SALO(ソードアート・ルナティックオンライン)   作:ふぁもにか

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 はい。というわけで外伝第一話です。今回は感想返信で述べたあの原作キャラ達が登場します。外伝ゆえ色々とぶっ飛んでるのであしからず。ちなみに外伝の章題はSAEO(ソードアート・エクストラオンライン)。サージさんの感想に書かれたことをそのまま引用させてもらいました。本当にありがとうございます。
 ~おまけ~
ふぁもにか「今回あなた達の出番はありません。お引き取りください」
リズベット「ッ!?」
ロザリア「ッ!?」
赤目のザザ「ッ!?」



外伝 SAEO
メインパーティ


 第十七層圏内にて。NPCとプレイヤーが入り混じる繁華街から外れた路地裏に二人の少女が身を隠している。一人はやや短めの茶髪をツインテールに纏めた少女。多分に幼さを含んだ容姿をしている。いかにも年相応な様子が何とも可愛らしい。もう一人はちょうどうなじが隠れる程度の長さのペールブルーの髪をした少女。こちらも多分に幼さを含んだ容姿をしているのだがどこか年相応などという言葉とは縁のなさそうな不思議な雰囲気を放っている。

 

「ねぇ、そっちはどう? 宿に行けるかな?」

「ええと。こちらの繁華街にはプレイヤーが――14人いるですね。目的地へのルート検索……完了。 遠回りルートと近道ルートがありますがどちらを選択するですか?」

少々独特な口調でペールブルーの髪の少女が問いかけると「ん~、どうしよう……」とツインテールの少女が口元に手を当てて眉を潜める。いかにも一部の『ロ』から始まって『ン』で終わる四文字の性的嗜好を持つ方々が悶絶しそうな光景だ。一方ペールブルーの髪の少女は二つの選択肢を前に悩むツインテールの少女を見つめたまま微動だにしない。

 

「うん。決めた。皆との集合時間に遅れてるからね。近道でお願いピナ。……誰にも見つからないように行ける?」

「はい。お任せくださいマスター」

「ピナ。私のことはマスターじゃなくてシリカでしょ?」

「あ、す、すみません。マス……シリカ」

 逡巡の末、決断を下したツインテールの少女――シリカ――にペールブルーの少女――ピナ――は胸を張って答える。張るほどの胸はそこに存在していないが。俗にいう絶壁である。その際に無意識にシリカをマスターと呼んだことをシリカから指摘され慌てて訂正するピナ。再びマスターと口に出しかける辺り自然にシリカと呼ぶようになるにはまだまだ時間がかかりそうだ。シリカはため息を吐くとピナ先導の元で目的地たる宿へと慎重に歩を進めた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ここ、アインクラッドがログアウト不能なデスゲームと化してからかれこれ一年が経過した。死者は約7000人。全プレイヤーの二割強が脱落した計算だ。一方で勇者キリトを中心に据えたSAO攻略は今現在までに計十六体のボスの撃破に成功。プレイヤー達は十七層まで自由に行き来できるようになっている。この世界の理不尽に跳ね上がった難易度を踏まえればこの攻略スピードは大したものと言えるだろう。十数名の死者で何とかボス戦を制していることもさすがだと言える。当の本人たるキリトは微塵も納得していないが。後悔しすぎて後々おかしな行動に走らないか心配である。

 

 さて。ここでボス攻略戦において常に多大な貢献をしている勇者キリト一行を紹介しよう。まずは勇者キリト。類いまれなる反応速度や第六感、戦闘技術によって死亡フラグの雨あられを切り抜けて他のプレイヤーに常に希望を与える元βテスターである。勇者の演技を始めてから約9か月。かなり勇者が様になってきている。

 次に閃光のアスベルもといアスナ。戦況を正確に把握しボス攻略し隊を指揮したり自身もその素早さでモンスターを翻弄しつつ攻撃したりと多方面で目覚ましい活躍を見せている勇者キリトの懐刀である。アスナの卓逸した戦術眼がなければボス攻略し隊の犠牲者は軽く3ケタを超えていたことだろう。彼女の存在意義はかなり大きい。

 3人目は守護神ヒースクリフ。攻撃に比重を置いたため常にボスの一撃で死に至る可能性を孕む勇者キリト一行を命の危機から守る盾である。勿論攻撃においても活躍しているがどちらかというと守護神としての活躍の方がはるかに目立っている。勇者キリトと閃光のアスナと出会ったのは第二層ボス攻略戦のときのこと。攻撃ばかり強化し過ぎて防御が心もとないキリトとアスナ。防御ばかり強化し過ぎて火力不足な感が否めないヒースクリフ。欠点を補うため互いを必要とするのに時間は掛からなかった。なし崩しで即席パーティを組んで以降勇者キリトのメインパーティの一人として己の立場を確かなものとしている。余談だがヒースクリフがキリト&アスナとともに行動し始めた際「なぜですか……なぜ私ではダメなのですか勇者様ああああああああ!?」と色々な意味で崩壊した顔でキリトに詰め寄るクラディールという男がいたことを明記しておく。キリトが彼の弟子入り申請を断り続けて早9か月。諦めが肝心との言葉を彼は知らないようだ。

 そしてここ最近勇者キリト率いるメインパーティに新たに加入したメンバーが二人存在する。その二名を加えた5人が今現在の勇者キリトのメインパーティなのである。

 

「遅いなぁ……」

 十七層のとある宿にて。ベッドに腰掛けた我らが勇者キリトは呟く。今日は先の5人がここに集うよう取り決めている。しかし約束の時間から既に30分が経過した今集まっているのはアスベルスタイルのアスナと悠然とたたずむヒースクリフのみ。後二名の到着は大幅に遅れている。

 

『仕方ないんじゃないか? 彼女たち人気高いから。大方人目を避けながら向かってるんだと思うよ』

 何かあったんじゃないか。時間帯が夜だということもあり途端に心配になるキリトに壁際に立つアスナが声をかける。ちなみにアスナは未だに自身の正体をキリトにしか明かしていない。キリト以外誰も信頼していないという意味ではない。単にカミングアウトの機会を逸してしまっているだけだ。ヒースクリフやこれから来る二人やクライン一行等にはいつ正体が露見しても構わないとの考えをアスナは抱いている。それだけアスナは彼らに好感を持っているのだ。

 

「お、来たな」

「――お、遅れてすみませんでした!」

「……すみませんでした」

 キリトがふと目を向けた先の扉が開かれる。既に揃っているキリト達三人に対して遅れたことに頭を下げる二人の少女。勢いよく頭を下げるのがツインテールの少女ことシリカ。ゆっくりと頭を下げるのがペールブルーの髪の少女ことピナ。

 片手剣使いキリト、レベル193。細剣使いアスベルことアスナ、レベル189。片手剣&盾使いヒースクリフ、レベル191。竜使いシリカ、レベル178。小型竜人ピナ、レベル182。現状の勇者キリトのメインパーティがここに結集した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ところで今日はどうして皆で集まったんですか?」

『ボクも聞いてないが……何かあったのか?』

 口火を切ったのはシリカ。何も聞かされていないアスナがそれに続く。ピナも尋ねこそしないものの首をコテンと傾けている。何とも小動物を想起させる姿である。事情を知らない三人にキリトは「そういえば何も言ってなかったな」と苦笑する。ちなみにヒースクリフは本日の招集の理由を知っているため相変わらず悠然とたたずむだけだ。

 五人は同じパーティとはいえ常に一緒に行動しているわけではない。キリトはアスナとの共同戦線を組んでいることが多いしシリカもピナとの二人組でいることが多くヒースクリフは基本単独行動だ。たまにアスナとシリカ、キリトとヒースクリフといった組み合わせでモンスターのはびこるフィールドへと向かうこともあるのだが全員が一堂に集うのは珍しい。集まるとすればボス攻略会議の時が常なのだが今回は違う。事情を知らない三人が疑問を抱くのも無理はない。

 

「今回皆に集まってもらったのは皆の考えが聞きたかったからだ」

 キリトはこの場の4人全員を見据えて目的を告げる。「ヒース」とキリトに促されたヒースクリフは一歩前に出る。ヒースクリフは見た目からして明らかに勇者キリトパーティ内で最年長なのだがキリト達は『ヒース』との愛称で親しみを込めて彼を呼んでいる。同じパーティなのに年の差を気にされて敬語を使われることをよしとしなかったヒースクリフからの要望あってのことだ。尤も、シリカだけは未だにヒースクリフを『ヒースさん』と呼んでいるが。

 

「先日、私とキリトでボスの偵察に向かったのだがそのボスが中々イレギュラーでね。攻略会議を開く前にあらかじめ対策を練っておきたかったのだよ」

「それほど危ない相手なのですか?」

 ピナの問いにヒースクリフは首肯する。事情を知らない三人は事の重大さに表情を引き締める。今までのボスだって多かれ少なかれイレギュラー極まりない存在だった。予想だにしないボス達の攻撃手段に何度死にかけたことか。HPゲージが残り数ドットと化したことか。キリトに至っては積み上げた死亡フラグは既に三ケタを軽く超えている。そんなボス勢を差し置いてイレギュラーとヒースクリフが称する第十七層ボス。ごくりと三人は唾を呑む。

 

「ボスの名は『The Dragonewt』。鋭利な爪と攻防一体の頑丈な鱗。自由の利く長い尾を持つ竜人だ」

『……待て。竜“人”だと? それはつまり――』

「そういうことだアスベル。今回のボスは人型だ。知能も高いし言葉も通じる。素早いし体が小さいから攻撃が当たりにくい上に当てたとしても鱗があるから大してダメージは与えられない。俺達と似たような姿をしているから攻撃するときに躊躇する可能性も捨てきれない。……本当に厄介な相手だよ」

 ヒースクリフの言葉を継いだキリトの説明を最後に部屋が重々しい空気に包まれる。当然だろう。厄介にも程がある。今までのただ図体のでかいボスとは全く種類の違うボス。力でねじ伏せるタイプのボス相手に慣れきってしまっている攻略組の常連メンバーでは多くの犠牲者が生まれるかもしれない。いや生まれるだろう。『The Dragonewt』以下ドラゴをこの目で見てきたキリトとヒースクリフは確信していた。

 ちなみにボスの情報収集目的の偵察は大抵防御力に優れたヒースクリフが担っている。予定がなければキリトやアスナも一緒に偵察に向かう。当初は勇者キリトの役に立ちたいと自ら志願してきた有志達に任せていたのだが第四層ボスを前に全滅した出来事があってからは勇者キリト率いるメインパーティが精力的に取り組んでいる。つい最近パーティに加わったばかりのシリカ&ピナは別だが。無論ボスフロアでしっかり結晶が使えるか確認した上での偵察だ。モンスターが理不尽に凶化され難易度が異常なまでに跳ね上がったこの世界では石橋は叩けるうちにできるだけ多く叩いておくくらいが丁度いいのである。

 

「それで皆の意見が聞きたいんだ。……今回のボス戦、いつも通り大部隊を編成して挑むか、それとも少数精鋭で挑むか。俺個人では少数精鋭の方がいいと思うんだけど――」

「私はキリトと違い大部隊で戦うべきだと考えている」

「……という風にヒースとも意見が分かれててさ。皆はどう思う?」

 沈黙を切り裂いたキリトの問いにアスナ&シリカ&ピナの女子三人衆は真剣に考えを巡らせる。少数精鋭か。大部隊か。どちらも長所と短所を抱えているため簡単に決断はできない。人の命がかかっているなら尚更だ。

 

『……ボクは少数精鋭に一票かな。体が小さいんじゃあ一気に攻撃できる人数も限られてくる。たくさんいるとかえって邪魔になりかねない』

「わ、私は大部隊がいいと思います。最初はボスが小さくても第二形態のときに大きくなるかもしれませんし……」

 しばし思考の海に沈んでいたアスナとシリカは相反する意見を提示する。少数精鋭の長所は人間サイズのドラゴに攻撃しやすくドラゴの俊敏さに部隊が混乱しづらい所にある。とはいえドラゴの動きがあまりに度が過ぎていればやはり混乱に陥るのだろうが。一方大部隊の長所は保険の意味合いが強い。もしもドラゴが第二形態に移行したとき巨大化すれば少数精鋭ではあまりに不利だ。図体のでかい相手なら大部隊で挑んだ方がいいに決まっている。これまでのボス16体の中で第二形態に移行したものは計9体。ほぼ五分五分の確率である以上ドラゴの第二形態をも警戒する必要がある。

 

「ピナは?」

「……そうですね。今の所は私もマス……シリカと同じく大部隊がいいと思うです。人型で攻撃を当てにくいのは確かに厄介ですがそれ以上に第二形態の方が怖いです。でも……」

『でも?』

「第二形態だからといって巨大化するとは限らないです。人型のまま強くなる可能性も否定できないです。だから断言はできないです」

「「『あ……』」」

 最後に示されたピナの的を得た意見にキリトは思わず声を漏らす。第二形態だからといって巨大化するとは限らない。キリトはその可能性をすっかり失念していた。アスナとシリカもキリトと同様のようで同じく声を漏らしている。ヒースクリフは声に出して驚きこそしていないが目が少し見開かれている。これまで対峙したどのボスも第二形態移行で一回り図体がでかくなっていた。だからだろうか。いつの間にか第二形態ではボスが大きくなるのが当たり前だと考えていた。逆にサイズが小さくなったり変わらなかったりする可能性を無意識に否定していた。その事実に気づいたキリトは戦慄する。あらゆることを想定してボス攻略戦の犠牲者を最小限に抑えなければならない勇者たる自分が人の生死に大きく関わる可能性を認識すらしていなかったことに。同時に自分の無知さ加減に内心で嘆息する。

 

「えと……とにかく今はまだボスの情報が少ないと思うです。今回は色々とイレギュラーなボスが相手とのことですから攻略会議の開催を考えているなら少し延期した方がいいかと」

「……あぁ。そうだな。もう一度偵察に行く必要がありそうだ。皆、明日の予定は空いてるか?」

『ボクは空いてるよキリト』

「私も不都合はないな」

「私も大丈夫です。キリトさん」

「右に同じくです」

 ピナの遠慮がちな提案をキリトは受け入れる。自分の想定の甘さから脳内で考えている現行の作戦の根本的な練り直しが必要だと判断したからだ。今度は5人全員で偵察に行こうとキリトは4人に明日の予定の有無を尋ねる。幸い4人とも事前に予定が入っていなかったので5人は明日の午後にボスフロアへと向かうこととなった。その後は互いに近況報告をして他愛もない話題で談笑。深夜に差しかかろうとした頃にシリカが眠たそうに目をこすっていたのをきっかけに5人の会合はお開きとなるのであった――

 




 ――Information.ラスボスヒースクリフが勇者キリトパーティに加入しました。
 ――Information.竜使いシリカが勇者キリトパーティに加入しました。
 ――Information.ピナが擬人化&勇者キリトパーティに加入しました。
 うん。改めて読み直してみるとカオスですね。凄まじくカオスな気がします。どうしてこうなった!? ……それにしてもアスナが空気な感があるのは気のせいですかね?

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