前の話でも書いたが紅茶をかけていない
辛抱ゥたまらァんのです
次の紅茶は有名なあの紅茶です
「陛下には感謝してもし足りない」
「何がかな?」
「この送別会じゃよ……上に立つ者たちの様子が、な」
壇上を見てもいまいち意図が伝わらず悩んでしまう。空気が読めんぞこの骨と思われるのもよろしくない。
「ふむ……なるほど……」
「陛下が今思われたとおりじゃ、目の色が違う」
結局いつも通り煙に巻く作戦に出る。
「確かにその通りだ。……しかし何が原因だ?」
「これほどの式典で送り出される事じゃよ、初めて食べるような脂ののった魚、濃厚に香る酒、色とりどりのスパイス、ハーブで彩られた肉……ルーン工匠が送り出される期待されている事の表れだと実感しているからじゃ」
「期待しているからこそに他ならないからだ、ルーン工匠の技術は非常に価値あるものそれを守り活かす事は私にとっても大きなメリット」
「うむ、陛下の恩義には必ず応える。それは他の者も同じじゃよ。おっと……そろそろ乾杯じゃな。では陛下」
「あぁ、乾杯」
ルーン工匠を招聘する盛大な宴が始まった……。
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「はぁ……今回は相当やらかしてしまったかもなぁ……」
そう顔に手を当て後悔するアインズ、先ほどの宴の乾杯後にデミウルゴスからの報告を受けまた迂闊な失言から万年を見通していると誤解を与えてしまった。
(……どうやってももう、自分が想像できるところを超えちゃってるんだよなぁ……どうしよう)
現実逃避をしながらデミウルゴスから報告を受けたプランを再度確認する。
デミウルゴス主催のイベント―聖王国での蹂躙―は秋に開始とのことだ、であれば時間に少し余裕はある。今のうちにリフレッシュをしてもバチはあたらないだろう。……あたらないよな?
とはいえエ・ランテルをうろつくのは普段と変わり映えが無い、かといって遠出するのは迂闊が過ぎる。聖王国などはデミウルゴスの邪魔になりかねないのでもってのほかだ。
法国、アークランド評議国は安全面から論外、竜王国も戦争続きで出向くにはあまり向かない場所だろう。
「まぁ、そうなると帝国だよな」
『帝都アーウィンタール』
ジルクニフの背筋に冷たいものが流れる。
「……なんだ今の悪寒は……いやまさかな……」
「とはいえ帝都は簡単にだが見た。少し外れた場所にでも行ってみるか……?」
現在地はアゼルリシア山脈内部、王国と帝国を隔てる山脈付近。転移もあるので距離は問題にならない、最も必要な事は情報だ。
一度必要な情報が揃いそうな帝都に赴き、それから目的地に行ったほうが効率的。しかし何を目的に出かけたものか。
出店や屋台の食べ物目当てに行くというのはいくらなんでも支配者としてふさわしい行動といえない。お堅い事ををするために赴くというのはそもそも行く意味がない。
「ふむ……以前、山脈のほうの街で紅茶を栽培しているという噂を聞いた。であれば具体的にどういった物があるか見ておくこともおもしろいか」
以前に帝都の商人―カメリヤ=シネンシス―へ顔を繋いだ。モモンの姿で聞けば何かしらの情報を提供してくれるだろう。
「いい案かもしれないな、そうするか!」
そうしてドワーフ国の片付けなどはアウラ、シャルティアに任せひっそりと帝国へと赴くアインズだった。―――当然アウラとシャルティアからは御身の守護をとなかなかきかなかったが八肢刀の暗殺蟲、高レベルのドッペルゲンガーをこちらに呼びつけ控えさせる事で納得した。
あくまで忍んで様子を見てくることが目的のため、シモベを伴い向かう事はそぐわない。自分自身の顔も変え現地ではしがない冒険者、ワーカーとしてふるまうためプレアデスを連れていくわけにもいけない。高レベルの傭兵ドッペルゲンガーを召還するのは懐が痛むが今後こういった機会もあるとすれば先行投資であると自分を納得させる。
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帝都アーウィンタール
「突然お邪魔してすいませんね、シネンシスさん」
「いやいや、構いませんとも。良い商談を持ってきて下さった方を無碍に扱っては商人として失格ですからなぁ」
「恐れ入ります、先日の取引でノキさんも良い茶葉を安定供給できるようになったと喜んでいましたよ」
「茶葉ばかりじゃいけないんですがねぇ……、まぁ確かに最近評判がいいので優先することはそう悪い事ではないでしょうが。とはいえお蔭さまで我々も売り先を悩んでいた高級茶器、食器などについても販路を見つけることができました。お互いの利益があるよい取引でしたよ」
先日――エ・ランテルの商人 ノキに頼まれ帝国へ赴いたモモン(アインズ)は目の前にいるカメリヤ・シネンシスという商人へ代理人として赴く依頼を受け取っていた。その際に旧知の仲……上司と部下でもあったらしい2人の密約を進めていた。その結果帝国産の茶葉を始め高級茶器や食器は王国へと流れ、王国で採取され始めたハーブティなるものは帝国に輸出されるなど2人が窓口となり多大な利益を生み始めていた。
当初エ・ランテルの商人ノキが警戒していた貴族粛清に巻き込まれる等は心配はない。――八本指も掌握しているこの状況であればまず手が伸びる事は無いだろう。
「冒険者としても依頼後の経過が良い事は喜ばしいですね。……帝国が属国化した時は驚きましたがかの魔道王の統治は予想よりも上手くいっているように見えます。であれば私たちも迂闊な抵抗すると反逆の意思といらぬ思惑をとられてしまう……そんな中で帝国が属国化するというニュースはとてもよい切欠になりうります。今まで戦争もあり活発な交易も無かった様子です、生活が富めば気持ちは変わるものでしょう」
これは鈴木悟としての貴重な体験談だ。営業を行っていた際に当然目標達成できる時、できなかった時とあるがその時に強く感じたのは人間余裕があればある程度は寛容になれるということだ。うまくいっていない空気が蔓延していると緊張もして話す事も話せない。要は利益が出て生活が安定すれば多少暗いニュースが出ても問題ないという話だ。
「でありましょうなぁ、アンデットが王の国というのは恐れながら寡聞にして聞いた事がありませんが。かの王はとても理知的であるようだ、それならば一時的には民衆も混乱するでしょうが数年もたてば徐々に落ち着き恐れも風化していくでしょう」
「風化していけば少し落ち着いたエ・ランテルに人は戻ります。……恐るべき戦力、経済力を持つかの魔道国ならばその地で得られる利益は莫大なものになるでしょう」
「まさに、いやぁこんな美味い話一枚噛みたいものですなぁ」
「もう噛んでるじゃないですか」
笑いながら突っ込んでしまうアインズ、とはいえ状態としては確かにシネンシスの言うとおりである。結局はアインズが強大な力を持っている……よりもアンデットが国を支配している事が問題なのだ。エ・ランテルではカッツェ平野というアンデットが跋扈する地に近いこともありアンデットに対する警戒心、恐怖心がとても強い。
逆に言えばアンデットの恐ろしさを正しく理解しているものが多いともいえる。冒険者などいい例だ、アンデットの恐ろしさとは数が多く疲れを知らない夜目がきくなどだろう。ただどうだろうか、アインズが以前から考えていたアンデットを労働力に使う事に視点を置いて考えると全く意味が変わる。数をそろえる事が容易、疲れ知らずの人足、ヒトが暗くて見えない夜にも動ける存在……非常に優れた労働力だ。
このアイディアをそのままにしておくことはもったいないと以前から考えていた。ナザリックは違和感を感じないが一般人からすると恐怖の対象。だからこそアンデットをより人間、民衆らに近しい存在として認知させなければならない。
(その一環として下級アンデットを労働力として貸し出す案は効果を見込める。特に単純労働……農業や劣悪な環境に陥りやすい鉱山では必要不可欠な存在になっていくんじゃないか?)
「まぁその話はおいおい……」
いやらしいともねちっこいともいえる笑顔を浮かべながらシネンシスが話を変える。
「して、ご用命頂きました依頼は……茶葉の産地ですか」
こちらの様子を窺うようにシネンシスが呟く。
「ええ、実はノキさんにご案内される前から紅茶には興味がありましてね……。今後帝国にも足を伸ばす機会が増えると思いますので通りがかった際にでも寄ってみたいのです」
「なるほどなるほど……まぁ、茶葉の生産地は何ら隠されている情報でもありませんしご紹介致しましょう」
シネンシスはちょっと失礼と言いながら隣の部屋から資料を持ってくる。
「現地の情報ですが……アゼルリシア山脈……その麓にある町が特に有名でしょう」
「ふむ、山脈の麓ですか」
(ドワーフ国からも行けるか…?近いかもしれないな)
「町の名はダージリン、麓といえど高い標高の茶園でとれる紅茶は香り高くマスカットを彷彿させるほどと言われます」
「ダージリン……?」
「おや?ご存じでしたか」
「いえ、近い名前の紅茶を飲んだ事があったのでもしかしたらこちらで採れた紅茶だったのかもしれませんね」
(ダージリンって……確かアストリアが話していた紅茶だよな?ヌワラエリヤとも似た風味と言っていた記憶がある。前の世界ではそういった地方があったらしいが……)
とはいえ荒廃したリアルではとうに失われているだろう、だが失われた紅茶を飲めるともなれば非常に興味が沸く。まさに未知の探求――冒険者とはいや発見者とはかくあるべきだろう――。
冒険者として行動をしていたモモンはここ最近受ける依頼を少しずつシフトしている。当然モンスター退治なども請け負うが優先すべきは新たな素材、新たな利用方法などに関する依頼だ。
先日、エランテルのノキを通じさせ虹のモックナックらに依頼を出したがハーブの発見、さらには有効利用と素晴らしい成果を得ることができた。現地の材料からでもMP回復に有効な手段が見つかりンフィーリアに研究させているポーションにも良い影響を与えるだろう。
当初は人間などを利用しても……と考えるシモベも多かったが使い道の方法次第でこのような素晴らしいアイディアを生み出す存在もいると少しでも評価を変える意識改革は依然として必要だ。アインズとしても歯向かう存在には容赦するつもりはないが無駄に殺すつもりもない。
アイディアは1人よりも2人のほうが良いものが出る確率は高い。まずは軽い一歩として人間にも有効活用する方法があると周知させていきたいところだ。
考えごとが紅茶からナザリックの事にシフトしてしまっている事に気づき気を取りなおす。
「そのダージリンという町ですが……お恥ずかしいですがあまり聞いたことはありませんでした。帝都からかなり離れているのでしょうか?」
「ええ相当離れています、国境境目といって間違いないでしょう。貴族粛清もあり嗜好品の需要が減っておりましたからなぁ」
なるほど、需要が落ち込んでいたせいで取り扱う商人も減っていたか。
(……もしかしてよいビジネスチャンスになるんじゃないか?)
高級な嗜好品は不景気になるとかなり大きな影響を受ける事は道理だ。であれば生産者側も四苦八苦している事は間違いない、そこを突けばより有利な条件で交渉ができるかもしれないとアインズは想像を膨らませる。
「なるほど……山脈の……あぁこのあたりでしたか。別件の依頼でいった事があった近くにあったんですね。今度も行く機会があるので寄ってみる良い機会やもしれません」
シネンシスがメモ帳に書いた簡単な地図を見て場所を思い出す。
(ドラゴン退治の時……ドワーフ国の旧帝都だったか?フロストドラゴン達がねぐらにしていた場所からそう遠く無さそうだ)
※アインズ基準なんで普通の人間や亜人からすればめちゃ遠い
「なるほど、さすがはアダマンタイト級冒険者。様々な所へ行かれるのですな」
そうおだててくるシネンシス、向こうもこちらを利用してやろうという気配がビンビンに感じてくる。
(だがあまり悪い気はしない……利用するというよりも、繋がりを大事にする。営業職だったころは自分もよくやっていたような事だ)
人間だった頃の残滓が浮かび上がり少し暖かい気持ちになる。
(こういった気持ちはナザリックのシモベらは持ちえない、大事にしていかないとな。)
目的地の情報は得た、目指すはアゼルリシア山脈麓の町 ダージリン。
さてどんな紅茶に出会えるだろうか?
next tea...Darjeeling...
最後までお読みになって頂きありがとうございます
この話投稿までにいろいろありました
何より転職したことかな!休みが増えたが残業が増えたぞ!あれ!?
とはいえ趣味としては紅茶は充実しています。毎日淹れて会社にマイボトルで持ってってるしね……みなさんにもおすすめ、渋みの少ないディンヴラあたりがいいんじゃないかな!
ひと手間減らすならティーバッグをボトルにつっこんで会社に着いたら捨てるとかでも案外なんとかなります。物によっては入れっぱなしでも渋くなりにくいティーバッグもあるらしい明記はされてないけど。
さて次はダージリン。
恐らく世界で一番有名な紅茶でしょう。紅茶飲まない人でも知ってるんじゃないかな?
なぜこのダージリンが有名になりえたのか?自分なりの視点で書いていこうと思います
今思いついたけどこれ良いアイディアかもな!