ナザリックの喫茶店   作:アテュ

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暑くなってきたのでアイスティーがおいしい季節です。
ツイッターで流行っていた21分のアイスティーを作ってみました

雑に作ったら1.2Lで2パックたいそう濃い紅茶ができましたがミルクに負けない味わいでなかなかいい発見でした。個人的にはカレーに最高に合うアイスミルクティーです。


Darjeeling's Secret

ナザリック9階層 豪華で厳か、そうありながら過ごしやすさを共存させたスイートルーム、第8階層の悪魔は今主人の元へ自身の成果を報告するべく足取り軽く向かっていた。

 

至高の御方であり主人がいらっしゃる部屋の前に立ち今一度身だしなみを整える。王たる主人の前ではいかなる無礼も許されない、ましてやその無礼は創造してくださったウルベルト様の顔に泥を塗るような行為だ。

 

十分に確認した後、デミウルゴスは中にいる一般メイドへ取次を頼む。

 

しかしタイミング悪く主人は留守にしているようだ。部屋の中では主人作のエルダーリッチとアルベドが打ち合わせをしている。

 

「あらデミウルゴス、何かあったのかしら」

 

「あぁ、アインズ様にぜひ報告したい事があってね。……アインズ様は外出中かな?」

 

するとアルベドが不機嫌とも残念――これはどちらも半々といったところか――表情を見せる。

 

「えぇ、ちょうど私が外に出ているときに入れ違いになってしまったの……。いじわるな方だわ、いえこれはもしかして焦らしプレイというものではないかしら?先日図書館にいった時そんな事が書かれたあった本があったそうよ」

 

「……なるほど、至高の御方が保管された書物については実に興味を惹かれるね」

 

(全く……先日もアインズ様に無礼を働いたというのに全く懲りていないようだ。いかに守護者統括という立場であれど些か示しがつかないね、これでは。かといって私から何か言っても面倒事になる気しかしませんし……仕方がない、折を見てアインズ様にもご相談してみましょうか)

 

アルベドがまた至高の御方を押し倒そうとした――幸い未遂だが――事は記憶に新しい。今回は謹慎期間も無いようだが主人は少し距離を取られているようだ。1度目は多少同情もしたが2度目、3度目と続いているのではまさに示しがつかない。

 

(……いやよしておくか、私などが口をはさんでしまってはアインズ様のお考えに反してしまう。そもそも私程度の疑念などアインズ様は既に考慮済みに違いない)

 

であれば主人の行動を待つのもそれもまた一つの忠義ではないか、そう納得させる。

 

「ところでアルベド、アインズ様は外出中とのことですがどちらに?供回りは誰が?」

 

「先日見つけた例の街よ、ダージリンといったかしらね。供回りはセバスと裏からはハンゾウがついているわ」

 

「……セバスですか、ハンゾウもいるならば問題ないでしょう」

 

「ふふ、セバスの供回りが不満かしら?」

 

そんなことは無い、主人が考えられた事に間違いなどあるはずない。……だが、確かに自分が供回りを務められたらと思う事も事実である。

 

「……そんなことはありませんよ、ダージリンの街に行かれるという事であれば外見が人間に近いセバスやアウラ、マーレなどが適任でしょう。それに執事という立場であるセバスが行ったほうが今回よかっただけのことです」

 

アルベドも当然そんなことは分かっているだろうに……いやアルベドも同じく供回りの役割ができない事が不満なのだろう、こればかりは仕方がないが。

 

「しかし、ダージリンの街へは何用で?先日行かれた際に紅茶の買い付け等は全て終わっていたかと思いますが」

 

するとアルベドがまた種族らしい、小悪魔――小悪魔という言葉もずいぶん暴力的な意味を含むようになりましたが――ながらも美しい微笑み、悪戯を思いついた表情を見せる。

 

「……ねぇ、デミウルゴス本当にダージリンの街での目的に心当たりは無い?」

 

「……」

 

無いはず、だ。しかしあるという事なのだろう。何だ?自分は何を見逃した。アインズ様が行かれたという事は直接繋がる事ではない、今までにアインズ様が行われた行動を思い出せ、必ずピースがつながっているはずだ。

 

「向かわれる直前にアインズ様はこう仰られたわ、『収穫時だな……』と」

 

自身に電撃が走ったような気持ちになる、全て繋がった。いつからなのだろうか……あの叡智溢れる主人はいつからこのような事を見透かしていたのだろうか。シモベたる我等で気づけた者はいないだろう、もしかすればパンドラズ・アクターであれば気づけたのやもしれない。

 

何という……深謀遠慮という言葉ですらアインズ様のお考えを表すにはまだ足りない。あぁ、非才なこの身であれど至高の方々に少しでもよく使って戴けるよう務めを果たしているが至らなさを実感するばかりだ。

 

「そういう事でしたか……フ…フフッ……震えが止まりませんね。…という事はアルベド、この後の指示を?」

 

「えぇ、アインズ様は私が気づいた様子を見て静かに頷かれたわ。私たちはすぐにその後処理の準備をしておかねばならない」

 

「全くですね、では取り掛かるとしましょう」

 

 

 

 

「――アインズ様、まもなく到着のようです」

 

「あぁ、ではそろそろ姿を変えておくとしよう。……セバス、お前は商会を主に変わり取り仕切っている執事。私は以前ここに寄ったワーカーのダーク」

 

「畏まりました、商会名は如何なさいますか?」

 

「ふむ……オウンゴール商店でよかろう、アインズウールゴウンとも所縁がある名称だがこの名を知っているものは仲間以外いないだろう」

 

「なんと、そのような偉大な名前を使ってくださいますとは……ありがとうございます」

 

「構わん、ナザリックに理があると判断したからにすぎん」

 

(うーん、ちょっと勢いで出てきちゃったけど大丈夫だったかなぁ)

 

ダージリンの街は既に何度もシモベが調査を行った後であり、危険は無いと判断されている。

 

エ・ランテル並みとまでは言わないが一般的な帝国の街とそう変わらない治安だ。つまりこの時代にしてはだいぶいい、凄いね……帝国。

 

まぁ来てしまったからには仕方がないと気持ちを切り替え今回の目的を再度整理する。

 

「セバス、改めて今回の目的について整理しておく不明点があればその場で質問して構わん」

 

「はっ、ありがとうございます!」

 

(ずいぶんとやる気に満ちてるな?まぁセバスを伴って外に出る機会はあまりなかったからなこういった仕事も執事らしいといえば執事らしいしそのせいか)

 

「まず第一、プレイヤーの影、第二に痕跡の調査、第三に……茶葉の買い付けだ。せっかく来たのだからな?」

 

「承知致しました、……畏れながら申し上げますが果たしてこうも徹底的に調査された街で何に気づかれているのかが非才な私では皆目見当がつきません」

 

「ふむ、確かにそうだろう。私とてプレイヤーそのものが残っている可能性は低いとみている、ただ違和感がある事も事実だ。――このダージリンの街に来て確信に変わったがこの街は私が知っている情報が多すぎる――」

 

「っ…!という事は」

 

「プレイヤーが滞在していた可能性は高い。私もナザリックに戻ってから再度調べて気づいたが茶葉の生成方法1つにとってもそれは私たちの世界の手法と非常に酷似している」

 

例えば茶葉の製法にオーソドックス製法という方法がある。この方法はリアルでは昔からの製法ではあるが効率という面ではCTC製法というものに劣る。

 

ここで一つオーソドックス製法、CTC製法というものの違いについて整理しておこう。

オーソドックス製法とは、一言でいえば昔ながらの茶葉でそれぞれの個性を引き出しやすいがそれなりにコストがかかる。CTC製法というものが生まれるまではこれがごく当たり前だった。ではCTC製法とはどういうものだろうか、Crush、Tear、Curl……砕き、引き裂き、丸める……出来上がった茶葉の状態でいえば丸くコロコロとしたものでオーソドックス製法は抽出後茶葉が開いているのに対しCTCはそのまま丸まったままなので違いは分かりやすい。

 

生産性という点のほかにこのCTCという製法は大きな特徴がある。それは抽出が早くミルクに負けない味わいを出すことができる。そう、このダージリンの街でもその情報が溢れかえっている。だが一つ考えてほしい、ここまで繰り返してきたがダージリンはストレート向きの茶葉だ、ミルクティー向けのサイズ、ましてやCTC等ほぼ見たことが無い。

 

嗜好品という点でいえばそういった可能性も無いことは無い、オータムナルという秋摘みの茶葉ではミルクを加える事もアリだと言われることも珍しくない。

 

だが、それでもこのダージリンという街でここまでこのCTC製法が広まっている事は非常に違和感がある。まるで紅茶好きなら気づくでしょう?と誘われているようにだ。試されているようで癪だが、気になってしょうがない事でもある。

 

……考えが少し散らばりすぎたな セバスへの説明ついでに一度整理するとしよう。

 

「このダージリンの街ではCTC製法という手法が広まっている。ただしそれは本来ミルクティー向けの製法、この街で広まるには少々おかしい……がそれも比較できての話知らない者から見たらそういう製法がある程度の事にすぎん。しかしおかしいことにダージリンの製造には一般的なオーソドックス製法という茶葉の個性を活かす製法が使われている。さぁセバスどのような理由があると思う?」

 

「……成程、本来そぐわない製法が表立って使われているとされているのですね……そして気づいた者には……これはもしや釣餌……でしょうか?」

 

(あれ、もしかしたら当然これ気づいたヤツいたら同じ転移者だったと想定されるよな……え、まずくないか?)

 

「フフッ……セバスそう決めつけてしまっていいのか?」

 

 

「……っ!、申し訳ございません!」

 

(落ち着け俺!確かに冷静に考えれば釣餌だ!だが俺は魚か!?ぴちぴちだ!……今度魚も食いたいなぁ……あ、沈静化した)

 

「ふむ、この事は宿題にしておくとしよう。誰かと相談しても構わん、考えてみるといい……そろそろか、セバス最初の目的地はキャッスルトン、町長の家だ」

 

「は!畏まりました!」

 

 

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「おや?またあんた来たのかい」

 

以前と同じように店の奥のテーブルで茶を啜っていた老婆がカップを上げて挨拶をしてくる。

 

「やあ婆さん、先日は世話になった。今回はちょっとした客を連れてきてな」

 

「あぁん?客?……どうにもこんな田舎には不釣り合いな執事さんだね」

 

アインズ……いやワーカーのダークの後ろからそっと歩く姿はまさに長年主を支え続けた貫録が伺える。

 

「お初にお目にかかります、わたくしセバス・チャンと申しますとある商会で執事を務めさせて頂いております」

 

「いやいや全く緊張しちゃうね、こんな貴族にお仕えする人と話すことなんて滅多に無いんだよ」

 

「どうぞ気を楽にしてください、確かにこのたび主の名代として伺わせて頂きましたがそう堅苦しい理由でもございません。主からはよい茶葉の生産地があると聞いた、ぜひ手に入れてこいと……少し拝見しましたがこの街ならばどのような紅茶であってもきっとお喜びになるのは間違いございません」

 

落ち着きを取り戻した老婆はまず一服しようかと立ち上がり、今日は少しスモーキーな紅茶がいいかねと呟きながら茶葉を選んでいるようだ。

 

(……ふむ、相変わらずこの婆さんは紅茶好きのようだな。以前来た時はダージリンが、ストレートが至高といったようだが今の様子を見るに少し嗜好も変わったのかもしれないな)

 

「お湯が沸くまでちっと待ってくれよ、しかし今回は茶葉の買い付けでこちらさんを案内してきたのかい?ご苦労なもんだねぇ」

 

「まぁな、ワーカーであればそういった仕事もある。ただ今回は護衛のみならず紅茶に関して少しでも心得があるものを……という事だったのでな」

 

「なるほど、確かにあんたはなかなか心得ている。思わず初対面の婆に物申すくらいだからねぇ?」

 

「全く……勘弁してくれ、確かにあれは少々大人げなかったかもしれないがいい切欠だったろう?」

 

以前ダージリンの街に来た時も同じようにワーカーのダークとして振舞っていたアインズだがその時にストレート至上主義ともいうべきこの婆さんの態度に少々カチンときて思わず紅茶(反論)してしまった。

 

少々失礼な行いであったが結果オーライというやつだ、あの時の紅茶対決のようなものはなかなかナザリックでは経験しづらく真正面からぶつかり合う非常に貴重な経験をできた。

 

(……ふむ?紅茶対決か……悪くないかもしれないな。ナザリック内ではもちろんこういった名産地で行うことも非常におもしろく町興しにつながるのではないだろうか?)

 

趣味が8割の考えだが、あながち間違ってもいない。有名な言葉で地産地消というものもある、この地産地消は地元で生産されたものを地元で消費するという意味だ。この世界ではごく普通かもしれないがリアル基準で考えれば今となっては非常にレアだ、物流が発達した世界では容易に遠く離れた名産品を手に入れられるがあえて地元のみで手に入るようにし特色を出させる。

 

この世界でも紅茶はエキゾチックな商品として人気が高い、ただしそれも遠く離れすぎていては一長一短。神秘的な商品としてイメージが作られるが貴族階級以上には普及しにくい。

 

ではどうするか?次に中流階級に普及させるにはちょっとした贅沢程度の距離感を作ればいい。この世界では娯楽が圧倒的に少ない、小さな祭りでも大きな娯楽となるだろう。それが自分たちが普段関わっている名産品ともなれば意気込みも違う。

 

(ふむ……一考の余地はある、デミウルゴス達にも言ったが廃墟の城に君臨するつもりはない。民の活気に繋がれば生産力、ひいては国力にも繋がる)

 

「後でもう少し詰めなければならないな」

 

 

 




ちょくちょくオリジナルの小説も煮詰めていってるんですがそれも四苦八苦しています。

こっちも紅茶の話なんですがね……折を見てまた投稿しようと思います。

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