今回から転校生たちのメイン回です。
修学旅行明け最初の授業日の朝。
「おはよー、零」
「おはよう、カルマ。今日は学校行く前にちょっと寄りたいところあるんだけど」
「転校生彼女のところでしょ?お熱いね~」
「何で知ってるの!?」
……侮れないカルマの勘に目を見開く零だった。
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渚:Side
僕は今、E組の教室に続く裏山の道を杉野と一緒に登っている。
「はぁ……今日から通常授業か~」
杉野がめんどくさそうに呟く。まあ、ついこないだまで修学旅行の準備のために特別授業になってたりしたし、そこには同感。
「よう!」
「あ、おはよう磯貝君」
後ろから声をかけてきた磯貝君に、杉野と立ち止まる。
「お前らさ、烏間先生からの一斉メール見たか?」
「あ、うん」
彼の言葉に、そういえばあったなと思いながらバックの中を探って携帯を取り出す。メール欄の最新メールを開くとそこにあるのは、
『今日から転校生が二人加わる。片方は少々変わった外見だが、あまり騒がず接して欲しい』
という文章。
「この文面からしても、また殺し屋だよな……」
「うん……」
零君に続いてまたくるであろう同い年の殺し屋。でもこの「変わった外見」っていうのは……?
「それな!」
「うわぁ!?……岡島君?」
「いきなり出んな!」
横からずいっと大声と共に顔を出してきたのは岡島君。なんかやけにテンションが高い。
「お、おう岡島。朝から元気だな……どうした?」
「昨日烏間先生にな、その転校生の顔写真とかありませんかってメールしたら、これが返ってきた!」
そういって岡島君が携帯の画面を見せてくる。
そこには、紫色の髪に赤い目をした女の子の顔写真が写っていた。
……っていうか、
「……待ち受けになってる」
「岡島お前……」
なにやってんの、とちょっと呆れる。けど、
「まあ、普通にかわいいな」
「だよなっ!仲良くなれっかな~」
その顔写真を見る限り、とてもじゃないけど殺し屋には見えない。あ、でもそれは零くんに関しても言えることだった……。
とりあえずなんか携帯掲げながらはしゃぎ回っている岡島君は放っておこう。
でも転校生は二人来るって言ってたから……。
「やっほー、こんなとこで何やってんの?」
「……岡島はなにがあったの、あれ」
後ろから聞きなれた声が聞こえてきたので振り返る。
「あ、おはよう!カルマ君に零君……ってあれ?」
「君は……?」
案の定カルマ君と零君がいたのは確かだけど……その傍にもう一人、知らない女の子がいた。
金髪に青い目で眼鏡をかけていて……なんとなくどこか零君に似てる気がする。
「お、紫苑さん。数日ぶりだな」
磯貝君が軽く手を挙げて挨拶してた。知り合い?……というかこの場所で会うってことはもしかしなくても……
「京都以来ですね、磯貝君。そちらのお三方は初めまして。今日からE組に編入する、紫苑舞花です。これからよろしくお願いします」
その子は丁寧語でぺこり、と頭を下げる。
やっぱり、さっきの写真の子とは違うもう一人の転校生だ。
「あ、うん、よろしく。僕は潮田渚、渚で良いよ」
「俺は杉野友人、よろしくなー」
「俺は岡島大河!よろしく紫苑さ「あ、岡島は舞花の半径5メートル以内に近づかないで」……ひどい!?」
僕と杉野が軽く自己紹介をし、岡島君もそれに続いて紫苑さんに声をかけようとしていたけど、近づこうとしたところで零君が遮った。
いや、まあ……岡島君の目線がどこ向いてるかで理由は察した。
「お前……初対面の人の胸凝視して鼻血垂らす奴がいるかよ……」
「いや~彼氏は大変だね~零。変態から彼女守らないといけないって」
杉野は岡島君に呆れ、カルマが零君にからかうような口調で……って、え?
今、さらっとカルマ君がすごい事言ってたような……。
同じく聞き逃さなかった杉野もポカーンとしてる。零君はそんな僕らを見て苦笑いして、
「……ああ、うん。舞花は僕の彼女だよ」
「……ま、マジか。前に言ってた人か」
あー……なんか納得した。道理で見たときなんとなく似てると思った。前に確か、従妹って言ってたはず。
……それに、修学旅行の時に1班の磯貝君たちが零君の彼女に会ったって言ってたっけ……。あの時言ってた名前も一致する。磯貝君が動じてないのはそういうことか。
紫苑さんは零君の後ろで顔を赤くして、ちょっと恥ずかしそうに俯き気味になってた。
……近くで打ちひしがれてる岡島君は、とりあえず放っておこう。
「そういえば、紫苑さんは零君と同じ……その、殺し屋とかだったりするの?」
一緒に校舎に向かって歩きながら気になってたことを聞いてみる。けど紫苑さんは首を横に振った。
「舞花は殺し屋じゃないよ。それにここに編入することは、殺せんせーが来る前から決まってたことなんだ」
「殺せんせーが来る前から?」
「詳しい話は長くなるので省きますけど、両親と知り合いだった理事長が数年前に取り付けてくれた約束で、学校に通う機会のなかった私が少しでも通えるように取り計らってくれたんです」
それにこれは色々特殊なケースなので殺せんせーが居ても居なくてもE組でしたね、と紫苑さんは苦笑しながら言った。
つまり……零君みたいに殺せんせーがいるからここに通うことになったわけじゃなく、この暗殺教室でなくてもクラスメイトになると決まってた人ってことなのか。
学校に通う機会がなかったって言ってたから何か事情はあるんだろうけど……見た目は普通の女の子にしか見えない。綺麗な人ではあるけど、烏間先生がメールで態々変わった外見って言うような所は見当たらない。
ってことは、やっぱりあの写真の子がまだ何かあるのかな……。
「じゃあ、もう一人の転校生について、二人はなんか知ってる?」
杉野が続いて零君に問いかける。もしあの写真の子が殺し屋だったら、ビッチ先生や修学旅行のスナイパーを知っていた零君なら少しは知っているかもしれない。それに紫苑さんも同じ日に加わる転校生として何か聞いてるかも。
軽く、さっき岡島君が見せてくれた写真の子の特徴を話してみる。その間に復活した岡島君が追い付いてきて、実際に写真を見せた。
けど、零くんは首を横に振った。紫苑さんも首をかしげてる。
「いや、その写真の子には見覚えが無い。もし殺し屋だったらある程度の実力者は把握してるんだけど……新参者とかは政府が態々雇うとは考えにくいし」
「理事長の話だと少なくとも、私のように以前から予定されていた転校生って訳ではないはず。……でもあの人曰く、『あのような生徒が学校に通うのは世界初でしょうね』、だって」
殺し屋にそこそこ詳しいという零君が知らないってことは違うのかな?でも事前に理事長に会ってきたらしい紫苑さんの言葉で、やっぱり只者じゃなさそうだということも分かる。けど、理事長が世界初だという生徒とは一体どういう意味で……?
よく分からないまま教室の前に着く。
「さーて、来てっかな~もう一人の転校生」
そういって杉野が教室のドアを開け、中に入る。
……が、僕たちはそこで思わず止まった。
教室の一番後ろの窓際。そこにこの前までは無かった黒い物……液晶のようなものがついた縦長の箱があった。……なんか電子掲示板とかそういうのみたいな感じ。
先に来ていたらしい片岡さんや倉橋さんが教室内で固まっている。
「……何アレ」
とりあえず先に来ていた二人に一応聞いてみる。けど知らなそうだ。
「さぁ……私たちが来たときには既に置いてあったよ。……あ、紫苑さんおはよう」
「やっほー舞花ちゃん!これからよろしくね!」
「あ、よろしくお願いします二人とも」
そういえば、片岡さんも倉橋さんも修学旅行の班が1班だから、紫苑さんの事は知ってるんだ。
すでに仲がよさそうなところを見ると、彼女はすんなりクラスに溶け込めそうだ。
「お、紫苑さんじゃん。今日からよろしくな」
「あ、前原君。よろしくお願いします」
後ろから丁度、前原君がやってくる。そして、僕らと同じように教室のあの箱を目にして固まった。
「……何アレ?」
「さあ……?」
さっきの僕らと片岡さんたちと同じやり取りが繰り広げられた。
とりあえず、その場にいた面々で謎の箱の前に行ってみる。何かの機械だろうということは分かるんだけど……。
と、首をかしげていたら、箱の上のほうに付いていた画面がパッと点いた。
……そこに映し出されたのは、
『おはようございます。今日から転校してきました、自律思考固定砲台と申します。よろしくお願いいたします』
女の子の顔が画面に映し出され、口をパクパクと機械的に動かしながら機械的な声で話している。
……烏間先生からのメールにあった、紫色の髪の転校生だった。
((((((そう来たか))))))
思わず全員が心の中で突っ込んだ。
渚:Sideout
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零:Side
カツカツカツと、烏間先生のチョークが黒板を叩く音がやけに教室に響いている。……多分、普段よりチョークを持つ手に力が入ってる。
「……みんな、知っていると思うが、転校生を紹介する……。まずあちらが、ノルウェーから来た、自律思考固定砲台さんだ」
黒板に「自律思考固定砲台」と書きながら烏間先生があの転校生を紹介する。……チョークを持ってない方の腕が、先生の心境を表すかのようにわなわなと震えていた。
『よろしくお願いいたします』
窓際から機械的な音声が聞こえてくる。
烏間先生も大変だな……。声、途中で裏返ってたし、持ってたチョークが少し折れてたし。
「烏間先生、お疲れ様です……」
僕は苦笑しながら思わず呟いた。もうあの人のストレスはかなり溜まっていることだろうな……。
そんな中、教室のドア前にいた殺せんせーが噴き出して笑っていた。
烏間先生はそんな殺せんせーに、見るからにイラッとしながらも説明をする。あの転校生は思考能力と顔を持つ、れっきとした生徒として登録してあるらしい。殺せんせーが生徒に危害を加えられないという契約を逆手にとって、機械をなりふり構わず生徒にしたということだ。
……人外が来るかもとは思ってたけど、なんか、予想の斜め上を行っていた。
「いいでしょう。自律思考固定砲台さん、貴方をE組に歓迎します」
『よろしくお願いします、殺せんせー』
これを動じずあっさり受け入れられる殺せんせーはさすがというか……。クラスのほとんどが困惑してるっていうのに。
「ところで烏間先生、今日来る転校生は二人だと聞いていましたが……」
殺せんせーが教卓前に移動しながら烏間先生に問いかける。もう一人の転校生である舞花は、一緒にこの教室まで来た後に一旦職員室に行っていた。けど……
……やっぱり気づいていないのか、誰も。
烏間先生がそれに答えようとしたとき。
「ここにいますよ、殺せんせー」
舞花は、殺せんせーのすぐ隣にいた。
烏間先生が自律思考固定砲台さんについて紹介している間は既に、その場にいたんだけど……。
今気づいたらしいみんなが驚いているのが分かる。烏間先生でさえも目を見開いていた。
「ニュヤッ!?……い、いつの間に!?っていうか、紫苑さんですか!?」
「はい、数日ぶりですね。京都ではありがとうございました」
舞花は殺せんせーにお辞儀した後、僕らクラスメイトの方を向く。
クラスの半数くらいが驚きから困惑へ、どういうことだ?と頭に疑問符を浮かべてる中、烏間先生が黒板に名前を書く。彼女は書き終わるのを見た後、ニッコリと微笑みながら自己紹介をした。
「一足早く挨拶した人も多いですけど、改めて。今日からこのクラスに編入する、紫苑舞花です。これからよろしくお願いします」
ぺこり、とお辞儀をする彼女を見ながら、クラスがどこか少しだけ安心しているのを感じた。……まあ、先に紹介されてたのが
「……ねえ、零。紫苑ちゃんっていつ教室に入ってきてたの?」
隣からカルマがこそっと聞いてくる。やっぱりカルマでも気づいてなかったのか……。
「烏間先生が自律思考固定砲台さんの名前を書いている最中に」
「へぇ、零は気づいてたんだ」
「まあね」
カルマと会話しながら、教卓前の様子を見る。今は舞花が殺せんせーと握手をしようと手を出したところで、殺せんせーは僕の時見たくテンパることはなくそれに応じようとする。ただ、カルマの前例から警戒だけはしているようだけど……。
手を警戒しても意味ないよ、殺せんせー。
バシュッ、と。
一本の触手が破壊されたのは、殺せんせーと舞花が握手をした瞬間だった。
「ニュ、ニュヤ!?」
驚いた殺せんせーが慌てて飛びのく。そして、
「ニュヤッ!?」
飛びのいた先には今僕が投げたナイフがあり、辛うじて除けられたものの少し顔に掠っていた。……一応、頭が来るであろう位置に投げておいたけど、こっちはさすがに察知されるか。
クラス中がさっき以上に驚いた様子の中、隣でカルマが面白そうに僕の方を見ていた。
……まあ、カルマは今朝、僕と舞花の作戦会議軽く聞いてたからな。
今……僕の右手には、小さなスイッチが握られている。
そして教卓前、舞花の傍の足元には彼女の鞄が置いてあり、少し開きかけたファスナーからは銃口が見えていた。
冷や汗をだらだら流していた殺せんせーも、それに気づいたようだ。
「……なるほど。私が握手する手に注目している隙に、視覚外に置いた鞄からの音のない射撃……。しかも遠隔操作式で、操作したのは私が警戒していた紫苑さんではなく……ナイフと同じく零くん、ですか」
「「正解(です)」」
殺せんせーの考察にスイッチや銃を分かりやすく見せながら、笑顔で口をそろえて返事をする。
補足すると、あの遠隔操作式銃はいつもの殺せんせーなら避けられてもおかしくない攻撃でもあった。それがあんなにあっさり通用したのは、まず最初にカルマの握手騙し討ち事件があったこと。それによって殺せんせーは初対面の握手に対して必要以上に怯……警戒するようになっている。それは僕がこのクラスに来たときの出来事からも明確だ。
そして次に、攻撃したのが舞花自身ではないこと。あの銃を作って配置したのは舞花だけど、実際にその引き金を引いたのは、殺せんせーからしたら完全に認識外だったであろう僕だ。
そして、おそらく最大の理由で且つ気づきにくい点は、
今回の射撃は殺そうと思って撃ったものじゃない。殺せんせーは殺意とか殺気にとんでもなく敏感だけど、それらがない攻撃には鈍い。それは僕が偶に仕掛ける攻撃とか、僕が編入する前にカルマが試したという暗殺法……床にBB弾をバラまいてそれを先生が踏んづけた、という出来事からも察することができた。
まあ、様々な要因を組み合わせて漸く出来る一矢ってところかな。
「殺せんせー、
舞花が殺せんせーに向かって問いかける。そう、これは……僕と舞花、二人分の挨拶だ。僕は初日から今まで本気で殺しに行ったことはなかったから、その分遅ればせながらこの教室風挨拶として今朝二人で考えた。……まあ、っていっても今回も殺す気は0だった訳だけど。
それでも知ってか知らずか、殺せんせーの顔に二重丸が浮かんだ。
「もちろんです。先生の心理を巧みに利用した作戦、二人の見事な連携、とても素晴らしい!この調子でこれからもどんどん暗殺しに来てくださいね!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる殺せんせーは、自分が撃たれたというのにもかかわらず凄く嬉しそうで……本当に、変な先生だ。
「では紫苑さん、あなたの席はあそこの……零君の隣です。……ちなみに、お二人は以前からお知り合いだったのですか?今日が初対面にしては随分と息が合っていましたね」
「知り合いも何も、従妹で恋人だけど?」
殺せんせーの言葉に即答で返す。そしてすぐに両手で自分の耳をふさいだ。
……瞬間、クラスの半数くらい分の絶叫が教室中に響き渡った。ついでにその音量の半分くらいは殺せんせーの声が占めてたと思う。