さて、定期試験がやってきますねー。
零:Side
とある日の朝。それは、殺せんせーの唐突な一言で始まった。
「「「「「さあ、はじめましょうか」」」」」
「「「「「「何を?」」」」」」
さて、いきなり何を言ってるんでしょうこの先生は。しかも増えてるし。……分身?
「中間テストが近づいてきました」
「なのでこの時間は高速強化テスト勉強をしたいと思います」
「先生の分身がみなさんに一人ずつマンツーマンでそれぞれの苦手科目を克服してもらいます」
殺せんせーによる何人もの分身が代わる代わるに説明していく。そしてそれとともに僕らの前に一人ずつ分身が現れる。その頭には一人一人別々にハチマキが巻いてあり、どうやら苦手教科を表しているらしい。
……なるほど。てかすごい張り切ってるな。どうやって保ってるんだろこの分身。
ちなみに一番後ろ端の席では、
「なんで俺はNA○UTOなんだよ!!」
「寺坂君は特別です。苦手な教科が複数ありますからね~」
という事が起こっていた。てか、寺坂に苦手じゃない教科とかあるのか?
ちなみに僕のところは国語となっている。
「零君は全体的に優秀ですが、国語が少し低いですね。主に物語文においてのミスが目立ちます」
「あ~うん。よく登場人物の心情について聞かれると迷っちゃうんだよね。どれも正解じゃないの?って思うときもある」
「こういう問題は、どれが一番答えに近いか、を見極めないといけませんからねー。物によっては40%合ってたり、60%合ってたり。その中で100%に近いものを選ばなくてはいけません」
「うわ、難し……!?」
なんてやってたらいきなり殺せんせーの顔がグニャンとへんな風に歪んだ。
「いきなり攻撃しないでくださいカルマ君!!それを避けると残像もずべて曲がるんです!!」
なんで?と思ったけど、答えはすぐ横の分身から聞こえてきた。
あ、ホントだ。カルマがナイフで攻撃してる。意外と繊細なんだこの分身。
「カルマ。それ、楽しい?」
「うん、楽しいよ~。零もやってみたら?」
よし。やろう。
シュッ、シュシュッ。
「ニュヤー!!零君もやめてくださーい!!」
僕とカルマの二人がかりでナイフを振ると、殺せんせーの顔は避けるためにひょうたん型になったり、上半分が平らになったりしていく、うん、確かにこれは面白い。
「というか先生、こんなに分身して体力持つの?」
前のほうで渚が聞いてる。
「ご心配なく。一体外で休ませてますから」
「それ余計に疲れない!?」
その渚の意見には同意するよ。変に器用な先生だなホントに。
でもそういうところは、教師としてはすごく頼りになるんだよね。……地球破壊宣言してなきゃ。
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その放課後。
ちょっと先生に聞きたい問題があったから職員室に行ったらその前に渚がいた。
「渚、そこで何してるの?」
「あ、零君。実は今、理事長が来ていて……」
え、理事長?
ドアがわずかに開いている。覗いてみると、中では確かにこの学校の理事長と、殺せんせーたちが話してた。今渚はこっそりその話を聞いていたらしく、その間に殺せんせー弱点メモが一つ増えていた。
弱点その⑥ 上司には下手に出る
……なるほど。なんか気になるし、僕も何話してるかちょっと聞いてみようかな。
渚と一緒に聞き耳を立ててみる。
「……率直に言いますと、E組はこのままでなくては困ります」
殺せんせーたち……E組の教師に対して理事長は語る。内容としては、この学校の生徒の大多数……本校舎の生徒がいい成績をとるために、E組というのは落ちこぼれで成績も待遇も最底辺でなくてはいけない、と。
……確かにこの教室の境遇じゃあ、本校舎の奴らは落ちたくないからって必死になるよね。そうやってあいつらの成績を保ってるのか。
それは彼の口癖、「合理的」という言葉の通りで、全体を眺めるうえでは間違ってはいないのだろう。
……けれど、そうやって切り捨てられた者たちは。
「今日、D組の担任から苦情が来まして。『うちの生徒がE組の生徒からすごい目で睨まれた。殺すぞとも脅され、その恐怖でうちの生徒は倒れた』と」
うっ……。
あまりにも身に覚えがありすぎて、渚と二人で微妙な顔になっていた。いや、十中八九僕らの事なんだけどさ、殺すぞとは言ってないよ?渚は殺そうとしたことないくせに、って言っただけだし、僕は背後に気を付けてって言っただけだし。向こうの勝手な拡大解釈で怯えただけじゃん。
……まあ、殺気を向けたのは確かだけど。
「問題は、成績底辺の生徒が一般生徒に逆らうことです。それは私の方針では許されない。……以後慎むよう、厳しく伝えてください」
理事長がそう言い放ちながらドアのほうに近づいてきた。だけどその前で何かを思いついたようで。一旦立ち止まり、殺せんせーに向かって振り返るとともに何かを投げ渡した。
……あれは、知恵の輪?
「殺せんせー!1秒以内に解いてください!」
さて一秒後……。
「「なんてザマだ!」」
思わず渚と一緒に小声で突っ込んだ。
なぜなら、殺せんせーは知恵の輪と触手が絡まって新たな知恵の輪と化していたからだ。
殺せんせーの弱点⑦・知恵の輪でテンパる
また、弱点メモが増えた。この時間に2つも見つけ出すなんて……やるね理事長。
「……絡まった今なら殺れたりするかな?」
「多分無理だと思う。前に殺せんせー、ミノムシ状態でぶら下げてもみんなでの攻撃避けてたから」
「え、何その状況」
渚と僕は殺せんせーの無様な様子を見ながら小声でこそこそと話した。
ちなみにミノムシ状態の殺せんせーというのは僕がくる前の話で、殺せんせーがクラスの花壇を荒らしてしまったことから行われたハンディーキャップ暗殺大会での出来事。途中縄が絡まって凄惨な状態になっても全員の攻撃を避け続け、結局一発も当てられずに宿題が倍になったとか何とか。
という話を聞いているうちに職員室内の話も進んでいた。
「この世の中にはスピードで解決できない問題も、あるんですよ」
殺せんせーにそう言い残して職員室から出てくる理事長。ガララッとドアが開き、僕らと目が合う。
あ、と思っても手遅れ、理事長の目はこちらを見ている。
聞き耳立ててたのはバレたっぽいけどまあ、こうなったらいっそ堂々とするか。
「お久しぶりです。浅野さん」
理事長ではなく、さん付けで呼ぶ。向こうは覚えていないかもしれないけど、この人とは知り合いだった。
「おや、君は零君じゃないですか。お久しぶりですね」
彼は少し驚いた顔をした後、笑顔で返してきた。あ、ちゃんと覚えていてくれたんだ。ここ数年まったく会えてなかったから気づいてもらえないかと思ってた。
とりあえず、言いたいことを一言。
「あんまり
僕はニッコリと笑顔でそう言い放った。それに対して彼も笑顔で返してくる。
「ふ、楽しみにしておこう。君も、中間テスト期待してるよ」
頑張りなさい、そう最後に渚に向かっても言葉をかけてあの人は出て行った。
すれ違いざまに、顔が笑顔から無表情に変わるのを見た。何とも、上辺だけの心のこもらない応援だ。
ふと、隣で渚がうつむいたのが見えた。一緒にいて分かってきたことだけど、渚は、人の感情を読み取るのに長けている節がある。今回もあの人の言葉に何も乗っていないのがわかったのだろう。
……よし。やる気出てきた。なんとしてでもあの人を見返したくなった。
ポンっと渚の肩をたたく。びっくりしてこっちを見返してくる彼に、笑いかけた。
「エンドのE組だとか、向こうが勝手に言ってるだけだろ?今は違うと思うんだけど」
そう言うと、渚は目をパチパチと瞬かせた。
つまりは、
「見返してやりたいと思わない?自分たちがバカにしている相手に蹴落とされて悔しがる本校舎の奴らが見たいと思わない?」
僕らには、とても頼りになる先生がいるじゃないか。
そう言ってやれば、渚はちょっと驚いたように目を見開き、そして噴き出すように笑った。
「零君って、ちょっとカルマ君に似てるとこあるよね」
「え?どこが?」
「そういう事、考えるとこ」
そんなこと言われると思わなかったのでちょっと驚く。けど、そんなこと言ってきた渚の顔は、
「でも、僕も同じだね」
そう言って笑う渚はさっきまでとまるで違い、やる気に満ち溢れていた。
「さて渚、こうなったらもう……学年上位50位とか目指す?いや、いっそ10位以内目指してもいいと思うけど」
「10位以内はさすがに不可能だよ!!……けど、50位以内なら……うーん」
「よし、今日から一緒に僕の家で勉強会しない?教えられるところは教えるよ。ついでにうちに泊まり込む?」
「それは……母さんが許してくれるかどうか」
「説得が必要なら僕も手伝うし……あ、カルマも誘って三人でやる?」
「呼んだ?」
「うわぁ!?」
噂をすれば影。僕がカルマの名前を出したとたんに近くの窓からカルマが顔を出す。気配はあったからついでに誘おうかなと名前出したけど、渚は気づいてなかったみたいで驚いていた。
「いや~楽しそうな話してるね~。俺も混ぜてくれるの?」
「もちろん。カルマは隣の家だから平気でしょ」
「え!?零君とカルマ君、家隣なの!?」
渚がまた驚いた声を上げる。うん、僕も最初知った時は驚いた。登校するとき丁度玄関前で鉢合わせしたんだったかな。お互いにしばらく驚きで硬直してたっけ。それからはよく一緒に登校するようになったけど。
「とりあえず、駅前のコンビニでなんか買ってく?勉強のお供に」
「そうだね。勉強会にスナック菓子は必須らしいし。そのあとまずは渚の家に行く?」
「ちょ、ちょっと待って母さんに電話してくる!」
そう言ってダッと教室へ走っていく渚。
その様子を見ながら、カルマが堪え切れない、というように笑いだす。
「やる気だね~渚君。どんな焚き付け方したの?」
「さて、ね」
このやる気の違いは、今まできっかけがなかったからかもしれない。渚は出来ないやつじゃないから。
なら僕は、友達としてそれを手伝うだけだ。
教室へ入ると、ちょうど電話を終えた渚。どうやら許可を得たらしい彼に向かって僕は一言。
「大丈夫だよ。不可能なんて、僕が否定するからさ」
ちょっと原作よりも先にやる気を出した渚君です。
感想とかアドバイス、有るととても嬉しいです。