「アルベド、エルダーリッチらの育成状況はどうなっている?」
「はい、アインズ様。当初こそぎこちなさが目立ちましたが既存の文官も慣れ始め日常的な業務であれば問題無いレベルと判断いたします」
「ほう、素晴らしい。僅かな期間で後任を育てる事は何であれ難しいものだ。よくやった、アルベド」
「ありがとうございます!アインズ様!」
美人は何をしても美人なんだなと規制ギリギリの笑顔を見て感慨深いものがある。転移してから時間が経ち守護者たちとも対話が進んだおかげかアインズに見せる表情はどこか柔らかい。
仕事ばかりの関係性はあくまでギブアンドテイクだ。だが普通の仕事ならばそれでも構わないが文字通りこの世界ではそんな生半可な事を言っていては何に裏をかかれるか分かったものではない。
(あまり公私混同をしたくはないが……まぁ喜んでくれているようなら構わないか)
事実、茶を飲む機会が増えシモベとの距離感が少し変わった気がする。冒険者同士でも酒を酌み交わせば態度も軟化する。それと同じようなものだろう。
酒を酌み交わすではないがふと頭に浮かぶのは例のNPCの事についてだ。
ダージリンの街で出会った老婆、ドライアドのNPCであり過去十三英雄とも関りがあったという。
だが、態々こちらの気分を害するような発言をし、攻撃するよう煽った。
考えは纏まってきている。だが正論を言えば納得するとは限らない。ではどうするか?詭弁を並べまくし立てればいいだろうか?美麗な言葉で飾り慰めれば心酔してくれるだろうか。
……どちらも悪手だ、ドワーフのゴンド、エ・ランテル冒険者組合長のアインザック。彼らは初対面こそアンデッドを前に敵対的だったが、メリットある取引を提示することで今ではナザリック外でありながらなかなか信の置ける人物となっている。
さてでは相手にメリットがある取引とは何か?当然だが欲しいがなかなか手に入らないものを提示される事だろう。見た感じ彼女――口調は老婆のようで外見は幼い見た目だったが――が紅茶を好んでいる事は明らかだ。
(……ん?じゃあ紅茶もっていけばいいんじゃないか?何を悩んでいたんだ俺は)
アインズは自分のアプローチが違っていたのではないかと思い始める。NPCが敵対したのではない、茶飲み友達が敵対してきたと考えればよいと。
(ふむ……、恐らく最初は好意的。その後そうだな、ヤツの家に赴いた時には何が違った?…)
(最初の時はワーカーに扮してだった。その次もワーカーだがシモベを……。そうか)
アインズは紅茶を飲む事を切欠に様々な歴史を学んだ。自分自身の知識は僅かなものだったが、それは友人達の偉大な図書館が補ってくれた。
その結果、アインズは茶というものがいかに奥深いものであるかを知った。
とある国の王妃は茶を求め臣下にはるか東方の地まで赴く事を命じた。
とある国は宗主国の象徴である茶を捨て独立の兆しを掴んだ。
とある国は茶を輸入しすぎてしまい戦争の引き金を作った。
貴重な品といえど遥か地球の裏側まで取りに行かせられる地位の者がそういるだろうか?
生活に根付き象徴となるまでのものが果たしてあるだろうか?
無くてはならない物だからと戦争が普通起きるだろうか?
実に興味深い代物だ。紅茶とは。
しかし紅茶とは。茶とは。
一人でも茶は
世の中に茶が、コーヒーが飲む文化が広がり無くてはならないものとなった。その一つの形態がコーヒーハウスだ。
「ふむ……」
「……アインズ様?如何いたしましたでしょうか?」
「アルベド、玉座に守護者を集めろ。今後の方針について説明をする」
「!畏まりました。即座に行動を」
アルベドが各守護者、立場ある者たちにも不在の対応をすぐに命令し動く。
アインズがゆっくりと立ち上がり跪こうとするアルベドにするべき事を為せと目で促す。
本日のアインズ当番であるフォスが先導し扉を開ける。
歩きながらアインズはさて、まずはどう伝えたものかなとイメージを膨らませる……。
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「アインズ様、お待たせをして申し訳ございません。各階層守護者 御身の前に揃いましてございます」
アルベドが堪えきれないような喜び――最早快感のように見えるが――を声に潜ませながら報告する。至上の主人であるアインズの前に傅く事。それは創られたシモベ達からすればこの上無い幸福だ。あぁこの世で最も美しい君、絶対ナル強者、慈悲深い方、とても優しい方、まさに端倪すべからざる方、慈悲深い方、最高の主人――愛しい方――。我らにご命令を、必ずやご期待に。
「うむ、まずは急な呼び出しをしてすまない。――特にデミウルゴス、仕込みをしている最中だったろう」
「何を仰います。確かにアインズ様へ捧げる物に手抜きなどは出来ません。しかしそちらはしっかりと命じておりますのでご心配なく」
強大な悪魔がアインズの労いにただただ敬服の念に堪えないといった様子を見せる。
アインズは抑揚に頷きながら裏で必死に組み上げたプレゼンのイメトレをする。まさに今からが正念場だと。
「さて、皆に集まってもらったのは他でもない。今後の方針について今一度整理を行うためだ。アルベド、今後について今一度説明せよ」
「はい、アインズ様」
突然の丸投げにも動じずアルベドがすらすらと説明を始める。
「現在、アインズ様自ら動いて頂いた事で王国の8――いえ9割。帝国の属国化、ルーン技術の取り入れ、冒険者組合の国家事業化が行われました。こちらは我々――私やデミウルゴスを主とした予定を大きく上回るスピードで実現、さらには多大な成果を出されていらっしゃいます」
もう予定が狂い始めた。
え?9割?半分ってこの前言ってたよね?
しかしここでいやいやたまたまなんですよ等言えない。ここは支配者の微笑3で乗り切るのがベスト。それが最も自然。
「今後ですが、まずは聖王国。その後は王国を刈り取る時期になるかと」
「なるほど、実に順調だ。ではこれから意見を聞こう――シャルティア、どう思う?何でも構わない」
「はい、まさに至高なる御身に傅く者どもは幸せというほかありんせん」
「コキュートス」
「ハ、御身ノ強大ナル力、正ニ民ノ一人一人マデ理解シタカト」
「アウラ、マーレ」
「はい!アインズ様の慈悲深さを各国がよく分かってきたかと思います!」
「は、はい。ア、アインズ様が優しい事が分かってもらえてう、嬉しいなと思いました」
「デミウルゴス」
「御身の深い洞察は私では到底及びません。しかしながら世界征服を完了するまでには少しでも追いつけますよう鋭意努力させて頂きます」
(ホントヤメテ)
「セ、セバス」
「はい、弱者にも慈悲深き対応をされ広くお優しさが知れ渡っている事でしょう」
「最後に……アルベド」
「はい、知恵者として生み出された我々の想像を遥かに上回るスピードで各国を支配下に置かれております。少々はしたない事ではありますが、アインズ様がどう次に動かれるのか楽しみでなりません」
守護者らの受け取り方は概ね現状が順調に進んでいる満足と明るい見通しを感じる事だろう。――ここで自分の一案は些か理解されない、もしくは障害物になるやもしれない。だがそうでなければ
「さて、皆の意見は様々なだが概ね順調に計画は進んでいるといっていいだろう」
「だが、1点私が憂慮している点がある。――私がこの世界に来た意味というものだ」
場が一瞬で緊張する。至高の方々が『リアル』という場所にいらっしゃる事をシモベ達は薄っすらと理解している。しかしその話に触れるとどうしても何故造物主の方は、他の至高の方々は来られないのかという問題に直面する。
故にシモベ同士で話す分には問題なかったが、答えを知っているであろう方――アインズ――に聞く事は半ば公然のタブーであった。
「――この世界を調べて分かったが、人間主体の国家は非常に少ない。そして100年内に全て消滅する可能性もあると」
それはシモベらが薄々感じていた事だった。この世界はまず非常に人間の力が弱い。
比較的この付近である王国、帝国、法国、聖王国を始めとした人間中心の国家が多いため麻痺しているがビーストマンの国を始め人間を家畜以下として扱う国が中央部には多いとも。
ナザリックが介入しなければ竜王国は正に滅亡間近だった。他にも破滅の竜王の伝説が人間勢力圏内にもある。
大海原に放り出された脆い船という現実を理解しているのは法国の一部程度だ。その法国が崩れ始めれた今、人間勢力圏は一気に後退するだろう。
「我々がこの世界に転移してすぐ法国の陽光聖典と相対した。その結果、我々は際立った武力を有していると判明。……これはたまたまだが監視していた部隊にも一撃を加え彼ら秘密部隊の力は激減した」
「明言しよう、人間は遠くない未来滅びる」
場がシンとなる。彼らは人間が滅びる事そのものはたいした問題とも思っていない。
全てのシモベ達が思う事はただ一つ、至高なる御身がそれを良しとしないそれだけである。
「ア、アインズ様、お聞きしてもよいでしょうか?」
質問は意外なところから飛んできた。マーレがいつものように自信無さげに、かといって聞き逃さないという芯を持った声で声を出す。
「構わないとも、マーレ」
「あ、ありがとうございます。ア、アインズ様は人間は滅ぼしてはならないとお考えなのでしょうか」
「ふむ、ある意味では良いとも言えるしならないとも言えるな」
少し空気がピリッとしたものに変わる。今まで人間を無駄に殺してきた訳ではないが躊躇わず処理してきたことは間違いない。それが間違っていたともなれば至高なる存在になんと無礼な事をしてきたのかと不安にもなるのだろう。
……当然だがそんな事で罰するつもりもないし、そもそも自身の命令で行ってきたものばかりだ。仮に殺すなという事ならばこの後から控えればそれでいい話だ。
「私はこの世界でに来て思った以上に人間が文化を発達させる能力があると感じた。……この場合の人間とは人間種だな、エルフ、ドワーフ等も含む」
「無論、戦闘に関してはあまり評価はしていない。守護者が出るまでもない、私が作成した中位アンデッドでお釣りがくるほどだ」
アンデッドには凶悪な能力を持つものが多い。代表的な例ではデス・ナイト、ソウルイーター等だろう。レベルというものを横に置いて考えるならば、スクワイア・ゾンビを作り出すデスナイト。周囲の者から魂を無造作に吸い取るソウルイーターは非常に凶悪だ。王国程度ならば1体ずつ送り込むだけでアダマンタイト級が出てくる前に致命的な状況になりかねない。
「適材適所というやつだな。残念ながらアンデッドはコミニュケーション能力は低く―上位ならばそうでもないが―生者には疎まれる存在だ」
「お言葉ですが、アインズ様。下等なヒトがそのような行い、偉大なるアインズ様を侮辱する無礼極まりないかと」
デミウルゴスが今すぐにでもその下等な存在達に考えを改めさせねばと息巻く様子に守護者達が一様に頷く。なんとも押しつけがましいような考えにも思うが力こそが正義であるこの時代では真理に違いない。
「デミウルゴス、お前の気遣いは嬉しく思う。しかしだな、正直そのような存在の考えにいちいち気を遣うつもりはない。私にとってはお前たち、ナザリックの仲間達にどう思われるかという事のほうがはるかに大切だ。……少しばかり、最近考えが変わる事があった。よりお前たちに目を向けるべきだと」
意訳
いや、障害になる人間殺すのはしょうがないけどな……?あんま殺しすぎるのはやめましょーねーって言っても多分上手く伝わらないし、ちょっと自分のイメージとは違う形で反映されても困る。まさか昔の小説に出てくるような人間牧場を始めて飼い殺しましょうと言われても困る。まぁお互い気にしすぎるスタンスはやめておおらかな心で不用意に近づいてきたやつだけ対処しましょうね?
おお、という声が上がる。うんよくわかってくれているよな?そこの守護者C、ツイニ身ヲ固メラレルノデスナ爺モ隠居デスナァってなんだ。世の中には60歳を超えても現役のアクション俳優とかいるんだぞ?世界一ついてないけどな。
「アインズ様、それは素晴らしいお考えですわ。下賤な者たちにアインズ様のお慈悲を与えすぎてもかえってよろしくありません。それよりも我々や、ワタクシとの語らいを増やして頂ければ何よりですわ。ずっと今後の建設的なお話もできるでしょう!」
「全く……はしたないでありんすねぇ。アインズ様と語らう茶会にそんな前のめりでは面食らってしまうでありんすえ。慎みというものを妾から学ぶといいんす」
「それシャルティアが言うー?ってとこだけど、今回はちょっとシャルティアに賛成かなー。アルベド、慎みって大事だよー?」
「こ、ここでアウラからも言われるとは思わなかったわ。ええ、大丈夫よ私は自分を完璧に律せられるのだから」
……凄い微妙な空気になったがまぁ主旨は伝わっているようで何より。ここらで解散しとくかと思ったところ
で
「……なるほど、そういう事でしたかアインズ様」
それはちょっと予定していないぞ、デミウルゴス……!
「デミウルゴス、分かってくれたか。……言葉とは時に相手に歪んだ形で伝わってしまう。そう、素直な捉え方でくれればそれで間違いないぞ」
「ええ、ええ、まさに仰られる通りです。
(……不安だな?ええい!今は止まるな!)
軽くうなずき目でデミウルゴスへ伝える、それ以上は言わずともよい と。
デミウルゴスがはっとした顔を見せ、すぐに顔を伏せる。
「さて、少し話がそれてしまったが本題だ。――今度茶会を各守護者で開いてくれないか?」
――後日、一般メイドの間でとある噂が広まった。あの一瞬玉座の間の入り口がとても恐ろしい、そう迷ったら出られない樹海の入り口に見えたと。
一応気持ちとしては何か色々なんやかんやあった事の決算の前半です(ややこしい
最近、ノリタケのティーカップを買う機会がありました。ほしいなーと思ってたデザインがたまたま安く手に入りこんなことあんだなぁと実感。
この小説ではあんまりガッツリ取り上げる機会が無いんですがティーカップのデザインとかオススメとかもちょっと取り上げてみたいものですね。