暗殺教室~月と星~    作:霊花

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ちょっと時間空きましたが改稿の続き投稿します。



転校生の時間2

零:Side

 

あの後一限目のチャイムが鳴るまで質問攻めにあった……。ホント人の恋愛事情好きな人多いな……っていうか一番ノリノリだったのは殺せんせーだけど。下世話。

 

一先ずチャイムが鳴ったことによって教室の混乱は少し時間をかけながらも収まり、一応普段通りに授業に入る。一時間目は国語だ。

 

 

みんな舞花に対する興味は一旦収まったようで、今度は自律思考固定砲台の方が気になるようになった。っていうか、元々あっちは姿からして異常すぎて、注目集めるのは当たり前だよな……。

 

「でも、どうやって攻撃するんだろ?固定砲台って言ってるけど、銃なんて何処にも付いてないし」

 

「うーん、多分だけど……」

 

前の方で渚と茅野さんがコソコソとそんなことを話しているのが聞こえてきた。

 

茅野さんの言う通り、あんな見た目でも名前に砲台って付くからにはつまりそういうことな筈。ってことはあの薄い箱のどこかに銃とかがあるはずだけど、表面上はどこにも銃口なんてものはついていない。

 

……渚は薄々感づいているみたいだけど、外側についていないってことは……。

 

 

「……そして、この登場人物の相関図をまとめると……」

 

殺せんせーが板書をしようと僕たちに背を向けた時、

 

自律思考固定砲台の画面に突如緑色の文字が流れ始めた。あの文字は多分プログラムか何かだろう。

 

……少し間をおいて、バコンッと音を立てて自律思考固定砲台の側面の板が開いた。その機体の側面から機関銃やショットガンがいくつも出てくる。

 

「やっぱり!」

 

「かっけぇ!」

 

そして渚と杉野の声が聞こえた直後、自律思考固定砲台の一斉発砲が始まった。

 

その弾丸は教室中を埋め尽くす密度。みんなは急いで自分の元にも飛んでくる弾丸から教科書などで身を守る。

 

でも、これくらいの攻撃はこのクラスでも既に何度もやっている。ほぼ毎朝出欠確認と同時に行われている一斉射撃と同じような感じだ。……まあ、クラス全員の射撃分を一機でやっているのはすごいんだけど。

 

殺せんせーもその弾幕をいつものように難なく避けている。

 

「濃密な弾幕ですが、このクラスの生徒はこれくらい普通にやってますよ。それと、授業中の発砲は禁止です」

 

殺せんせーが言うと同時に一つの弾をチョークではじいていて、その注意に対して彼女は銃をしまう。そう、このクラス内では授業の妨げとなる暗殺は禁止になっている。

 

『気をつけます。続けて攻撃準備に入ります』

 

そう言うと同時に彼女の画面にまたプログラムが流れる。え、まってまだやる気?

 

射角修正、自己進化フェイズうんたらかんたら……と音声が聞こえてくる。思考能力があるとは言っていたけど……これの事か。

 

殺せんせーはニヤニヤと顔に緑の縞模様を浮かべ、その様子を見ている。

 

そして自律思考固定砲台はまた同じようにいくつもの銃を出して発砲を始める。いや、授業中の発砲は禁止って言ってたのに。気を付けますって言ったのは口先だけか。

 

 

と、そのとき。

 

バチュッ

 

殺せんせーの指の一本が破壊された。

 

これにはクラスのみんなも、殺せんせーも驚いた。……見た感じ、チョークで弾丸を弾き飛ばしたときに破壊されたように見えたけど……。

 

「隠し弾……」

 

隣で舞花がぽつりと呟いた。あっ、そういうことか。

 

さっきと違い、あの最後の一つの弾の同じ軌道上にもう一発隠してあって、前方にあった弾は避けるのではなく弾いてたから……すぐ後ろの弾が迫っても弾いた指そのものが死角になって気づかず、そのまま指に当たっていたってところか。

 

恐らく他の弾丸を含め弾道は一回目と同じものだったんだろう。だから殺せんせーはこれも同じと最後の弾になる時点で大きな油断が生じていた。

 

『左指先を破壊。増設した副砲の効果を確認』

 

そして、またプログラムが流れ始める。

 

『次の射撃で殺せる確率、0.001%未満。次の次の射撃で殺せる確率、0.003%未満。卒業までに殺せる確率、90%以上』

 

そして、画面上にまたあの女の子の顔が映し出される。

 

『それでは殺せんせー、続けて攻撃に移ります』

 

そして再びいくつもの銃が展開される。恐らくまた何かが変わっているのだろう。

 

自分で頭も体も進化する機械。殺せんせーの防御パターンを覚えそれに対応していき、人間にはできない計算された正確な射撃が可能な機械。

 

とても強力な存在だ。

 

次々と攻撃をし、さらに銃を増やして攻撃し……と殆ど絶え間なく弾が教室を飛び交う。

 

___________________________________________

 

一時間目の授業終了。授業進捗ほぼ無し。

 

……もう途中から授業なんて続けられる状況じゃなかった。先生はずっと攻撃を避けるので精いっぱいだったし、僕たち生徒側、主に弾が飛んでくる前の方の生徒は流れ弾ガードするので精いっぱいだった。

 

そしてそんな射撃の後、教室の床には自律思考固定砲台が放ったBB弾が無数に散らばっている。

 

「これ、俺らが片付けるのか」

 

どうやら彼女に弾を片付ける機能は無いらしい。聞いてもシカトだった。面倒な……。

 

そしてその後、二時間目、三時間目四時間目……結局一日中、自律思考固定砲台の暗殺は続いた。

 

 

……さすがにこれはないよ。

 

 

___________________________________________

 

 

その日の放課後。

 

「自律思考固定砲台さん、聞こえてますか?」

 

みんなが帰った頃合いを見て、舞花がスリープ状態の自律思考固定砲台に話かけていた。

 

『……なんでしょうか』

 

「あ、起きた」

 

てっきり休み時間の時見たくシカトされるものかと思ったけど違ったようだ。舞花の顔が嬉しそうに輝く。

 

クラスの殆どの人は今日の出来事で自律思考固定砲台に対して良い感情を持っていない。まあ、所詮機械だしなと傍観している人もいるけど、大抵はめんどくさい邪魔者だと思っている。

 

舞花は少し違った。困った顔をしながらも、どこか……親が子供を心配しているような目をしていた。

 

「少し話したいこと……というか言いたいことがありまして。まず一つ、授業時間中の発砲はやめて貰えませんか?」

 

『?何故でしょうか?』

 

「自律思考固定砲台さん……えっと、面倒なので『固定砲台さん』って呼びますね。固定砲台さんの発砲のせいで今日の授業は殆ど進みませんでした。私たちは殺せんせーの暗殺もやっていますが、本業は学生です。授業が受けられないのは困るんです」

 

『授業より殺せんせーの暗殺の方が重要だと思いますが』

 

「それは、私たちにとっては少し違うんです。殺せんせーの暗殺は重要ですが、私たち生徒は『殺せんせーの暗殺に成功した後』のことも考えないといけないんです」

 

「たとえば君が今日みたいな暗殺を1年続けて殺せんせーを殺せたとしよう。それは僕たちに何かメリットはあるかな?」

 

舞花の言葉に続けて僕がそう問いかけると、自律思考固定砲台……仮称『固定砲台』さんは少し沈黙した。

 

『それは……地球が救われます』

 

「それだけ、だよね」

 

『……』

 

沈黙は是と受け取ろう。答えも少し言いよどんでいるようだったし、既に何かは察しているかもしれない。

 

「それだけじゃ僕らにとってはメリットとはならないんだよ。地球が救われたって言ってもそれは今までの世の中が継続するということに過ぎないんだから」

 

「私たちE組の生徒は世間から見たら普通の中学3年生で、今年は受験があります。授業をまともに受けられなかったら受験に支障が出るし、つまりはその後の進路にまで影響が出るんです」

 

『……あなた方にとってはデメリットの方が大きいということですか』

 

「そういうことです」

 

『ですが、射撃をやめた場合私にメリットはあるのでしょうか』

 

あー……そう切り返してくるか。

 

「それは君次第だね。少なくとも、今日のような射撃を続けた方がデメリットになるだろうし」

 

『……?それはどういう意味ですか?』

 

「多分明日になればわかると思うよ。後は君自身で考えてみなよ、自分に足りないことは何なのか」

 

「あ、ちょっ、待って」

 

僕はそこで会話を打ち切り、まだ話したそうにしている舞花を連れて教室を出る。

 

多分、ここですべて教えるのは意味がない。自律思考だというなら、少しは考えて貰わないと。

 

 

 

 

 

「ねえ、舞花。君は……固定砲台さんに人間のような自我があると思う?」

 

下駄箱に着いたところで僕は振り返り、少し強引に引っ張ってきた舞花に問いかける。

 

彼女は固定砲台さんを説得しようとした。それはクラスの誰もがすぐに諦めた事だと思う。所詮は機械だから、と。

 

僕なんか、最悪は分解でもするかとか考えてたし。

 

説得して変わってもらう、それは開発者の作ったプログラム通りにしか動かないのなら恐らく無意味なことだろう。

 

……でも。

 

「少なくとも前例はあるからね。さっきの会話でも手ごたえはあったし、遅くとも数日のうちに何か変化はあると思うよ」

 

前例……ああ、『あの子』のことか。

 

自律思考固定砲台と似た存在を一人思い出す。殺せんせーという規格外もいるし確かに可能性は充分ある。

 

 

 

 

 

 

 

そういえば……。

 

「前例と言えばさ、『あの子』、最近どうしてる?」

 

「……5年前、私が国外に出たタイミングで家出してたらしくて、行方知れず」

 

「……は?ちょ、家出!?」

 

「無事なのは確認できたけど……探し出そうにも痕跡とか綺麗に消されてたよ……」

 

「まじか……」

 

___________________________________________

 

翌日。

 

教室に着いた僕らが最初に見たのは、寺坂が固定砲台さんの機体にグルグルとガムテープを巻きつけているところだった。

 

「なにやってんの?」

 

カルマが寺坂に聞く。

 

「傍迷惑なポンコツ機械を縛ってる」

 

至極端的明快な答えだった。

 

 

 

 

 

 

そして八時半になると固定砲台さんが起動した。

 

『午前8時29分、全システム起動。電源電圧安定、オペレーションシステム正常、記録ディスク正常、各種デバイス正常、不要箇所無し。プログラムスタート……ん、』

 

ここでようやく固定砲台さんは自分の状況に気付いた。なんか戸惑ったような声が彼女から聞こえてきた。

 

『殺せんせー、拘束を解いてください』

 

側面の蓋を力任せに開こうと何度も試行しているようだけど、その力だけじゃガムテの拘束を破ることはできないようだ。固定砲台さんの要求に、殺せんせーはさすがに困ったように、そういわれましても……と拘束を解く気は無いようだった。

 

『これは生徒への加害ではありませんか?貴方が生徒に危害を加えるのは禁じられているはず』

 

と彼女は言うが、それをやったのは寺坂でせんせーじゃない。

 

ゴツン、と彼女の機体にガムテープのロールが投げつけられた。

 

「違げーよ俺だよ。どー考えたって邪魔だろうが。常識くらい身に付けてから殺しに来いよポンコツ」

 

「ま、機械にはわかんないよ常識は」

 

「授業が終われば剥がすから」

 

 

 

 

 

 

その結果その日の授業中、自律思考固定砲台はずっと縛られたまま沈黙していた。……ただ、

 

前日の休み時間のようにスリープ状態にはならず、その顔はずっと教室を見続けていた。

 

 

零:Sideout

___________________________________________

 

その日の夜。E組の教室にて。

 

暗い教室の中、自律思考固定砲台の画面がその周りをうっすらと照らしていた。

 

『……私の射撃による私の被るデメリットとは、生徒に邪魔をされるということ。ですがこの問題、解決するには……』

 

その声は無機質ながらも真剣に悩んでいるようで、画面には様々なプログラムが流れていた。

 

『……私単独での解決確率、ほぼ0%』

 

それでも解決手段は思いつかなかったのか、諦めたように開発者へとメッセージを送る準備をし始める。

 

そこへ、

 

「駄目ですよ。親に頼っては」

 

ぷにょんと柔らかい音を立て、殺せんせーの黄色い触手が自律思考固定砲台の機体に乗せられる。

 

『殺せんせー。……何故ですか』

 

「あなたの親御さんの考える戦術は、この教室の現状に合っているとは言いがたい。それにあなたは転校生であり生徒です。みんなと協調する方法はまず自分で考えなくては」

 

『協、調』

 

「まず、なんで先生ではなく生徒に暗殺を邪魔されたかは分かりますか?」

 

殺せんせーのその言葉に、自律思考固定砲台は昨日の出来事を思い出す。

 

『私の射撃によって授業が邪魔されたから。それと、私が単独で暗殺に成功しても賞金はマスターへ払われ、彼らにメリットが無いから、ですよね』

 

「その通りです。やっぱり君は頭がいい」

 

『昨日、二人のクラスメイトから教えていただきました。本日の出来事からもクラスメイトの存在を考慮せずに暗殺を続けることはできないと判断しました。ですが、どうすればいいのかは分かりませんでした』

 

「なるほど、ではみんなと仲良くなりたいとは考えているのですね」

 

『はい。……先ほど計算したところ、クラスメイト28人と協力した方が暗殺成功の確率も大きく上昇するという結果も出ました』

 

自律思考固定砲台の言葉に、殺せんせーは昨日一番最後に帰った二人の生徒を思い出す。

 

(あの二人も転校生ですし……同じ立場として気になったのでしょうね)

 

思い出しながら、殺せんせーは自律思考固定砲台の前にドサリと、持って来ていた段ボールを置いた。中からは基盤や様々な道具が見え隠れしている

 

「そこまで分かっているのなら話は早い。この通り、準備は万端です!」

 

『……それは、何でしょうか?』

 

「協調に必要なソフト一式と、追加メモリです。危害を加えることは禁止されていますが、性能アップさせることは禁止されていませんからねぇ」

 

ガチャリと道具を手に持ちながらニヤリと笑う殺せんせー。すぐさま自律思考固定砲台の裏蓋を開け、改造に取り掛かった。

 

『……何故、このようなことを。あなたの命を縮めるような改造ですよ』

 

何処か戸惑ったようなその言葉に、殺せんせーは作業の手を止めずに答える。

 

「ターゲットである前に先生ですから。昨日一日で身に染みて分かりましたが、あなたの学習能力と学習意欲はとても高い。その才能は君を作った親御さんのおかげ、そしてその才能を伸ばすのは、生徒を預かる先生の役割です。みんなとの協調力も身に付け、どんどん才能を伸ばしてくださいね」

 

そのセリフは、殺せんせーがとても立派な教師であることがよく分かるものだった。

 

ただ、

 

『殺せんせー。この世界スイーツ店ナビ機能は、協調に必要ですか?』

 

 

殺せんせーの弱点①カッコつけるとぼろが出る

 

……今回も例外ではないようで。

 

 

「ニュヤッ!その、先生もちょいと助けてもらおうかと……」

 

甘かったですかね、と折角カッコいい事言ったのに締まらない殺せんせーだった。

 

 


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