手を掛け、泥ゴブリンに襲い掛かった。

 

「グギャアアアアアアっ」

 

 泥ゴブは俺に向かって、咆哮をあげた。

 だけど、そんなものは怖くない。

 奴は右肩を怪我したせいで、武器の木の棒を地面に取り落としている。

 おそらく精一杯の抵抗だったのだろう。

 しかし、俺は無慈悲に剣鉈で泥ゴブリンを切り裂いた。

 

「--斜め十字」

 

 泥ゴブリンの胸から鮮血が舞い散る。

 十字型に斬り開かれた傷口からは、どくどくと血が流れおち、数秒も経たないうちに泥ゴブリンはその命を散らした。

 

「……ふぅ」

 

 剣鉈に付着した血を振り払い、俺は深く息を吐いた。

 自分の手で他の命を奪い取るこの感触、はっきり言って気持ち悪かった。

 冷たく横たわった死体を見るのも、このあたりに充満し始めた血生臭いにおいも、何もかもが嫌だ。生理的に受け付けない。

 しかし、これから義勇兵を続けていくなら、きっと何十何百とこの経験を味わっていくのだろう。

 なら、耐えるしかない。慣れるしかない。

 

(……生きるって、大変だな)

 

 俺は込み上げてくる不快感を喉の奥で押し殺しながら、泥ゴブリンの死体へと寄った。

 首に細紐で通した動物の牙を身に着けていて、俺はこれをもらっていくことにした。

 

(……戦利品はこれだけか)

 

 手に取った動物の牙を見て、俺は考える。

 

(これじゃあ二束三文にもならないよなぁ)

 

 あっさりと終わった戦闘の対価としてなら、こんなものかもしれないが、これじゃあ今夜の宿代にもならないだろう。

 せめて今日の分は黒字にしておきたい。

 

 そんなことを考えていると、近くにあった茂みが大きく揺れて何かが飛び出してきた。

「グギャァっ!!」

 出てきたのは泥ゴブリンだ。

 右手に持った木の棒を俺に向かって、全力で振り下ろしてくる。

 俺は慌てて剣鉈を手にして、それをなんとか防ぐ。

「くっ」

 まさかこちらが奇襲されるとは。

 想定してなかったわけじゃないが、初戦闘が終わって気が緩んだ隙を狙ってくるとは思わなかった。

 泥ゴブリンの分際で、やるじゃねぇか。

「らぁっ!!」

 剣鉈で泥ゴブリンを押し返し、いったん距離をとった。

 いきなりの攻撃には驚いたが、決して勝てない相手じゃない。

 そうでないと、あれだけ鍛えてくれたボーゲン先生に合わせる顔がない。

 つうかソロのくせに鍛錬を怠ったとか思われて、先生に殺されry

 などと青ざめていると、茂みからさらに耳障りな声が聞こえてきた。

「「ギャッ、ギャッ」」

 現れたのは新たな泥ゴブリンが2体、今いるのと合わせて3体だ。

 しかもそのうちの一体は木の棒ではなく、鉄製の剣を装備している。

 

(1対3、か……)

 

 1対1ならおそらく勝てる。

 それが3連続でも負けはしないだろう。

 だが、3体同時に来られたら確実に負ける。

 

(つうかなんでこんなに集まってきたんだよ)

 

 最初に戦った泥ゴブリンと戦闘を始める前には、それらしい気配は感じなかったはずだ。

 少なくとも近くにはいなかった。

 なら、コイツラが集まってきたのは仲間の血の臭いでやってきたのか?

 いや、血の臭いはそこまで広がっていない。

 ならなんで、と考えたとき、原因が分かった。

 

(あんときの咆哮か)

 

 矢で貫いて、斬りかかる直前に泥ゴブリンがあげた咆哮。

 あれは最後の抵抗で俺を威嚇しようとしたものじゃなかった。

 仲間を呼ぶための遠吠えだったのだ。

 

(最初の矢で仕留められりゃよかった)

 

 後悔しながら、俺はじりじりと後退する。

 1対3といっても相手は全員が、俺の正面に固まっている。

 囲まれているわけじゃないならやりようはある。

 安全な距離を保ちながら、1体ずつ確実に仕留めていく。

 

 俺は後退しながら幹の太い大樹の脇を通り過ぎた瞬間、その木の背後に回って、泥ゴブリンたちの視界から姿を消した。

 木の裏に回った俺は急いで姿勢を低くして、ぐるぐるとでんぐり返しを始めた。

 

 ……ふざけているわけじゃない。

 

 これは穴鼠といって、素早く移動と回避を行う狩人のれっきとしたスキルだ。地味だけど。

 森の中といった遮蔽物が多い場所で、穴鼠は非常に役に立つ。

 低い姿勢で素早く動けるため、敵から隠れるにはうってつけのスキルなのだ。地味だけど。

 

 穴鼠のおかげで、泥ゴブリンたちは俺の姿を完璧に見失った。

 俺は身を隠した茂みの中から、こっそりと奴らの様子をうかがう。

 泥ゴブリンたちはあまり離れることなく、剣を持ったゴブが指示を出しながらきょろきょろと探し回っている。

 どうやら俺を諦める気も、1対1に持ち込ませる気もないらしい。

 

 逃げるか?

 奴らに気づかれていない今ならば、全力の穴鼠でこの場を脱出することが可能だ。

 しかし、泥ゴブリンはモンスターの中でも雑魚中の雑魚。

 いくら複数体いるからといって、こいつらを倒せないようじゃ義勇兵としてやっていけないんじゃないか?

 少しの間、悩んだ後に俺は結論を出した。

 

 よし、殺るか。

 

 どうせいずれ通る道だ。

 少し早いか遅いかの違いだ。

 それに指導してくれたボーゲン先生の顔に泥を塗るわけにもいかねぇしな。

 

 そう決意すると俺はひっそりと弓を番えた。

 狙いは剣持ちじゃない泥ゴブの内の1体。

 剣持ちを仕留めたいのはやまやまだが、剣持ちはほかの泥ゴブよりもできるような気がする。

 確実に1体減らしておきたい今の状況では狙うべきじゃない。

 そして、俺は狙いを定めると、棒持ち泥ゴブリンの内の1体に矢を放った。

 空を切ってまっすぐに飛んで行った矢は、今度こそ泥ゴブリンの心臓を貫いた。

 

(よし、あと2体)

 

 しかし、俺の位置は割れた。

 ビクリと痙攣して地面に倒れ伏す仲間の泥ゴブリンを横目に、泥ゴブリンたちは俺めがけて突っ込んできた。

 矢をもう1本放ったが、焦ったせいか、今度は外す。

 剣持ちはやはり身体能力が高いのか、俺のもとへと早くたどり着いて、剣で斬りかかってきた。

「ギャギャッ!!」

 それを剣鉈で受け止めると、脇からもう1体の泥ゴブリンが攻め寄ってくるのが見えた。

 2体を同時に相手をするのは無理だ。

 そう判断した俺は、剣持ちの剣を下からかち上げ、ガラ空きとなった胴にヤクザキックをブチこんだ。

「ギャッ!?」

 剣持ちは剣を持ったまま、短い悲鳴を上げて後方に吹っ飛んだ。

 そして、背後から詰め寄ってきた普通の泥ゴブリンの木の棒をかわして、すれ違いざまに剣鉈で首を跳ね飛ばした。

 泥ゴブリンの首があった箇所から勢いよく血が噴き出して、俺は頭から血をかぶったが気にしない。

 

(残り1体)

 

 蹴り飛ばした剣持ちの泥ゴブリンの方へ視線をやった瞬間、俺の左肩に衝撃が走った。

 

「っっ!?」

 

 見れば左肩に深々と剣が刺さっていた。

 剣持ちが遠くから自分の剣を投げ飛ばしたのだ。

 

(くそっ、今日は予想外の出来事ばっかりだ)

 

 左肩を襲う痛みは激しいが、動けないほどじゃない。

 なにより、奴は自ら自分の武器を手放したのだ。

 剣を投げつけて、俺が死ななかった時点で、俺の勝利だ。

 刺さった剣をさくっと抜くと、俺はその剣を使って剣持ちの泥ゴブリンの顔面を突き刺した。

 

「自分の剣で死ね」

 

 鈍い断末魔を上げた後、最後の泥ゴブリンも動かなくなった。

 俺は負傷した左肩に急いで応急処置を施していく。

 ソロで行動するから、包帯や傷薬はある程度買って持ってきていたのだ。

 

 処置を終えると、泥ゴブリンたちから戦利品を回収していく。

 木の棒は売れないだろうが、剣持ちが持っていた鉄製の剣は売れんじゃないかな。

 それと首にぶら下げている動物の牙も遠慮なくもらっていく。

 今度の泥ゴブたちの内2体は、まさかの銀貨もぶら下げていた。穴空いてるけど。

 まぁでもそこそこの値段にはなるだろ。

 

 俺はまた新しい敵が寄ってこないうちにその場を後にした。




グリムガル原作勢の霊圧が消えた・・・(´・ω・`)
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