暗殺教室~月と星~    作:霊花

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改稿中です。




LとRの時間

零:Side

 

現在は6時間目の授業。ビッチ先生による英語の授業が行われている。

 

タブレットから映像を流しながら、ビッチ先生は黒板に英文を書いていく。

 

「今見せたサマンサとキャリーのエロトーク。難しい単語は一個も無かったでしょ?」

 

……うん、確かに中学英語で出来そうなのばっかりだったけど。中学生相手の映像教材としてはどうなんだろう……。15歳にさえなってないメンバーもいる中でだと、内容的に結構アウトだった気がする。

 

「日常会話は結構単純。周りに一人はいるでしょ?『マジすげぇ』とか『マジやべぇ』だけで会話を成立させる奴。この『マジ』にあたるのが『really』。木村、言ってみなさい」

 

そう言って木村君を指名する。

 

「リ、リアリー」

 

その発音に、ビッチ先生が指で×を作る。

 

「はい駄目。LとRがごっちゃ混ぜ。舞花、言ってみなさい」

 

木村へのダメ出しの後、今度は舞花を指名。

 

「は、はい。really」

 

舞花は最近まで英語圏にいたからなのか、発音はしっかりしている。

 

RはLと違って舌を浮かせた状態で発音するから、reallyの場合最初の『リ』の前に小さくウが入るようなイメージかな。

 

「ええ良いわ、流石ね。日本人にとってはこの発音は相性が悪いの。木村のような発音だと通じはするけど違和感があるわ。苦手なものは逃げずに克服する。LとRの発音を間違えたら……公開ディープキスの刑よ」

 

 

この痴女。間違えても間違えなくてもディープキスするだろ。

 

 

その後に即実行と、間違えた罰として木村がビッチ先生のディープキスを食らった。

 

ついでに褒美だと言いながら舞花にも迫ってきていたが、問答無用でその脳天にチョップかましたので未遂で終わった。

 

___________________________________________

 

 

―――次の日。一時間目の体育。

 

僕たちは丸太の上に立って、ナイフを吊るされたボールに向けて振るっていた。バランスを取りながら攻撃を繰り出すための訓練で、最初の頃は何人か落ちまくってたっけ。今じゃ落ちることはほぼ無くなってきてるけど。

 

……隣を見て見ると、このクラスに入ってまだ短い舞花が同じようにナイフを振るっている。とりあえずこの訓練は問題なくこなせていた。ナイフでの戦闘は苦手のようだけど、バランスに関しては抜群にいいみたいだ。

 

 

 

ふと、視線を少し遠くへずらした。校庭の端の木陰、茂みのところへと。

 

……そこには3人の人影があった。

 

「烏間先生、あれ……」

 

「……気にせず続けてくれ」

 

倉橋さんが問いかけると、どこか疲れたように答える烏間先生。その疲れの原因は、全員気になって仕方がないであろう、茂みのところのアレだろうけど……。

 

 

((((((なんか狙ってるぞ))))))

 

 

忍者のような格好をしてこちらを見ている殺せんせーはまだいい。いや、謎だけど。まだ殺せんせーだからという理由で片づけられる。

 

問題は、同じ場所から対先生ナイフを片手に、獲物を見るような目で烏間先生を見ているビッチ先生。……そして同じように対先生ナイフ片手に烏間先生を窺っている人物がもう一人、みんなが初めて見るであろう初老の男性。

 

その姿を見て僕は思わず吹き出しかけた。

 

 

え、そんなところで何してるんですか、ロヴロさん。

 

 

ロヴロさんは殺し屋の斡旋をしている人物で、僕も何度か仕事関係で会っている。そういえば確か、ビッチ先生は彼の弟子だったはずだけど……。

 

 

 

 

 

その後、行われた烏間先生の事情説明によると……

 

昨日ロヴロさんがここに来てビッチ先生にこの教室から撤退しろといったらしい。そしたら殺せんせーが間に割って入って二人で暗殺勝負をしてみたらと持ち掛けたらしい。そしてその場に居合わせた烏間先生が被害者役を押し付けられたということ。

 

ルールは単純、今日一日の間で烏間先生に先に対先生ナイフを当てたほうが勝ち。ビッチ先生が当てればE組残留決定、ロヴロさんが当てればビッチ先生はこの教室から去ることになる。

 

「迷惑な話だが、君等の授業に影響は与えない。普段通り過ごしてくれ。今日の体育はこれまでだ。解散!!」

 

説明している時の声にも疲れの色が見えたのは気のせいじゃないだろう。

 

「……苦労が絶えないな、烏間先生」

 

「うん。……律ちゃんの時も今回も、よく普段通りでいられるよね」

 

僕が言うと隣の舞花も苦笑いしながら答える。

 

「イリーナ先生には、残ってもらいたいんだけどな……」

 

続けて舞花はぽつりとそうつぶやいた。……ちなみに舞花はE組生徒の中で唯一、ビッチ先生をファーストネームで呼ぶ。僕達生徒から呼ばれているあだ名を知った後も変えなかったので、ビッチ先生にはすぐに気に入られてたっけ。

 

 

 

今回の勝負の勝率はぱっと見、ロヴロさんのほうが高いかもしれない。

 

これまでこの教室にいたビッチ先生のほうが有利に見えがちだけど、ロヴロさんは老いが来ているとはいえ元は腕利きの殺し屋。それを考えるとビッチ先生はかなりの不利。だって色仕掛け専門だし。

 

現に今、こちらに向かってきているようだけど……。

 

「烏間先生~!お疲れさま~。喉乾いたでしょ?はい!冷たい飲み物!!」

 

ビッチ先生は烏間先生に向かって走りながら水筒の飲み物を差し出していた。

 

それを見ながら僕が頭を抱えたのは悪くないと思う。正直見てられない。

 

どう考えたってあの飲み物に何か入ってる。これに気づかない人はこのE組にはいないだろう。

 

「大方筋弛緩剤か……」

 

烏間先生も勿論分かっているので間合いに入られる前に距離を取った。

 

通用しないと分かった後はビッチ先生、転んでみせておぶってと言い始め……見ているこっちが恥ずかしくなってきた。

 

烏間先生はやってられないと言いながら教室に入っていった。

 

「……アレじゃあ無理そうだよな」

 

「う、うん……」

 

まあ、まだどっちに転ぶかは分からないけど。……ビッチ先生もプロでやってきてるんだ。この教室に来てから今まで何もやってないということは無いだろう。

 

___________________________________________

 

 

――2時間目終了後の休み時間。

 

廊下に出ると、少し離れた所でロヴロさんがこちらを見ていた。

 

「久しいな、新月」

 

なんとなく周囲に何か仕掛けられてるんじゃないかとか警戒してしまったが、今回は何もなさそうだ。この人、出合い頭に罠仕掛けてきたりするからな……。

 

「お久しぶりです、ロヴロさん。とりあえずこのクラスではコードネームで呼ばないでください。ここでは桐紫零という名前です」

 

「ほう……。中々に洒落の利いたネーミングだな。名付けはアインか」

 

 

……なんで間髪置かずに理解しちゃうかなぁこの人。

 

アインというのは、僕の師匠のコードネームだ。

 

「……まあ、その通りですけど。ところで、いつ殺りに行くつもりですか」

 

ちらりと職員室の方を見ながら問いかける。

 

彼は一時間目からしばらく様子見をしていたようだが……。

 

「なに、今から殺るさ」

 

彼はそう答えた後、スッと音を立てずに職員室前へ移動する。

 

「……まあ頑張ってください」

 

僕も様子を見たいので気配を消してその近くへ寄る。

 

 

 

どうするつもりなのかと思っていたら、ロヴロさんは正面から突っ込んでった。

 

 

扉を開けた瞬間、室内にいた教師全員がロヴロさんに気づく。烏間先生は立ち上がって対応しようとしたようだが、椅子を引くときに何かにつっかえて姿勢が不安定になった。恐らく事前に椅子が引きにくくなるよう、ストッパーになるよう床に細工がしてあったんだろう。

 

一瞬だけでも反応が遅れれば、手練れ同士では特に命取りになる。

 

その隙を逃すまいとロヴロさんのナイフが先生に迫る。

 

 

 

しかし。

 

ナイフが当たるかと思われた瞬間、その手が机に叩きつけられた。

 

そして間髪置かずに烏間先生の膝蹴りがロヴロさんの顔すれすれのところに置かれた。

 

 

 

うわぁ……ドアが開いてからここまで、わずか3秒。

 

……あの不安定な状態での素早い対応、流石としか言いようがない。

 

「熟練とはいえ……年老いた殺し屋が、先日まで精鋭部隊にいた人間を随分簡単に殺せると思ったものだな」

 

落ちた対先生ナイフを拾いながら、烏間先生がロヴロさんに向けて言い放つ。

 

……あ、これ烏間先生が想像以上に本気だ。関係のない僕まで冷や汗掻いて思わず臨戦態勢取りそうになった。

 

烏間先生はヒュンとナイフを振ると、向かいの席にいるビッチ先生と殺せんせーに向ける。

 

「分かってるだろうな……もし今日中に殺れなかったら……」

 

「「ヒイイィィィィッ!!」」

 

2人の教師が、情けない悲鳴を上げた。……ん?なんで殺せんせーも怯えてるんだ。

 

「ま、負けないでイリーナ先生!頑張って!」

 

殺せんせーがなんかガチ目にビッチ先生を応援してる。いやまあ、殺せんせーが彼女を応援すること自体はおかしくないけど。

 

 

「……楽しみだな」

 

職員室を出ていく烏間先生が残した一言が、何気に怖かった。

 

 

 

 

 

この後、ロヴロさんが先ほどの烏間先生との応酬で手に怪我を負ったことが分かり、彼は勝負を諦めたようだった。

 

後は、ビッチ先生がどうするか。

___________________________________________

 

 

昼休み。

 

僕は教室で渚やカルマと一緒にお弁当を広げていた。隣では舞花が茅野さんとデザート談議で盛り上がっている。

 

そういえば舞花は来て早々に茅野さんと仲良くなってたっけ。背が低いもの同士というのもあるかもしれない。まあ、舞花がお弁当と一緒に持ってきていた手作りプリンが最初の切っ掛けっぽかったけど。

 

「ねえねえ、渚君、零。見てみなよ、あそこ」

 

「ん?」

 

珍しく窓際まで来ていたカルマがそう言って指差すのは、校舎の外にある大きめの木の下。

 

「ああ、烏間先生ってよくあそこでごはん食べてるよね」

 

それに気付いて茅野さんや舞花もくる。

 

「そしてそこに近づく女が一人。殺る気だね、ビッチ先生」

 

カルマが言うと同時に、様子に気づいたクラスのみんなが窓側に集まる。

 

ここからだと声は聞こえないが……。

 

「さっきイリーナ先生の服に盗聴器仕掛けてみたんだけど、聞く?」

 

「おお、舞花ちゃんナイス!」

 

『では、拾った音声はこちらで流しますね!』

 

舞花がいつの間にやらビッチ先生の服に盗聴器を仕掛けていたらしく、そこから拾える声を律が聞き取りやすいようリアルタイムで編集して流してくれることになった。

 

 

 

〈ちょっといいかしら、烏間〉

 

〈なんだ。言っておくがこれ以上手は抜かないぞ〉

 

2人の会話が始まる。ビッチ先生は言葉を交わしながらスルリと上着を脱いだ。

 

〈私はこの教室にどうしても残りたいの、わかるでしょ?ちょっと当たってくれれば済む話よ〉

 

ビッチ先生は脱いだ上着を地面に置く。また色仕掛けをするつもりか……ん?ちょっと待て。

 

今、上着に何を仕込んだ?

 

 

〈見返りはイイコト。あなたが今まで受けたことの無い極上のサービスよ〉

 

そういいながらナイフを持って烏間先生のもたれかかっている木の後ろに行く、でもナイフの他にもう片方の手……見えづらいけどアレってまさか。

 

〈いいだろう。どこにでも当てればいい〉

 

そう言う烏間先生。そんなビッチ先生に失望したのか降参しているようにも見えるが、気は抜いていない。恐らく攻撃された時にナイフを奪って終わりにするつもりなんだろう。

 

だけど、これはビッチ先生にとっての……最後のチャンスだ。気は抜いていなくとも、油断はある。

 

〈じゃ、そっちに行くわね〉

 

その瞬間、ビンッと烏間先生の足に脱ぎ捨てられた上着と共に何かが引っかかり、そのまま烏間先生の体勢が大きく崩れる。

 

アレは恐らくワイヤートラップだ。ビッチ先生の脱いだ服と木を使って、色仕掛けでさらにカモフラージュしてやったビッチ先生ならではの複合技術。

 

そしてその隙にビッチ先生は走り、体勢を崩した烏間先生の上に乗った。

 

「烏間先生の上を取った!」

 

「やるじゃんビッチ先生!」

 

教室内のみんなは驚いたり喜んだりして騒ぐ。今何が起こったか分かっていないメンバーには、律が図解して説明している。

 

しかしここで、ビッチ先生の振り下ろしたナイフは烏間先生の腕によって阻まれた。

 

グググッと均衡状態が続く。こうなると力勝負、ビッチ先生の勝ち目は……

 

その時、ビッチ先生の口が動いた。

 

〈殺りたいの、ダメ?〉

 

「……おいこら」

 

暗殺対象に殺させてくださいと縋る殺し屋がいるか!?

 

しかし、烏間先生はその諦めの悪さに辟易したのか、掴んでいた手を離し、ビッチ先生のナイフは彼に当たった。

 

「やったー!!」

 

「ビッチ先生残留決定だ!!」

 

それを見てみんなは拍手を送って喜ぶ。

 

 

 

こうして、卑猥で高慢……けれど真っ直ぐなビッチ先生はE組で英語教師を続けることになった。

 

___________________________________________

 

 

ちなみにその後烏間先生に、この勝負でやけにやる気を出していた理由を聞くと、

 

「ああ、今日一日ナイフを避け続けられれば、奴は俺の前で一秒間身動きをしないという約束をしてな」

 

烏間先生の言う奴とは殺せんせーの事で。

 

なるほど、スピード特化の殺せんせーが動かないとなると、かなり有利に暗殺ができる条件だ。そりゃ本気にもなるわな。

 

 

けれど、

 

「おい、あの甲冑は一体なんだ?」

 

烏間先生が殺せんせーに向かって問い詰めているのは、職員室の隅にいつの間にか用意されていたモノ。

 

ピカピカと金属光沢を放つ、殺せんせーのシルエットをした甲冑。

 

「いやあ、万が一の一秒間の時のためにと……」

 

殺せんせーは約束の一秒間のために、自分専用の全身甲冑を作っていたようだった。

 

 

 

……まあ、そう簡単にやらせてくれるわけないよね。

 

 

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