ナザリックの喫茶店   作:アテュ

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更新が案外早かったことに一番驚いているのは自分です

少し視点が切り替わります。モモンが帝国へと行くまでになった過程です

ちょっとだけ変更 前回ラストにあった名前を キノ→ノキへ変更しました


紅茶を取り扱う者

「モモンさ……ん、本日はまだ依頼が更新されていないようです」

 

「ふむ……そうか、確かに少々急いでいたかもしれないな。ではこの時間で朝市を見に行くとしよう」

 

アダマンタイト級冒険者モモン……アインズはエ・ランテルの冒険者組合にて確認から戻ったナーベの報告にそっと呟いていた。帝国の属国化するという噂が徐々に市民にも広まりつつありエ・ランテルへは少しずつだが人の喧騒が復活しつつある、しかしながらまだまだ最盛期に比べれば静かな都市となってしまっている。冒険者の依頼の内容も以前のモンスター退治から調査や採集といったアインズがイメージする「冒険者」というイメージに変わりつつある。今では冒険者という言葉とは別に調査や採集を主とするもの……「発見者」ディスカバラーというあだ名を持つものも出てきていた。

 

 最初は蔑称に近い扱いがあった発見者らは徐々に立場を明確にしていた、それも魔導国の王アインズ・ウール・ゴウンが全面的なバックアップを行いそれを十全に活かす事が出来るアダマンタイト級冒険者モモンを筆頭に徐々に成果を上げていた。まだ見ぬ地の調査と記録、新発見された植物、モンスターなど危険生物の情報……新しいものばかりではない、既存のものに対しても新しい試みを行う者も多くいた。組み合わせによるポーションの性能上昇、疫病への効果的な薬草の配合……新たな紅茶も発見されるなど非常に多岐に渡る実績を作っていた。

 今まで冒険者がモンスター退治を主軸に行っていたのも当然ながら危険に対する処置としては正しい、ただその危険は魔導国による兵士……アンデットによってほとんどが排除されている。絶対的な忠誠心を持つアンデットはナザリックに敵対しないものであれば慈悲深い対応をすることすらある。そのような存在があれば防衛力に関しては疑う余地は無い、ただ当然ながらアンデッドに対して恐怖、忌避感を持つものがほとんどでもあった。鉱山や農作業に利用されていることで徐々にエ・ランテル周辺の者たちは恐怖感が薄れてきていた、次にはその存在に助けられ続けることである種の愛着を持つようになってきた。もちろん冒険者をはじめとしてアンデットと戦った経験があるものほど疑ってはいた……がそもそも普段アンデットと関わりを持たない者も多い、アンデットが跋扈する地に近いエ・ランテルであろうとも噂の存在よりも目の前の真実のほうが何よりも説得力があった。

 

街中で貸し出されているスケルトンへ指示を出している商人風の男の姿を見てアインズは着実にアンデットが労働力として社会に組み込まれつつあると内心で満足する。

 

(アンデットは労働力として最適ということを徐々に認知されつつある、やっぱ使ってみると便利ってことわかるだろうなぁ)

 

ほくそ笑みながら朝市へやってきたモモン、どよめきながら商人達が挨拶をしてくる。手を振りながら気にしなくていいという身振りをしながら珍しいものがないか探し始める。

 

商業都市とし最盛だったエランテルの時に比べると大きな商人らは別の地に移ってしまった者が多く今では中堅~零細規模の商人が大多数であった。その影響で生活必需品は割高になっているものが多い、とはいえ特定の商品に力を入れている商人も多く少し変わった物を取り扱っている店を見つけることもできた。

 

「……む?これは……ほぅ」

 

「おや、いらっしゃい。……これはこれはモモン様」

 

そう挨拶をしてきたのはモモンに体格だけならば劣らない偉丈夫であり、商人らしからぬ職人じみたぶっきらぼうな空気を持った男だった。

 

「少し邪魔させてもらっている、……店主、これはもしや……紅茶の茶葉か?」

 

「ほほう、さすがモモン様お目が高い。まさしくこちらは紅茶の茶葉でしてそれも手に入りにくい帝国の茶葉でしてね」

 

「何、帝国の?」

 

「ええ、ご存じやもしれませんが紅茶は生産地の都合で標高が高い場所で作られた物は非常に上質になることが多くこれも限定的に生産されたものを運よく入荷できたもので」

 

「ほう……限定的……レアということか」

 

アインズのコレクター精神が疼く非常に魅力的な言葉であった。近寄って商品の説明が書かれたものをじっくりと見ながらこれは買いかなと決めつつあるアインズに一つ疑問がわく。

 

「帝国産と言っていたが他の地でも紅茶は生産されているのか?」

 

「はい、王国でも生産されていますが正直なところあまり質は高くなく。一部の上質なものについては貴族らに優先的に販売されているようでほとんど市場へは出回りません他の生産地ですと……聖王国でも生産されているようですね、評議国などではあまり飲まれる習慣が無いようでほとんど見当たりません」

 

「そうか……ふむ、今までなかなか気づかなかったな」

 

これもナザリック内の喫茶店で浴びるほど紅茶を飲んだせいだなとふと思い、そういった事から今まで当たり前に通り過ぎていた物に気づけたかと1人で納得していた。

 

「無理もありません、紅茶そのものがかなりのぜいたく品なので」

 

どこか残念そうな顔をして店主が呟いた。

 

「何?そうなのか?」

 

「ご存じのとおり紅茶は嗜好品……生活必需品というわけではないので今まで主に使用されていたのは貴族をはじめとする上流階級の方々の交流として用いられていました。……ただ活発な売買のあった帝国では皇帝による貴族粛清があり一気に需要が落ち込みました。最もこの辺りでは活発な取引のあった帝国でその有様でしたからね、どこの商人も一斉に手を引いてしまいました。今では細々と生産されているものが稀に市場に出てくる程度です」

 

「……嘆かわしいな、このような素晴らしい飲み物が廃れていくなど」

 

「モモン様は紅茶を嗜まれるので?」

 

意外そうな声を上げて店主がモモンに問いかける。

 

「ええ、実は最近飲む機会がありましてね。お茶とは違った発酵された故のコクの旨みには驚きました」

 

「これはお詳しい、一般的に流通している緑茶……未発酵のものであれば見ることもありますが発酵されたもの……紅茶は同じものから作られたと知らない者も多いのですが」

 

「美味しさにひどく感動しましてね、このような素晴らしいものがあったと驚きましたよ」

 

「それはそれは、紅茶を取り扱う者として実に嬉しいお言葉です」

 

心から嬉しそうに語る店主にどうやらこの商人は商売だから紅茶を取り扱っているのではなく好きだから取り扱っているのだなとどこかサラリーマンの時に感じた親近感を持つ。

 

「さて店主、良いものを見させてもらった。こちらの茶葉を頂きたい」

 

「ありがとうございます」

 

そう言って懐から銀貨を取り出し店主に渡す。

 

「そうだ、これからも茶葉を融通してもらう事があるかもしれない。名を教えてもらえないだろうか?」

 

「これは申し遅れました、私はノキと申します。この黒髪を見て頂けると分かりますが東方での生まれでして縁あってこの地で商売をしております」

 

「ノキ……か分かった。また新しい茶葉が手に入ったら教えてくれ」

 

そう言って購入した茶葉をナーベラルへ渡しナザリック内の喫茶店管理者……アストリアへ渡すように指示し上機嫌で朝市を後にするアインズだった。


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