いよいよ修学旅行の回です。
零:Side
「零君!」
中間テストから数日後の昼休み、職員室から教室に戻ったところで渚が声をかけてきた。
「なに?渚」
「修学旅行の班、決まってる?」
……え?
「……あー修学旅行って5月だっけ」
「うん。って知らなかった?」
「……存在自体綺麗さっぱり忘れてた」
いやだって、なんとなく修学旅行って中2の秋っていうイメージがあったから、実体験することないって思ってたし。……情報収集不足だったな。
「じゃあさ、僕と一緒の班にならない?」
「え、いいの?」
「うん!他には今のところ、杉野と茅野がいるけど」
よし、ここに入ろう。渚とはよく話すし、それとともに杉野や茅野さんも一緒になることが多いから、見慣れたメンバーだ。
「じゃあさ、カルマも誘っていい?」
「あ、そうだね」
こうなったらと、最もよく話すクラスメイトの一人、カルマを誘う。
聞いたら即OKだった。ただちょっと杉野が不安がっている。……まあ、カルマって素行不良だしね……。
「旅先でケンカ売ったりしないよな?」
杉野がカルマに疑いの目線を向ける。いやまあ、その疑問はわかるけど修学旅行ならさすがに……。
それに対してカルマは、へーきへーきと笑顔で言いながら、
「目撃者は口封じするから表沙汰にはならないよ」
と言った。ご丁寧に実績の写真と共に。それ、ケンカする気満々だよね……。
杉野もやっぱ誘うのやめようぜ、と小声で言ってきた。いや一応、僕にとっては渚と同様一番話しやすい相手ではあるんだよね……。
「で、後のメンバーは?」
「あ、奥田さん誘った!!」
茅野が奥田さんを引き連れてきた。そして杉野が前もって神崎さんを誘っていたらしく、あっという間に班のメンバーが揃った。
その時、ガララッと音を立てて教室の扉があいた。
「いやー3年生が始まってすぐのこの時期に、総決算の修学旅行とは片腹痛い。先生、あまり気が乗りません」
と言いながら教室に入ってきたのは殺せんせー。だけど、その姿は何故か舞妓さん。
「「「「「「ノリノリじゃねーか!!」」」」」」
説得力は皆無だった。しかも妙に似合っているところが何とも言えない。
「バレましたか。実は先生、皆さんとの修学旅行がとても楽しみで仕方がないのです」
テストの次は修学旅行。中学3年生っていうのは、短期間のうちにどんどん行事がやってくるなぁ……。
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「知っての通り、来週から京都2拍3日の修学旅行がある。本来なら君等の楽しみを極力邪魔をしたくないが、これも任務だ」
殺せんせーのいない体育の時間。授業の終わりごろを見計らって烏間先生がみんなを集め、そう切り出した。
任務ってことは、修学旅行中のあちらでも暗殺をするということで。
「京都の街は学校内とは段違いに広く複雑だ。しかも、君達は回るコースを班毎に決め、奴はそれに付き添う予定になっている。国は既に狙撃のプロを手配したそうだ。君達には暗殺の……狙撃向けのコース選びを頼む」
はーい!とみんなで返事をする。
狙撃のプロと言われ、パッと一人の殺し屋の名前が頭に思い浮かんだ。恐らく遠距離狙撃だろうし、ビッチ先生がこの教室にいることから繋がりで彼の可能性が高い。
たしか、コードネームは『レッドアイ』だったか。師匠つながりで顔を合わせたことがあったけど……砂嵐の中2㎞先の標的を打ち抜いたという実力だ。腕は確かだろうけど……。
まあ、それをサポートする役割が今回の僕らなわけだ。
どこがいいかな~と各班毎に集まって相談し始める。そんな中、窓側でクラスを眺めていたビッチ先生が、世界中を飛び回った私に修学旅行なんて今更だ、と笑っていた。が、
「じゃあ、ビッチ先生は留守番な~」
「花壇の花に水あげといて~」
と、前原と矢田さんが言ってそのまま修学旅行で回るルート決めを続ける。
さて、それに対してビッチ先生は。
「私抜きで楽しそうな話してんじゃないわよ!!」
「行きたいのか行きたくないのかはっきりさせろよ!!」
結局行きたいんじゃん。銃を向けてきながら叫ぶビッチ先生に呆れのこもった目線を送った。っていうか、実弾銃を生徒に向けるなよ危ない。どうせ一緒に行きたいんだろうに。
とりあえず、危ない実弾銃はその手からひょいっと回収。返せー!と追いかけてくるが、それをうまくかわして
「えいっ」
教室の入口に向かって投げる。
丁度その時、さっきから何処かに行っていた殺せんせーが教室に入ってきた。そして投げ飛ばした銃がいいタイミングでその顔面に向かい直撃……
……しなかった。なんかバリボリ食ってた。え、食えるの?
その様子を見て唖然とするビッチ先生や僕たち。そんな中で殺せんせーはドカドカと一人一人に辞書みたいな分厚い本を渡してくる。
「一人一冊です」
「……この重いのは一体何?」
さっきの出来事から目の前の本へと意識が向く。先生に手渡されたそれは赤い装丁で、表紙に書かれた文字は……
「修学旅行のしおりです」
「辞書だろこれ!!」
クラス全員が思ったであろう言葉を前原が言ってくれた。
そう、それは広辞苑か?と思うような厚みを持つ本。少なくとも1000ページ以上はある。
え、鈍器?
「ねえ、渚。修学旅行のしおりってこういうものなの?」
「いやそんなわけないでしょ!?これは明らかに殺せんせーが異常なだけだから!!」
ここまでくるとこれが普通なのかと思ってしまい、思わず渚に聞くと即否定された。うん、だよね。
一体ここまでの分厚さになるにはどんな内容を詰め込んだんだろう。と、思ったら先生が一部紹介してくれた。
曰く、殆どの観光スポットやお土産人気トップ100、旅の護身術入門編から応用編まで、など。そこまで充実させる必要あるか?と思う。とりあえずありとあらゆる情報を詰め込んだらしい。ついでに初回特典として紙工作金閣寺が付いているだとか。
それらをどうやら昨日徹夜で作ったらしい……本当に途轍もなく楽しみなんだね殺せんせー。
……と言うか、先生は京都くらいいつでもマッハで散歩のごとく行けると思うんだけど。
「先生は皆さんと一緒に行くから楽しみなのです」
その疑問に対しての答えはこれだった。なるほどね。
僕も京都は何度か行ったことがあったけど、みんなで旅行で行くっていうのは初めてだ。というか、旅行なんて言うのはいつぶりだろう。
……先生に負けず劣らず、自分もとっても楽しみで結構テンションが上がってきていた。
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修学旅行初日の朝。
新幹線のホームに全員が集合していた。
「本校舎の連中はグリーン車でE組だけ普通車か」
「いつものやつだねー」
分かってはいたけどみんなの口からなんとなく愚痴がこぼれ出ていく。
と、それを聞きつけた本校舎の教師と二人の生徒が絡んできた。
「うちの学校はそういう校則だからな。入学時に説明したろう?」
「学費の用途は成績優秀者に優先されま~す」
「おやおや、君たちからは貧乏の香りがしてくるねぇ~」
とかなんとかニヤニヤしながら聞いてもいないことを教えてくる。
……成績優秀者に優先とか言ってるけど、それは僕やカルマ、渚なら余裕でその範囲内に入ってない?少なくともこいつらは50位以内の成績には見えないんだけど。
っていうかそもそもこいつら、前に集会の時に僕と渚に絡んできた二人組っぽいんだけど。え、まだ懲りてないの?
そんなことを考えながらジトッと見てたら、こっちの視線に気づいた奴らが震え上がった。瞬時にグリーン車内に引っ込むのを見て、思わずため息をつく。
そんな中で、
「ごきげんよう。私の生徒達」
そう言って僕らの前にやってきたのはビッチ先生だった。その恰好はいつもの服ではなく、明らかに高級ブランド物のかなり派手な服装だった。
「ビッチ先生。何その格好」
「ふ、女を駆使する暗殺者として旅ファッションに気を遣うのは当然の心得よ」
……とか言ってるけど、今は一応中学校の教師として来てるはずなんだけど。普通、引率の教師がそんなハリウッドセレブみたいな格好はしない……よね?
まあ、僕からそう言うまでもなく、烏間先生がすごい形相で着替えろと命令していたけど。結果、ビッチ先生は寝巻きに着替えることになった。
「……だれが引率なんだか」
「金持ちばっかり相手してきたから、市民感覚がずれてるんだろうな」
ビッチ先生がグズグズと落ちこんでいるのを見て、片岡さんと磯貝君が口々にそう言っているのが聞こえた。うん、その通りだと思う。
新幹線が走り始めると、それぞれ班ごとに集まっていろいろ暇をつぶしし始めた。うちの班はトランプやってる。ちなみに大富豪。
「ほい、革命」
「ぐあー!もうちょっとで上がるとこだったのにー!!」
「ふ、甘いよ杉野」
「うわめんどくさいなぁ……はいっと」
「は!?革命返し!?」
「はぁ!?」
「クッソふざけんな!!」
久々だからルール忘れかけてたけど、いい感じに手札がそろってたりして面白いことになっていた。
っと、そういえば。
「ねえ。今日、殺せんせー見てない気がするんだけど」
「「「あ」」」
新幹線に乗ってから十分ほどが経っていた。けれど車内を見回してもあの巨体を見つけることはできていない。
「ニュヤ~」
「うわぁ!?」
丁度その時、窓の外から殺せんせーの声が聞こえてきた。窓寄りにいた渚が悲鳴を上げる。
そこには窓に張り付いた殺せんせーが。
「え、なんでそんなとこに張り付いてんの殺せんせー?」
「いやぁー駅中スイーツを買ってたら乗り遅れまして。次の駅までこの状態で行きます」
ちょっと引率教師が乗り遅れるってどうなんだよ……。というか、
「先に次の駅に行って待ってた方が楽なんじゃ?それ目立つでしょ」
僕がそう言うと、窓から見えていた殺せんせーの顔と触手がいきなり透明になった。
「ああ、ご心配なく。保護色にしましたから、服と荷物が張り付いてるように見えるだけです」
「いや、どう考えても不自然だよねそれ!?」
前途多難。その言葉が頭に思い浮かんだ。
次の駅に到着するとすぐにマッハで乗り込んできた殺せんせー。
「目立たないように旅行するのは大変ですねぇ~」
「いや、すでに十分目立ってるから」
目立ちたくないならそもそもその下手な変装の時点でダメでしょ。それに加えて今回は随分とでかいリュックを持ってきているから余計に目立つ。
何故か自覚がなかったらしくショック受けてるけど……その勢いで先生の付け鼻が落ちた。
それを見ていた生徒全員がため息をつく。だめだこりゃ。
まあ、それを見ていた美術の得意な菅谷君が新しい付け鼻を用意したので、ほんの少しだけマシになったけど。
「なんか旅行になると、みんなの意外な一面が見れるね」
「うん、これからの出来事次第で、もっといろんな顔が見れるかもね」
茅野さんが笑いながら言った言葉に、渚が同意する。たしかに、こうやって暇な時間を過ごしていても既にいろいろ分かってきたこともあるし。
例えば。
「よし、フルハウス」
「甘いよ。ストレート・フラッシュ」
「うわぁ……全然そろってねぇんだけど。ツーペア」
「あ、僕もストレートフラッシュ。勝った」
「「「うそでしょ(だろ)!?」」」
今うちの班でやっているのはポーカー……今ストレートフラッシュを出したのはカルマと渚だ。そしてランクが高かったのは渚。
さっきポーカーに移行してからは渚とカルマの一騎打ちみたいな感じが出たりしてる。お互いに譲らない戦いで、殆どそろえられていない状態で終わってしまう杉野とかがかわいそうなことになってる。なんていうか、うんドンマイ。
と、一応一段落付いたところで。
「あ、みんなの飲み物買ってこようと思うんだけど、何飲みたい?」
神崎さんがそう言いながら立ち上がった。それについていこうと茅野さんや奥田さんも立ち上がる。
「あ、じゃあお茶で」
「僕もお茶で」
「なんでもいいよ~」
「同じく」
「うん。じゃあ、行ってくるね」
そして女子が飲み物を買いに席を離れると、また静かにバトルが始まった。とりあえず、今度は本気出してロイヤルストレートフラッシュ完成させておいた。
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さて、なんやかんやいろいろありながら京都へ到着。
そして今日から泊まる宿舎にたどり着いた。本校舎の連中は個室のが用意されている高級ホテルらしいけど、E組はおんぼろ?宿舎。昔ながらの旅館ってやつ。男女それぞれで一つずつ大部屋を使うことになっていた。
「ぐにゅうぅぅ~」
ソファーで顔を青くして既に瀕死状態になってる殺せんせー。新幹線とバスで酔ったらしい。
殺せんせーの弱点⑧・乗り物で酔う
旅行先でありながらも渚がさっそく殺せんせーの弱点メモを取り出していた。
とりあえず、そんなグロッキーになっている先生に向かってナイフを振る。けど、何故か同じ体制のまま横にスライドして避けられた。ある意味ムカつく。
磯貝たちと協力しながら連続で攻撃するが、やっぱり避けられる。
それとどうやら、先生は一度東京に帰るらしい。
理由は、「枕を忘れた」から。あんなに大量の荷物持ってきてるのに忘れものとか……。
殺せんせーの弱点⑨・枕が変わると眠れない
「神崎さん、見つかった?」
そんな中、神崎さんが日定表がない、と言って茅野さんと一緒に探していた。
「神崎さんは真面目ですからね~自分で日程をまとめていたとは。でも先生のしおりを持っていけば全て安心」
「「「「「「それ持ちたくないから纏めてるんだよ!」」」」」」
周りの全員で突っ込む。
まあ僕は一応丸ごと持ってきたけど……あのしおり。暇な時に読めば余裕で時間つぶせるし。
でも僕はこの時。何か、嫌な予感がしていた。それは絶対何か面倒ごとが起きる、という一種の確信めいたものだった。
改稿ついでに零たちの班以外にも、他の班の話を一つオリジナル混ぜて突っ込もうかな……と考え中。多分1班。