―――時は椚が丘中学修学旅行2日目。
殺せんせーは最初の合流班である1班との待ち合わせ場所に向かっていた。
手には八つ橋の袋。旅のお供に買ってきた模様。
まだ時間に余裕があるからかマッハを使わず、八ツ橋を齧りながら景色を望み、人とあまり変わらないテンポで移動していた。
と、そんな先生の目の前に、妙に既視感のあるような光景が飛び込んできた。
「なぁ~お嬢ちゃん、今ヒマ~?」
「暇なら俺らと観光しようぜ~?」
「見たところひとりだろ?俺らが案内してやるよ~」
「あ、え……っ」
見るからにガラの悪い学ラン姿の男子高校生が3人ほど、一人のの少女を取り囲んでいた。
ぱっと見は中学生くらい、金髪に青い目と外国人のような見た目をした、眼鏡の少女だった。美人というよりかは可愛らしい顔立ちで……胸はデカい。
念のため記しておくと、某女暗殺者兼英語教師のように露出度は高いわけではない。ブラウスは第一ボタンまできっちり閉めて上からカーディガンを羽織っていて、スカート丈は膝上だがスパッツをはいている。ガードは固い。
そんな少女は、怯えているかのようにギュッと鞄を握りしめ、男子高校生たちからどうにか距離を取ろうとしていた。
と、そこに。
「May I help you?(何かお困りですか?)」
近くで見ていた殺せんせーがそのすぐ傍に寄り、英語で彼女に向かって声をかけていた。
高校生たちはいきなりの事で、しかも英語なので訳が分からないという顔。
少女は思わぬ方向からの、想定外の助太刀に驚いて息をのむ。が、これ幸いにと驚きながらもそれに答える。
「っ、Yes.I'd like to go to "Saga torokko station". Can you tell me how to get there?(は、はい。トロッコ嵯峨駅へ行きたいのですが。そこへの行き方を教えてはもらえないでしょうか?)」
「Oh!It's just right.I'm on my way there.Would you like to go with me?(おお!ちょうどいいですね。私も丁度そこへ行くところなのです。もしよければ一緒に行きませんか?)」
「Yes,please!Thank you very much!(是非!ありがとうございます!)」
つらつらと流れる英語に、全くついていけない高校生たち。
そんな彼らに対して、殺せんせーはヌルフフフと笑った。
「外国人をナンパしたいのなら、これくらいの英語は話せないといけませんねぇ?」
「え……あっ」
そう笑いながら彼女を連れていく殺せんせーを、高校生たちは茫然としながら見送った。
ちなみにこの高校生たち、後程E組4班が巻き込まれるトラブルの主犯たちと同じ高校だったが、あちらに比べたらちょっとヘタレでおとなしい奴らだった。
「あの、ありがとうございます。本当に助かりました」
高校生たちが人に紛れて見えなくなった辺りで、助け出された少女は殺せんせーに日本語で話しかける。
「ニュ……いえいえこれくらいどうってことない。それにしても日本語お上手ですね」
殺せんせーのその言葉に、少女は苦笑した。確かに自分の見た目はそう思われてもおかしくないな、と。
「私、こんな見た目ですけど……日本人なんですよ。この間まで数年間ヨーロッパ住まいだったので、少し疎くはありますが」
「ニュヤ!?それは失礼しました」
驚く殺せんせーに対して、少女は思わずといったようにクスクスと笑う。
ふと、少女は殺せんせーをじっと見て、首を傾げた。
「その服装……珍しいデザインですけど、もしかして、どこかの学校の教授だったりするんですか?」
どうやら、アカデミックドレスを見ていたらしい。
「ニュ……ええ、私は中学校の教師をしてまして、今は修学旅行でこちらに来ているんです。これから丁度生徒の班と合流するところなんですよ」
「修学旅行ですか!それは、楽しそうですね……」
殺せんせーの言葉に、少女は一瞬目を輝かせた。けどすぐに目をそらしていた。
「あなたは、お一人で旅行ですか?」
「あ、はい。こっちにいる親戚からチケットとか送られてきたのでなんとなく。どこを回るとかは、全然決めてませんが」
あはは、と笑う彼女を見ながら殺せんせーはフム、と考える。
(初対面の少女のはずですが……なんか気になってしまいますねぇ)
もしかするとそれは、少女の纏う雰囲気や笑顔がE組のとある生徒に似ていたからかもしれない。
決して巨乳が気になったからではない……はず。
「あ、殺せんせー!こっちこっち!」
「お、間に合ったか」
二人で軽く雑談をしながら駅へ向かっていると、殺せんせーにとって馴染みのある声が聞こえてきた。彼はその声の……E組1班の生徒たちの方へ向かう。……さりげなく少女の手を引きながら。
メンバーは磯貝、前原、木村、岡野、片岡、倉橋、矢田の7人。全員乗車券は既に買ってある模様。
「すみませんねぇ。少々人助けをしてまして」
「あ……」
殺せんせーのその言葉に、生徒たちは先生のすぐ後ろで申し訳なさそうにしている少女に気づく。
そしてその様子を見た殺せんせーが、爆弾を落とした。
「みなさん、もしよかったらこの方を一時的に班に加えて貰えませんか?」
「「「え!?」」」
殺せんせーの突然の発言に、生徒たちだけでなく少女も戸惑いの声を上げた。
「彼女、一人で京都観光に来ているそうなのですが、行き先は殆ど決めていないそうなんです。見たところ年齢は同じくらいのようですし、もしよかったら皆さんのコースに連れていってあげてください」
(……え?いや、確かにここに来るまでに行先は決めてないとは話したけど……)
予想外の展開に、この中では少女が一番混乱していた。彼女が彼らと話してみたいと思っていたのは確かだが。
一方の生徒たちは、お互いに顔を見合わせている。初対面だよな、とか暗殺計画もあるとこに連れて行っていいのか、とか。そもそもなんでいきなり……というところで、殺せんせーが彼らにこそっと先ほどあった出来事を軽く伝えた。
そしてそれにより生徒たちは、これはいつも自分たちに対して行われているようなお節介によるものだと気付いた。
「僕たちは別に構いませんよ」
磯貝が班を代表して言い、今だ戸惑っている様子の少女に目を向ける。
そして殺せんせーが、
「あなたも、また変な輩に絡まれたくはないでしょう?」
と言ったことで少女もこれが自分を心配してのことだと気付く。初対面の相手に対するものとしては、やりすぎな気もするが……。そしてほとんど即断に近い状態で同行を許した生徒たちにも驚いていた。
「……え、っと。本当に、いいんですか?」
「いーのいーの!この先生の唐突な行動は今に始まったことじゃないし。あ、私は片岡メグ。あなたは?」
クラス委員の片割れであり、しっかり者の片岡が笑いながら前に出て自己紹介をする。
「えっと……紫苑舞花です。その、よろしくお願いします!」
片岡に腕をひかれながら頭を勢いよく下げる少女に、他の生徒も笑いながら自己紹介を始めた。
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片岡:Side
トロッコ列車に乗車してからしばらく。
私たち1班は殺せんせーと、殺せんせーが連れてきた紫苑舞花という少女と一緒に列車から見える景色を堪能しながら雑談に興じていた。
「窓が無いからすごい迫力ですねぇ。これだけ開放的なら酔いませんし。それにしても、時速25キロとは、速いですねぇ~」
マッハ20が何言ってんだ、と
八つ橋を片手に景色を眺めながら言う殺せんせーに、1班の生徒全員が思った。紫苑さんがいるから口には出さないけど。
そんな中、私たち女子は今日会ったばかりの紫苑さんともあっという間に馴染み、和気あいあいとおしゃべりを楽しんでいた。聞いたところ今年で15歳と、私たちと同い年らしい。ついでに見た目は外国人っぽいけど、日本人なのだとか。
「ねえ、ここの駅のお土産、タヌキ饅頭っていうのあるよ!」
「わぁ、かわいくてちょっと食べづらそう……ところでさっきから気になってたんですが、その本って観光ガイドにしては厚過ぎますよね?」
「ああ、これ?うちの担任特製の修学旅行のしおりだよ~」
「え、しおり……ってこの広辞苑みたいなのがですか!?……修学旅行のしおりってそんなに書くことあるんですか?」
「いやいや、単純にせんせーが張り切りすぎて作ったってだけで、普通はあり得ないよ。観光名所が軒並み載っているだけじゃなくて、変なコラムまでついてるし……ほら」
「えーっと、『八ツ橋をのどに詰まらせたときの対処法』、『京都で買ったお土産が東京のデパートで売っていた時のショックの立ち直り方』、『鴨川の縁でいちゃつくカップルを見たときの淋しい自分の慰め方』……どこまで想定してるんですかあの先生。これとか普通思いつかないと思うんですけど……」
「だよねー。けど読んでて結構面白いよ!」
「というか、倉橋さんそのしおり持って来てたんだ……」
紫苑さんは最初かなり遠慮気味で緊張していたようだけれど、話しているうちにだんだん打ち解けていったみたいで、私たちも気にせず自然と話すようになっていった。
話していてなんとなく、ほっとけない子だなって思った。殺せんせーが連れてきたので何かある子だと最初は思ったけど、話を聞く限りだと100%殺せんせーの善意で連れてこられたみたいだし……。ああでもこの子巨乳っぽいし、殺せんせーが気になったのはしょうがないのかもしれない。
電車が、トンネルを抜ける。
また外の景色が見えるようになったそこで。今度は、私たち1班のメンバーが少し緊張し始めた。
……そう、私たちの計画した暗殺の決行場所が近くなってきていた。
「あっあの川、向こうの方に船見えてきてるね!」
「あ、あれが保津川ですか。川下りが名物の……」
「確かもうそろそろ一旦停車するはずだよ」
「その頃にはあの船もっと近づいてきてるから、よく見れるよ!」
紫苑さんは何も知らない一般人。先生にも彼女にも不自然さを感じさせないように会話を続ける。その辺は私たちの中でも倉橋さんがよく話しかけていた。二人はどうやら気が合うらしい。
……なんだろう、ここに癒し空間が形成されている気がする。
そして、電車が停車する。
そこは保津川橋梁。橋下の木陰からスナイパーが狙っている筈だ。
「あ、ホントにいいタイミングで船が近づいてきました!」
「言ったとおりでしょ?ねえ、見て見て殺せんせー、川下りしてるよ!」
「おぉ!」
倉橋さんが船を指さしながら、殺せんせーに声をかける。
殺せんせーが船を見ようと窓から乗り出したその時が、スナイパーへの合図。
……結果は。
「おや、八ツ橋に小骨が。危ないこともあるもんですねぇ」
「「「……は?」」」
……えーと。
詳しくは見えなかったけど、どうやら殺せんせーは八つ橋でライフルの弾を止めたらしい……あのもっちもちした物体で挟んで。……ちょっと予想外すぎて反応に困る。
しかも小骨が、なんて白々しすぎるし。
「……え……っと、そんなに大きいのは小骨なんて言わないと思いますけど……っていうか、八ツ橋に混ざるものなんですか?」
「あーいや、紫苑さんはあまり気にしないで」
「そうそう、先生よく変な物当てるから」
頭にハテナマークを浮かべているような顔で殺せんせーを見ていた彼女をどうにか誤魔化した。というか、最初に突っ込むところそこなんだ……。
はぁ……2班に連絡しよ。
片岡:Sideout