暗殺教室~月と星~    作:霊花

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改稿中……というか今回は、新しく付け足した話ですね。

イトナ君の話の前に、マッハで映画観に行くあの話です。


映画の時間

零:Side

 

ビッチ先生たちの暗殺対決から二日経った今日。

 

授業がすべて終わった放課後。さっさと帰宅する人、だらだらと教室に残ってる人、寄り道して遊びに行こうとしている人など、みんなが思い思いに過ごす中。

 

「ヌル~ン、ヌルフ~ン……♪」

 

教卓で殺せんせーが鼻歌交じりに何かの雑誌を読んでいた。

 

「ご機嫌ですね、殺せんせー。この後何かあるんですか?」

 

気になった磯貝が殺せんせーに向けて、何気ない動作で銃を撃ちながら尋ねる。

 

殺せんせーはその攻撃に対し、雑誌に目を向けたままいつも通りあっさりと避ける。

 

「ええ。ハワイまで映画を見に行くんですよ。先にアメリカで公開するので、楽しみにしていたんです」

 

「えー!ずるいよー先生」

 

「ヌルフフフ、先生のマッハ20はこういう時のためにこそ使うのです」

 

中村さんの言葉に、殺せんせーは笑いながら話す。

 

 

 

 

こんな会話が教卓周りで行われている頃、僕は渚の席でカルマも加えて三人で映画の雑誌を見ながら駄弁っていた。

 

僕達のところで話題になっていた映画は『ソニックニンジャ』というヒーロー物。僕は映画とかあまり見たことなかったけど、この作品は弟子仲間が大ファンで熱烈に勧めてきたことから、観た事のある数少ない映画だ。

 

渚とカルマも結構なファンらしくて、続編が出てアメリカで先に公開されるという情報もあったことから渚の買ってきた雑誌を三人で見ながら話してたんだけど……。

 

 

殺せんせーが見てる雑誌、こっちのと同じやつだ……。

 

 

その後、向こうの会話で案の定『ソニックニンジャ』の名前が出てきたことから、殺せんせーがこの後見に行くという映画はこれで間違いなさそうだ。

 

同じ机の二人もその会話が聞こえたようで、少しの間呆気にとられた後「これはチャンスじゃね?」と顔を見合わせた。

 

 

___________________________________________

 

十数分後。

 

そろそろ出発するようで殺せんせーが校舎の外に出ていった。僕たちはちょっと急いでその後を追う。

 

「さて、そろそろ行きますかねぇ」

 

「殺せんせー!」

 

渚が呼び止めると殺せんせーはこちらを振り向き、渚の持つソニックニンジャが特集されてる雑誌に目を向けた。

 

「お願い、僕らも連れてってよ」

 

「おや。『ソニックニンジャ』お好きなんですか?」

 

「うん、続編出るのずっと待ってたんだ!」

 

渚は先生の問いかけに目をキラキラさせながら答える。こんなに顔を輝かせた渚は初めて見たな……。

 

「カルマ君がヒーロー物とは意外ですねぇ」

 

次に殺せんせーはカルマの方を見る。うん、それはさっき僕も同じこと思った。まあ、カルマの場合はストーリーとかよりは、

 

「監督が好きでさ。アメコミ原作手掛けるの珍しいから」

 

……ってことらしい。

 

「ちなみに零君は……」

 

「映画ってほとんど見たことないんだけど、知り合いにこの映画の大ファンがいてね。しつこく熱烈な布教受けて、観てみたら結構気に入っちゃって」

 

結果的にこうして友達との共通の話題になってるから、これを勧めてきたアイツにはムカつくけど結構感謝してる。

 

『私も行きたいです、渚さん!』

 

と、突如どこからか聞えてきた律の声。

 

どうやら渚のスマホから聞こえてきたようで、渚が取り出すと画面には『おじゃましてます』というプラカードを持った律の姿があった。

 

曰く、僕ら生徒との情報共有を円滑にするため、ほぼ全員の携帯に自分のデータをダウンロードしてみた、ということらしい。通称『モバイル律』。

 

ちなみにほぼ全員というのは、舞花の携帯だけまだダウンロード出来てないらしいから。まあ彼女のスマホは、セキュリティがバカ高いからなぁ……。どうやら後程ケーブルで直接データを入れることになったらしい。

 

閑話休題(それはともかく)

 

『殺せんせーのマッハのお出かけ、一度体験したいと思ってました。カメラの映像が今後の暗殺に役立つかもしれません』

 

うん、確かに。普段殺せんせーがどんな風に移動しているのかが見れる、貴重な機会だ。

 

 

「ふむ……いいでしょう。映画がてら君たちにも先生のスピードを体験させてあげましょう!」

 

 

 

そしてその殺せんせーの言葉と共に、

 

僕達は一瞬で殺せんせーの服の中に入れられていた。

 

 

……。

 

 

「れ、零君カルマ君、軽い気持ちで頼んだけど僕らひょっとして、とんでもないことしてるんじゃあ……」

 

「さあねー。そーいや身の安全までは考えてなかった」

 

隣で渚が顔を青ざめさせて言った言葉に、カルマは軽い言葉で返したけど、珍しくカルマの声も震えてる。

 

そもそも今やろうとしてることって不正渡航以外の何物でもないけど、とりあえずそれは置いといて。

 

……前に僕が無理やり乗せられた戦闘機は最高速度マッハ2弱位のスピードだったけど、あれでも結構ビビったからなぁ。

 

今の状態ってどう考えてもほぼ生身だし、20までは行かずともマッハに耐えられるかと言われると……。

 

「ご心配なく。君たちの体に負担をかけないようにゆっくり加速しますからっ」

 

……どうやら僕たちに気を使ってその辺調整してくれるらしい。

 

っとその殺せんせーの言葉が終わるか終わらないかのところで先生は飛び立った。

 

 

 

「「「うわああああああっ!?」」」

 

 

いきなりの衝撃で僕たちは堪らず悲鳴を上げる。ただ、確かに僕たちの負担にならないようにしてくれているようで、体にダメージはない。

 

「は、はっや」

 

「はははっ、すっげーもう太平洋見えてきた!」

 

「飛び立って数秒で音速超えてるとか……」

 

渚は素直に驚き、カルマは驚きながらもちょっと楽しそうで、僕は次元が違い過ぎるなと遠い目をした。

 

これが、いつも殺せんせーが見ている景色なんだよな……。

 

 

「あれ?風の音とかあんまり聞こえないね。ほとんど先生の頭で弾かれてる」

 

「良いところに気が付きました渚君。秘密は先生の皮膚にあります」

 

渚の疑問に先生が答える。どうやら殺せんせーの皮膚は普段は柔らかいが、強い圧力を受けると硬くなるらしく、それでマッハの風圧にも耐えられるそうだ。

 

「先生の皮膚と似た原理なら君たちの身近にもありますよ」

 

簡単な説明が終わったと思ったら、そんな言葉と共に今度はビーカーや水、片栗粉などを取り出す殺せんせー。

 

どうやらダイラタンシー現象について実験を交えながら説明するらしい。確か……強く握ると個体のようにつかめて、離すと液状になる現象、だったっけ。

 

 

……音速飛行中に授業とか。というか水はともかく片栗粉とかなんで持ち歩いてるのかなぁ。

 

 

『暗殺しないのですか?零さん、カルマさん』

 

律がこそっと声をかけてきた。密着している今は大チャンスだろうと。

 

いやー……そうは言うけどさ。

 

「それ、先生を殺せたとしても僕たちも死ぬよね」

 

「そうそうー。マッハで太平洋にドボンッとか、万一その場で死ななくても無事に帰れる気はしないし、完全に殺せんせーの思うつぼだ。大人しく授業受けるしかないよ」

 

カルマもその辺理解してるから、さっきから珍しく大人しいんだよな。

 

 

 

 

そんなこんなで。

 

丁度実験が終わったあたりで僕たちはハワイに到着した。いつの間にか夜の空になってて上空は真っ暗だ。

 

「―――とまあ、ダイラタンシー現象は最新の防弾チョッキにも応用されている技術なのです。一つ賢くなったところで、映画館はこの下ですよ」

 

僕達はふわりと下ろされ、先生はスッといつもの変装をした。

 

 

……うん、マジで来ちゃったよハワイ。

 

 

 

映画館内に入ると、ひんやりとした空気が体を冷やしにくる。相変わらずこっちの映画館は冷房効かせすぎだと思う。外との温度差で思わずくしゃみが出た。

 

「ハワイの室内はとにかく冷房が効いています。皆さん、ちゃんと防寒の準備をしてください」

 

「あ、ありがとうせんせー」

 

そう言いながら殺せんせーは僕たちに薄掛けを渡してくれた。……この薄掛け、ぱっと見ハート柄に見えたけど、よく見たら一つ一つのハートの中に殺せんせーの顔がある。渡されたカルマが微妙な顔をした。

 

『映画館は初めてなので、とっても楽しみです!』

 

渚の携帯の中で律がもふもふのコートを着ながらはしゃいでいた。そういえば映画館って携帯の電源切らないといけないはずだけど……今回はバレなきゃいいか。

 

「そういえば、ここアメリカだから日本語字幕無いんだよね。スジ解るかな……」

 

渚が薄掛けを羽織りながら不安げに呟く。あー……

 

「……英語音声の映画は慣れてないと聞き取りちょっとキツイか」

 

「大丈夫ですよ。三人とも英語の成績は良好ですし、イリーナ先生にも鍛えられてるでしょう?……それと、先生の触手を耳に」

 

先生の言葉と共にニュルッと黄色い触手が目の前に。触手の先端は丸くなっていて、なんか小さな口がついてる。

 

習っていない単語が出てきたら解説します、とのことだった。……ほんとに何でもありだなこの触手。

 

そして先生から更にコーラとポップコーンを渡された。いつの間に買ってきたんだろう……。

 

映画館内がじわじわと暗くなってくる。いよいよ上映が始まった。

 

 

 

 

主人公のソニックニンジャは「悩みながらも世界を救う孤独のヒーロー」という、僕達の年頃ならみんな一度はあこがれるんじゃないかと思うベタながらも魅力的なキャラクター。

 

出てくるキャラクターの魅力もさることながら、舞台演出もとても凝っている。ソニックニンジャ……直訳すれば音速の忍者ってわけで、文字通り音速で移動したりするわけだけど、そこの表現も良く出来てる。

 

隣で渚もさっきの不安はどこへやら、って感じで映画に引き込まれていた。聞き取りも大丈夫そうだ。……さらに隣に座る殺せんせーがなんか顔をピンク色に染めてるんだけど。

 

「G……いやHですね……」

 

……あ、目当てはヒロインか。この顔色の殺せんせーがどこを見ているかなんて一目瞭然だった。

 

 

 

 

___________________________________________

 

 

怒涛の展開を迎えながら、それでも映画は良いところで終わりを迎えた。これ、また続編が気になって仕方がないんだけど……作り方がうまいなぁ。

 

 

 

 

……映画館を出るとき。斜め前方向から妙な視線を感じ、なんとなくそっちに目を向けた。

 

 

―――赤い眼が、こちらを見ていた。

 

 

「……~ッ!!?」

 

即座に目を逸らす。そして必死に表情を取り繕った。え、『今僕が一番会いたくないランキング』トップ3を常にキープしてる奴がいるんだけど。

 

いやなんでアイツがここにいるんだ。確かに『ソニックニンジャ』の大ファンだし映画を観に来てるのはおかしくはないけど、よりにもよってなんでこの映画館だよ、なんで同じ日時なんだよ!?

 

「あれ、零君どうかした?」

 

「……いや、何でもないよ」

 

 

……―――落ち着け、焦るな。別にアイツが僕に気づいたわけじゃない可能性もある。今は眼鏡かけてるし目の色も違う。

 

ただ隣にいる殺せんせーの巨体が気になっただけって可能性の方が高い……と信じたい。

 

 

 

なんかさっきから号泣しぱなしの先生を急かし、僕たちはE組の校舎までまたマッハで帰った。

 

 

 

 

 

 

 

「面白かったー。あそこで引かれたら、続編めっちゃ気になるよね!」

 

「あはは、同感!」

 

E組校舎に着くと、渚が興奮まだ収まりきらずといった感じに声を上げ、僕もそれに同意する。

 

「けどさー、ラスボスがヒロインの兄だったのはベタベタかなー」

 

「えっ、あ、うん」

 

「ベタな設定かもしれないけど、僕はあーいう展開結構好きかな。……リアルじゃ御免だけど」

 

『ハリウッド映画一千本を分析して、完結編の展開を予測できます!実行しますか?』

 

「こら律、そんなことしたら監督とか脚本家が泣くよ」

 

律の言葉に、ため息を吐きながら返す。

 

「別にやらなくていいからね!……それにしてもカルマ君も律も結構冷めてるなぁ」

 

うん、なんていうかこの二人は結構ドライな反応をしている。……けど、

 

僕らは同時にスッと同じところに目を向ける。

 

……そこにはなんか、顔の輪郭がふやけるくらいに号泣し続けている殺せんせーの姿が。

 

「生き別れの兄と妹……何と過酷な運命なのでしょう……」

 

「……かと言って、いい大人があれはどうなの?」

 

 

殺せんせーの弱点⑬:ベタベタで泣く

 

 

弱点メモがまた増えた。この先生はなんと、ハワイから東京までずっと泣きっぱなしだった。

 

 

 

「それじゃあ、もうそろそろ帰ろっか」

 

時計を見ると、既に結構遅い時間なのが分かる。僕やカルマはともかく、渚の家は結構厳しいからあまりゆっくりはしない方がよさそうだ。

 

「今日はありがとう!殺せんせー」

 

「さようなら」

 

「はいさようなら。夜道は気を付けて。……あと、明日までに映画の感想を英語で書いて提出しなさい」

 

殺せんせー、ようやく泣き止んだと思ったらこの一言。

 

「「宿題出んの!?」」

 

「タダでハワイまで行けたんだから安いものです」

 

今日は旅費代わりに追加課題をやらないといけないらしい。面倒だけど、まあ……元々舞花に感想聞かせる約束してたし、話しながら書けばいっか。

 

 

 

 

 

零:Sideout

 

___________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

―――時は少し遡る。

 

ハワイの映画館付近にて、

 

 

 

「ふーん、アレが100億円の賞金首、か……」

 

ボソッとそんな言葉をつぶやいた一人の人物が見ているのは、先ほどまで殺せんせーとE組生徒3人がいた場所。

 

その人物……真っ白な髪の少年は面白いとばかりに血色の目を細めて笑う。

 

(国家機密指定されてるにしては、変装ド下手糞だったなぁ~。だというのに周りに殆ど違和感を感じさせてなかったのは吃驚したけどさ)

 

それに、と彼は殺せんせーの傍にいた3人の生徒を思い出す。

 

(赤髪の奴は一般人にしては結構強そうな感じだったし、()ったらそこそこ楽しめそうだ。水色髪の奴は弱そうだけど、何か面白そうだし。……にしてもアイツ)

 

最後の一人の様子を思い浮かべたところで、彼の持っている携帯のバイブが響いた。

 

携帯を取り出して着信画面を見た彼は、ゲッと顔を歪ませる。

 

「はいもしもし……あーはい分かってますよー俺が仕事忘れてるわきゃないでしょう。ちょっとくらい映画の余韻に浸ってもいいじゃないですかー!結構熱い展開してたんですよ!……あ、はい、興味無いですか。……分かってます今行きますから、っと……ところで師匠(センセイ)

 

電話口から聞こえてくる叱咤に、彼は面倒くさいとばかりに適当に返す。そしてふと声色が変わった。

 

彼の脳裏には、先ほど見かけた3人の生徒のうち最後の一人……見知った青髪の少年の姿が浮かび上がっていた。

 

「さっきね、零の奴見かけたんですよ。噂の百億円賞金首やそこの生徒と一緒でしたね。んで……アイツ、あの状態で良いんですかね?完全に毒気抜かれてましたけど、雰囲気マジ別人でしたけど……計画に支障きたしませんか」

 

他二人の生徒たちや賞金首の教師と仲良さげに明るく会話する零の姿は、この少年にとって全く見慣れない物で、本当に同一人物かどうか思わず凝視して探ってしまったほどだった。視線に気づいた零の僅かに動揺した様子から本人だと確信したわけだが。

 

 

【挿絵表示】

 

 

〔……――――〕

 

彼の言葉に通話先は暫し沈黙するが、すぐに返答が来た。

 

「……そうですか。それなら別にいいです。そんじゃ」

 

彼はまた適当に返事をすると、プツンと通話を切って歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クフフッ」

 

堪え切れないという様に、嬉しそうな笑い声が漏れ出た。

 

 

「早くお前と殺り合いたいなぁ……零」

 

 

 

不穏な独り言と共に、彼の姿は暗闇に消えていった。

 

 

 

 




最後に新たなオリキャラが出てきましたが、彼が本格的に関わってくるのはまだ先の話です。

ついでにキャラ紹介ページ以外で挿絵載せたのは初めてですが……今回初登場なのにヒロインより先に出しゃばりましたねあの男。

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