修学旅行の話4つ目。二日目の宿舎にて。
零:Side
修学旅行2日目の夜。
「うおおおおお!すげぇ!!」
「なんだかちょっと、恥ずかしいな」
僕達は宿に備え付けてあるゲームコーナーに居た。そしてそこの一角にはおしとやかに微笑みながらすばやい手つきでコンソールを動かしている神崎さん。やっているのはレトロなシューティングゲーム。
杉野がそのプレイ風景に滅茶苦茶夢中になってる。
「神崎さんがこんなにゲームが得意だなんて、ちょっと意外です」
奥田さんが画面に見とれながら茫然と言う。他の一緒にいる4班メンバーもそのプレイ風景に驚いていた。
「黙ってたの。うちの学校じゃあゲームが出来ても白い目で見られるだけだし……でも周りの目を気にしすぎてたのかも」
僕が行く前に何か話していたのか、茅野と神崎さんの間の空気が少し軽い。
「殺せんせーに言われて気づいたの。大切なのは、中身の自分が前を向いて頑張ることだって」
それはあの時、殺せんせーが不良たちに向けて言ってた言葉の事かな。不良に説教しているように見せかけて、自分の生徒の教育でもあったなんて……本当にあの先生はすごい。
ちなみにあの後宿舎に帰ってきた直後、僕は今日の件について殺せんせーからお説教食らいました。殺してはなくともやりすぎだ、と。廊下に正座して2時間ずっと
……まあ、今思い返してみればあれは確かにやらかしたなぁと反省してる。殺せんせーなら病院行かなくて済むくらいの最低限のケガで制圧したんだろうな……。
手加減とか慣れてないんだよ。一対一ならともかく、一対多数だと下手すれば僕がダメージ食らうし……大勢相手に戦うのなんて、今まで皆殺し以外に選択肢無かったからなぁ……これからはどうするか。
「……零くん?大丈夫?」
「ん、ああ、大丈夫だよ」
顔に出てたのか、渚に心配された。
ふとゲーム機から目を外して、少し離れたところを見る。そこには卓球台が並んでいて、三村や磯貝、竹林が烏間先生に勝負を挑んでいた。
当然のごとく、烏間先生が一方的に勝っていたが。大人げなく加減なしだなあれ……何か賭けてたりして。
「烏間先生、僕ともやりませんか?」
面白そうだったのでそちらへ行って勝負を申し込む。ちょっと気分転換も必要だったし。
「……いいだろう。デュースは?」
「無し。11点先取で」
……結果、一点差で負けた。デュース有りの方がよかったかな……。
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その後、部屋へ戻ろうかと渚、杉野、ついでに途中で会った岡島と廊下を歩いていた。
「しっかしここぼろいよなー。男女大部屋二つしかないなんて」
「良いじゃん賑やかで」
僕は本校舎の奴らみたいな個室よりこういうみんなで喋れる大部屋の方が好きだな。ここだってぼろいというよりは昔ながらっていう風情があっていいと思うけど。
ふと、前方に中村さんと不破さんがいるのが見えた。あれ、向かっている方向が……確か男湯がある角だったような。
「あれ、あっちって男湯だったよね?」
「何してるんだろ」
渚たちも不思議に思ったようで、様子を見に向かった。
「二人とも、ここで何してるの?」
代表して渚が二人へ聞く。案の定、二人は男湯のドアの前でコソコソとしていた。
「何って……覗きよ」
「覗きぃ!?それって俺等の
おい岡島、それは全世界の女子に聞かれたら即殺されるやつ。この二人はあまり気にしてないみたいだけど。
渚も
「あれを見てもそう言える?」
そういって中村さんは、フフフと笑いながら脱衣所を指差す。そこを見ると、壁にかけてあるのは殺せんせーのいつも着ている、アカデミックドレス。
「今なら見れるわ。殺せんせーの服の中身」
首から下は触手だけか、胴体あるのかetc……。
……そりゃあ、暗殺のために知っておいてもそんはないね。ついでにそこに置いてある服の構造見ておいてもいいかもしれない。
岡島がこんな色気のない覗きって……と嘆いていたが全員無視した。
そして中村さんを先頭に浴室の扉をカラカラカラ……と開ける。そこには、
「「「「「「女子か!?」」」」」」
泡風呂に入って、体の一部(触手)をブラシで洗っている殺せんせーが。その体勢に思わず全員で突っ込む。
見ようと思っていた体は泡に隠れて、出している触手以外見えない。ちなみに顔と触手の色がピンクになっている。……え?
というか、入浴剤って旅館だと禁止のはずだけど……。
と思ってたら本人曰く、この泡は殺せんせーの粘液で、泡立ちがよく、ミクロの汚れも落とすのだとか。ほんとに便利な体だな。何でもありすぎて、反応に困る。
「ふふ、でも甘いわ。入り口は私たちがふさいでいる。風呂出るときは必ずここを通るわよね?殺せはしなくても裸くらいは見せてもらうわ」
中村さんはそういって不敵に笑う。
それに対して殺せんせーは、
「そうはいきませんね!」
そういって立ち上がったと思ったら、お風呂のお湯を丸々身にまとっていた。お風呂の形そのまんま残しているお湯はまるで煮凝りとか、ゼリーとかのようで、先生が動くとぷるんと揺れる。
しかもそのまま窓からヌポンッと逃げていった。
……うわぁ。
「……中村、この覗き虚しいぞ」
そう言った岡島に返す言葉はない。まあ、殺せんせーの予想外な行動は今更だし。
「なんか、殺せんせーについての謎は深まるばかりだね。みんなのことはいろいろ知れたけど」
「……確かにー」
渚が苦笑いしながら言うその言葉に、作業をしながら僕も同意する。一応先生についても新しく分かったことはあったが……意味不明なことも含め。
「……で、零君は何してるの?」
「先生の服の中を捜査中」
渚の疑問に、作業を……殺せんせーのアカデミックドレスをあさりながら答える。思っていた以上にボリュームがあるなコレ。ポケットもそれなりについてるし……胸ポケットデカいな。
それにこのデカいネクタイ……三日月のマークは刺繍みたいだけど、なんか、布に大きめの穴が開いてる。マメな殺せんせーが刺繍できるのに繕わないで放っておいているのは、ちょっと謎だ。
何か、理由があるのか……?
と、考え込んだ時。横から見慣れた触手が伸びてきた。瞬時に僕の手から服やネクタイを奪い去ってまた風呂場の窓へ去っていく。
……。
「まあいっか」
「大部屋でダベろうぜ」
「そうだね。あ、僕はちょっと自販機行ってくる」
各々部屋へ戻っていくのを尻目に、僕はのどが渇いたのでジュース買いに自動販売機へと向かった。
たどり着くと、僕の好きな煮オレシリーズの一つが目に入る。レモン煮オレと書かれた缶のソレを選択して買った。
その時、横からカルマがやってきた。同じように飲み物を買いに来たらしい。
「あれ、零も煮オレ好きなの?」
カルマが僕の手にある缶を見て聞いてきた。
「……『も』ってことは、カルマも?」
しばしの間無言でカルマを見る。向こうもこちらを見る。
ガシッと。
僕達は握手を交わしていた。煮オレが好きな人なんてなかなかいない。お互いにニヤリと笑う。
なんだかまた少し仲良くなったような気がした。
カルマと二人で煮オレ片手に部屋へ戻ると、男子達は何かのアンケートをとっていた。紙を覗くと、そこに書いてあるのは「気になる女子ランキング」。
「お、カルマに零。戻ってきたか。カルマ、お前も好きな女子教えろよ」
「みんな答えてんだ、逃げるなよ」
前原や木村が聞く。ちょっとニヤニヤしながら。
そしてカルマは意外なことにあっさり答えた。
「奥田さんかな」
「お、意外」
その答えに……僕はちょっと嫌な予感がした。
「彼女なら怪しいクロロホルムとか作れそうだし」
悪戯の幅が広がるじゃん、と言うカルマは……なんか悪魔みたいだった。絶対にくっつかせたくないなと前原が言う。うん、ある種……ものすごくイイ組み合わせなのかもしれない。
「っていうか、みんなは誰に入れたの?」
ランキングを記しているその紙には、女子の名前と入れた人数であろう正の字。それと入れた理由かな?なんか一人一人の女子の特徴が書かれていた。けど票を入れた人の名前は無い。
ちなみに順位は、一位が神崎さんで4票。二位が矢田さんで3票。三位は倉橋さんと茅野さんが同率で2票、などなど。理由のとこに書かれているのは……えーと。
神崎さんはおしとやか、性格がいい、顔がダントツで良いとかで矢田さんはポニーテールに胸がデカいと……倉橋さんは癒しっていうのと……魅惑的なポーズって何?というか茅野さんのところ……元気がもらえる、っていうのはいいんだけど、いろいろ小さいっていうのは何だろう……。ちょっと謎。
「とりあえず、渚は茅野さんで、杉野は神崎さんだよね」
「うん……一応、クラスだと一番話すし……」
渚がちょっと顔を赤くしながら答えた。杉野に関しては……まあ修学旅行の班に前もって誘ってたくらいだし、男子のほとんどが分かってたって感じだった。
あと、岡島がなんか、俺は一人には決められないっ!とか叫んでたけど無視。
前原は?と杉野が聞いていたけど、ピース決めながらそれは言えねぇな、とカッコつけていた。モテる男の余裕が滲み出ている。
「零の場合は……っとそういえば既にいたっけ。彼女」
「うん。だからクラスの女子でって言われても困る」
僕は聞いてきた前原に答えながら、しばらく会っていないあの少女を思い出す。
最後に会ったのは……9歳だったかな。元気にしてるかな……。
アンケートから目を外しながら、彼女の姿を思い出す。目の端でなんか、磯貝と前原、木村の三人が顔を見合わせていた。
そして目を外したついでに、部屋の入口に殺せんせーがいるのが見えてしまった。
「……ねえ、このアンケートは当然、女子とかにはヒミツなんだよね?」
そう聞くとほぼ全員が頷く。なら、
「あそこにいる先生は、いいの?」
僕が指差すのは入り口。そこにはニヤニヤと笑っている殺せんせーが。ついでに体の色はピンクだ。
みんなが思わず呆然としていると先生はさっとメモ帳を取り出してカキカキと何事かを書き留める。珍しくマッハには見えなかった。そしてスーッと入り口を閉めた。
その時間、約5秒。
そしてこちらが硬直していたのは、プラス1秒。
「メモって逃げやがった!」
「「「「「「……逃がすかーっ!!」」」」」」
バタバタとみんなで対先生用の武器を持って追いかける。それに対して殺せんせーは壁や天井を縦横無尽に飛び回って逃げる。マッハ二十ってこういうのに便利だよな。
ちなみにここで渚の弱点メモに追加された項目があるのは言うまでもないだろう。
殺せんせーの弱点⑫:下世話
ちなみに⑩や⑪もいつの間にか増えていて、内容は世間体を気にする、猫舌、だった。
数分したら女子も同じように大所帯で混ざってきた。もしかしなくても、向こうでも似たようなことやらかしたのかな。
とりあえず、宿壊すことが無いよう祈っとくか。
僕は同じく参加しなかった渚とカルマの元へ行く。僕はあのランキングが知られてもダメージ無いし、見ていて面白かったのであの暗殺へ加わる気はあまりなかった。
ついでに、ちょっと参加してきたらしい茅野さんも不参加組に交じってきた。
「なんか、結局いつも通りになったね」
「うん……」
渚は苦笑いしながらみんなの様子を見ている。
「……なんかさ」
「うん?」
渚がふと、呟いた。
「修学旅行って、終わりが近づいてきたような感じがするよね」
……。
「……確かに。まだこの生活は始まったばかりなのにね」
「中学生としては、終わりに近いからかな……僕からすれば、始まったばかりだけど」
今年からの僕からしてみれば、まだまだ先の方が長い。
けれど言われてみると少しだけ、切ないような、寂しいような気がした。来年地球が終わるかは分からないし、終わらせる気はないけれど……
「このクラスは、どうあろうと来年の3月で終わりなんだよね……」
渚のその声も、どこかこの時間を惜しむような声色だった。
「でもま、まだ5月なわけだし。たった1年、されど1年。いろいろやる時間はたっぷりあるでしょ」
カルマが明るい声で言った。渚もその声に同調する。
「うん。……みんなの事をもっと知ったり、先生を殺したり、やり残しがない1年にしたいな……」
……ここで先生を殺すという言葉が入るのは、僕たちE組のオリジナルだろうね。
「……とりあえず、修学旅行はもう一回くらい行っておきたいねー」
茅野さんのその言葉は、なんというか。僕たちの気持ちを上手く表していた。
僕ら4人が話し始めてから十数分後。
結局殺せんせーは捕まえることも殺すこともできず何処かに逃げられたらしい。暗殺しに行っていたみんながへとへとになって、あちこちで座り込んでいた。
ふと、廊下の窓際で話していた僕らの元へ、磯貝と前原、それに木村の三人がやってきた。
「零、ちょっといいか?」
「ん?どしたの?」
この三人の組み合わせは、確か今回の修学旅行では1班のメンバーだったはず。なんだろ?
疑問に思いながらその三人を見ていると、磯貝が懐から何かを取り出した。
「零に渡してほしいと頼まれたものがあって……これなんだが」
差し出されたのは、両手で包めるくらいの大きさの巾着袋。僕はそれを受け取り、中身を見る。
思わず目を見開いた。
そこに入っていたのは一粒の鈴。見た目は普通の、ちょっと大粒だということくらいしか変わり種の無い、金色の鈴。
けど、そこから感じたモノ。そこにある
……とても、愛おしいもの。
「……零君?」
少しの間、茫然とソレを見ていた僕に、隣にいた渚が声をかけてきた。その声で少しずつ、頭が働くようになる。
……そっか。
僕はソレを見ながら、思わず微笑んでいた。
「舞花に、会ったんだね」
太陽のように輝く金色の髪が、脳裏によぎる。この鈴と、同じ色。
舞花……久々に音にした、彼女の名前。
磯貝と前原、木村の三人が頷いた。
「……ああ。今日の班行動の時にな」
「途中まで一緒に回ってなー」
磯貝の話によると、彼女のことはどうやら殺せんせーが連れてきたらしい。不良に絡まれていたのを助けたのだとか。
それでそのまま班行動に加えて一緒に観光し、最後にこの鈴を渡されて別れたのだと。
曰く、熊除け。
……
……何というか、1班は4班とはまた違ったジャンルのトラブルに遭遇しかけたらしい。本人たちは知らないだろうけど。彼女が犬とかではなく熊という単語を使ったということは、相当ヤバいものがその近くにいたということで。……鈴を誤魔化すのに熊が一番最適だったのかもしれないが。
この鈴を渡していたということは、まだ直接の遭遇を避けられる状態で且つ、磯貝たちを信用したということだろう。
京都だから遭う可能性は普段より高くなっているけど……磯貝たちはたしか山の方だったから余計に不味かったんだろうね。
最後に僕に渡してほしいというのは、この鈴を処理できるのは僕だけだというのと……中に入っているメッセージが理由かな。あとで確認しよう。
「で、あの子。零とはどんな関係なんだ~?」
話を聞きながら思考していた僕に、前原がなにやらニヤニヤしながら聞いてくる。傍で聞いていたカルマなんかもニヤニヤしてるし、他の4人も何か期待した目線を向けてくる。
……それ、もう分かってて聞いてるよね?
思わずため息を吐く。そして苦笑いしながら、彼らに予想済みだろう単語を告げた。
「恋人だよ」
オリヒロインの名前がようやく出てきました。
次話から「修学旅行の時間 番外」として1班の方での様子をちょっと書きます。
ほぼオリジナルストーリーで、後半オリジナル設定とかがっつり出てきたりしますが……生暖かい目で見てください。