SALO(ソードアート・ルナティックオンライン)   作:ふぁもにか

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 はい。というわけでSAEO二話目です。今回はサブタイトルが今までの中で群を抜いてカオスですね。初見の方とか絶対「ッ!?」ってなると思います。二度見とかしそうですよね。ちなみに今回は文字数少ないです。今までの中で一番文字数少ないです。……外伝だからいいよね!


キリト VS ピナ

 シリカの毎日が大きく変化したのはデスゲームが開始してから8か月後のことだった。偶然に偶然を重ねあわせたかのような奇跡的な確率で小さなドラゴン型のレアモンスター――フェザーリドラというらしい――に懐かれてからの日々はそれまでの不安や恐怖、寂しさに怯えるものとは全く違っていた。自分に好意を抱いてくれる存在が傍にいる。微塵も信頼などできない他のプレイヤーと違って自分に寄り添ってくれる存在がいることはシリカの心を支えるには十分だった。シリカは親しみを込めて『ピナ』と名付けた。シリカが現実世界で飼っている猫の名前と同じ名前である。ここからシリカがピナをただのテイムしたレアモンスターなどではなく自分のパートナーのように感じている一端が垣間見えるというものだ。

 嬉しいことがあったときはピナも嬉しそうに自分の周りを飛び回ってくれた。怖いことがあって震えていたときはピナは自分の恐怖を少しでも和らげようと自分の肩に乗って頬ずりしてくれた。怒っていたときはピナも共感してくれたのか全身を使って怒りを表現してくれた。悩んでいたときはピナは自分の前で「大丈夫」と言わんばかりに鳴いてくれた。ピナがいなければ。きっと自分はここまでやってこれなかっただろう。遅かれ早かれこの世界に気持ちで負けていただろう。心が折れていただろう。ピナはシリカにとって何よりも大事な唯一無二の存在と化していた。

 

 だが。いつからだろうか。シリカに欲が生まれた。隣にいてくれるだけで満足だったはずのピナがモンスターもとい動物であることに段々物足りなさを感じるようになった。自分はピナが好きだ。大好きだ。愛してると言ってもいいかもしれない。でもピナの方はどうなのだろうか。本当に自分を好きなのか。嫌々自分とともに行動しているだけではないのか。自分の思いは一方通行なのではないのか。シリカを徐々に浸食する不安はやがて一つの願望を導いた。

 ピナが人間だったら良かったのに。シリカはつい己の願望を口にした。人間だったら言葉が通じる。そうすればピナの本心がわかる。そのように考えた末の呟きだった。シリカはすぐに我に返る。ピナが傍にいてくれる。それだけでも物凄くありがたいのに自分はさらに何を望んでいる。これではピナに失礼だ。シリカは自身の願望を振り払うように何度も首を横に振る。

 

「……え? ピナッ!?」

 シリカが再び前方を見やったとき驚愕した。不意にピナが光のエフェクトに包まれたのだ。何の前触れもない予想外の事態に戸惑いを見せるシリカをよそにピナを包む青白い光は収束する。ついさっきまでピナが飛んでいた位置に一人の少女が立っていた。透き通るようなペールブルーの髪に今にも相手の本質を見抜いてしまいそうな真紅の瞳。自分と同じくらいの背丈。どこか人外染みた雰囲気。シリカの視線は少女にくぎ付けになっていた。

 

「え、えと、その……あ、あなたは一体?」

 シリカは若干しどろもどろになりつつも眼前の少女に疑問をぶつける。小型竜の姿をしたピナがいなくなっていることにシリカは気づいていない。いきなり現れた自分とおそらく同年代であろう少女。シリカは緊張すると同時になぜか安心感を覚えていた。

 

「私はピナですよ、マスター。この姿で会うのは初めてですね」

「へ? え? ……ピナ!?」

「はい。ピナです。いつもお世話になってるです」

 ペールブルーの髪をした少女は自身をピナと名乗る。ぺこりと頭を下げるピナにシリカは完全に混乱した。何がどうなっているのか。わけがわからずシリカは硬直した。手っ取り早い現実逃避の手段である。ピナの呼びかけも虚しくシリカが再起動するのに数時間もの時間を要した。

 

 シリカが平静を取り戻したのを契機にピナは説明した。自分には3つの形態があることを。話によるとピナは通常の小型竜の他に人間と大型竜に変身できるらしい。尤も、ピナが人間形態になるにはビーストテイマーたるシリカがレベル100以上である必要があるのだが。ちなみにピナが大型竜に形態変化するにはシリカがレベル600以上でなければならないそうだ。大型竜ピナを引き連れるまでの道のりは険しい。ピナは今の今まで自身のご主人様たるシリカは可愛い動物のような姿をした自分を気に入っていると思っていた。シリカのレベルがすでに136であるのに人間形態に変身しなかったのはそのためだ。だからこそ。シリカの抱える願望を知って慌てて人間形態になったのだ。

 全てを理解したシリカは嬉しくなった。これからはピナと双方向の会話ができる。あまりの嬉しさに頬が緩むのが抑えられない。シリカは頬に両手をあてる。これからのピナと二人三脚で歩む日々を想起してシリカは「ふふふ」と笑った。ピナは幸せそうなシリカに優しげな眼差しを向けていた。これがシリカと人型ピナとの初会合であった――

 

 

 ◇◇◇

 

 

 早朝。キリトは十六層のとある広場へと足を運んでいる。早朝といっても午前4時という朝に分類してもいいのか著しく微妙な時間帯だ。他のプレイヤーは未だ寝静まっている。キリトが繁華街を堂々と歩けるのはそのためだ。もしもこれが正午であれば瞬く間に熱狂的な勇者キリト信者に囲まれるだろうことは想像に難くない。その上最近はなぜか一部のNPCも彼らに交じって勇者キリト様と詰め寄るという謎の現象が発生しているためますますキリトが繁華街を歩ける時間帯は限られている。キリトは自然とため息を吐く。幸運が逃げようともお構いなしである。

 

「悪い。待たせたか?」

「いえ。五分程度ですので気にしないでくださいです」

「そうか。それじゃあ早速始めるか」

「お手柔らかにお願いするです」

 広場には先客がいた。精神統一でもしているのか広場の中心で目を瞑って立つピナ。キリトの声に反応するとおもむろに目を開けて返答する。キリトとピナ。この二人は不定期開催で二人きりで会うことがある。このことを知っているのは二人だけ。シリカやアスナでさえも知らないであろう二人だけの秘密だ。会員数8500人を超えるkコミュニティであっても把握はしていないだろう。とはいえ別にやましいことをしているわけでも二人がモンスターとプレイヤーとの厚き壁を乗り越えてそういう関係を築いているわけでもない。二人がそれぞれ剣を装備し対峙していることからもそれが伺える。二人の目的は模擬戦もとい半減決着モードでのデュエルだ。

 静寂が広場を包む。キリトはピナの一挙手一投足を見逃さないようピナを凝視する。いつ仕掛けたものか。ピナの戦法はカウンターが基本だ。向かってくる敵をいかに返り討ちにするかに重点を置いている。ピナが自ら攻めに出ることは稀だ。このままピナが打って出るのを待っていればあっという間に他のプレイヤーが活動を始める時間になってしまう。この模擬戦を見世物にしたくないのは双方の共通見解だ。自分が仕掛けなければ始まらない。キリトはピナへと向けて走り出す。今回は自分から攻撃を仕掛ける気でいたのかキリトと同じタイミングでピナもキリトとの距離を詰める。

 

「ふッ!」

 ピナの風を纏った突き。キリトは体を捻ってかわすとピナに剣を振り下ろすふりをする。ピナがキリトのフェイント攻撃を避けようとバックステップを取った所を狙ってキリトはすぐさまピナとの距離を詰めピナに逆袈裟をお見舞いする。ピナは剣でキリトの攻撃を受け止めるも宙に吹き飛ばされてしまう。HPを二割ほど減らしたピナは体を捻って着地。何事か唱えてHPを少々回復すると即座に迫りくるキリトへと駆ける。

 交差する剣と剣。互いの攻撃を読み合いながらの至近距離での剣舞は激しさを増していく。しかしキリトがピナの攻撃の一切にかすりもしない一方でキリトの攻撃はピナを捉えている。直撃こそ免れているもののピナのHPゲージは徐々に減っている。それでも決着がつかないのはピナがHPを回復しながら戦っているからだ。だがいくらHPが回復できるとはいえ気休め程度だ。しかも一回使用してから次に使うまでには一定の時間を置く必要がある。この世界において最強のプレイヤーといっていいキリトとの決闘が長く続いているのは紛れもなくピナの実力の表れだ。

 

「はァ!!」

「あッ!?」

 至近距離での剣舞に変化が訪れたのは決闘開始から15分後のこと。微塵も油断できないギリギリの攻防の中でピナの集中力は霧散しかけていく。ピナのわずかな変化に目ざとく気づいたキリトは全力で距離を縮めにかかる。今までのキリトは自身の8割の力でピナと対峙していたのだ。キリトの迅速と言っていいほどに強烈な剣の振り上げ。ピナは寸での所で反応して剣で受け止めようとするもあまりの衝撃の強さに剣を手放してしまう。宙を回転し地面に突き刺さる剣。ピナのHPこそまだ半分以上残っているものの勝負は決したも同然だった。

 

「……参りました。やはりキリトは強いです。今回はいけると思っていたのですがまだまだですね。とても勝てそうにありません」

「いやいや。ピナも前と比べて随分強くなってるって」

「本当ですか?」

「あぁ。本当だ。この調子だったら俺が抜かれるのもそう遠くないかもな」

 今にも落ち込んでしまいそうな様子のピナにキリトは慌ててピナを褒める。実際ピナは前回の模擬戦よりもはるかに強くなっている。ピナ相手に本気で戦うつもりのなかったキリトが全力を出さなければならないほどに強くなっている。キリトが全力を出してまでピナに勝つ選択をしたのは単なる意地の問題だ。キリトのレベルは193。対するピナはレベル182。彼我のレベル差、実に11レベル。レベルではるかにピナに勝ってるキリトが負けるわけにはいかないのである。いかなる手段を使おうともピナに勝とうとするのは当然の結実と言えよう。

 

「さて。続きやるか?」

「はい。次こそはキリトを超えてみせます!」

 ピナは突き刺さったままの剣を抜くとキリトへと剣先を向ける。キリトも半身で剣を構えてこれに応じる。再び静まり返る広場。二人の剣舞はまだまだ続きそうだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『今回もキリトの勝利だったようだね』

「……キリトさんもピナも凄かったです。全然剣が見えませんでした」

 キリトとピナ。模擬戦にて真剣勝負を行う二人を物陰から見守る二つの影があった。アスベルスタイルのアスナと竜使いシリカだ。二人はキリト達が解散しそれぞれ帰路についた頃を見計らって物陰からスッと姿を現す。キリトが時々朝早くにこっそりと外に出かけていることに気づいていたアスナは好奇心に駆られてキリトを慎重に尾行していたのだ。ピナと内密に会っている光景を見た時は「何事ッ!?」と色々とあらぬことを想定していたのだが互いに剣を構えて対峙する様子から自身の認識を修正した。それからはキリトとピナが模擬戦を開催しているときはシリカを呼んで一緒に観戦しているのだ。他のプレイヤーの知らない二人だけの秘密である。

 

「……いつか私も二人みたいに強くなれるかな」

 キリトとピナとのハイレベルな攻防の一部始終を視界に収めたシリカは眉を潜めて不安そうにひとりごちる。ですます口調が抜けていることからアスナに尋ねるつもりはなかったのだろうがアスナにははっきりと聞こえている。誰かの戦いを観戦するだけでもシリカの経験になる。アスナがシリカをわざわざ呼んだのはその意味合いが大きい。シリカを不安にさせるためではない。シリカに自分が皆に置いてかれるといったような焦燥感を抱かせるためではない。

 

『なれると思うよ。シリカなら』

「ふぇっ!? あ、アルベルさん!?」

『君は将来有望だとボクは思ってる。キリトやヒース、ピナも似たような評価を君に下しているはずだよ。君はもっと自信を持った方がいい』

 アスナがシリカの頭を優しく撫でて自身の見解を述べるとシリカは「あ、ありがとうございます!」と勢いよく頭を下げる。ここには自身の赤くなった顔をアスナに見られないように努めるシリカの思惑がある。尤も、アスナの『ちなみにボクはアスベルだ』との言葉に自分が間違えてアスナを『アルベル』と呼んだことに思い当たり恥ずかしさに顔を真っ赤にさせることになるのだが。

 

『さて。ボク達もそろそろ帰ろうか』

「そうですね」

 アスナがシリカの生み出す謝罪の嵐をどうにか収めた後、二人も解散する。勇者キリトのメインパーティのある朝の出来事であった――

 




 ――Information.勇者キリトがピナとのデュエルに勝利しました。
 ということで私が擬人化ピナを登場させたい一心で書いた外伝はここで終了です。VS.ドラゴ編なんてやりませんよ。強すぎて攻略の道筋が全然立てられませんし。次回はアドゥラさんが提供してくれたアイディアを元にした話を投稿しようと思います。私が当初思い描いていた展開とは全く別物と化していますが。

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