暗殺教室~月と星~    作:霊花

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前回に続き今回はがっつりオリジナルストーリーです。


修学旅行の時間 番外2

トロッコ列車を降りて殺せんせーと別れたE組1班+αは、付近の景色を楽しみながら観光を再開していた。

 

「できれば京都は秋に来たかったなぁ……。紅葉が綺麗らしいよ~」

 

「まあ、今の緑生い茂った景色も十分素敵だと思うけどね」

 

岡野と矢田が周りの木々を見ながら口々に言う。それに対して、前原がおいおい、と反論する。

 

「秋なんかに来たら、他の修学旅行生とか観光客でごった返しで大変だぞ。さっきのトロッコ列車も乗るの大変だっただろうし」

 

「そもそも秋は行事が目白押しだから、修学旅行の入るスキはねーな……」

 

「そう考えると、今の時期に来ておいた方が楽なんだよな」

 

 

自分たちの暗殺計画が終わった生徒たちは、失敗したにもかかわらず心配事がなくなったからと伸び伸びとしていた。

 

ちなみに殺せんせーが次に向かった2班の暗殺についても、既に失敗したという連絡が来ていた。

 

 

 

途中で軽い昼ご飯を取り近くの寺院などを見た後、竹の立ち並ぶ道へと入っていく。

 

「おお~、ここまで来ると壮観だなぁ」

 

「それに、静かだから歩いていて落ち着くねー」

 

「虫の声は結構聞こえるけどな」

 

昼食後の眠くなる時間。みんなでのんびりと時間をあまり気にせずに歩く。

 

そんな中で一人、あまり話さずにどこか気を張っているような少女がいた。

 

「舞花ちゃん、さっきからだんまりだけどどうしたの?」

 

「……!陽菜乃ちゃん……ううん、何でもないですよ」

 

倉橋が声をかけると、その少女……舞花は一瞬驚いた顔をした後、苦笑気味になって答えていた。

 

「なにか不安があるなら言ってみたら?今日会ったばっかりだけど、私たちそういうのあんまり気にしないからさ」

 

「そうそう。そもそもおかしな日常過ごしてるからねー。初対面とかもう気にしてる暇ないっていうか」

 

「もう紫苑さんも班員みたいなものだよねー」

 

「あはは……ありがとうございます」

 

倉橋に続き片岡、岡野、矢田と女子たちが続いて明るく話しかけていた。それに対して舞花は少し調子を戻し、笑顔でお礼を言った。

 

 

 

 

 

 

一方、男子たちは。

 

「いやー、紫苑さんってかわいいよなー」

 

女子たちのその様子を見ながら前原が一言。それに対して磯貝が呆れの目線を向ける。

 

「なんだ前原。口説くつもりか?」

 

「お前いま彼女……C組の子だったっけ?また浮気か?」

 

木村も加わって二人で問い詰める。

 

「お前ら俺をなんだと思ってんだ!そりゃ朝会ったときは食事誘おうかとかちょっと考えたけど」

 

「考えたんかい」

 

木村が突っ込む。磯貝はやっぱりか……と頭を抱えてため息を吐いていた。

 

それに対して、前原はうーんと唸りながら、一言。

 

「紫苑さんって、多分彼氏いるぞ」

 

「おお……そんなのよくわかるな」

 

「なんていうか……勘?雰囲気でなんとなくいるかいないかは分かるんだよな……」

 

「さすがは女の敵」

 

「ああ、そんな特技があったとは」

 

「ついでに俺らの知り合いかも……っておいっ!?さっきからお前らは俺の事なんだと思ってんだよ!!」

 

「何って……」

 

「そりゃあ……」

 

前原の2度目の叫びに、磯貝と木村は顔を見合わせる。そして前原の方を向くとそろって一言。

 

「「女泣かせのクソ野郎だけど何か間違ってるか?」」

 

「酷い!?」

 

見事にハモって同じ言葉を言い放った。

 

男子二人による容赦のない一言にショックを受ける前原。

 

落ち込んだ前原に、途中から話を聞いていた岡野が自業自得だと言ってさらに追い打ちをかけていた。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、なんか静かすぎない?」

 

ふと、倉橋が周りを見回しながら声を上げた。

 

「ん?まあ、人気ないしな」

 

それに対して復活した前原が同じように見回して答える。それに対して、倉橋は首を横に振った。

 

「さっきまで虫の声はうるさかったじゃん。なのに今は全く聞こえないよ」

 

「っていうか、ここ観光地だよな。一人二人くらいはここまでですれ違いそうなもんだな」

 

磯貝も倉橋に同調する。黙り切った彼らの周りで聞こえるのは、葉が擦れる音だけ。

 

気付いてしまえば不気味なことこの上ない。そして他に人が見当たらないにも拘わらずどこからか、視線を感じるような気さえしていた。

 

「……ねぇ、これ結構ヤバそうな気がしない?」

 

「なんかよくわかんねーけど、俺の勘が逃げろと言ってきている」

 

片岡の言葉に前原が冷や汗をだらだらと流しながら同意した。

 

「ねえ、電波立ってないんだけど」

 

岡野が不安になって携帯を取り出していたが、繋がらないらしい。

 

 

しん、と静まり返る。

 

 

 

 

 

 

ピリリリリッピリリリリッ……

 

 

 

静まり返ったその場に突如響いた電子音。

 

その音に、ほぼ全員がビクッとした。

 

「あ、すみません。ちょっと連絡が」

 

舞花がそう言って、手に持っていた携帯を弄っている。ちなみにその携帯は、なんと今時少ないガラケーだった。

 

「……あれ?」

 

倉橋が首をかしげる。携帯の音が鳴り響いた瞬間のこと、彼女には一瞬何かが割れるような音が聞こえていた。

 

それを切目にまた虫の声が聞こえ始める。

 

「あ、電波立った!」

 

「あ、メール来た。……3班失敗か」

 

携帯も無事繋がるようになったようだ。

 

生徒たちはとりあえず周りの不気味な静寂が無くなったことにホッとした。

 

 

「すみません。今、知人から呼び出しをされてしまったので、私はここで別れます」

 

パタンッと。携帯を閉じた舞花が彼らに対し、申し訳なさそうに言う。

 

「呼び出し?」

 

「はい。どうやらたまたま近くにいたようなので。……それと」

 

そう言いながら彼女は鞄の中を探る。

 

「これ、とりあえず持っといてください。熊除け(・・・)です」

 

そして取り出したのは、手のひらに乗るくらいの大粒の鈴と、それが入るくらいのサイズの巾着袋。それを磯貝に渡した。

 

手から手へ渡った瞬間にカランッと音が鳴った。

 

 

「「「熊?」」」

 

「最近ここら辺で、()が出るらしいんですよ。さっきの様子だともしかすると、近くにいるのかもしれません」

 

「……え、マジで?」

 

それを聞いた前原が身震いをした。いくら普段暗殺の訓練を受けているとはいえ、そんな猛獣に出会ったらたまったもんじゃない、と。他のメンバーも冷や汗を浮かべたり、顔を青くしている。

 

「はい、なので念のため暫く持っておいてください。……それと、」

 

舞花は一拍置くと、柔らかく微笑んだ。

 

 

 

「後でその鈴を、皆さんのクラスメイトの零に(・・・・・・・・・・・・・)、渡しておいてください」

 

 

 

「……え、零に?」

 

「知り合い、なの?」

 

……なぜ自分たちのクラスメイトを知っているのか、なぜ零なのか。

 

それを聞こうとする彼らに対し彼女は、人差し指を口元にあてた。

 

「彼に聞けば、分かります」

 

さっきまでとは違い、可愛らしさの中にミステリアスな雰囲気さえも感じる彼女に、何も言えなくなる生徒たち。ここで前原は何かを察し、ほぅ、とニヤけていたが。

 

その中でも、倉橋が彼女に向かって、ねえ、と声をかけた。

 

「また、会える?」

 

倉橋は、生徒たちの中で一番舞花と仲良くなっていた。なので彼女とはこれっきりになるのは嫌だ、と思っての言葉だった。

 

その質問に、虚を突かれたように目を見開く舞花。でもすぐに、クスクスと笑った。

 

 

「週明けからは毎日のように会えると思いますよ。山の上の校舎で」

 

 

 

 

 

……その言葉の意味は。

 

 

「それって、まさか……っ」

 

それを聞いて、少し間を開けてその意味を理解した倉橋は顔を輝かせた。舞花はそれに頷く。

 

「そのまさか、です。あ、他の人にはあまり言わないでおいてくださいね。『殺せんせー』とか、驚かせたいので」

 

この言葉で、他のメンバーも意味を理解する。

 

「……あ、なるほど。りょーかい」

 

「まさか旅行先で偶然出会った女の子が転校生だなんて、殺せんせーどんな反応するかねー」

 

「たしかにー。多分せんせーも気づいてなかったと思うし」

 

「ついでに、旅館で零に会うのも楽しみだな。あいつもどんな反応するか」

 

驚かせたい、の言葉で生徒たちはいつもの調子に戻っていた。なんというか、この少年少女たちは適応能力が高すぎる。これも殺せんせーによる教育の賜物か。

 

 

「あと、その鈴なんですけど。ちょっと動くだけで鳴るので、この林を抜けたらその巾着袋に入れてください。そしたら聞こえなくなりますから」

 

「え、あー……確かにさっきから鳴りっぱなしだもんな」

 

その鈴は磯貝の手に渡ってからというもの、カランカラン鳴り続けてうるさい。

 

「あれ、舞花ちゃんは鈴なしで行くの?」

 

「私は熊とか慣れてるので。出会った時の対処法なんかも一通り」

 

「猛獣を相手に……見かけによらず、凄いね」

 

「育った環境が環境だったもので……それじゃあ、また会いましょう」

 

 

「……うん、また学校で!!」

 

 

そうして彼らはここで、別れることになった。

 

 

 

___________________________________________

 

 

 

「さて、と」

 

1班の生徒たちと別れ、舞花は一人歩きだす。

 

暫く道なりに行ったと思ったら途中で脇にそれ、茂る草や木をかき分けながら進む。その頃にはまた虫の声が途絶えていた。

 

(まさか、隔離結界を作れるほどに強いモノがいたなんて……携帯のアラームは正解だったかな)

 

ちなみに先ほど彼女のガラケーから発された電子音は、メールの着信音ではなくただのアラーム音だった。その場で音を誤魔化すため咄嗟に仕掛けたもの。連絡もあったのは確かだが、それはアラーム音を鳴らすと同時に張られていた結界を破ったから届いたものだった。

 

ちなみにその時届いたメールには一言、ソレは任せた、とだけ。

 

 

ため息を吐きながら彼女は鞄の中を探る。

 

取り出したのは白いクロスボウ。ただし、そこに矢はついていない。

 

鞄をその場に置き、舞花が準備を終えたときには、目の前にソレが見えていた。

 

(……うわぁ。デカいなー……寄り集まって密集してるのかな)

 

それの見た目は、3~4メートルくらいの高さのモヤモヤした影のようなもの。輪郭が不明瞭なソレは、遠目に見れば毛むくじゃらの動物の影に見えなくも……ない。

 

 

ソレは、彼女がさっき生徒たちに熊と表現したものだった。

 

 

目の前にしてみれば……どう見ても熊どころか普通の動物にも見えないソレに対して、彼女は怯えなどなくまっすぐに観察する。まだ、こちらに気づいていないのか、その場から動くそぶりは見せていない。

 

一先ず、と彼女は足元に落ちている石を一つ拾うと、僅かに()を込めてソレに向かって投げた。

 

石はソレにしっかり命中し、当たった場所の周り数十センチくらいが抉れる。が、すぐに抉れた部分が元のように黒い靄に覆われる。

 

「……穴熊崩しにいく時って、こんな気分なのかなー……やる気ないけどっ」

 

あはは、と乾いた笑いを浮かべながら。自分へと猛スピードで近寄ってきた()から大きく飛びのくことで距離を取る。

 

今のはあくまで小手調べ。自分の居場所を知られるのと引き換えにあの密集しているモノの密度を見るための一手。

 

舞花は手元のクロスボウを構える。()を込めていくと一本の金色の矢が現れ、装填されていた。

 

その間にまた目の前まで近寄られていたが、彼女が上に大きく飛び上がったと共にチリンッと鈴の音が響き、熊は動きを止めた。

 

その音は、舞花の髪留めに着けられた鈴からのものだった。その鈴は何故かここに来るまでに一度も鳴っていないにも拘らず、その一度だけやけに周りに響き渡った。

 

その隙に。

 

 

 

「“この者の星を、正しき道へ”」

 

彼女の発するその言葉と共に、ほぼ真上からその熊へと金色の光が飛来する。

 

その光はソレをあっさりと貫通するとともに、大きく爆ぜた。

 

爆風のないそれは数秒後に何事もなかったかのように消える。そしてさっきまでそこにあった熊は、小さな何かの破片を残して消えていた。

 

 

 

 

 

 

パチパチパチ……

 

スタッと少し離れたところに着地した舞花の後ろから、徐に拍手が聞こえてきた。

 

彼女はため息を吐き、振り返りながらその音の主へ声をかける。

 

「居たならちょっとは手伝ってくださいよ。風花姉」

 

「あんたに手伝いなんて必要あったんー?一撃で終わっとったし」

 

舞花の声に反応して出てきたのは、長い黒髪の巫女服を着た女性。大型犬くらいの大きさの狐に腰を掛けている。

 

その女性……風花は口をとがらせる舞花を見て、コロコロと笑っていた。

 

「さすがやなー。最後に会うた時よりえらい強なってるし」

 

「……というか、あなたが動けるなら、私がこっち来て処理する意味あったんですか?」

 

「こっち来た意味ならあったやろ?あの子らとか」

 

「……もしかして、そのために東京から態々私を?」

 

「それもあるけど、加えて今の京都じゃあ“怪異”関係の人手足りてへんさかいなぁ」

 

その言葉に、舞花は顔を顰める。

 

「……せめて事前に要件くらいは説明してください。いきなり時間帯メモとチケットだけ送られてきてもどう行動すればいいのか分からないです」

 

この風花という女性は、自分だけが理解してればそれでいいというかのように、報連相を滅多にやらない厄介者だった。そしてそのとばっちりを食うのは彼女の傍……京都の裏で働く職員たちと、能力の関係で相談することの多かった舞花だった。

 

「出会いちゅうのんは、ぶっつけ本番がええと思うで」

 

「はぁ……もういいです。帰りますね」

 

風花の言葉に、舞花はガクッと肩を落とす。色々反論したいことはあったが、もうこれ以上何を言っても反省のはの字も無いだろう。

 

今は無駄に話して時間を費やすよりも、休むためにも早く家に帰りたいという気持ちが強かった。ただでさえ京都に来てからいつも以上に遭い(・・)すぎていて、その上コレだ。

 

途中で放置した鞄を手に取り、パッパと土を払う。

 

「そや。聞きたいことあったんやけど」

 

「……何ですか」

 

今思い出したとばかりに声を上げる風花に、思わずジト目で返す舞花。

 

そんな睨まんでも~と風花は笑いながら一言。

 

「噂の超生物せんせ、どないな感じやった?」

 

少し想定外の質問だったのか、舞花は目を見開く。

 

けどすぐに何を答えるべきかを考える。出会ったことをなんで知ってるのかとか、そもそも国家機密なのにとかは今更疑問にならない。そもそもこの女性は、事前に時間指定とチケットを送れるくらいにはかなり強い先見の力を持っている。……気まぐれにしか使わないけど。

 

 

暫しの間。

 

 

彼女は風花から目を逸らし、空を見上げてその答えを言う。

 

「……見た目は妖怪じみてますけど、私たちから見たら人間ですよ」

 

「やっぱしそうか。……ちゅうことは、うちの組織から人員出せへんやん」

 

「……ですねー。私は内容が違うので例外みたいなものですけど」

 

「あーもう、めんどいなぁっ!あっち(・・・)のジジババ共にも説明せなあかんやん。ただでさえ、月のせいであいつらの気ぃ立ってるちゅうのに」

 

《だぁれがババァだこのクソガキがっ!》

 

「ゲフッ」

 

風花が我慢できないというかのように愚痴を叫ぶと、“ジジババ”というフレーズに反応した足元の狐が彼女を振り落とすと、その腹部に飛び蹴りをかまして吹っ飛ばした。

 

……さっきからその場に居ながらも今、唐突に口を開いたこの狐。大きさ的にも普通ではないが、尾が3つに分かれている。つまり妖狐である。

 

風花は慣れているのか、蹴られたお腹を抑えながらもしっかり着地していた。んで、そのまま睨み合いが始まる。

 

そして瞬時にその場に新たに形成される隔離結界。

 

「あー……なんで関係者連れてきたくせにその前で禁句言っちゃいますかね……」

 

舞花はその様子に頭を抱える。こうなったらしばらくこの一人と一匹は喧嘩を続けるだろう。

 

次第に風やら炎やらが吹き荒れ始める。結界がなければ大惨事になっていただろうこれは、普通に巻き込まれたらたまったものじゃない。

 

 

 

少女は面倒ごとに巻き込まれる前にと、その場を退散した。

 




次にもう一回オリジナルを入れてから転校生回に行きます。
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