異世界喰種   作:白い鴉

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二巻エピローグです。


第十四話 終幕

 金木によって斬り飛ばされたワルドの左腕はくるくると宙を舞い、ぼとりと音と共に床に落下した。一方で左腕を斬り飛ばされたワルドはと言うと、床にうずくまったまま出血している左肩の辺りを右手で押さえている。

「くそ……この『閃光』が、よもや後れを取るとは……」

 よろよろと立ち上がりながら、ワルドが金木を忌々しそうに睨み付ける。金木は反撃に備えて剣を構えようとしたが、何故か急に体から力が抜けるような感覚がして足元がふらつく。

「何……これ……」

「ああ、相棒。無茶をすればそれだけガンダールヴとして動ける時間は減るぜ。何せ、お前さんは主人の呪文詠唱を守るためだけに生み出された使い魔だからな」

 金木に襲い掛かってきた現象を、デルフが説明する。先ほど金木は決着をつけるために、喰種の力だけではなくガンダールヴのルーンの力も併せて使用していた。恐らくその反動のせいという事だろう。

 ワルドは残った右腕で杖を振るって宙に浮かぶと、金木を見下ろしながら言う。

「まあ、目的の一つが果たせただけで良しとしよう。どのみちここには、すぐに我がレコン・キスタの大群が押し寄せる。ほら! 馬の蹄と竜の羽の音が聞こえるだろう!」

 ワルドの言う通り、外から大砲の音や火の魔法が爆発する音が、遠く聞こえてきた。戦う貴族や兵士の怒号や断末魔の声がそれらの轟音に入り混じる。

「愚かな主人ともども灰になるが良い! ガンダールヴ!」

 捨て台詞を残して、ワルドは壁に開いた穴から飛び去った。残された金木はその穴を少しの間睨み付けていたが、やがて視線を外すとふらついた足取りでルイズに駆け寄る。

「ルイズちゃん!」

 金木はルイズを抱え起こしてから、彼女の右手の手首に人差し指と中指と薬指を揃えて当てる。すると金木の指にルイズの脈拍が伝わってきて、金木はほっと安堵の息をついた。

 ルイズはボロボロだった。マントはところどころが破れ、膝と頬を擦りむいている。服の下は、打ち身だらけに違いない。

 ルイズは胸の辺りで、手を固く握っている。その下の胸ポケットのボタンが外れて、中からアンリエッタの手紙が顔を覗かせていた。どうやら、ルイズは意識を失ってもこの手紙だけは守るつもりでいたようだ。

 本当に、生きていてくれて良かったと思う。だが、何故かそう思った金木の表情は曇っていた。金木は視線をルイズから、すでに事切れているウェールズに移す。それから手を固く握ると、心の底から辛そうな声を出した。

「……まただ。また僕は、助けられなかった」

 ルイズを助ける事は出来たのかもしれない。ワルドからアンリエッタの手紙を守る事は出来たのかもしれない。

 だが、死ぬ事を覚悟していたとはいえ、大切な人がいるウェールズを助ける事ができなかった。

 結局は、自分は何も変わっていない。例えどれだけ力をつけたとしても、誰かの大切な人を護る事すらできない。金木は奥歯を強く噛み締めて俯いていると、デルフが金木に言葉をかけた。

「なぁ相棒。そんなに強く悔しがる事はないんじゃねえのか? 相棒は、娘っ子の命を助けたじゃねえか」

「……だけど僕は、ウェールズさんの命を助ける事ができなかった。もう少し僕がここに駆けつける事ができたら……」

 そんな事を言う金木に、デルフはため息をついた。

「はぁ……。ったく、相棒。俺はただの剣だが、お前さんよりも長く生きてる。だからこれぐらいは言わせてもらうぜ。背負い込み過ぎだ」

「え?」

「ウェールズが死んだのはワルドのせいだろうが。それに例え相棒が間に合ったとしても、その後ウェールズは戦場に向かって死んでるだろうよ。大体、相棒も昨日それを承知していただろうが。それでウェールズが戦場で死んだら、それも自分のせいだって背負い込むつもりか?」

「………」

 黙り込む金木に、デルフが諭すように言う。

「なぁ相棒。失ったものばかりに目を向けんなよ。今娘っ子はちゃんと生きてお前さんの目の前にいる。お前が、娘っ子の命を救ったんだ。それは間違いなく、誇りに思って良い事だ」

 それを聞いても金木は黙ったままだったが、不意にルイズの手をゆっくりと掴む。彼女の白く小さな手は、とても暖かい。自分がその手の温もりを守ったのだと金木が気づいた時、目の奥が熱くなった。たった一つ、たった一つだけかもしれないが、自分は護りたいものを護る事ができたのだ。

 金木がルイズの手を握ってそう思った直後、デルフが困った声を上げる。

「しかし、相棒……。これからどうする? イーグル号はとっくに出港しちまったし……。それにほら、外のわめきが聞こえるだろう? 皇太子のいねえ王軍は、あっという間に負けちまったみてえだぜ? すぐに敵はここまでやってくるだろうよ」

 デルフの言う通り、確かにそのようだった。怒号、爆発音はすでに城の内部にまで迫っていた。ここに敵が押し寄せるのも時間の問題だろう。

 金木はルイズをそっと椅子の上に寝かせると、あるものに視線を向ける。

 それは、ワルドから切り離された彼の左腕だった。

 金木は左腕の前まで来るとその手を持ち上げ、さらにマスクのジッパーを開けて、呟く。

「……いただきます」

 そして。

 ガブリ、という音と共に金木の口が勢いよくワルドの左腕に食らいついた。

 それから肉を咀嚼する音、骨をかみ砕く音が礼拝堂内に鳴り響き、金木の口からこぼれた血が地面に滴り落ちる。やがて金木がワルドの左腕を完全に胃袋に収めてジッパーを閉じると、その様子を見ていたデルフが言う。

「初めて見たが……本当に人を食うんだな……」

「まあね。怖い?」

「前にも言っただろ? お前が何者だろうが、俺には関係ねえ。重要なのは、お前が使い手だって事だけだ。で、腹はふくれたかい?」

 デルフの問いに、金木は軽く拳を握ってから頷いた。

「うん。満腹とは言えないけど、それでもさっきよりはだいぶマシになったよ。これなら、大丈夫そうだ」

 唯一の不安としては、前に生きた人間の肉を食らった時のように、自我を失ってそばで倒れているルイズまで食べてしまうのではないかという点があったが、どうやらその心配も杞憂に終わったようである。

 金木はデルフを強く握りしめると、まるでルイズを護るかのように彼女の前に立ち塞がった。

「一応聞くが……何をする気だ?」

「ルイズちゃんを護る」

 金木の言葉を聞いて、デルフはぴくぴくと震えた。

「ま、それよりほかにする事はあるめえな。相棒はガンダールヴで、この貴族の娘っ子は相棒の主人だしなあ。ま、短い付き合いだったが、楽しかったぜ。相棒」

「何言ってるの?」

「あん?」

「悪いけど、死ぬわけにはいかないんだよ。ルイズちゃんを護れなくなるからね」

「分は悪すぎると思うぜ。敵は五万だぞ?」

「だから?」

 金木はそれがどうしたと言わんばかりの表情を浮かべながらデルフに言った。例え相手が五万だろうが、十万だろうが、簡単に勝てそうな気がした。すると金木の言葉を聞いたデルフの震えが、ますますひどくなった。

「気に入ったぜ!そうこなくっちゃいけねえ。そうだな、たかが五万だ。散歩に出かけるみてえなもんだ!」

 そうして、金木はデルフを構えて礼拝堂の入り口を睨む。

 いずれ現れる、敵を待ち構えて。

 だが、その時だった。

 ぼこっと、ルイズが横たわった隣の地面が突然盛り上がった。

「……敵?」

 金木が地面を睨み付け、剣を構えたその時、ぼこっという音と共に床石が割れて茶色の生き物が顔を出した。

 予想外の事態に、金木はここが戦場である事を一瞬忘れて呆然とした表情を浮かべる。一方、茶色の生き物は椅子の上に横たわったルイズを見つけると、モグモグと嬉しそうにその体をまさぐった。

「君は……確かギーシュ君の使い魔のヴェルダンデだよね? って事は……」

 そこまで金木が言いかけた所で、ヴェルダンデが出てきた穴からひょこっとギーシュが顔を出した。

「こら! ヴェルダンデ! どこまでお前は穴を掘る気なんだね! 良いけど! って……」

 土にまみれたギーシュは、何故か自分に背中を向けている金木と、横たわっているルイズに気づいてとぼけた声で言った。

「おや! 君達! ここにいたのかね! しかしカネキ、何故か君は僕に背を向けているんだい?」

「な、何でもないよ」

 そう答えながら、金木が振り向く。その顔には先ほどまであったマスクはなく、代わりに金木がいつもつけている医療用の白の眼帯が左目に着けられていた。

「そ、それよりどうしてギーシュ君がここにいるの?」

「いやなに。土くれのフーケとの一戦に勝利した僕達は、寝る間も惜しんで君達の後を追いかけたのだ。何せこの任務には、姫殿下の名誉がかかっているからね」

「でもここは雲の上だよ? どうやって……」

 すると、ギーシュの傍らにキュルケが顔を出した。

「タバサのシルフィードよ」

「キュルケちゃん!」

「アルビオンについたは良いが、何せ勝手が分からぬ異国だからね。でも、このヴェルダンデがいきなり穴を掘り始めた。そしたら……」

 そこでギーシュの言葉を引き継ぐように、キュルケのすぐ隣にタバサも顔を出した。

「ここに出て、あなた達を見つける事ができた」

「タバサちゃんも……」

 どうやら三人とも、特に目立った怪我も無くここに辿り着いたらしい。その事に安堵して、金木は軽く息をつく。

 ヴェルダンデはフガフガとルイズの指に光る水のルビーに鼻を押し付けている。ギーシュはそれを見て、うんうんと頷いた。

「なるほど。水のルビーの匂いを追いかけて、ここまで穴を掘ったのか。僕の可愛いヴェルダンデはなにせ、とびっきりの宝石が大好きだからね。ラ・ロシェールまで、穴を掘ってやってきたんだよ、彼は」

「そうか……。ありがとね」

 まさかモグラに救われるとは思わなかったが、この使い魔のおかげでギーシュ達がここにやってこられたのは紛れもない事実だ。金木がヴェルダンデの頭を撫でると、巨大なモグラは嬉しそうな鳴き声を上げた。

「ねえ聞いて? あたし、もうちょっとであのフーケを捕まえるとこだったんだけど、逃げられちゃった。あの女ってば、メイジのくせに終いにゃ走って逃げたわ。ところでダーリン、ここで何をしているの?」

 キュルケが顔についた土をハンカチで拭い、さらにタバサの顔についている土も拭ってやりながら言った。

 そこでようやく現在の状況を思い出し、焦った声で一同に言う。

「早くここから離れよう! 敵がすぐそこにいるんだ! タバサちゃん、シルフィードはすぐに飛べるよね?」 

 金木の問いに、タバサはこくりと頷くと、穴の中に潜って行った。相変わらず状況判断が素早い少女である。一方で、ギーシュとキュルケはきょとんとした表情で、

「離れるって、任務は? ワルド子爵は?」

「手紙は手に入れたし、彼は裏切者だった! そんな事より早く離れるよ!」

「なぁんだ。よく分かんないけど、もう終わっちゃったの」

 キュルケがつまらなそうに言うが、正直は今はそんな事を言っている場合ではない。

 ルイズを抱えて穴に潜ろうとした時、金木はある事に気づいてルイズをギーシュに預けると礼拝堂に戻り、倒れているウェールズに近づく。こうして見ていると、安らかに眠っているようにしか見えない。

「おーい! 何をしてるんだね! 早くしたまえ!」

 ギーシュがそんな金木を呼んだ。

 金木はウェールズの体を探った。せめてアンリエッタに渡す、何か形見の品は無いかと探し回った。そして彼が指に嵌めた、大粒のルビーに気づく。

 それはアルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。

 金木は王子の指から指輪を外すと、ポケットに入れる。

「ウェールズさん……あなたの事は忘れません。せめて、安らかに眠ってください」

 金木は一礼してから、穴に急いで駆け戻る。

 穴にもぐった瞬間、礼拝堂に王軍を打ち破った貴族派の兵士やメイジが飛び込んできた。

 

 

 ヴェルダンデが掘った穴は、アルビオン大陸の真下に通じていた。

 金木達が穴から出ると、すでにそこは雲の中である。落下する四人とモグラを、シルフィードが受け止めた。

 ヴェルダンデはシルフィードの口にくわえられたので、抗議の鳴き声を上げた。

「我慢しておくれ、可愛いヴェルダンデ。トリステインに降りるまでの辛抱だからね」

 シルフィードは緩やかに降下して雲を抜けると、魔法学院を目指して力強く羽ばたいた。

 金木はルイズをゆっくりと風竜の背中に横たわらせてから、アルビオン大陸を見上げる。

 雲と空の青の中、アルビオン大陸が遠ざかる。短い滞在だったが、様々なものを金木に残した白の国が遠ざかる。どっと疲れが襲い掛かってきて、金木はシルフィードの背びれに体を預けた。

 

 

 

 

 

 その時ルイズは、ぼんやりと夢の中をさまよっていた。

 故郷のラ・ヴァリエールの領地の夢である。

 忘れ去れた中庭の地。そこに浮かぶ小舟の上で、ルイズは寝ころんでいた。辛い事があるとルイズはいつもここで隠れて寝ていたのであった。自分の世界。誰にも邪魔されない、秘密の場所。

 ちくり、とルイズの心が痛む。

 もう、ワルドはここへはやってこない。優しい子爵。憧れの貴族。幼い頃、父同士が交わした結婚の約束……。

 幼いルイズをそっと抱え上げ、この秘密の場所から連れ出してくれたワルドはもういない。いるのは、薄汚い裏切者。勇気溢れる皇太子を殺害し、この自分をも手にかけようとした残忍な殺人者……。

 ルイズは小船の上で泣いた。

 そうしていると、急に自分の周りの空気が変わったような、気がした。

「……何?」

 ルイズが顔を上げると、辺りの風景が一変していた。

 自分の知らない素材で作られた建築物。訪れた事も無い場所。唯一夕日だけが、自分の知っているものと瓜二つの姿で自分を照らしている。

「……ここは……前に夢で見た……」

 ルイズは一瞬、金木が女性に襲われる夢に出てきた場所かと思ったが、すぐに心の中で否定する。確かに雰囲気はあの時の場所と似ているが、場所が明らかに違う。

 ルイズがその場所をゆっくりと見渡してみると、ひょうたん型のくぼみに砂が満ちた場所に、一人の黒髪の少年が座っているのが目に入った。少年は砂で何かをせっせと作っている。ルイズは少年にゆっくりと近づくと、声をかけた。

「何をしているの?」

 そこで少年が振り返り、その顔を見たルイズは思わずあっと声を上げかけた。その顔は、自分の使い魔である金木だったのだ。年齢に合わせて顔立ちも幼くなっているが、その容姿は間違いなく彼のものである。

 しかし、金木はきょとんとした表情を浮かべて、何も言わない。それを見て、ルイズはある事に気づいた。

(ああ、わたしとまだ会っていないから、わたしの事が分からないのね……)

 何故自分がこの場所にいるのかは分からないが、目の前の金木の様子を見ている限り、この少年は自分と出会うよりも遥か昔の金木研である。だから自分の事が分からなくても、それはそれで仕方ないと言えるだろう。

 ルイズが金木の横に座り込むと、金木がルイズに言った。

「おねえちゃん、どうしたの? すごく、悲しそうな顔をしてるけど……」

 どうやら、ワルドに裏切られたという悲しみが自分の表情に出ていたらしい。ルイズは笑みを浮かべると、力のこもっていない声で言う。

「わたし、独りぼっちになっちゃったの」

 まさに独りぼっちだ、とルイズは思う。

 使い魔の金木は自分の勝手なプライドで使い魔の契約を解除し、ワルドには裏切られた。今の自分にはもう何もない。そう考えると目に涙が溜まってきて、ルイズは泣き顔をこの少年に見られないように膝を抱えて俯いた。

 すると直後、幼い金木の声がルイズの鼓膜を震わせた。

「おねえちゃんは一人じゃないよ」

 え? とルイズは顔を上げると、金木が笑みを浮かべながらルイズの顔をじっと見つめていた。少年は無言のまま、自分達の真正面に人差し指を向ける。ルイズが視線を向けると、そこには空中に浮かぶ光のようなものがあった。

「おねえちゃんを待ってる人がいるよ。だから、いつまでもここにいないで行かなきゃ」

「わたしを……待ってる人?」

「うん。だから……早く行ってあげて。その人が、心配して待ってるよ、()()()()()()

(あ……)

 ルイズは目を見開いた。

 さっきまで少年だったはずの金木が、いつの間にか自分のよく知っている青年の姿に変わっていたからだ。

 しかし、それに驚く暇も無く、ルイズの目の前の光が大きくなっていく。

 やがてルイズはその光に呑み込まれ、意識を失った。

 

 

 

 

「ん……」

 ルイズが目を覚ますと、そこはシルフィードの背中の上だった。ルイズが体を起こすと、それに気づいた金木が声をかけた。

「あ、ルイズちゃん目が覚めたんだね。良かった……」

 安心したかのように、金木が安堵の息をつく。そしてギーシュ達もルイズが目を覚ましたことに気づいたのか、それぞれルイズに言う。

「おや、目が覚めたかい。良かった良かった」

「あら、おはようルイズ。よく眠れた?」

「………」

 唯一無言なのは、分かると思うがタバサである。彼女は起きたルイズをちらりと横目で見た後、手元の本に視線を戻した。自分を見る一同を見渡してから、ルイズは今の状況を理解する。

 自分は、助かったのだ。

 あの裏切り者の、ワルドに殺されそうになった時、金木が飛び込んできてくれた。それから自分はしばらく意識を失っていたが……、ここに彼がいるところを見ると、金木は勝ったのだろう。

 自分達は助かったが、きっと王軍は負けたのだろう。

 ウェールズも死んでしまったのだろう。

 助かった喜びと、悲しみが入り交じり、ルイズは泣きそうになった。

 だがそれをこらえるかのように、ルイズは目をつむってから金木に向き直る。

 こんな事を全員の前で言うのは恥ずかしいという気持ちがあったが、今はそんな自分の感情よりも大切な事を言わなければならない。一度深呼吸してから、ルイズは金木に言った。

「……カネキ」

「ん? 何?」

「あの時、勝手にあんたを放り出すような事言ってごめんなさい……」

「放り出すなんて……」

「放り出したのよ……。強いあんたが眩しくて、何でもこなしちゃうあんたがうらやましくて……。あんたと一緒にいたら、どうにかなりそうだったから、わたしはあんたから離れようとしたの。酷い女よね、あんたを勝手に召喚したくせに、その面倒を最後まで見ないで使い魔との契約を解除しようとしたんだから」

「………」

 ルイズの告白に、金木は何も言わない。ルイズも感情が次から次へ溢れ出てきて、言葉が止めどなく出て来る。

「そんな女なのに……。見放されても仕方ないのに……。なのにあんたは、来てくれた。酷い女のわたしを、婚約者に裏切られたわたしを、助けに来てくれた。嬉しかった。……そして、だからこそ、あんたに伝えなきゃならないの」

「伝えたい事?」

 金木が静かに聞くと、ルイズは頭を下げて言った。

「こんなわたしだけど……またわたしの使い魔になって欲しいの。身勝手だって分かってる。こんな事を言う資格、わたしには無いんだって分かってる! だけど、そばにいてほしい……。もう、一人は嫌だ……!」

 言葉と同時に、ルイズの目から涙が溢れる。

 金木はしばらくルイズの髪の毛をじっと見つめていたが……、やがて柔らかい笑みを浮かべると、彼女の頭をそっと撫でた。

「一人になんかしないよ。……そうだよね、独りぼっちは辛いよね」

 彼女の頭を撫でながら、金木は前にもこんな事があったのを思い出す。

 自分が喰種である事を受け入れ、自分のやりたい事をやるために、あんていくには戻らないと決断したあの時。

 金木は自分と共に行動すると言いかけた董香に、自分がこれから踏み込む世界に巻き込まないためにあえて別れを告げた。

 あの時自分はそれが一番良い方法だと思ったが……きっとそれは、正解ではなかった。

 一人にしないでと言っていた彼女に向ける言葉は、それでは駄目だったのだ。董香と同じような表情を浮かべている今のルイズを見て、金木はそう思う。

 だから金木は、あの時董香に言うべきだった言葉を、一人は嫌だと語る目の前の小さな少女に向けて、言った。

「僕はどこにも行かない。君のそばにいるよ。前にも言ったけど、僕は君の使い魔だからね」

 金木の言葉を聞いたルイズはしゃくり上げながら、瞳に溜まる涙を拭う。そして笑顔を浮かべると、金木に告げた。

「……ありがとう、カネキ」

 その言葉に金木はにっこりと笑みを浮かべ、キュルケとギーシュは顔を見合わせて笑うと、二人から視線を外して真正面を向いた。タバサは相変わらず本を読んでいる。

 そんな一同を癒すかのように。

 心地よい風が、全員の体に吹き渡った。

 

 

 

 

 

 

 そして。

 金木の背中のデルフは、先ほどのワルドとの戦闘を思い出してある事を考えていた。

(……相棒の奴、とんでもねえな。普通ルーンの力をあれだけ使えば、並の人間ならしばらくは満足に動けねえってのに、少しふらつく程度に収まってやがった……。喰種って奴が特別なのか、相棒が特別なのか……)

 それともその両方なのか。今のデルフには分からない。

 さらに、分からない事がもう一つある。

(だけど何よりも不可解なのは……娘っ子を護るって言った時の相棒の心の震えはかなりのものだったが、それでもまだ全力じゃなかった。相棒のあの言葉が嘘だとは思えねえし、考えられるとしたら………)

 金木にとっての本当の願いは、別にある。

 信じられない事だが、それしか考えられない。

(だが、誰かを護るって事以上に叶えたい願いってのは、一体何なんだ? 相棒……お前さんは本当は何が願いなんだ?)

 デルフは心の中で金木に問うが、当然その答えが返ってくる事はない。

 五人と一本を乗せた風竜は、疾風のような速度を保ったままトリステインへと向かうのだった。




しばらくは別作品の執筆や、新しい作品の構想などを考えたいので、更新がさらに遅くなるかもです。ゼロの使い魔の設定の再確認などもしたいので……。楽しみにしている方は、申し訳ありません……。
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