とはいっても導入編みたいなもんなんであっさりとです。
ここまで3行説明
アインズ紅茶にはまる
色々紅茶を試しにいく
帝国に紅茶で有名な町!?いくしかねぇな!
ひょんな切欠から老婆に紅茶を提供する事になったダークことアインズ。
自分自身でも少し子供っぽい、むきになってしまっているような感覚がある。
ただ何となく理由もわかる。自分が今まで知った素晴らしい紅茶を馬鹿にされたように感じたのだ。老婆を殺すことなど自分でもシモベに任せる事でも一瞬だ。
しかしアンデットになった後でもそれは少し違う自分がしたいことではないと思う。
自分が知った素晴らしい物を他の人へ勧め感動してくれるようなことをしたいのではないか。
ユグドラシルしかなかった、そのユグドラシルも無くなった。人間だった頃とユグドラシルでの残滓で生きてはいるが、国を作る程になっても未だ自分の目的、やりがいみたいなものは不明瞭だ。
ただやりたい事が少し見つかる。この世界で飲食を出来るとは思っていなかったが、素晴らしい発見ばかりだった。その中でも紅茶はかつてのユグドラシルに負けないぐらいに夢中になっている。もっと知りたい、試行錯誤したい、アンデットになってしまった今でもそう自分は思っているのだ。
(このおしゃべりな老婆からしたら余計なお世話かもしれない、ただもう少しでこの違和感に気づけるかもしれない)
(衝動的な行動、ギルマスだった頃でもこんな事はしなかった。王様なんかになってもこんな事をしてしまうとは)
かつての仲間達はどう反応するだろうか。
ぷにっと萌えだったらリーダーが熱くなってどうするんですかと言われてしまう。
ペロロンチーノだったら熟女趣味に目覚めたんですかとガチな心配をしてきそう。
たっちみーだったら喧嘩は良くないですよと諭してくるだろうか。
こんな刹那の間にもふと昔を思い出してしまう。
「……何をそんなに笑っているんだい」
訝しそうにこちらの様子を見る老婆。
「あぁ、いやすまない。ちょっと昔を思い出してしまってね、少々喧嘩腰のような物言いになってしまいすまない」
「……まぁいいさ、あたしだってバカじゃあない。あんたがそこまで言うってことは素晴らしいものを知っているから出た言葉だろうさ」
少し落ち着いた様子で老婆がこちらにとっとと淹れろと促してくる。
「あぁまぁ飲んでみてくれ。……これがサバラガムワだ、一口目はストレート、二口目はミルクを加えるといいだろう」
「ふん……ミルクなんていらんだろうに……」
そう言いながらカップに口をつける老婆。
「ほう……どっしりとした濃厚なコク、複雑さが凄いね」
「あぁ、それこそがこの紅茶の持ち味だ」
あっという間にカップを空けてしまう老婆、なかなかお気に召したようだ。
「悪かないね、普段飲んでいるダージリンはもっと軽い味わいだったからこういった味もたまにはいい」
そう言って疑いながら2杯目のカップにミルクを注ぐ老婆
「ミルクは少量で構わない」
「あん?そうなのかい、てっきり並々と注ぐものだと思っていたが」
「……紅茶風味の牛乳になってしまうのでね」
アインズがそれこそ心外だという様子で老婆へアドバイスを行う。
(そうか、ここではそういった知識が無いのか)
料理を専門にした人間は長い期間をかけ勉強して機会があるだろう。だがネットもないこの世界では分からなければ他の村人に聞く程度しかできない。この地はダージリンというストレートで素晴らしい紅茶に恵まれていたため、他の紅茶に触れる機会が極端に少なかったためだろう。
「なぁ、婆さんここではダージリン以外の紅茶を飲む機会ってのはあるのか?」
「無いよ、あの素晴らしい紅茶を飲んでからそんな事を言うのかい?」
「いやまぁ確かに素晴らしい味わいだったが」
じろりとこちらを見る老婆に押されながらも自分の予想が正しかったと感じるアインズ。
(そうか……俺が特殊なだけだったか。よくよく考えればリアルの時は天然ものの紅茶なんて見た事ないし、どこ産なんかも書かれている事は見た事もなかった)
今更アインズが気づいた事とは豊富な資金、権力を持ちあらゆる財がそろったナザリックにいるからこそだ。貴族であればどこで作られたワイン、茶葉など趣味を持つものもいるだろう。ただ帝国ではその貴族がほぼいない。
(限られた物しか手に入らない村人、町人からすれば旅の商人が運んできたものがメイン。地元で紅茶が作られているってのに他の産地からわざわざ紅茶を取り寄せる奇特な事はしないか)
ぜいたくが沁みついてきてしまったかなと居住まいを正す。
反省するアインズを余所に老婆が不思議そうにミルクが入ったカップを飲んでいる。
「おかしいね……ミルクを加えて薄まると思ったけど、コクがさらに引き出されている」
独り言を呟きながら理解できないといった様子でカップを見つめる老婆。
「不思議そうだな、まぁ私も以前飲んだ時同じ印象を持ったさ。……簡単な話だ、ミルクが紅茶の旨み、コクをより際立たせているのさ」
「そもそもコクってなんだい旅人さん。あんまり意味を考えずに使っていたんだが」
「そうだな……私もニュアンスでしか知らないが、複雑さや奥深さを示すものと考えている」
老婆がこちらをじっと見て続きを促してくる。
「よく表現としてコク深いとかと言うだろう?逆にあっさりしているような表現の時にはあまりコクという言葉は使われない」
「確かに、複雑さという言葉がしっくりくるね」
(危ねぇ……事前にアストリアへ質問しておいて良かった……監視しているシモベもいるから迂闊に分かりませんとも言えない……)
内心の動揺を余所に感心した様子を見せる老婆。
「ん?待てじゃあそもそも紅茶ってのはそんなにも種類や味わいが豊富だってのかい?」
「当然だ、私が知っているだけでもダージリンに代表されるあっさりと繊細な風味、マイルドなストレートミルクどちらにでもあう紅茶、ミルクを入れても負けないような濃厚でボディのある味わいと様々なものがある」
「あぁ……そういう事かい、私は思い違いをしてたんだね。ダージリンにミルクを入れるというよりも茶葉を使い分けろと」
「まったくもってその通りだ、貴女の言う通りダージリンは単体でほぼ完成していると言っても差し支えない。ただしそれが全ての紅茶の代表というのも間違っている」
アインズが懐からいくつかの袋を出す。
「先ほどのように素晴らしい紅茶はまだまだ多い、ミルクティが流行っているのも時代の流れだろう。ただ飲んでみなければ何事も分からないものだ」
「こんな年にもなって意固地になるなんて恥ずかしいところを見せたね」
嫌なところを見せて申し訳ないと謝罪してくる老婆。
「……実はそう恥ずかしい事でもない」
「は?」
「いや、昔俺がいた国の話なんだが……同じようにミルクティーが流行ってその際にミルクを先に入れるか後に入れるかで国を割った論争になったらしい……」
アインズがとんでもない話に老婆は全く理解できないという様子だ。
「ちょ、ちょっと待っておくれよ。紅茶にミルクを加える順番なんかで国が割れるのかい?」
「俺も信じがたい話なんだがな……実際にあったそうだ」
「……信じられないねぇ」
全くだとアインズも同意する。
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先ほどの話で少し空気も変わり、そろそろお暇するかとアインズが準備を始める。
「婆さん突然すまなかったな。いろいろと説教みたいな感じになっちまって」
「気にせんでいいさ。余所で恥をかかんで済んだという事とあんな話を聞いた後じゃあねぇ」
笑いながら老婆が手を振る。
「そういえばあんたの名を聞いていなかったね、なんて名前なんだい?」
「あぁ、俺はダーク。しがないワーカーさ」
「ワーカーだったのかい、にしては随分落ち着いてるね」
ワーカーだった事が余程予想外だったのか驚いた様子を見せる老婆、確かに以前ナザリックに侵入してきたワーカー共は荒々しい雰囲気の奴らも多かったなと思い当たる。
「荒事以外のほうが最近は多くてね、最近のワーカーは社交も身についてないとやってられないんだ」
そう言いながら身振り手振りで適当なダンスをするダーク。
「よく言うわ」
笑いながら餞別だとダージリンの茶葉が入った袋をこちらに投げてくる老婆。
「ありがたい、また近くに来たときには寄らせてもらうよ」
「あぁ、寄ってくんなよ。あたしはここらでは顔が利くからね、融通はきいてやるよ」
「……そういえば婆さん、あんたの名前も聞いていなかったな」
「そうだったね。あたしはダージリンの町長をやってるキャッスルトン、ダージリン・キャッスルトンさ」
老婆はようやく意趣返しができたと呆然とするダークを余所に笑い続けていたのだった。
ダージリンの町だけどサバラガムワが主役感がありました。
まぁどっかで書こうと思ってたんですけどどこにでもあるんですよストレートとミルク論争は。
嗜好品なんで好みだよ好み!で決着するんですがそれで決着したら話が続かないってのが今回の話です
ちなみに途中であった国が割れたミルク論争ですが……
盛ってますがそういった論争があったのは事実です(マジ
しかも割と最近に決着したっていうのが驚き。
ちなみに作者は後にミルク加える派、気分によって調整はしたいしね。