零:Side
修学旅行最終日である今日は、午前中の短時間をまた班行動で観光に費やし(ほとんどお土産買い漁る時間みたいになったけど)、昼食をとった後帰りの新幹線に乗った。
新幹線内じゃあ、みんな疲れて寝てた。八割方は新幹線動き出したときには落ちてたし、僕もなんとなく窓の外見てたらいつの間にか寝てて、気付いたら品川だった。
……起きた僕に隣のカルマがトントンと肩を叩いてきた。何?と聞こうとしたらカルマはしぃーっと人差し指を口に当ててジェスチャー。
そして彼の指がそのまま僕の前を指す。
「……んぅ……」
「……むにゃむにゃ……」
そこでは、渚と茅野さんがお互いに寄りかかる様に寝ていた。茅野さんの頭が渚の肩に乗っかってる。
……なんか、とても微笑ましい。
ついでにパシャッと隣で小さなシャッター音。音がなるべく響かないようにハンカチで包みながら、カルマがスマホを構えていた。……うん、すごくいい笑顔をしている。渚たちをからかう材料にする気のようだ。
離れた席から殺せんせーが同じようにカメラを構えていたのは余談。
どこからかクスクスと、ひそかに……嬉しそうに笑う声が聞こえたような気がしたのも、余談。
周りを見渡しても、それらしき姿は見当たらなかった。
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JR椚ヶ丘駅で解散し家に帰りつくと、荷物はリビングにおいて自室に直行。そのままベットに倒れこむ。
「疲れたー……」
思わず声に出して呟く。新幹線内で寝てたりしたけど、案外移動疲れとかあるんだな……。
自宅に帰ってきたという安心感と、修学旅行が終わってしまったことに対する言い表せない寂しさとでなんか変な感じ。こんな感覚は初めてだ。
ふぅーっと息を吐く。この3日間であった出来事を頭が整理し始める。その中で昨日の旅館での出来事を思い出し、制服のポケットを探る。
そこに入れていたのは、鈴の入っていた巾着袋。磯貝から受け取った、彼女からのメッセージ。
袋を逆さにして振ればコロンと出てきたのは鈴ではなく、小さな金色の折鶴。
この鶴は恐らく、さっきまでは鈴だった物。僕が一人になったとき、あるいは家に帰りついたときに変化するようになっていたんだろう。
その鶴を丁寧に開いていけば、紙の裏に何かが書いてある。そこには明日の日時と、近くの公園の名前が記してあった。
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翌日、午前10時半。
伝えられた時間は11時だったけど、とりあえず30分前に来てみた。そしたら既に、彼女はそこにいた。
久々に見る金髪の少女が、公園の奥にあるベンチに座ってる。その膝に黒猫が丸まっていて、彼女にその背を撫でられているのが見える。
僕が彼女に近づくと、黒猫がいきなりガバッと起き上がってピュンッと擬音が付きそうな感じで逃げていった。……なんか怖がられるようなことしたかな……。
彼女は逃げていった黒猫を苦笑しながら眺め、そして僕の方を向いた。
僕は頬が緩むのを感じながら、軽く手を振る。そしたら、彼女の目元に急激に涙がたまっていくのが見えた。
「零……っ」
僕の名前を呼びながら勢いよく抱きついてくる少女。最後に会った時より背は伸びてるけど……意外に小さいかな。印象は全然変わらない。
「……おかえり、舞花」
最初になんて声をかけようかと昨日とか散々悩んでたけど、いざその場面になるとするりと自然に言葉が出てきた。
周囲にはいつの間にか隔離結界が張られていた。まあ、人前だとちょっと恥ずかしいもんね。
「ただいま、零。ずっと……会いたかった……っ」
殆ど涙声の彼女に、僕はちょっと笑いながらその背中を撫でた。あの頃からあんまり変わってなくて、少しホッとした。
……ちょっとまて。
「……舞花。ちょっと熱っぽい気がするんだけど。君……もしかして何か無茶した?」
「え?……えっと……っ」
彼女の耳裏辺りに手を当てて体温を確かめると、明らかに異常な熱さだった。少なくとも38℃後半はある……ていうか、体がふらついてるし……!
「……っとりあえず僕の家に行こう。これは安静にしないとだめだ」
「いや、これくらいなら平気……」
「なわけないっ!昔そう言って数日寝込んだのを忘れたの!?」
「うぅっ……」
少なくとも、両手の指で数えきれないくらいはあった出来事だ。彼女は少しでも体調が悪い時に放っておくと、そのまま無理を重ねて最悪1週間は寝込む。まだ40℃越えに至ってないから、すぐに休ませれば1~2日くらいでどうにか収まるはず。
詳しい話は家で聞くことにして、彼女の体を抱えて自宅へ最短距離で向かう。フリーランニングを駆使すれば1分もかからない。
「全く……ほんっとに変わってないなぁ」
自宅に着いて、いくつかある空き部屋の一つのベットに舞花を寝かせる。そしたら彼女はすぐにすとんっと落ちるように寝た。……やっぱり相当負荷溜まってたんだな。
とりあえず冷凍庫から氷枕取って来よう。確か一つは買ってきて突っ込んでおいたはず。あと体温計は……っとあったあった。
それと昼ご飯に軽く何か作らないと……。
ピリリリリッ、ピリリリリッ……
「へっ!?」
と、いろいろ考えながら台所に向かおうとしたそのタイミングで、どこからか携帯の着信音が聞こえてきた。
聞きなれない音にちょっと驚いて変な声出た。僕の携帯じゃないとすると、舞花のか。
……案の定、彼女の上着からこぼれ出ているスマホを発見。ただ、表示画面に名前は出ていないから、電話帳未登録の番号だ。
……一応、出た方が良いのかな。数字の並びからして携帯からではないけど……。
無視するとか切るとかの選択肢は何となくする気が起きなかった。舞花を起こすのは今の状態では論外なため、そのまま通話ボタンを押す。
「もしもし」
〔……君は零君、ですか?〕
……ドンピシャで名前当てられた。これ舞花の携帯なのに。
「……確かにそうですが、どちら様ですか」
警戒して少し自分の声が硬くなる。
〔……ワールドガーディアン社の紫北瞬です。お久しぶりですね、零君〕
「……っ!?」
電話の向こうから発せられた想定外の単語に、息をのんだ。
それは憶えのある名前だった。……舞花の実家が経営している会社名と、彼女の保護者の名前。
昔の僕も散々お世話になった人。
「……お久しぶりです、瞬さん。なぜ僕だと判ったんですか?」
〔声紋分析と、通話ボタンを押す際の指紋分析と霊紋で。……GPSデータから住居に入ったようですが、舞花さんは寝ておられますか?〕
……この携帯、セキュリティーがとんでもなく高性能だ。
「あ、はい。明らかに体調がおかしかったので、家で寝かせてます」
〔やはり限界が来てましたか……〕
電話の向こうから瞬さんの溜息が聞こえてくる。ついでに向こうから聞こえてくる雑音がかなりひどい。結構バタバタしているようで……。
〔……すみません、一晩舞花さんをそちらに泊めて貰えませんか〕
「構いませんよ。……そっち忙しそうですもんね」
〔それもあるのですが……舞花さんはこちらに居ると、体調を崩していてもそれを隠して手伝いに来るのです。そちらに押さえ込んでおいてください〕
「あはは……了解です」
〔それでは失礼します。……詳しい話はまたいずれ〕
プツンと通話が切れる。
……とりあえず、卵がゆでも作るか。
その後ぴったり3時間後に舞花の目が覚めた。
「37.8℃か。少しは熱下がったみたいだね」
「……多分明日には平熱になるはずだよ。ありがとう」
彼女の顔色もさっきよりは大分マシになったし、食欲もある。さっき作った卵がゆしっかり食べてくれたし。
「どういたしまして。でも……あんまり無茶して心配かけさせないでね」
「……うん、気を付ける。……でも零、その言葉はそっくりそのまま返すよ」
……ん?
「僕は……そんな心配かけるようなことしたっけ?」
少なくとも、舞花と一緒にいるときはいつも彼女の方が色々災難に遭って、瞬さんとか風花さんとかに心配されまくってたと思うけど……。
僕が首をかしげると、舞花は深くため息を吐いた。
「
……咄嗟に言葉が出なかった。
「零が……零の家族がいきなり音信不通になってすぐ、瞬さんたち必死で探し回ったんだって。でもどうやっても誰一人として足取り一つ掴めなくて、風花姉に頼み込んで“夜の領域”の人たちにも手伝ってもらって、それでも見つけられなかった」
…………行方、不明。
「瞬さんから聞いたときは血の気が引いたよ……。私が星を辿って漸く居場所をつかめた」
俯いて、布団を硬く握りしめながら彼女が語る情報に絶句した。……僕が考えていた以上に大規模な捜索がされていたらしい。まさか“夜の領域”の住民……怪異たちにまで協力させてたなんて……。
……それでも、舞花が帰ってくるまで手掛かりの一つもなかったと。
「……てっきり、僕の事なんか忘れ去られてると思ってた」
「なわけないでしょ馬鹿っ。……瞬さんは片時も忘れたことはなかったって。もちろん私も」
「……ごめん」
僕の言葉を即答で否定した彼女は、また泣きそうな顔してた。っていうか既に涙がボロボロ零れてた。
僕はそっと、彼女の頭を抱きしめた。
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舞花は、詳しい事情を聞いてくることはなかった。
星を辿った、と言っていた。それなら詳細は知らずとも、部分的に把握してしまったものがあるんだろう。
まあ、僕も出来ることなら知られたくない……思い出したくもないことも色々あるし。
「……そういえば私、週明けから零のクラスに編入することになってるよ」
「ああ、やっぱり。そんな気はしてたけど……依頼内容は?」
「……表向きは他の人と同じ暗殺依頼。実際は護衛、かな。一応うちからの派遣は私だけってことになってる」
……なるほど。
舞花の家が経営している『ワールドガーディアン社』は民間護衛会社で、彼女は非正規ではあるけど社員の一人だ。そっちから依頼が回ってきたんだろう。
「他の人はサポートとかにも派遣されないの?」
「……月があんなことになった影響なのか、今世界中で怪異関係が大騒ぎしてて人手が足りてない。風花姉がキレてた」
あー……なるほどね。確か月って、神とか怪異にとってかなり重要なものだったはず。
……なんか凄くめんどくさいことになってるらしい。
「通学はどこからにする?やっぱ会社から?」
「うん、そのつもり。さすがに実家は遠いし、本社なら充分近い」
ちなみに彼女の実家は人里離れた山の中だったりする。交通手段も少ないので通学には限りなく不便だ。
「確か本社はこっからも近いっけ。一緒に登校する?もう一人隣んちのクラスメイトも一緒になるけど」
そのクラスメイトとはもちろんカルマの事。
「そうだね、一緒に登校したいな。ちなみにそのクラスメイトってどんな人?」
「成績優秀素行不良。あと人をからかうのが大好き」
「……キャラ濃いね」
「……うん」
……まあ、カルマに限らずうちのクラスは結構キャラ濃いような……。
ピコンッ
と、そのタイミングで僕の携帯にメールが届いた。
えーと相手は……烏間先生か。
どうやらE組クラスメイト全員に一斉メールで送られているもののようだ。ってことはもしかして……
『明後日から転校生が二人ほど加わる。片方は多少外見で驚くだろうが、あまり騒がず接してほしい』
やっぱり、転校生についてのメール。……けど、二人?
舞花の他にもう一人来るということか……。でもこの文面、外見で驚くって一体どういうことだろう。……怪異のような人外が来るとか?
とりあえず、またキャラが濃い人が増えるんだろうなということは容易に察することができた。