2020年 改稿
渚:Side
ビッチねえさんの暗殺が失敗した翌日。
タンッ、タンッ、タタンッ。
静かな教室に響く音は、タブレットの画面を指で叩く音。
昨日、殺せんせーからいろいろ手入れをされたビッチねえさんは今、イライラしながらタブレットをいじってる。
まあ、次の暗殺計画を立ててるんだろうけど。僕たちには自習とだけ言って授業はしていない。
「あはぁ、必死だね~ビっチねえさん。まあ、あんな事されたらプライドズタズタだろうけど~」
後ろでカルマ君がなんか言ってる。明らかに煽り口調で。
言われたビッチねえさんも聞こえたらしくカルマの方を睨んだ。
「先生」
僕らの方へ意識を向けたそのタイミングで、磯貝君が声をかけた。
「なによ」
「授業をしないのなら、殺せんせーと交代してください。俺等、一応今年受験なんで」
するとビッチねえさんはフンッと鼻で笑った。
「ふん、あの凶悪生物に教わりたいの?受験と地球滅亡の危機を比べられるなんて、ガキは平和でいいわね~」
あ、なんかカチンときた。
「それにあんたら、聞けばこの学校の落ちこぼれらしいじゃない。今更勉強したって意味ないでしょ」
その言葉で、みんなのイラつき度合いが急激に増す。
それと同時に僕はこの教室の温度が急降下したように感じた。一番後ろの席から物凄い殺気を放ってる人が居る……!
それに気付いてないのか、ビッチねえさんは言葉を続ける。え、ちょっとビッチねえさん気づいて!ヤバイよ!!
「そうだ!私が暗殺に成功したらあんたたちに五百万円ずつあげる!無駄な勉強するよりこの方がずっと有益で「おい」……!?」
その言葉が終わるか終わらないかの時、ドスの利いた声が遮るように聞こえた。
それとほぼ同時に後ろから物凄い速さで人影がビッチねえさんのもとへ飛び出した。その人影、零君はそのまま対先生ナイフではない、本物のナイフをその首へ突きつけている。
「「「「「「!?」」」」」」
みんな驚いている。ビッチねえさんなんか、物凄いたくさんの冷や汗をかいている。
「おいクソビッチ。今回は見逃すから今すぐ教室から出てけ」
そして教室内に響く低い声。
キレてる。すごいキレてる。こっちに向けられているわけでもないのに僕たちまでもが冷や汗をかくくらいにすごい殺気。こんな零君、始めて見た。
こっちからは顔が見えないから余計に怖い。
「な、なによ新月……っ!?」
「いいから出てけ。このナイフがお前の喉笛を掻っ切る前に。そしてこのクラスのみんなを馬鹿にしてるなら、二度とここへ帰ってくるなっ!」
最後の怒声を聞いてあわてて教室から出て行くビッチねえさん。それを見た零君は、一つため息をついた。
少しの間、沈黙が教室を包む。
「ごめん、みんな。変なとこ見せた」
くるりと僕らの方へ振り返った彼は、さっきまでの雰囲気はどこへ行ったのか、いつもの零君だった。
渚:Sideout
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零:Side
放課後。
危ない危ない。さっきは思わずあの女の首掻っ切るところだった。
ちなみに今はみんなで暗殺バトミントンをやっている。
バトミントンといっても普通のラケットは使わない。殺せんせーの顔をしたボールに木のナイフを当ててやる。
ちなみに、この暗殺バトミントンではナイフの当て方で、ナイフの先で突く刺突とナイフの腹を当てる斬撃がある。刺突の方が斬撃より正確に当てるのが難しいので、刺突で相手コートに着弾させたほうが斬撃で着弾させるより点数が二点高い。
これ、楽しいし結構いい訓練だと思う。
その時、少し離れたところに烏間先生とあのクソビッチが居るに気付いた。
気になったので磯貝と交代してこっそり二人に近づく。
「……暗殺対象と教師、暗殺者と生徒、あの怪物が生み出したこの奇妙な教室ではそれぞれ二つの立場を両立している」
前の会話で何を話していたのかは分からないけど……おそらく、烏間先生は何とかしてあの女に教師をやらせようと説得しているのか。もう少し見ていよう。
「もしここで暗殺者と教師を両立できないと言うなら、お前はここではプロとして最も劣ると言うことだ。ここに留まってやつを狙い続けるつもりなら、生徒を見下した目で見るな。生徒が居なければこの暗殺教室は成り立たない。だからこそ、生徒としても暗殺者としても対等に接しろ」
そういってあの女から離れていく烏間先生。……いいこと言うじゃん。
あの女の顔は陰になってよく見えなかったけど、なんとなく雰囲気が変わった気がした。
少しだけ、期待してもいいかもと思うくらいには。
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次の日。
コツ、コツ、コツ、コツ。
英語の時間になって教室に入ってきたのはあの女。
やっぱり、昨日のあの授業の時と比べて少し雰囲気が変わっていた。
黒板の前に立つとチョークを手に取り、なにやら短い英文を書いていく……ってちょっとまて。なんだその英文は。
「You're incredible in bed! Repeat!」
思わずポカーンとしてしまっているみんな。うん、わかるよ。
「ほら!」
「「「「「「ユ、ユーアーインクレディブルインベッド」」」」」」
訳が分からないままみんなで言われた通り黒板の文を読み上げる。いきなりっていうのもあって結構カタカナ発音になっているけど。
そして、黒板の前に立つその女……イリーナ・イェラビッチは、その文の解説を始めた。
「アメリカであるを暗殺した時、まずボディガードに色仕掛けで迫ったわ。そのときに言われた言葉よ。意味は『ベッドでの君は凄いよ……♪』」
やっぱり。中学生になんて英文を読ませてるんだよ。何人か顔真っ赤にさせてるよ。
「外国語を上手いかつ手早く習得するならその国の恋人を作るのが手っ取り早いとよく言われるわ。相手の気持ちを知ろうとして、必死で言葉を理解しようとするから」
なるほど。それは一理ある。
「私はその方法で色々な言語を身に付けてきたわ。だから私の授業では外人の口説き方を教えてあげる。身に付けておけば実際に外国人と対話する時、必ず役に立つわ。……受験に必要な勉強はあのタコに教わりなさい。私が教えられるのは実践的な会話術だけよ。もしそれでもあんたたちが私を先生として認められないっていうのなら、その時は暗殺は諦めて出ていく。それなら文句ないでしょ? …………後、色々悪かったわよ。」
イリーナ・イェラビッチのその言葉は、確かな説得力を持って響いた。
そして最後に小声で謝る彼女は、少し恥ずかしげでもあった。
それから僅かの間、教室内は静まり返った。けど、
「「「「「「あははははははは!」」」」」」
次の瞬間にはみんないっせいに笑い出していた。
「なんか、普通の先生になっちゃったな」
「もう、ビッチねえさんなんて呼べないね」
そんな感じに口々に言う。まあ、ここまで変わってるとね。
「あ、あんたたち……」
イリーナ・イェラビッチは感動してるのか、目に涙を浮かべてる。
ただ、
「それじゃあ、ビッチ先生で」
その言葉にカチンッと動きが止まるイリーナ・イェラビッチ……もといビッチ先生。
「み、みんな、もう気安くファーストネームでいいのよ?」
引きつった笑顔を浮かべながら、ビッチ先生はそういってくるが。
「だってもう慣れたし」
「今更ね~」
そんなビッチ先生に対して、女子も男子もそろってこんな反応を返す。
「って言うかイリーナ先生よりビッチ先生の方がしっくりくるよね」
最後に僕が言ってやると、
「キーッ!!やっぱりあんたたち嫌いよ!!特に新月!!」
「昨日から言いたかったけど、ここでその名前は呼ぶな!!」
「「「「「「あははははは!!」」」」」」
……まあ、ムカついてたところは改善したから、とりあえずいっか。