暗殺教室~月と星~    作:霊花

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改稿中です。


まさかの時間

零:Side

 

 

―――放課後になり、イトナ君の言ったとおり彼の暗殺が始まろうとしていた。

 

そしてそれは、今までの暗殺とは全く違った形のものだった。

 

「これは……机のリング?」

 

「あぁ、まるで試合だ。こんな暗殺を仕掛ける奴は始めてだ」

 

教室の外ではビッチ先生と烏間先生が話していた。ビッチ先生の言う通り、教室には殺せんせーとイトナ君を囲むように机が並ばれていて、その外側の周りに僕たち生徒がいた。

 

 

リングの中で、イトナ君が上着と首元のファーを脱ぎ捨てた。その下は動きやすそうなノースリーブ。

 

「ただの暗殺は飽きてるでしょ殺せんせー。ここは1つルールを決めないかい?リングの外に足がついたらその場で死刑!!……どうかな?」

 

シロさんがそう問いかける。そんな条件誰が飲むかと普通は思うけど……殺せんせーにはこういう縛りこそよく効く。なにせ、

 

「みんなが見ている前で決めたルールを破ったら、殺せんせーの信用が落ちる。……それは避けたいはずだよ、先生は」

 

隣でカルマが代弁してくれた。

 

 

「……いいでしょう。そのルールを受けます。ただしイトナ君、観客に危害を加えても負けですよ」

 

殺せんせーがいった言葉に対してイトナ君はコクリと黙ってうなずいた。

 

そしてシロさんが合図のために右手をあげた。

 

 

 

 

 

「では、暗殺……開始!!」

 

 

その合図とともに、

 

 

……殺せんせーの左腕が切断された。

 

 

クラスの全員が、先生たちも含めて全員がソレに驚く。

 

僕達が驚いたのは殺せんせーの触手が一瞬で切り落とされたことに対して……ではなく。それを切り落としたモノに対して。

 

 

 

 

あれは、

 

「まさか……触手!?」

 

イトナ君の頭には何本もの髪の毛と同色の触手。それがヒュンヒュンと風切り音をさせながら動いていた。

 

なるほど、だから雨にぬれていなかったのか。多分雨粒とか全部触手で弾いていたんだろう。

 

 

「何処だ……」

 

……あ。

 

ゾクッと。突然襲ってきた寒気に僕は思わず身震いをした。

 

 

「何処でそれを手に入れたっ!!その触手を!!」

 

 

その声の主……殺せんせーを見れば、その顔は真っ黒に染まり、ピキピキと血管のようなものが浮き出て、目が赤く光っていた。前に渚に聞いたことがある……ド怒りの顔だ。

 

初めて見たけど、あそこまで雰囲気までも変わるとはね……。

 

「君に言う義理は無いね殺せんせー。だがこれで納得したろう?両親も違う、育ちも違う、だが……この子と君は兄弟だ。しかし怖い顔をするねぇ、何か嫌な事でも思い出したかい?」

 

 

シロさん……いや、シロはどうやら殺せんせーの事をよく知っているらしい。

 

両親も育ちも違う……か。それに殺せんせーの……どこで手に入れた(・・・・・)、という言葉。

 

彼の言い様とイトナ君の様子から、様々なことが推測できてしまった。嫌な予感はしっかり当たってしまったようだ。……っていうかあれか、血を分けた(・・・・・)兄弟ってそういう意味か。

 

 

「……どうやらあなたにも話を聞かなきゃいけないようだ」

 

そう言いながら殺せんせーは触手を再生させた。

 

「聞けないよ、死ぬからね」

 

それに対しシロが言い放つと共に左手を殺せんせーに向けた。すると、袖口から強烈な光が殺せんせーに照射された。

 

「!?」

 

「この圧力光線を至近距離で照射すると君の細胞はダイラタント挙動を起こし、一瞬全身が硬直する。全部知ってるんだよ…………君の弱点は全部ね」

 

ご丁寧に何が起こっているのか説明をしてくれる。昨日殺せんせーの飛行中授業で教わったダイラタンシー現象、それをあの光で起こしたということか。

 

シロはイトナ君に合図をし、彼の猛攻撃が始まった。

 

ただ、殺せんせーはその攻撃を脱皮をすることで防ぎ、天井に行くことで避けた。

 

「脱皮か……そう言えばそんな手もあったっけか。でもね殺せんせー、その脱皮にも弱点があるのを知ってるよ。その脱皮は見た目よりもエネルギーを消耗する。よって直後は自慢のスピードも低下するのさ。常人から見ればまだ速い事には変わりないが触手同士の戦いでは影響はでかいよ」

 

 

殺せんせーの弱点⑯:脱皮直後

 

 

「加えてイトナの最初の奇襲で腕を失い再生したね。その再生も結構体力を使うんだ。二重に落とした身体的パフォーマンス、私の計算ではこの時点でほぼ互角だ。そして触手の動きは精神状態にも左右される。これでどちらが優勢か一目瞭然だろうね」

 

 

殺せんせーの弱点⑰:再生直後

 

 

シロの言うとおり殺せんせーのスピードはいつもよりも明らかに落ちていた。

 

そして殺せんせーはテンパるのが意外に早いという弱点もある。見ているとイトナ君は攻撃をしている中、殺せんせーは防御しかしてなく、しかもかろうじて避けている状態。見ているこっちまでハラハラしてくる。

 

「そして、保護者の献身的なサポート」

 

 

殺せんせーの弱点⑱:特殊な光線を浴びると体が硬直する

 

 

今、足部分の触手が2本破壊された。これで、また再生して体力を使う羽目になる。

 

イトナ君は全く疲れている様子はない。対して、殺せんせーは既に息切れも激しい。シロの言う通り、イトナ君の方が明らかに優勢だった。

 

「安心したよ……兄さん。俺はお前より強い」

 

へばりかけている殺せんせーを見下ろしながら、イトナ君が言い放った。

 

 

確かに……このままいけば、彼らは殺せんせーを殺せるかもしれないんだろうな。

 

 

 

 

……けどさ、

 

リングを挟んで向かい側にいる渚が、対先生ナイフを手に持って俯いているのが見える。ナイフを見るその顔は、暗く沈んでいた。

 

他のみんなも同様で、殺せるかもしれないのに表情は暗かった。

 

多分、みんなが思っていることは同じ。一言でいえば……悔しい、という感情だろう。

 

 

 

……このまま黙って見ていられるほど僕は、僕達(・・)は大人しい性格じゃない。

 

 

 

隣にいる舞花に視線を向ける。舞花は既にやる気満々だったようで、その手にあるものを隠し持っていた。

 

お互いに小さく頷く。

 

 

 

「……ここまで追い込まれたのは初めてです。一見愚直な試合形式の暗殺ですが……実に周到に計算されている。あなた達に聞きたいことは多いですが……先ずは試合に勝たねば喋りそうに無いですねぇ」

 

殺せんせーの発言にシロは、負けダコの遠吠えだねぇと笑う。けど殺せんせーは気にせず話しかけた。

 

「……シロさん。この暗殺方法を計画したのはあなたでしょうが、計算に入れ忘れてる事がありますよ」

 

「無いね。私の計算方法は完璧だから。…………殺れ、イトナ」

 

殺せんせーの言葉を無視しシロが言い放つ。そして彼がまたライトを向けた。

 

 

 

その瞬間、

 

 

金属音と、触手の弾ける音。二つの音が教室内に響き、1本の触手が宙を舞った。

 

 

 

 

「……何をしてるんだい、君たちは」

 

シロが問いかける。その問いの向く先は……僕と、舞花だ。

 

 

クラス中の目線が僕たち二人へと集まる。いや、何人かは別の所……僕たちの行動の結果へと目を向けていた。

 

 

シロの袖口から覗くライトに刺さった細長い物……いや、一本の矢。

 

そしてイトナ君の触手を切り裂き(・・・・・・・・・・・・)床に刺さった対先生ナイフ。

 

 

「何って……別にルール違反はしてませんよね?観客が手を出してはいけない、とはありませんでしたし。……そのライト、煩わしかったので塞がせていただきました」

 

ニッコリ、と。

 

シロに向けて微笑みかけながら答える舞花の手には、クロスボウが構えられていた。彼女にしては珍しく本気で苛立っているようで、目が完全に据わっている。

 

「なぜ邪魔をするんだ、って言いたそうだね。そんなの、簡単に思いつくと思うけど」

 

僕はシロやイトナ君が何かを言うよりも先にと、口を開く。うん、向こうも結構苛立ってる気配を感じる。

 

 

手に持ったもう1本の対先生ナイフをクルッと回転させ、シロに向けた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「僕たちの先生(ターゲット)なんだ……僕たち自身(・・・・・)で殺したいんだよ。今日来たばっかの奴に横取りのように殺されて、納得できると思う?」

 

 

多分これは、みんなが言いたかったこと。……まあ、僕自身はちょっと別の理由もあるんだけど。

 

 

 

さて……

 

シロから苛立った視線を感じるけど一旦それは無視。僕は、破壊された自らの触手を見て動揺しているイトナ君へと目を向けた。

 

 

「ねえ、イトナ君。今のナイフは殺せんせーなら試合中であっても余裕で避けたよ」

 

 

この一言によって、イトナ君の意識がこちらへ向いた。

 

……彼は気づいていないようだけど、殺せんせーは今、その触手にハンカチで包んだ対先生ナイフを持っている。

 

先生が元々持っていたわけではない……恐らく渚が持ってたものをスッたんだろう。そしてそれは、この後に待ち受けていたであろう攻撃に対して使うつもりだったんだろうな。

 

 

こんな劣勢の状況でも外野の様子を見ていた殺せんせーが、僕のナイフを避けれないはずはない。

 

 

「ていうか……」

 

あ、隣でカルマがニヤニヤしながら口を開いた。

 

「兄弟同士の試合だっていうのに、保護者に頼ってようやく優勢に立てたってことはさ……一人じゃ勝てないってことでしょ。君ってひょっとしなくても殺せんせーより『弱い』んじゃないの?」

 

 

……流石というか、僕の言葉以上に、カルマの言い放ったその言葉はイトナ君の琴線に触れたようだった。

 

 

僕はその言葉を聞いて咄嗟にカルマの前に立ち、対先生ナイフを構える。

 

案の定、カルマへと伸びた触手が僕のナイフに当たって弾けた。

 

……そういえば、

 

「今朝、僕が君に敵わないとかなんとか言ってたっけ。けど今君は、その僕によって2回ダメージを受けたね」

 

僕はそこで一旦言葉を区切る。

 

((((((あ、これかなり根に持ってるやつだ))))))

 

なんかクラス中の心の声が聞こえたような気がしたけど、とりあえず無視。

 

まあ、あれだ。僕はこう見えてかなりの負けず嫌いなんだ。

 

 

ニッコリと笑いかけながら、一言。

 

 

「君ってさ、先生どころか僕よりも『弱い』んじゃない?」

 

 

これによってイトナ君の殺気が完全に僕へと向けられた。そして彼の触手の根本が僅かに黒ずんだように見えた。

 

それがこちらに向かって振るわれようとした、その時。

 

 

「そこまでです。二人とも」

 

瞬時にイトナ君の体を半透明の何か……殺せんせーの脱皮した皮が包みこんだ。勿論、殺せんせーの仕業だ。

 

イトナ君はその皮の中でジタバタと藻掻くが、破ける様子もない。

 

「だから言ったでしょう、計算に入れ忘れていることがあると。……まあ、その三人の行動はちょっと予想外というか、特にカルマ君や零君は余計に挑発しすぎです!」

 

「「だって朝のやつムカついたし」」

 

「だからと言って危ないじゃないですか!そのまま攻撃されてたら!」

 

殺せんせーはこちらに向かって軽く説教しながら、イトナ君の入ったそれをブンッと振り上げ、

 

 

それを見た舞花が急いで開けた窓から、外へ投げ飛ばした。

 

 

……あ、なるほど。ちょっと驚いたけど、確かにそれならイトナ君を傷つけずとも勝てるね。

 

「さて……先生の脱皮の皮で包んだからダメージは無い筈です。でも君の足はリングの外についている。先生の勝ちです。ルールによれば君は死刑、もう二度と先生を殺れませんねぇ~」

 

脱皮の皮を自分から剥がしたイトナ君のその足は、確かに校庭の地面を踏んでいた。顔を緑の縞々にしながら笑う殺せんせーを、イトナ君は血走った眼で睨みつける。

 

そんな彼に、先生は話を続けた。

 

「生き返りたいのなら、この教室でみんなと一緒に学びなさい。先生にあって君に足りない物、それは経験です。ここで先生の経験を盗まなければ……君は私には勝てませんよ」

 

丁寧に言葉を紡ぎ、優しくイトナ君へと語り掛ける殺せんせー。もしかすると一部は僕達にも言い聞かせているのかもしれない。

 

 

あ……ちょっと不味い。イトナ君の様子が今、危ない方向に変化した。

 

イトナ君から感じていた妙な気配……それが、いきなり肥大化した。

 

「俺が……勝てない?俺が、弱い……!?」

 

彼が呟いたその言葉を区切りに、イトナ君の触手にまた変化が訪れた。さっき色が僅かに黒ずんだのが、完全に黒くなった。そしてその触手が縦横無尽に暴れ始める。

 

これは明らかに、さっき以上にキレてる。

 

そしてそのまま殺せんせーに襲い掛かろうとしているのを見て、僕もナイフを構えた。……が、

 

 

パシュッ、と軽い射出音が聞こえた。

 

それと同時にイトナ君が倒れこむ。音のした方を見れば、シロが袖口から銃口をのぞかせていた。……恐らく、麻酔銃か何か。

 

「すいませんね、殺せんせー。この子はまだ登校できる状態じゃなかったようだ。転校初日で何ですが……暫く休学させてもらいます」

 

シロがそんなことをのたまいながら、イトナを肩に担いだ。……おいちょっと待て、幾らなんでもそれは自分勝手すぎるだろ。

 

「待ちなさい!担任として、その生徒は放っておけません。1度E組に入ったからには卒業まで面倒を見ます。それにシロさん、あなたにも聞きたいことが山ほどある」

 

殺せんせーも止めようと声をかけるが、

 

「嫌だね、帰るよ。それとも力ずくで止めてみるかい?」

 

その言葉に殺せんせーはシロさんの肩に触手を置くが、それは対先生ナイフに触ったかのように溶けてしまう。

 

「対先生繊維。君は私には触手一本触れられない。……心配せずともまたすぐに復学させるよ」

 

そう言い残し、彼は教室を去っていった。

 

___________________________________________

 

 

僕たちはその後、イトナ君によって荒らされた教室内を片付けていた。っていうかあの壁どうするつもりなんだろう。あれを修理するべき人はさっき帰っちゃったし。……無理やり引き留めるべきだったかなぁ。

 

 

そして肝心の殺せんせーは……

 

さっきからなんか、「恥ずかしい」と言葉を永遠と連発して顔を触手で覆っていた。

 

「……何してんの殺せんせー」

 

片岡さんがそう聞くと、

 

「シリアスな世界に加担したことが恥ずかしいのです。先生ギャグキャラだったのに」

 

自覚あったんだ。

 

まあ、さっきのは普段の殺せんせーのキャラには合わないよな……。

 

「かっこよく怒ってたわねぇ。『何処でそれを手に入れた!その触手を!!』」

 

「イヤ―――!狭間さんやめて言わないで!改めて自分で聞くと逃げ出したい!!」

 

狭間さんがあのド怒りの時のセリフを真似ると、殺せんせーは絶叫した。

 

 

殺せんせーの弱点(?)⑲:シリアスの後我に返ると恥ずかしがる。

 

 

なんか殺せんせーは、掴みどころのない天然キャラで売ってたのにキャラが崩れる……とかなんとか。……キャラ計算してたのか。

 

「ねぇ殺せんせー、あの2人との関係、説明してよ」

 

磯貝が言うとみんな殺せんせーのほうへ注目する。

 

「先生の正体いつも適当にはぐらかされてたけど……」

 

「あんなの見たら余計気になるよ」

 

「そうだよ。私達生徒だよ?先生の事、知る権利があるはずでしょ」

 

そうみんなで口々に言う。殺せんせーは少し考えた後、立ち上がった。

 

「仕方ない。真実を話さなくてはなりませんねぇ。……実は、実は先生……」

 

あれ、素直に話してくれそうな気配。てっきり、それは秘密です、とか言って誤魔化すかと思ったのに。

 

殺せんせーの話を聞いてる皆は、息を呑みながら殺せんせーの次の言葉を待つ。

 

 

 

「実は先生……人工的に作り出された生物なんです!!」

 

……

 

教室に沈黙が下りる。

 

 

…………それだけ?

 

「…………だよね。それで?」

 

「ニュヤッ!反応薄!?これ衝撃の事実じゃないですか!?」

 

いや、そう言われてもね……。

 

そもそもこんなでっかくて黄色くて喋れてマッハ二十のタコなんて、自然界に居ないし。宇宙人で無い限り考えられない。あのイトナ君は弟だと言っていたから、先生の後に作られたと想像がつく。

 

そうみんなで口々に言ったら、なんか察しが良すぎると恐ろしがられた。いや、そんなガラスの仮面みたいな顔されても……これくらい普通だって。

 

 

……怪異の存在を知っている人からすれば、反応はまた違ったものだろうけど。

 

 

そんな中、渚が殺せんせーに近づき、口を開いた。

 

「知りたいのはその先だよ、殺せんせー。どうしてさっきイトナ君の触手を見て怒ったの?殺せんせーはどういう理由で生まれてきて、何を思ってE組に来たの?」

 

だけど、それに先生は答えなかった。

 

「残念ですが今それを話したところで無意味です。先生が地球を爆破すれば皆さんが何を知ろうが全て塵になりますからねぇ。もし君達が地球を救えば真実を知る機会がいくらでも得られます。知りたいのなら行動は1つです。殺してみなさい。暗殺者と対象者(アサシンとターゲット)……それが先生と君達を結び付けた絆の筈です。先生の中の大事な答えを探すなら君達は暗殺で聞くしか無いのです。質問が無ければ今日はここまで、また明日!」

 

殺せんせーはそう言って教室を去っていった。去り間際にまた恥ずかしい、と連発し始めながら。

 

……ものの見事にはぐらかされた。

 

 

 

___________________________________________

 

 

その後。

 

数人の人(というか寺坂グループ)はそのまま帰宅し、他のクラスの大半の人は烏間先生の元へ向かった。どうやらこれまで以上に暗殺の技術を学びたい、ということを伝えに行ったらしい。

 

外で既に何かを設置する作業をしていた烏間先生は、さっそくそれを使った訓練を施し始めた。

 

「では早速新設した、垂直ロープ昇降。……始めっ!!」

 

「「「「「「厳しっ!?」」」」」」

 

 

今僕はその様子を廊下から眺めてるけど、後で混ぜてもらおう。

 

とりあえず今は、提出しそびれてた映画の感想文を殺せんせーに提出したいんだけど……。

 

「零ー。今殺せんせー、校庭の木の上」

 

職員室を覗いてきたらしい舞花が、窓の外のある一点を指さす。みんなが訓練を始めた木とは少し離れた所、その枝の上にジュースを飲みながら教科書を開いている殺せんせーの姿が。

 

案外、精神ダメージからの切り替えが早い。

 

 

 

「殺せんせー。昨日の宿題、提出したいんだけどー」

 

木の下から呼びかけると、殺せんせーはちょっと驚いたようだった。僕が近づいてくるのくらいは気づいてたと思うけど……。

 

「ニュ?ああ、映画のやつですか。明日でも別に良かったんですけどねぇ」

 

「そうしてまた明日何かごたごたして提出しそびれたらヤダなって」

 

話している間にシュバッと手元からレポート用紙が持っていかれる。

 

そして瞬く間に添削されて手元に戻ってきた。あ、スペルミスあったか。

 

 

……。

 

 

「ねえ……殺せんせーってE組に来る前も教師やってたりした?」

 

「いえ、先生が教師をするのはこのE組が初めてですが……どうしました?」

 

「……いや、別に。なんとなく気になっただけ」

 

以前からちょっと気になっていた事だったけど……殺せんせーって教師経験なしでここまでやってきてたのか。

 

なんか更に謎が増えたなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

この時、自分の中で何かが引っかかったけど……それが何なのかは気付かなかった。

 

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