ナザリックの喫茶店   作:アテュ

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お待たせしました、紅茶を取り扱う者③です


紅茶を取り扱う者③

「狭いところですが……そちらのテーブルへどうぞ」

 

そう言いながら紅茶の準備に取り掛かる。冒険者が紅茶も嗜むというのは少し驚いたがよくよく考えればアダマンタイト級ともなれば普通の付き合いだけでもないだろう。有力な貴族や商人とも付き合いがあれば覚えるものかと納得する」

 

「どうぞ、おかまいなく。・・・・・・ほう?、本当に淹れたてのようですね。これは実に良いタイミングだった」

 

「モモン殿は紅茶を嗜まれると仰っていましたが……、なるほどよくご存知そうだ」

 

「いえいえ、まだまだ齧った程度の知識ですよ。しかしながら奥が深い事はよく分かります」

 

「それはもう、知れば知るほどに違った楽しみが見つかります」

 

やはり共通の話題があれば話が盛り上がるもので自然と2人は和やかに交流を深めていた。

 

「そうですね……最近ですと新鮮なミルクを使ったミルクティが絶品でしたね、コク深さのある茶葉を使うとより旨味が際立ち甘みが引き出されていました」

 

「ほほお、それは実に素晴らしい是非一度飲んでみたいですね」

 

ノキの視線が鋭くなる、小さな規模の商人といえどビジネスチャンスを無闇に見逃すほど愚かではない。

 

(……やはり商人は油断ならないな、いらない言質をとられナザリックの利益を損なう真似は避けなければいけない)

 

 

アインズは今一度気を引き締め商談に臨む。アダマンタイト級に昇格後こちらに敬意を払う姿勢を見せる者も多いがこちらを利用しようとする者も多かった。どのような立場になろうとも油断をすれば如何な強者であろうと致命的な失敗に繋がりかねない。

 

「ええ、機会があればまたお話させて頂きます。さて・・・・・・では、頂きましょうか」

 

「これは失礼、どうぞ先ほどお買い上げ頂いた茶葉と同じものになります」

 

いつのまにか手際よく準備された紅茶が用意されていた、カップに注がれた美しく重みのある赤がコク深さを物語っている。今までに見た経験と比較をする・・・・・・香りに特別なフレーバーは感じない、フルーツなどは入っていないようだ。ただ少し燻したような香ばしさも感じる・・・・・・いや待てこんな味を試した事がある。

 

「ふむ・・・・・・まだ香りと色合いだけですがルフナというものと似た印象がありますね」

 

「流石お詳しい。こちらはルフナに近しいエリアで採れた紅茶、『サバラガムワ』という物になります」

 

もう一度カップを近づけ香りを確かめる。香りから甘み……とろみのある印象、奥行きのある味わいといえばいいのだろうか。非常に気になる、どのような味わいだろうか。

 

モモン……アインズは冷静な風を装いながらも興味深そうに紅茶を眺める。ナザリック内ではそれこそ毎日飲んではいたが外で紅茶を飲む機会は実はこれが初めてだ。警戒と同時に興味が尽きないのも無理ないことだろう。

 

「サバラガムワですか……ルフナに似た印象ではありますがまた違った趣を感じさせる」

 

「仰る通りかと、ぜひすぐにお試し頂き実感下さい」

 

ノキにそう勧められ、カップに注がれた紅茶を見る。

 

香りはルフナによく似た印象、しかしルフナよりももっと優しげなコク……甘みか?……同じではない。色合いは暗い赤褐色……アストリア、ナザリックで最も紅茶に詳しい者から聞いた説明ではコク深い、重みのある味わいになりやすいと聞いた覚えがある。これもそういった味わいか?興味が尽きないな……。

 

「実におもしろい、このような紅茶もあるとは」

 

「まさに、これだから紅茶はやめられません」

 

2人して笑いながら一口含む。

 

最初の印象は燻製のような燻った味わい。噂に聞いたキームンか?と疑うが口の中に紅茶が広がるとまた違った味わいを感じる、スモーキーさは残しつつ蜂蜜のようなとろみを感じる味わいだ。

 

「不思議な味わいですね……ルフナのようなコク深さとは違った味わいを感じる」

 

「素晴らしい、繊細な舌をお持ちだ。こちらの紅茶はルフナにとてもよく似た品種と言われております」

 

やはり、と内心で予想が当たったことにほくそ笑む。それなりに紅茶を飲んできた身でもあるため自信はついてきたがいざナザリック外で実践ともなれば緊張もするがやはりこういったソムリエの真似事をするのも楽しいものである。気軽に間違えることもできない身だが嗜好品であればそういったものもあるといった事でだいたいの追及を避けられるのは非常に気が楽だなと沈潜する。

 

「それは喜ばしいですね。大外れだったら恥ずかしい思いをするところでした」

 

「ご謙遜をなさる、私共も嗜好品を取り扱うことは多々あります。しかし残念ながら価値の分からない方も多いことは事実です。……とはいえ価値の分かる方には長く贔屓を頂いておりますのでありがたいことではありますが」

 

存外に自分の店を贔屓してくれれば良いものを回しますよと言っているように聞こえる。いや実際にこれはそう伝えているのだろうなと相手の意向を探る。

 

「そうですね、いち消費者としてはそういった業者が増えることは喜ばしい限りです」

 

無難に話を逸らし、紅茶を再度口に含む。

 

「やはり甘味を強く感じますね、ルフナは重厚さが強く感じられましたがこちらの紅茶はとろみ……蜂蜜のようなイメージを持ちました」

 

「いいですねぇ、蜂蜜!まだまだ高価ですがこうやってイメージを膨らませて楽しませることができる。まさに嗜好品冥利に尽きますな」

 

「ええ、こだわりというものは得てしてそういうものでしょう。興味を持った人からは猛烈な支持を受ける、支持だけでなく積極的に周りに働きかけていく……商売につながりますね?」

 

「ふむ……モモン殿は冒険者でありながら商売についてもよくわかっておいでのようだ、素晴らしい」

 

「本職の方に褒めて頂くのは少々こそばゆいですね。……では少々なごり惜しいですが依頼の件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、そういえば依頼の件がありましたね。先ほどの紅茶は帝国産なのですが今回たまたま手に入っただけであり、継続的な取引ともなるとそれなりの規模の商人と繋がりを持つ必要がありました。ただ事情があり複雑な立場である私はあまりおおっぴらに帝国へは行きづらい、では縁があった商人へ話を持ちかけてみるかと思いまして」

 

「今回私が貴方に依頼したい内容はその帝国商人へ商売の代理人として赴いて頂きたいのです」

 

「ほう、代理人として……まぁ気になるところはありますが最後までまずはお聞きしましょう」

 

「ええ、もちろん代理人といっても全てお任せするわけではありません。理由合って私が帝国に直接赴く事が出来ないためまずは最初の顔合わせに向けて ということで調整を依頼したいのですよ」

 

「続けましょう、ただの代理人であればミスリル等級以上に依頼する必要は無い……白金級でも十分だったでしょう。しかしながら今の時勢、上位の冒険者はホームとしている場所をあまり長い間離れようとしていないそのせいで依頼が塩漬けになってしまいました」

 

ノキが予想外でしたという顔で呟く、言うまでもなくこの状況とは魔導国の建国騒ぎである。時間が経ちある程度安定してきたといってもまだまだ日が浅い国家であるため内側にいる国民、冒険者らからすれば変化する状況を見逃さないよう遠出しないのは最もな考えだろう。

 

「疑問をそちらから解消頂けたのはありがたいですね、質問をしても?」

 

「ええ、どうぞどうぞ」

 

にこやかにノキが頷いて先を促してくる。

 

「帝国へ赴くとのことですが……期間と場所、代理人としての具体的な仕事内容をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 

「期間は半月程度、場所は帝都付近とだけ。仕事内容はまずは顔合わせまでの簡単な打ち合わせ。これは書簡を用意しますのであまり難しくはないですね、ただ扱う物が嗜好品のため冒険者でも高位の方が向いていると思っていましたが……モモン殿であれば心配はなさそうだ」

 

(おいおい……何変な期待をしているんだよ……何かの討伐なら簡単だけど、交渉事とか素晴らしいアイディアとかはあんまり自信が無いぞ。ただの平社員にそんな求めないでくれよ……)

 

内心で愚痴りながらノキへ謙遜した様子を見せながら先を促す。

 

「交渉だけであれば問題無いのですが……実は私少々厄介ごとを抱えておりまして」

 

ほうらきたとアインズが内心ドヤ顔をする。先ほどの理由はあくまで表向きの理由だろう、何かしら裏の理由があるとあたりをつけていたアインズはあまり驚かない様子を見せながら答える。

 

「なるほど、私に解決可能ならばお手伝いさせていただきましょう」

 

ノキが堪えきれない様子で笑い出す。

 

「……あっはっはっは!面白いことを言うなぁ!モモンさん、あなたはどうにも私よりも1歩、2歩先を読まれているらしい。これは分が悪いな」

 

分が悪いとは言いつつもいかにもご機嫌といった風に話し出す。突然雰囲気が変わったノキにアインズが戸惑っているとノキが落ち着き始めた様子で話し始める。

 

「すいませんね、先ほどのは余所向け……どうにも若いと舐められる事が多いので少しばかりらしい雰囲気を出しておりました。ただどうにもすべてをご存じのようだ。であれば私も腹を割ったほうが誠実、そのような言葉が似合う立場ではありませんが誠意ある過程にこそ結果として誠実は伝わるものでしょう」

 

「……損をする性格ですね、そこは隠しておいてもよろしいでしょうに」

 

「ええ、よく周りから商人らしくないと言われてしまいますよ」

 

笑いながらノキがカップに口をつけ、一息つく。どうあれ悪い人間にはあまり見えない、何かしらのトラブルに巻き込まれたといったところだろうとアインズが予想を立てる。

 

「さて、厄介ごとについてですが……実は私、とある元帝国貴族のスパイでして」

 

「えっ」

 

「かの八本指と裏取引を行い、王国の腐敗具合を調査しながらも利益を元貴族側へ頂戴することが任務だったのですが」

 

「えっ?」

 

「まず主が鮮血帝の貴族粛清でそれどころではなくなりまして、音沙汰とれなく」

 

「……はあ」

 

「連絡が取れないながらもようやくコネを見つけた八本指と今度は連絡がとれなくなりまして」

 

貴族粛清についてはいい、タイミングが悪かったとしか言えない。恐らく八本指は拷も……いや話し合いの真っ最中だったのか、今ならまだしもヤルダバオト騒ぎの前後であれば彼らも細かいことまでに手が回らなかっただろう。不味い、頭が考えることを放棄し始めた。せっかく最近は紅茶を楽しむ隠居のような生活を出来ていたのに……。気を取り直しノキへ問いかける。

 

「なるほど……どこの国かまでは読めていませんでしたがこれで得心いきました」

 

「どうですかねぇ……最初はあなたの事を武骨な戦士ととらえていましたが、次に文化にも精通している有能な商人……最後には深謀遠慮、どこまでも見渡す恐ろしい存在に見えてきた」

 

いやすいません、何かあるかなーって位のただの勘でした。絶対に信じてくれそうにもないだろうけど……。とはいえ元帝国貴族の部下……そして他国にスパイに行かされる程の腕……か。

 

「私は大したことは分かっておりませんよ、ただそうですね……初対面の時から思っておりましたが商人にしてはやけに違和感……そう腕が立つなとは思いましたので」

 

「……本当に何もかもお見通しのようだ、いかにも私はそれ相応の訓練を受けた身。アダマンタイト級冒険者とは比べるまでもございませんが白金級程度の力は自負しております」

 

商人がそんだけ強ければ十分じゃないと内心思う、歌って踊れて戦えるアイドルじゃあるまいし。とはいえナザリックからすれば1レベルだろうが10レベルだろうが変わりない存在だ。だが街にこういった人材……人財も埋もれているということは忘れてはならない、意外な才能を持った存在とはひょっこり見つかるものだ。後でまだ詳しく調査していないエリアの人財発掘について力を入れるべきだなとこんな状況で思索する。

 

「話を戻しましょう、とある帝国の商人へ商談をかけたいところですが、いかんせん複雑な立場です。貴族でもない一介の下働きであった私にまで粛清の手が伸びるとは思えませんが今ではそれなりに成り上がった身、惜しいものもあるということです」

 

「なるほど、要するにそういった立場を理解した上で動いてくれる冒険者。場合によっては荒事にもなりかねないため、上位の冒険者をお探しでしたか」

 

「その通りです、いかがでしょう?謝礼はもちろんですが有用な情報も今後ご用意できますよ」

 

「ほう?それは今教えて頂ける内容でしょうか?」

 

ノキがもったいぶった様子を見せ、近くの棚に向かう。

 

「もちろん。とはいっても一部ですが……これは先ほど飲まれた茶葉の『サバラガムワ』になります」

 

サバラガムワ、今一度記憶を探るが聞いたことが無い。やはりまだ見ぬ紅茶かとアインズが期待を高める。先ほど飲んだ印象でもなかなか美味かった、ぜひ継続的に仕入れられるならば仕入れたいところである。

 

ナザリック内で手に入る紅茶であるならば無理に手に入れる必要は無いが、それ以外の場所でしか手に入らないもの。希少なものであればぜひ一度は確かめてみたいところだ。

 

……今回飲んだ紅茶は美味かったがナザリックと比べてしまうといくらか品質……純度が落ちてしまうことは否めない。とはいえ品質が悪ければ良くすればよいだけであり、神器級アイテムがあるからといって伝説級、ましては聖遺物級であろうとも不要と決めるのは早計な話だ。何かに特化したアイテムは結果的に評価が低くなりやすかったなと昔の記憶をふと思い出す。

 

「こちらの紅茶は帝国産のため、帝国の商人であればそれなりに取引があるようで。他にも帝国はこういった嗜好品は活発に取引がされております。もう少し時間を頂ければ帝国以外でも様々なものが見つかるかもしれませんねぇ」 ノキがにやりとした顔で笑う。

 

「そういうことであれば引き受けましょう、私にもメリットがありそうだ。ただ確認しておきますが……帝国内で私に降りかかった火の粉は払いますが貴方の専属ボディガードというわけではないので。その点は誤解しないようにしていただきたい」

 

「勿論です、さすがにそこまで甘えるつもりはありませんよ。ただ流石に何も後ろ盾が無い状態で帝国に行っては何があるか分かりませんからね、この商談を取りまとめるまでには何とかしておきますよ」

 

そう笑いながら棚から小さな袋を取り出し、こちらに渡してくる。

 

「これは?……茶葉でしょうか?」

 

「ええ、これはお近づきのしるしにというやつですよ。サバラガムワのほかに様々な紅茶もあるようで、こちらも貴重なので販売はしておりませんがまぁ、同じ趣味を持たれる方は貴重なので」

 

(これは嘘だなぁ、……おそらく帝国の商人と今後もこういった希少な取引があるから今後ともよろしくね的なやつだろう。仕事でもよく見た)

 

何だかんだ営業のころの経験も無駄にならない物だなと思いつつ、ノキと今後の予定を詰めていくアインズだった。

 

 




というわけで今回登場したのはサバラガムワという紅茶でした。前にも言ったかもしれまっせんがだいたい取り上げる紅茶は飲みながら書いています。この紅茶は少し前に行った神戸のティーフェスティバルで出店されていたミツティーさんのサバラガムワになります。美味かったですね、ここ最近では非常に印象深い味わいでした

いろいろミルクティーは好きで探すことが多いんですがミルクティー向きの茶葉でもいろいろあるなぁと最近実感しています

所感ですが……

←あっさり          コク深い→

アッサム、キームン、ルフナ、サバラガムワ

こんな感じの印象です、茶葉の大きさでも変わりますけどね。



前回登場したカメリヤはあくまで売る側の立ち位置です。ただノキは売る側よりも楽しむ側というキャラクターを強くしています。要は同好の士ですね。

美味いもの見つけたとき仲いい人にも教えたくなることあると思いますが、アインズの立場だとそういった話を気軽にできる人おらんなぁと思い出来上がったキャラになります。今後いろいろな紅茶をアインズに紹介してくれるでしょう。


そろそろ夏だし次回はアイスティー関係にしたいところですね。俺が飲みたい

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