とある中等部教師が拉致同然に向かった先は、女性だらけのほぼ無人島。そんな無人島にはとある秘密があった。
それは……。

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艦これ改発売記念で、過去に書いた短編を書き直しました。


プロローグ

果てしなく続いている、雲ひとつない青い空、コバルトブルーの海、そして一隻の大型船の船首に立っている自分。

しかも物騒なことに、いくつもの砲台を至る所に搭載しており普通とかけ離れたシルエットは最初、男を恐怖のどん底に沈めたのだが10分もしないうちに慣れてしまった。

 

海の上で身動きが取れないこともあるが、何より色んな事が起こりすぎてそれどころではなかったのだ。

 

分かる者が見れば一目で分かるそのシルエットは、紛れもなくこの国が誇る最強の超弩級戦艦長門だという事を軍事関係に詳しくはない男は知らなかったのだが、そのせいでとある女性からしつこく付きまとわれることになろうとはこの時誰が想像できただろうか。

 

ともあれ、どこに向かっているのかも分からない船に乗せられているのか、答えがない疑問に頭を痛めながら男は考えるのをやめた。

 

いくら悩んでも分からないことは分からないと、頭では理解していても理解したくなかったこの気持ちをどこにぶつけていいのかも分からず、男は終ぞ目的地に着くまで水平線を見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さかのぼる事、1日前。

中等部教師となり8年間、学び舎から巣立つ生徒達を見送ってきた男に、この年初めて辞令が下った。

だが、その辞令はとてつもなく奇妙なもので、ただ待ての一言のみ。

 

このおかしな辞令に不安と不信感を持った男は、学校側や委員会に問い合わせるも全く取り合ってくれず、遂には門前払いされてしまった。

 

何も出来ないまま悶々とした日々を過ごす男に、転機が訪れたのはそれから2週間ほど経ってからだった。

ここにはいない校長と教頭に愚痴を吐きつつ、路頭に迷ったら養って上げると言ってくれた白髪の卒業生を頼るかたよらまいか本気で悩み始めた昼下がり。

 

家の玄関から来客を知らせるチャイムが鳴った。

最近通販等の利用を控えており、実家も割と遠方なので来客の予定はないはずなのだが。と思いつつ客人を迎えると、見事な白髪をオールバックにし、首元で結っているヘアースタイルはなるほど驚くほど似合っている。

 

制帽を小脇に抱えこちらを見る目からは、力強い意思を感じ、白と金を基調とした軍正服の胸元には数え切れないほどのバッジを携えており、見るからに権威を持っている人物を前に男は思考が止まった。

 

「迎えが遅れて申し訳ない。こちらの非礼をお詫びする」

 

開口一番、初老の男は腰から九十度深く頭を下げた。

そして、音も立てずに上着から黒いものを男に手渡した。

 

「何も言わずに、そいつをはめて欲しい。大丈夫、悪いようにはしない」

 

有無を言わさぬ口調に泣きたくなる気持ちを必死で押さえながら、手渡された物を見ると、それは何処からどう見てもアイマスクがあった。

 

あ、今日が俺の命日か。

 

ただジッと見つめてアイマスクの装備を促す男に、抑えきれない恐怖を感じながら男はアイマスクを装着する。

 

「決して外すなよ。まだ生きたいのであれば、な」

 

声のトーンから感じる本気さに、男は弄ろうとした手をすぐさま戻した。

 

しばらくすると、両手を柔らかく暖かい手が自身の手を包み込んできた。それが誰の手か分からぬまま、男達一行は車での移動を繰り返した。

 

後で知ったのだが、すぐに装着しなくても良かったらしい。

 

装着するのが早すぎるわバカモノ。と笑いながら怒られたのが理不尽だと言えば理不尽だが、流石に言ってくれなきゃ分かんねえよ!!と愚痴をこぼすぐらいには、この時の彼はテンパっていた。

 

そして、誰にどうやって引率されたかを詳しく説明され、初老の男にひたすら弄られるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれほどの時間が経過したのだろうか。

 

いつの間に寝てしまったのか、気付いたら男は横になって寝てしまっていた。

 

移動中、トイレに連れて行って貰うこと数回、食事をさせて貰うこと2回。少なくとも10時間はそのままの姿勢を維持していたため、バキバキに固まった体をほぐす為屈伸運動を行う。

 

そして気付いた。自分が付けていたアイマスクが外れていることに。これは老人の心遣いだろうか。それとも、もう必要なくなったのか男には判断ができなかった。

 

窓ひとつない部屋にいるみたいで、周りは薄暗くほのかに明るいランプが机の上に置かれているだけだった。そしてその机の隣には初老の男が一人、ゆったりと背もたれに体重を預けるように腰掛けている。

 

「手荒な真似をしてしまってすまなかったね。ただ、こうするしか他はなかったんだ」

 

手に持ったアイマスクを弄びながら初老の男は申し訳なさそうに男に謝った、が口調は軽く本当に謝っているようには聞こえなかった。

 

「さて、君が何故こんなおかしな所に軟禁の様な形でいるのか、君が理解するまで説明させてもらうよ」

 

曰く、ここはとある海軍施設の一室だという事。

曰く、これから日本政府が一般市民にひた隠している要人達に教育して欲しいという事。

曰く、極秘任務の為、外界への連絡通行は一切禁止させてもらうという事。

曰く、この話を聞かされた時点で、男には拒否権はないという事。

 

当たり前のように言っているが、これは拉致というやつではないのか。誰が、どの権限があってこういう事をしたのか話を聞いていくうちに訳が分からなくなってきた。

 

だってそうだろう、政府要人の教育係に一介の中等部教師を当てがうなんて、普通の一般常識ではありえないしあまりにも破天荒で現実的な話ではないのだから。

 

突拍子もない内容に、男は大声で笑いたくなってきた。

 

全てが嘘すぎて聞くに堪えない。

そう判断し、契約内容にも納得ができなかった男は部屋を出て行こうとしたが、体が思うように動かすことができない。

 

目の前に座っている初老の男の雰囲気が、男の行動全てを許すことを許さなかった。これが蛇に睨まれた蛙の気持ちなんだろうか。冷や汗と脂汗を同時に流す事に成功した男は結局、血涙を流す勢いで契約書に署名するしかなかった。

 

契約が済むと、初老の男に促されるまま男は外に出た。時刻は夕方のようで、辺りはすでに薄暗くなってきている。海に近いのか、少し吹きぶさむ風には潮の香りが乗っており肌に纏わり付く独特の感触が少し心地悪い。

 

軽く疲れる程度には歩いただろうか。いつの間にか目の前には海が広がっており、ポツンと浮かんでいる小型の手漕ぎボート。周りには誰もおらず、嫌な予感がふつふつと湧いてきた男に、ニッコリといい笑顔で初老の男は微笑んだ。

 

見事、男の予感は的中し手漕ぎボートで汗だくになりながら言われるままに進むと一隻の軍艦が姿を現していた。そして、訳の分からぬまま軍艦に乗せられ男は途方にくれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、あの後一睡もできずに船の上で日の出を見る羽目になり、眠気が襲いかかってきた頃。男はようやく島を視認することができた。

 

港に着くと不可解な違和感を覚えたのだが、それがなんだか分からずスッキリとしない。初老の男に先導されてとある施設に着いた瞬間、やっとのことでその疑問が氷解した。

 

どこを見渡しても、人間の住んでいる家屋が見当たらないのだ。

 

「こっちだ。はよ着いてこい」

 

何故だろうと考える暇もなく、促された男は一旦思考を放棄した。考えることは後でも出来る。そう思ってた男だったが、その考えは甘かった。

 

先ほどまでの眠気は、もうすでにどこかへと吹き飛んでいる。しかし、誰だってそうだろう。目の前には服装は異なるものの、見た目麗しい美女美少女が12人横一列に並んでいたのならば。

 

男も教師だったので、それなりに美人美少女と呼ばれる女性は見てきているものの、こんな大人数を一度で一斉に見たことはない。

 

初老の男は、苦笑しながらあたふたしている男の様子を眺めた。自身もその経験があったのだろうか、男を見つめる瞳の色が妙に優しい。

 

ひとしきり男の慌て具合を楽しんだ所で、初老の男はコホンッ、と咳を一つ吐くと真面目な顔を作った。男は職業柄の癖で、無意識に気を引き締めた。

 

「訳も分からずここまで来て貰って恐縮だが、以前も言った通りこれから君にはここで彼女達の教師として働いて貰うよ」

 

そういうと初老の男は、男の視界から外れるように移動し女性達に自己紹介するように促した。

 

「加賀です。よろしく」

 

まず始めに名乗り出たのは、切れ目の女性だ。袴を着ていると思うのだが、裾が膝上までしかないので視線が吸い込まれてしまうのは悲しい男の性だろうか。上着を押し上げている豊満な胸も自然と目が行ってしまうし、色々な意味で危険な女性だ。

 

職業上、そういった視線には女性はすごく機敏である事をよく知っている。失礼のないよう気をつけることにしよう。と心に刻んだ。

 

「鳳翔です。寮の管理担当になりますので、よろしくお願い致しますね。先生」

 

次は、微笑みを絶やさない優しい雰囲気の女性だった。気が緩んだら、絶対に母さんと言ってしまうほどの母性が全身から溢れ出ている。寮母ということは食事を用意してくれるのだろうか。今から楽しみではある。

 

「榛名、着任しました。あなたが先生なのね?よろしくお願い致します。」

 

「先生、大淀になります。この学校の運営補佐はどうぞお任せください」

 

艶やかな黒髪を腰まで携えている2人は、タイプは違えど大和撫子を体現した女性達と想像する。健気さを感じさせる容姿や雰囲気はさぞや男が放っておかないだろう。

 

「はじめまして、筑摩と申します」

 

緑を基調とした、百貨店などで見る服装に似ている着こなしをしているこの女性は、何かこう男を手玉に取りそれでいて男を立たせてくれる。そんな雰囲気を醸している女性だ。こんな女性の手の内で転がされたい男性は数知れないだろう。

 

「由良です。どうぞ、よろしくお願いいたしますっ!」

 

膝までありそうなくらい長い髪を特徴的な結び方で束ねている高校生くらいの子だろうか。活発な印象を受けるこの子はきっとムードメーカー的存在じゃないかと思う。

 

「はじめまして、吹雪です。よろしくお願いいたします!」

 

「白雪です。よろしくお願いします」

 

「初雪……です……よろしく。」

 

「深雪だよ。よろしくな!」

 

「叢雲よ。あんたが先生ね。ま、せいぜい頑張りなさい!」

 

「あ、あの…磯波と申します。よろしくお願いいたします。」

 

叢雲といった子以外は全員同じセーラー服と同じような髪型の子たちで、中学に上がったばかりだろうか。緊張と不安が隠しきれておらず、それが初々しさと毎年の入学式の様な懐かしさを男に感じさせた。

 

全員が全員独特の魅力を持っていて、本当にこの女性達の教師になると思うと夢の中にいるようだった。

 

「まぁ、色々とあるかもしれんがよろしく頼むよ」

 

そういいつつ、目の前にある施設に入っていく女性達と初老の男を尻目に、一人になった男はこれからの前途多難な教師生活に不安しか感じなかった。

 

「あ、そうそう」

 

気づくと隣に立っていた初老の男は、ニヤニヤと笑いながら耳元で呟いた。

 

ーーちなみに加賀君が君のお世話を買って出ていたよ。

 

なぜか急に死にたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

光すら届かない深海の奥底。

 

生物が生きていくのには過酷すぎる、仄暗い水の底で、なにやら話し声が聞こえてくる。

光が届かないせいで1m先すら視認することが不可能なこの環境下でも、互いを認識できているようだった。

 

声のトーンからして、全員女性なのは間違いない。ただ、発音がどうも普通のそれとは違っていた。

 

 

「アノ先生ガ例ノ学園ニ着任シタッテヨ」

 

「ヲッ」

 

「彼ハ私達ニコソ相応シイ方デスノニ…。早ク迎エニ行ッテイレバヨカッタデスワ」

 

「ナァニ、マダ時間ハアルサ。最終的ニ俺達ノ学園ニ着任スレバナニモ問題ナイサ」

 

「デスデス。アノ先生一番スキ!」

 

「デハ、イカニシテ先生ヲ迎エルカ早速決メマショウ。アルニシテモ時間ハ有限デス」

 

「深海学園生徒会ヲ開始スル」

 

暗い闇の中でボゥと6つの揺らめく光が一斉に灯った。その周りだけ異様なほど白いシルエットを浮かび上がらせて……。

 

 

 



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