暗殺教室~月と星~    作:霊花

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お久しぶりです。まさか1年以上たってるとは……。
とっても遅くなってすみませんでした……。





父親の時間

7月某日。

 

―――6時間目 体育。

 

E組の生徒たちは今、二人一組になってナイフ術の訓練をしていた。

 

「視線を切らすな!次のターゲットの動きを予測しろ!全員が予測すればそれだけ奴の逃げ道を塞ぐ事になる!!」

 

訓練をする生徒たちに指導しながら、烏間先生は彼らを観察する。

 

 

(四ヵ月目に入るにあたり、『可能性』がありそうな生徒が増えてきた)

 

授業の後半に入ると、恒例の対烏間先生での訓練が始まる。生徒たちは一人、又は二人一組になって各々のタイミングで先生に勝負を仕掛けに行く。

 

(磯貝悠馬と前原陽斗。運動神経が良く仲も良いこの二人のコンビネーション。二人がかりなら俺にナイフを当てられるケースが増えてきている)

 

磯貝が前に出て攻める中、前原がその横からタイミングを見計らってナイフを振り、僅かに烏間先生の肩に掠る。

 

「よし!二人それぞれ加点一点!次!!」

 

「「よっしゃ!」」

 

二人が喜びハイタッチを交わす中、早速次の生徒が迫る。多くが二人一組で仕掛ける中、数少ないタイマンで挑むその生徒は、赤羽カルマ。

 

(彼は一見のらりくらりとしているが、その目には強い悪戯心が宿っている。どこかで赤っ恥をかかせようとしているが……そう簡単にいくかな?)

 

カルマが何かを仕掛けようとしたところで、それを察知した烏間先生は片足を後ろに下げる。

 

「ちぇ、バレちゃったか」

 

見事に思惑を見破られたカルマは舌打ちをする。

 

そして、次に向かったのは桐紫零。彼もまた最初の踏み出しの様子はカルマと似ているが、ゆらりと近づいたその後は息を吸う間もないような怒号のラッシュが始まる。体の動きその流れのままナイフを振り、自分の動きを最小限に、そのまま相手に息つく暇を与えずに攻撃を繰り出し続ける。

 

(彼はプロとして活動しているだけあってクラスの中ではずば抜けている。素早く読めない体の動き、ナイフを振るスピード、銃は苦手のようだがあの投げナイフは中近距離で銃以上の脅威となりうる)

 

ヒュンッと烏間先生の目前へ飛んでいくのは、二・三本の小さなナイフ。眼前に出てくればいやでも一瞬目線を持っていかれる。

 

そして烏間先生の避けた背後に気配。事前にそれを予測していた烏間先生は後ろ蹴りを繰り出した。

 

しかしその蹴りは空振り。……いや、

 

「まあ、毎回似たような手じゃさすがに予測されますよね」

 

その蹴りの下から足にナイフが振るわれる。どうにか当てることが出来た零はクスリと笑った。

 

 

 

次に向かったのは女子達。

 

(体操部出身で意表を突いた動きができる岡野ひなたと男子並みの体格と運動量を持つ片岡メグ。このあたりが近接攻撃として非常に優秀だ)

 

二人のナイフを捌きながら観察を続ける。

 

(比較的最近このクラスに転校してきた紫苑舞花、体術はそれなりに身に着いていたようで機動性は良い。アタッカーと組ませると良いサポートをする……しかし本人の攻撃の手に迷いがあるのと、体力が体の動きに追いついていないのが課題だな)

 

少し離れた木陰の下では、少しバテてしまったらしい舞花が汗だくで座り込んでいる。隣では今日組んでいた茅野カエデが水を差しだしていた。茅野もどちらかというと小回りの利くサポート型だったためうまく攻め切らず、今回は当てられなかったようだ。

 

 

〔そして殺せんせー、彼こそ正に俺の理想の教師像だ。あんな人格者を殺すなんてとんでもない!!〕

 

「おい、人の思考を捏造するな。失せろ標的(ターゲット)

 

どさくさに紛れて後ろでささやき、何やらイラストのプラカード付きで思考を捏造しようとしていた殺せんせーを睨みつけながら烏間先生は言い放った。

 

(あとは寺坂竜馬、吉田大成、村松拓哉の悪ガキ三人組。こちらは未だに訓練に対して積極性を欠く。三人とも体格は良いだけに勿体ない。彼等が本気を出せば大きな戦力になるのだが)

 

ふざけている殺せんせーを追い払いながら彼がちらりと見たのは、普段訓練を見ているだけだったり、烏間先生相手でも適当にしかやらない3人組。今日も今日とて訓練はサボり気味の様だ。

 

 

 

と、その時。烏間先生は得体の知れない悪寒に襲われた。

 

それはまるで後ろから蛇が体に巻き付き牙を剝いているかのような―――

 

 

「―――ッ」

 

バシッ

 

とっさに後ろから来るその何かを勢いよく投げ飛ばす。

 

その飛ばされた何かは、小柄な男子生徒―――潮田渚だった。

 

「うっ……いった……」

 

「……!すまん、ちょっと強く防ぎすぎた。立てるか?」

 

「あ、へーきです」

 

受け身はしっかりとったらしい彼、渚はそういって立ち上がり、クラスメイトの元に戻る。

 

(潮田渚。小柄ゆえに多少はすばしこいが、それ以外に特筆すべき身体能力は無い温和な生徒。……気のせいか?今感じた得体の知れない気配は)

 

烏間先生が観察を続ける中、殺せんせーはその様子を見ながら砂場でまた何かの建造物を再現していた。

 

 

 

烏間先生の心内を知らない渚たちの方は、

 

「ばーか、ちゃんと見てないからだ」

 

「う……」

 

杉野の軽口に軽く渚が凹んでいる。そこに零が近寄って話に加わる。

 

「いや……今のは割と惜しかったと思うよ?先生直前まで気づいてなかったし」

 

「え、そうなの?」

 

「まあ、そこで気づかれないようにしないとだけど」

 

「あ、あはは……まだ当てるには遠いよね……」

 

零は軽くフォローしながら、先ほどの渚の動きについて考えていた。

 

(かなりうまく気配を消してた……周りが騒がしいここだとほとんど気づけないほどに。烏間先生が気づいたのは殺気を感じ取ったのか、経験からくる勘か……)

 

 

 

 

 

「それまで!今日の授業は終了!!」

 

チャイムが鳴ったことで烏間先生は観察をやめ、生徒に合図をした。そしてそのまま烏間先生は校舎へと戻っていく。それを見ながら生徒たちはさっきまでの対烏間先生の模擬戦についての感想を言い合っていた。

 

「せんせー!放課後、皆でお茶してこーよ!」

 

呼び止めるように倉橋は烏間先生に駆け寄り、そう誘いかけていた。

 

「……あぁ、誘いは嬉しいがこの後、防衛省からの連絡待ちでな」

 

が、烏間先生はそう言ってさっさと校舎に戻っていった。

 

「……またダメだった」

 

「うん、まあそう落ち込まずに」

 

「さすが烏間先生、私生活にも隙が無いよね……」

 

倉橋はがくんと肩を落とし、よしよしと舞花と茅野が慰める。

 

「隙が無いというか、私達との間に壁っていうか一定の距離を保ってるような……」

 

「……厳しくて優しくて私達のこと大切にしてくれるけど、でもそれってやっぱりただ任務だからに過ぎないのかな?」

 

その生徒の言葉を、いつの間にか生徒たちの傍に来ていた殺せんせーが否定をした。

 

「そんな事はありません。確かにあの人は先生の暗殺のために送りこまれた工作員ですが、彼にもちゃんと素晴らしい教師の血が流れていますよ」

 

 

 

 

 

 

生徒たちがそんな話をしている中、校舎の中からひとりの大柄な男性が大きなダンボールやいくつもの紙袋を両腕に抱え出てきた。

 

校舎前まで来ていた烏間先生は近くに来たその人物の顔に見覚えがあり、立ち止まる。

 

「よっ!烏間!!」

 

「……鷹岡!」

 

その人物は、生徒たちが初めて見る顔で……

 

そして烏間先生の同期であり元同僚だった人物だった。

 

彼はそのまま烏間先生の横を通り抜け、生徒たちのところへ行く。

 

 

 

 

 

一方、生徒たちはその人物を見て、誰だろう……?と顔を見合わせる。

 

「やっ!俺の名前は鷹岡明!!今日から烏間を補佐してここで働く!よろしくなE組の皆!」

 

少し警戒気味の生徒たちに対して、鷹岡は人の良さそうな笑顔で自己紹介をしながらドサドサッと担いでいた段ボールを置く。

 

そしてブルーシートをその場にバサッと広げるとその上に段ボールを次々と開いていく。

 

……その中にはたくさんのスイーツが所狭しと並んでいた。

 

「!!これ『ラ・ヘルメス』のエクレアじゃん!!」

 

「こっちは『モンチチ』のロールケーキ!!」

 

「『ラ・パティスリー』のフルーツタルトもありますね……」

 

茅野と不破優月は見た瞬間にその中身が高級ケーキ屋の物だとわかり、目を輝かせる。その近くで舞花も同じようによく知る高級スイーツを見止めて、目を瞬かせた。

 

「良いんですかこんな高いの?」

 

磯貝は目を輝かせ声を震わせながら、恐る恐る問いかける。が、鷹岡は笑いながら気にするなと答える。

 

「おう食え食え!俺の財布を食うつもりで遠慮無く、食っちまえ!物で釣ってくるなんて思わないでくれよ。お前らとは早く仲良くなりたいんだ。それには……皆で囲んで飯食うのが一番だろ!」

 

そして話しながら鷹岡は自分もドカッと地面に座り、ムシャリとエクレアを食べ始める。

 

「よくここまで甘い物のブランド知ってますねー」

 

矢田桃花の問いには、何やら得意げに……

 

「まあ……ぶっちゃけ、砂糖ラブなんだよ」

 

「デカい図体して可愛いな……」

 

ペロリと舌を出して目を逸らすその顔は、不〇家のキャラクターを思わせる。それを見た中村莉桜が思わずツッコんだ。

 

……そしてその後ろで何やらよだれをダラダラと垂らしながらこちらの様子を見ている不審者……殺せんせー。

 

ちなみに顔色はピンク色。生徒が持つスイーツをジーと見ながら何を考えているかなんて、誰から見ても一目瞭然だ。

 

「お、あんたが殺せんせーか?いいぞ食え食え!!」

 

それに気づいた鷹岡の言葉に、更にドバーッとよだれを増やした殺せんせー。そのままスイーツをものすごいスピードで食べ始める。

 

それを見ながら、いずれ殺すけどな、と言いながら笑う鷹岡。

 

「なんか、同僚なのに烏間先生と随分違うっすね」

 

「近所の父ちゃんみたいな感じです」

 

「はははっ、良いじゃないか父ちゃんで!同じ教室にいるからには……俺達、家族みたいなもんだろ?」

 

木村とその隣の原が笑いながら言った言葉に、鷹岡も同じように笑いながら傍にいた中村と三村の肩を抱きながらそう返す。

 

出会って十分も経たず。鷹岡……鷹岡先生はこの短時間で生徒たちに馴染むのに成功したようだった。

 

 

 

 

 

___________________________________________

零:Side

 

「零は混ざらないの?みんなからこんなに離れて」

 

「舞花こそ、さっきケーキには反応してたのに、結局食べずにこっち来てるよね」

 

僕はあの鷹岡とかいう新しい先生とみんながケーキ囲んで盛り上がっている中、少し離れた所からその様子を見ていた。そしてあまり時間を置かずに舞花もこっちにやってきた。綺麗に気配を消してみんなに気付かれないように。

 

同じようにあそこに混ざっていない人は他にもいる。まあ、寺坂や村松、吉田、狭間さん辺りはいつもこう、みんなとワイワイするのには混ざらないから置いといて、カルマもそそくさと教室に戻ってったし。

 

カルマはなんかめんどくさいとかそんな理由な気もするけど、舞花は……ちょっとさっきより顔色が悪い。

 

「このクラスに馴染もうとああいう風にフレンドリーに来るのは別に嫌いじゃないよ。接しやすい、気の良い先生ぽいもの」

 

「まあ、コミュ力高いのは分かる」

 

「ただ……一瞬あの人から嫌な気配がしたから」

 

「……舞花でも感じたのか」

 

信用していい人間と信用できない人間は表情やしぐさ、話の様子を見ればなんとなくわかったりする。

 

仕事上、そういう人間(・・・・・・)は多く見てきたから。

 

 

 

 

「そういや、このクラスに桐紫零って名前いるだろ?今どこにいるんだ?」

 

「あ、そういえばいつの間にか居ない」

 

「そういえば舞花ちゃんも。さっきまで一緒だったと思うんだけど」

 

あ、あそこにいないのバレた。

 

どうやら何でかは分からないけど、あの新任教師が僕を探してるようだ。

 

「先に教室戻ってて。僕はちょっと向こう行ってくるから」

 

「……うん、わかった」

 

舞花がそのまま校舎の方へ向かって行くのを見て、僕はみんなの所に行く。

 

 

 

「僕に何か用ですか?」

 

「ん?おお!お前か!そんな離れた所に居ないでこっちにこいよ!」

 

「零くん、舞花ちゃんはどうしたの?」

 

「あはは、この後用事あってあまりゆっくりできないので。あと、舞花はちょっと体調良く無さそうだったから先に校舎に戻ったよ」

 

僕は鷹岡……先生の誘いにはやんわりと断り、舞花について聞いてきた倉橋さんにはさっき校舎に戻ったことを伝える。

 

その間、鷹岡先生は何やら僕の顔をジーッと凝視していた。

 

「……あの、僕の顔に何かついてます?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだが。……よく見れば面影もあるし、声はそっくりだな……」

 

……?鷹岡先生は僕を見ながら何かぶつぶつと独り言を言っている。

 

 

 

「お前、司馬夜人の息子だろ」

 

 

 

―――!?

 

……それを言われた瞬間、僕の中でカチリとスイッチが切り替わった。

 

意識が仕事モードに切り替わり、その言葉に対する動揺が表に出る前に押し殺す。

 

「……知ってるんですか。俺の父親の事」

 

「おう、司馬とは烏間と一緒で同期でな。烏間もアイツも優秀でよく競い合ってたなぁ」

 

……まさかこいつからその名前を聞くとは思わなかったが、なるほど。アイツ自衛隊にいたことがあるのか。

 

そして、烏間先生とも面識があったと。

 

「そうだったんですか。どうして俺がその息子だと?」

 

「ああ、大分前……もう10年くらい前だったか、防衛省辞める前のアイツが同じ隊の俺たちに家族自慢しててな。アルバムやらなんやら見せられて、それで今日来る前に名前と名簿の写真見たらピンと来たわけよ。まあ、苗字は違ったしまさか殺し屋やってるとは思わなかったから半信半疑だったが」

 

「まあ、それは事情がありまして。とりあえず今日はもうあまり時間がないので、ここで失礼させていただきます」

 

急ぎだと伝えていたので話はそこで切り、一礼をして校舎に向かって行く。後ろから「俺の事は第二の父親だと思ってくれていいぞー!」とか聞こえてきたが無視した。

 

 

 

背を向けるまで俺は()と同じように笑顔を浮かべられていただろうか……。

 

 

___________________________________________

 

校舎に戻ると、舞花は烏間先生の部下の園川さんと何か話していた。烏間先生以外の防衛省の人は普段の学校生活だと関わることはほとんどないが、何人かは頻繁に校舎で見かけたりして、話す機会のある人もいる。教室の修繕とかで来てくれてた鶴田さんとか鵜飼さんとか。

 

園川さんはE組で見かける防衛省の人の中では珍しく女性で、舞花以外にも女子たちが話しかけているのを偶に見る。今話しているのは恐らく、鷹岡の事だろう。

 

俺は近くにいた烏間先生に声をかける。

 

「烏間先生、今少しいいですか?」

 

「ん?君も抜けてきたのか。……鷹岡が気に食わないか?」

 

ああ、そこは気付かれたか。確かに、普段の僕に比べると不機嫌だと見えるだろうな。……実際そうだけど。

 

「正直それもありますが、聞きたいことがありまして。……先生は、司馬夜人について知ってますか?」

 

俺がそれを問いかけると、烏間先生は目を見開いた。

 

その後額に手を当ててため息を吐く。

 

……やっぱり。

 

「……鷹岡か?」

 

「ええ。烏間先生とも同期だったと聞きました」

 

「ああ……アイツが勤めてた頃は共にいることが多かった。……君の事も、初対面の時に気付いていた」

 

「……あなたは、何も言いませんでしたね」

 

この仕事の依頼をしに来たとき、彼は依頼の話以外何もなかったし、それらしい反応もなかった……と思う。いや、もしかすると一番最初に顔を合わせた瞬間に驚いてたのは、こっちの意味もあったのかもしれない。

 

「触れるべきことではないと思った。違うか?」

 

「いいえ、合ってます。……俺はやっぱり、あの人よりあなたが教官やってくれる方が良いです」

 

「……そうか」

 

鷹岡がどうかは知らないが、多分烏間先生は俺の事情に色々気付いてるのだろう。もしくは、俺の情報を教えたであろう師匠に、その辺も何か聞いたか。

 

……後ろで舞花と園川さんが話し終えたのを感じて、目を閉じ、スイッチを切り替える。

 

まだ動揺は残ってるが、いつまでも仕事モードだと自分で言うのもなんだがちょっと何やらかすか分からない。

 

「……じゃあ僕は帰りますね。烏間先生、また明日」

 

「……!ああ、また明日」

 

 

 

 

 

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