SALO(ソードアート・ルナティックオンライン)   作:ふぁもにか

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 皆さんどうも。ふぁもにかです。実はこの話で以前私が感想返信で告げた一区切りの箇所に差しかかります。SAO編完結まで続けるかここで完結と銘打つかは後書きにて。今回は割と文字数少ないです。はい。


Congratulations!!

 二度目の第一層ボス攻略戦は今まさに最悪の事態を迎えようとしていた。

腕を計6本に増やしたイルファンネオの凶悪極まりないタルワール6連撃。キリトは一撃こそ剣で受け止めたもののタルワールを重い攻撃に否応なく動きを封じられる。迫りくる残り5本のタルワールから逃れるあらゆる行動を封じられる。プレイヤー達は思う。勇者キリトがここで殺されてしまうのだと。不屈の精神でイルファンネオに怯むことなく立ち向かっていったSAO攻略の希望がここで潰えてしまうのだと。SAO攻略なんて端から不可能だったんだと。『勇者キリト』を、『閃光のアスベル』を信じてボスフロアへと足を踏み入れた彼らはまさに絶望する。肝心のキリトも決して生を諦めない気持ちの一方、これはもうどうしようもないなという諦念の気持ちをも抱いていた。

 だが。イルファンネオ攻略し隊の誰もが絶望しきったわけではない。何もかも諦めるのはまだ早いとわずかばかりの光明を手繰り寄せようと最後の最後まで手を尽くす者達が少ないながらも存在したのだ。彼らの足掻きが後の希望の発端と化す礎となる。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 キリトの命を刈り取ろうとする5本のタルワール。暴風を伴うイルファンネオ渾身の連撃。しかしイルファンネオが繰り出した凶刃の悉くが絶体絶命のキリトに届くことはなかった。身動きのとれないキリトの視界に剣が映る。はるか後方から投げられたであろう計4本の剣は回転しながら放物線を描きそのうちの3本がイルファンネオの頭頂部に勢いよく突き刺さる。

 

「……え?」

 思いもよらぬ攻撃にイルファンネオは苦悶の叫び声をあげてキリト殺戮を中断。数歩後ろに後退する。助かった。キリトは咄嗟にイルファンネオから距離をとり安堵の息を吐く。次に脳裏に浮かんだのは疑問。誰が窮地の自分を救ったのか。救うことができたのか。遊撃隊ではない。彼らはイルファンネオの妨害に間に合っていなかった。A~C隊でもない。彼らは六刀流と化したイルファンネオに凍りついていた。じゃあ誰が。そこまで考えたキリトの前方に駆け込む見慣れた白装束の姿。

 

『ハァアアアアアアアアアアアア!!』

 強く既視感を覚える白装束姿の人物はこれまた聞き覚えのある声でイルファンネオへと駆け抜ける。力強く大地を踏みしめて跳躍しひるんだままのイルファンネオの目に追い打ちとばかりにレイピアを突き刺すとイルファンネオの体を蹴ってキリトの隣に颯爽と降り立つ。

 

『待たせたなキリト』

 そこにはアスナがいた。相変わらずのアスベルスタイルだ。強く気高い元ソロプレイヤーはキリトへ顔を向ける。フードを装着しているため表情は伺えないのだがキリトにはアスナが微笑んでいるように感じられる。実際アスナは微笑んでいる。キリトがそれを察知する辺り二人の以心伝心度はとどまることを知らないようだ。

 

「あ、ああ――」

 キリトの歓喜の声を漏らす。アスナに輝かしい希望の光を幻視する。状況が状況でなければきっとキリトは泣き崩れていたことだろう。クライン達にアスナのことを任せていたとはいえ心の奥底ではキリトはアスナとの再会を期待できずにいた。いくらアスナを、クライン達を信じてはいてもキリトの希望的思考のできない頭はセンチネルネオに包囲されたアスナの生存を絶望的だとことさらに主張していた。それでもキリトがアスナの元を離れてイルファンネオへと向かったのは一重にアスナやクライン達の言葉を蔑ろにできなかっただけだ。

 

「どうよアスベル! 俺達の正確無比な投擲テクは!?」

『うん。上出来だクライン、皆。よくやった』

 背後からのクラインの得意げな声。アスナが首だけクライン一行に向けて満足げに答えると「うおおおおお! アスベルさんが褒めてくれたぜ!!」と見た目おっさんなバンダナ二号が喜びの雄叫びをあげる。残りの見た目おっさん三人衆も続いて喜びを全身で顕わにする。ちなみに剣をあらぬ方向に投げ飛ばし一人だけイルファンネオに命中させられなかった哀れな小太り天然パーマ男もちゃっかり歓喜の感情を全力で体現している。何とも図々しい限りである。ここまでくるともはや清々しくもある。

 

「アスベルッ!! 良かった……」

『全く……勇者がそんな情けない顔をするんじゃない。とりあえずHP回復しとけ』

 アスナはキリトの返事を聞く前に回復結晶を押しつけてイルファンネオへと躍り出る。その顔にはキリトへの呆れが多分に含まれている。目つぶしをされ憎々しげにアスナを睨みつけるイルファンネオ。そろそろ本当にレーザービームを発射してしまいそうな眼力だ。恐ろしいことこの上ない。あり得ないと断言できないことが恐ろしさに拍車をかけている。幼子が見たら一生のトラウマとして心に刻まれ毎晩毎晩うなされることだろう。

 

『全隊! フォーメーションα! センチネルネオは駆逐された。全員でボスを叩け!!』

 アスナはイルファンネオの威圧をそよ風のごとく受け止めつつ全隊に指示を送る。勇者キリトの死が回避されたこと。頼れる希望の一柱『閃光のアスベル』が戦線に復活できたこと。クライン一行の空気をぶち壊すやり取りもあってか、遊撃隊及びA~C隊のプレイヤーに生気が戻る。何度も砕かれかけた戦意が湧き上がる。センチネルネオ討伐に全力を注いでいたD~F隊と合流した彼らはイルファンネオを取り囲む。キリトは渡された回復結晶でHPゲージを満タンにするとアニールブレードを携えてイルファンネオの苛烈極まる六刀流を紙一重でかわし続けるアスナの援護に向かう。

 フォーメーションα――それは防御や回避を捨てた攻撃重視の突撃形態だ。攻撃は最大の防御だと言わん限りの布陣だ。A~F隊総勢45人が立て続けにソードスキルを発動させる短期決戦型。当然イルファンネオはソードスキルを使用し硬直したプレイヤーを狙い打ちにするだろう。それを妨害するのがキリト含む遊撃隊&アスナの役割だ。イルファンネオの頭があまりよろしくないからこそできる戦略である。知略に富んでいるならこんな無謀な作戦は行えまい。本来なら部隊を指揮するアスナがイルファンネオの囮になる必要はない。アスナがここで前に出るのは『閃光のアスベル』の存在を使ってイルファンネオ攻略し隊の士気を向上させる狙いだろう。

 

 前線でイルファンネオの猛攻をかわし続けるキリト&アスナの姿に果たしてイルファンネオ攻略し隊の士気は最高潮に達する。「おおおおおおおおお!!」と何とも威勢のいい声とともに次々とソードスキルでイルファンネオのHPを削りにかかる。遊撃隊のかく乱の術中に嵌まったイルファンネオは自棄になったのか滅茶苦茶にタルワール6本を振り回す。

どれだけタルワールを振るっても誰にも命中しない現状に苛立ちを感じているのだろう。手数こそ多いものの徐々に精彩を欠いていく攻撃。それはイルファンネオの暴風雨のごとき猛攻の中からキリトとアスナが反撃する機会を与えることとなる。

 

「『行っけええええええええええええええ!!』」

 二人は振り下ろされるタルワールを契機に二手に分かれると左右からイルファンネオを挟み撃ちにする。同じタイミングで放たれたソードスキルはイルファンネオの無防備な腹部に命中し――イルファンネオを二つに切り裂いた。

 胴体を真っ二つにされるイルファンネオ。これでもかと断末魔の声をあげる。誰もが思わず己の武器を手放して耳を塞いでいるとイルファンネオが光の粒子とともに消滅する。誰一人動かない。いや誰一人動けない。イルファンネオ攻略し隊が硬直する中、ボスフロアの中心に【Congratulations!!】との文字が表示される。

 

「やった……」

 イルファンネオ攻略し隊の一人が震える声で呟く。戦闘が終わってようやく恐怖がよみがえったのかガクガクと体を震わせている。それでも声には喜色が含まれている。

 

「や、やや、やったぞおおおおおおおおお!!」

「倒せたあああ! ボス倒せたよ俺達!!」

「勇者キリトさんバンザァアアアアアアアアアイ!!」

 その呟きを契機に歓喜の雄叫びがボスフロアに響き渡る。感情の全てを叫び声に託す者。剣を頭上に掲げる者。仲間とハイタッチする者。拳を重ねあわせ互いにニヤリと笑う者。あまりの嬉しさに「ふははははははは!!」と普段の姿からかけ離れた何とも悪役っぽい高笑いをあげる者。勇者キリトと閃光のアスベルを称賛する者。本当に多種多様だ。

 ちなみに前回の経験からイルファン第三形態の台頭を視野に入れていたキリトだったがすぐに警戒をとく。ラストアタックボーナスがちゃんと自分に支給されたのを確認したからだ。加えて前回みたくイルファンネオの末路がボスフロアに残されていることもない。消滅したのはこの目で確かに確認した。ホントに勝ったんだなとキリトは天井を見上げる。

 

『終わったなキリト』

「あぁ。これで始まりの街の皆に吉報を届けられる」

 よほど疲れていたのか床に座り込みキリトを見上げるアスナにキリトは視線を下ろして互いに見つめあう。あくまでキリトの方はアスナの目を見つめてる気分なだけなのだが。ディアベルが紡ぎあげたラストチャンス。何とか無駄にせずに済んだ。綱渡りの危険極まりない攻防だったけれど最終的には勝利をもたらすことができた。しかもかつてディアベルが目指した完全勝利の形でだ。間違いなくこれ以上ない最高の成果だろう。

 

「へへへッ。やったなキリト先生!」

「先生は止めろってクライン。……ホントにありがとな、助かったよ」

『ボクからも言わせてもらうよ。助けてくれてありがとう』

「へへッ。いいってことよ」

 キリトに得意げに肩を組んでくるクライン。自分とアスナの命の恩人たるクラインに二人で感謝を告げると後からやってきた残りの見た目おっさん三人衆が「ずるいぞクライン! てめえだけ感謝されやがって!」「万死に値する!」とクラインを揉みくちゃにする。クラインの救援要請をキリトは苦笑を浮かべて華麗にスルー。キリトは再び天を見上げる。第一層ボス攻略成功。それは最高の結果だろう。皆が狂喜乱舞するのも当然と言える。キリトもつい数瞬前までは純粋に喜んでいた。喜びを噛みしめていた。あくまで心の中でだが。勇者の仮面を被っている今のキリトはオーバーリアクションを取るわけにはいかないのだ。何とも難儀な立場である。……あることを考えるまでは。

 

(これを後99回続けないといけないのか……)

 急に自身の体がズシリと重くなった気がする。あたかも足にいくつもの鉄球をつけられたかのような心境だ。ドッと疲れを感じたキリトは憂鬱なため息を吐きたい衝動をこらえて目を瞑る。アスナ達の心配そうな声に「なんでもない」とだけ答えておく。折角皆が歓喜しているんだ。この絶望だらけの世界でこうも喜べることなんてそうそうあるものじゃない。空気壊す、よくない。キリトはふるふると頭を振ると前を見据える。

 

「そろそろ行くぞアスベル。アクティベートの役目が残ってる」

『……ボクとしては今すぐベッドに潜りたいのだが』

「アスベルだけだと思うなよ。俺も一緒だ。さっさと終わらせるぞ」

『やれやれ……』

 キリトはアスナに手を差し伸べ立ち上がらせる。二人して未だ狂喜乱舞中のイルファンネオ攻略し隊の元へと歩を進める。アクティベートをする前にまずは彼らを落ち着かせる必要があるだろう。背後から「よッ。勇者キリト。演説期待してるぜ」とニヤニヤしながら声をかけるクラインにはひらひらと後ろ手を振る。俺達の戦いはこれからだ。漫画やアニメにおいてありきたりな言葉を想起しながらキリトは前を向くのだった――

 

 

 ◇◇◇

 

 

 勇者キリト一行が第一層ボスを攻略した。この吉報は瞬く間に全プレイヤーの知る所となった。主な反応は二つある。勇者キリト伝説をますます信奉しSAO攻略に希望を見出す者。デスゲーム開始から三か月でようやく第一層が攻略されたという攻略スピードのあまりの遅さにSAO攻略不可能ということを再認識し絶望する者。

 

「……ふむ」

 だがここに二極化する反応とは違う気持ちを抱く者がいる。場所は始まりの街。質素極まりない宿の一室。椅子に腰を下ろしている壮年の男はおもむろに口元に手をあてる。視線の先には勇者キリトと閃光のアスベルの活躍譚を記した記事が写されている。情報源はKコミュニティだ。彼もまたKコミュニティの会員なのである。

 

「勇者キリトに彼の懐刀たる閃光のアスベル……中々面白いことになってきたようだ」

 銀色に輝く長髪を後ろに束ねた男は背もたれに身を預け紅茶をすする。かなり様になっている。初見でこの光景を見た者の大半は彼の容姿も合わさって彼をどこぞの貴族ではないかと推測することだろう。それほどに男には気品のようなものが満ち溢れている。

 

「さて。そろそろ私も動くとするかな」

 男はスッと立ち上がると武器防具を装備して究極の質素さを体現する宿を後にする。ここ三か月もの間ずっと陰でスタンバってきた男が動き出す。後のラスボス――ヒースクリフこと茅場晶彦――の出陣のときである。

 かくして物語は加速する。彼の気まぐれで難易度の跳ね上がった新生アインクラッド。その結果生じる差異がどのような化学反応を起こすのか。どのような結末をもたらすのか。勇者キリトであろうと。ラスボスヒースクリフであろうと。まだ誰も知らない。誰も知りえない。

 

 ――Fin.

 




 ――Information.アスナの死亡フラグが回避されました。
 ――Information.勇者キリトの死亡フラグが回避されました。
 ――Information.SALOは完結と銘打つこととなりました。
 ということでこれにてSALO完結です。ふぁもにかさんの次回作にご期待ください。
 ……はい。とりあえず今からSALO完結の決定下した理由を羅列しますので怒らないでください。液晶画面割らないでください。お願いします。この通りです。

・展開を盛り上げすぎた
・今以上の戦闘シーンを描写できそうにない
・ふぁもにかがSAOの原作持ってないにわかファン
・ソードスキルの種類を初めとする各種設定についてにわかにしか知らない
・アニメすら全話見ていない
・MAD&ウィキペディア&他の二次創作の知識のみで連載してきた
・これから私のリアル生活が忙しくなる
・ふぁもにかは飽きっぽい人
・長期連載途中にエタる可能性大
・もしくは別のオリジナルor二次創作に走る可能性大

 ……といったところでしょうか。特に原作持ってないのはかなり痛い。ということでこれから本編書くにはまず原作楽しんでからじゃないと無理ではないかという結論になりました。まぁ原作をあまり知らなかったからこそ思う存分世界観のぶち壊しができたともいえますが。とにかくSALO本編はここで終了です。後は私が執筆したかったシーンを外伝と称して数話投稿するぐらいですかね。本当にすみませんでした。そしてSALOをお楽しみいただきありがとうございました。ではでは。

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