SALO(ソードアート・ルナティックオンライン)   作:ふぁもにか

5 / 15
 このSAO二次創作は基本キリト目線の三人称で地の文で構成されていますが……今回はちょっとだけ他の視点も導入してみました。チャレンジ精神って大事ですよね。あんまり多用し過ぎると話の進行が遅くなるのでそんなに使う予定はありませんけど。


不穏な快進撃

 アスベル、いやアスナにとってキリトに対する印象は様々だった。

 第一印象は変わった人。この世界でソロプレイをすることの恐ろしさは身をもって体験している。さながら命綱のない綱渡り。一瞬の判断の遅れが死に直結する。それでもアスナがソロで突き進んできたのは単純な話、モンスターなんかよりプレイヤーの方が恐ろしいとこの身で確かに知ったからだ。SAO内の誰かに隙を見せたくなかったからだ。だからこそ。ほとんどの人が徒党を組む中で自分と同じソロプレイヤーらしき少年が不思議でならなかった。

 第二印象は警戒すべき人。少年――キリトというらしい――はしきりにアスナとの関係を深めようとしていた。なにか取り繕った笑みを浮かべてしきりに会話の成立を求めるキリト。自分の正体がバレたのではないかと最大限に警戒心を顕わにしていたらキリトは心が折れたのかガックリとしていた。正体がバレていたらこの程度で引き下がるだろうか? いやまだ何を考えているかわからないとアスナは警戒し続けた。同時に安易にキリトとパーティを組んだことを後悔した。パーティの解散の仕方がわからない自分の無知さが情けなかった。過去に戻って自分の愚行を止めたい思いで一心だった。その際には顔面を殴り飛ばすことも躊躇しない自信があった。

 第三印象は頼りになる人。「大事な話がある」と言われた時は本格的に身の危険を感じたのだが意を決して話を聞くとただの明日の戦闘に関する作戦の話し合いへの誘いだった。今までずっとソロゆえにキリトと連携などできるだろうかと当初は心配した。だがキリトの示す作戦はどれも分かりやすくそれでいて二人の生存を最優先にしたものばかりで、自分でもできそうだとアスナは安心した。……冗談半分の作戦Cを除いて。キリトの博識さや慎重さはアスナにとって高評価だった。話し合いの終盤には互いのステータス情報を共有するほどにキリトを信頼するようになっていた。一応警戒は解いてないが。万一のための備えは大事である。

 だからだろうか。アスナは眼前の光景に絶望していた。

 

『キリトおおおおおおおおお!!』

 自分の目の前でキリトが殺されようとしている。ソードスキル使用の対価として硬直を余儀なくされているキリトにセンチネル四号の棍棒が迫る。HPゲージが赤色のキリトがモロにそれを喰らえば確実に死に至る。どこまでも絶望的な展開。キリトが硬直を解こうと叫んでいるが効果はないようだ。

 

(――お願い、間に合ってッ!!)

 ただ今アスベルに絶賛扮装中のアスナは駆ける。センチネル四号の注意を引きつける囮となりきれなかったのは自分の責任だ。そのせいでキリトが殺される。二人が生き残るために様々な作戦を立案してくれたキリトが殺される。未だ彼の内心は分からないがそれでも彼に死んでほしくはない。アスナは精一杯に手を伸ばす。細腕を伸ばす。ようやく硬直が解けたらしいキリトの危機を救うために。届け届けと心の中で叫びながら。

 ――そして。果たしてアスナの手はキリトの二の腕を掴んだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「――ッ!?」

 刹那。体が右に引っ張られる感覚をキリトは感じた。同時に視界を遮る赤黒い外套。助かった、アスベルが間に合ったのかと安堵するキリト。九死に一生を得たキリトが次に見たのはアスベルがセンチネル四号の棍棒をノーガードで喰らう光景。上段からの棍棒の振り下ろしを後頭部に喰らう光景。よほどの衝撃だったのか、その手からレイピアが手放される。

 センチネル四号の攻撃を中断させるならともかくなぜ身を挺してまで自分を庇うような真似をしたのか。確かにセンチネル四号の妨害を選択すればわずかな時間差でキリトの命は失われていただろう。だがやろうと思えばキリト自体を囮にしてセンチネル四号への奇襲だってできたはずだ。アスベルは強い。先の戦闘からも手負いのセンチネル二体だけなら問題なく切り抜けられる。それなのに。なぜこの孤高のソロプレイヤーはわざわざリスクを冒す形で自分を助けたのか。アスベルからしてみれば自分のHPゲージに余裕があるがための当然の行動なのだが、アスベルに好かれていないと勘違いしているキリトにとってアスベルの行動は不可思議に映っていた。

 

「アスベルッ!?」

『~~~ッ! ボクに構うな!! あいつを狙え!!』

「けどッ――」

『いいから早く!!』

 HPゲージを半分にまで減らしたアスベルが同じくHPが半分近くのセンチネル三号を指し示す。落としたレイピアをセンチネル四号に踏みつぶされ丸腰と化すアスベル。ただセンチネル四号の猛攻をかわすことしかできないアスベルの窮地を救おうとして、その本人から止められる。確かにアスベルの下へ向かってHPゲージの満タンなセンチネル四号と対峙するよりはさっさと手負いのセンチネル三号を片付けて二人がかりでセンチネル四号を相手した方がいい。またさらにセンチネル五号が召喚されるまたは別のプレイヤーから標的をこちらに切り替えて襲ってくる可能性が濃厚にある以上、アスベルの判断は正しい。キリトの頭も十分それを理解している。

 

(アスベルは死なない! アスベルなら大丈夫だ!)

 キリトはアスベルの救出を優先させようとする感情を押さえつけてセンチネル三号目がけて走り出す。アスベルのサポートが期待できない以上ソードスキルは使えない。通常攻撃のみで、心もとないHPゲージでセンチネル三号を倒さなければならない。キリトのHPゲージは残り四分の一を切っている。攻撃を受け止めることすら許されない。本来なら時間をかけて慎重に戦うことが必要だ。だが。増殖するセンチネルに歯止めをかけるには、一刻も早くアスベルに加勢するには、一秒だって無駄にはできない。アスベルは今も命をすり減らしてセンチネル四号と対峙しているのだ。安全策などとれるはずがなかった。

 

「おおおおおおおおおおおおおお!!」

「キシュアァ!?」

 センチネル三号の繰り出す二本の棍棒をかわしてズラして流してよけてキリトは剣戟を放つ。雄叫びをあげて一歩も引かずに前へ前へと突き進む。知能の良さゆえにキリトの今までにない猛攻に困惑するセンチネル三号。徐々に防戦一方に追いやられる。しかしキリトはセンチネル三号の防御すらさせない。二本の棍棒の隙間を縫うようにして確実にセンチネル本体を切りつける。

 

『しゃがめキリト!』

 アスベルの声を聞いてキリトは攻撃を中断。即座にしゃがみ込む。頭上を通り抜けるおそらくセンチネル四号が投げたであろう棍棒を一瞥し、今がチャンスと棍棒を振り上げるセンチネル三号よりも速く横薙ぎの一閃を放つ。センチネル三号を撃破した瞬間だった。

 

「アスベル下がれ! あとこれ使え!」

『っと。……重くないかこれ』

「ないよりマシだろ!?」

『……仕方ないか』

 キリトは踵を返してセンチネル四号を側面から迎撃する。上手くセンチネル四号から戦線離脱したアスベルに自分の予備の剣を投げ渡すことも忘れない。受け取った剣を重そうに両手で持ち構えをとるアスベル。不必要だと事前にレイピアを入手しなかったことを後悔しつつキリトはセンチネル四号を相手取る。敵はセンチネル一体。慣れない武器のため先ほどまでの目覚ましい活躍は期待できないが、今はアスベルがいる。新たなセンチネルが現れる気配もない。恐れるものなど何もない。全力で攻めるだけだ。

 

「おおおおおおおおおおおおお!!」

『ハァアアアアアアアアアアア!!』

 キリトがソードスキルをメインに。アスベルがセンチネル四号の妨害をメインに。センチネル四号を翻弄し怒涛の連撃を見せる。センチネル四体との決死の攻防を通して二人の連携は段違いに綿密なものへと進化を遂げていた。相棒の一挙手一投足から次の動作を予測し互いが相手にどんな行動を求めているかを瞬時に把握しセンチネル四号を攻撃する。たかがセンチネル一体、もはや敵ではなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 それから。半ば奇跡的にセンチネル四体を倒したキリト&アスベルは回復結晶でHPを回復。すぐさま他のプレイヤーの下へ駆けた。増殖するセンチネルに苦戦を強いられているのは何も二人だけではない。センチネルを相手取る本隊サポート組22人。二人を除くすべてが窮地に陥っていた。その事実がセンチネル主催の『数の暴力☆大作戦』の恐ろしさを物語っている。本隊の50人からの援護はない。イルファンのなるべく早い討伐こそがこの場の全員の命を救う唯一の方策だと本隊の指揮者――ディアベル――が判断した結果だ。間違ってはいない。だがそれはイルファン討伐の瞬間まで本隊サポート組が粘り強く生き残ってくれるという希望的観測が前提である。そこまで長い時間彼らが持ちこたえられるわけがない。無理難題もいい所だ。

 絶望に絶望を混ぜ合わせたような絶望の深淵に追い込まれた彼らにとってキリトとアスベルの乱入はさぞかし嬉しかったろう。絶妙な連携プレイで次々とセンチネルを倒していく二筋の閃光に希望を見出し「負けてられない」と戦意を取り戻すのも時間の問題だった。

 

 キリトとアスベルの快進撃。ここまで上手くいったのには主に二つの理由がある。

 一つはセンチネル掃討がセンチネルと戦う他のプレイヤーへの加勢という形で行われたことだ。二人の乱入により息を吹き返した他プレイヤーを死なない程度に囮に利用し縦横無尽にセンチネル無双を敢行する。この作戦を無言のまま互いの頷きあいだけで共有し実行する辺り、なんとも凄まじい以心伝心度である。

 もう一つはセンチネル撃破に伴う獲得経験値だ。この世界は難易度が大幅に上昇したことで獲得経験値や獲得金は膨大なものとなっている。実はここアインクラッドの最高レベルはレベル999までとゲーム大好き皆の茅場晶彦もといヒースクリフによって改変されているのだがこれは余談だ。今はどうでもいい。加えて経験値はモンスターを倒したパーティのものという第一層ボス攻略会議にて主催者ディアベルが決めたルールがある。要するに二人はセンチネルの大量虐殺を通して気づかぬうちにレベルアップを繰り返していたのだ。

 

 精度を増す連携。レベルアップに伴うステータスアップ。これらが二人の快進撃を支える二柱と化した。本隊サポート組の犠牲者ゼロという本来ならあり得ない結果をもたらした。そして二人が46体目のセンチネルを華麗に討伐しボスフロアのセンチネルを全滅させる偉業を成し遂げた今現在。イルファンVS.本隊50人の攻防は佳境を迎えていた。尤も、イルファンの攻撃なんぞ喰らったら一撃で死にかねないので本隊メンバーは誰一人防御など行っていないのだが。あくまでヒット&アウェイ戦法である。

 センチネル全滅に怒りくるった残りHPゲージのわずかなイルファンは持っていた毒斧と棘付きのバックラーを本隊に向けて投げつける。想定外極まりないイルファンの行動に本隊が散り散りに後退する中、二刀のタルワールを装備し直したイルファンが逃げ遅れた一人に向けて急接近する。どうやら二刀流はここのモンスター達の共通した特徴のようだ。

 

「――俺が出る!! 下がれ!!」

 なんとしてでも犠牲者ゼロで攻略したいディアベル。指揮権を仲間に託してイルファン討伐に向かう。逃げ遅れた本隊メンバーにイルファンの凶刃が届く前にイルファンを倒そうとソードスキルを発動させる。これは賭けだ。いくらイルファンの残りHPが少ないといってもこのソードスキル一度で倒せるとは限らない。倒せなければ逃げ遅れた名前が四文字で『キ』から始まって『ウ』で終わる茶髪の男もソードスキルを行使して硬直状態に陥ったディアベルも殺される。指揮権が委譲されたとはいえディアベルが殺されれば戦況は一気にひっくり返されるだろう。

 だが。果たしてディアベルの賭けはキリト&アスベルの賭け同様成功した。HPゲージが空となったイルファンはヨロヨロとたたらを踏む。ボスフロア内の総勢72人が固唾を呑んでイルファンを注視しているとイルファンはこれでもかと断末魔をあげて――倒れる。

 

「……やった、のか?」

 誰かが震える声音で誰に聞くでもなく呟く。呟いた本人はほんの小さな声のつもりだったのだがその声はボスフロア全体に浸透する。

 

「やったぞォォォオオオオオオオ!!」

「や、ややややった!! マジで勝ったァ!!」

「誰も死んでないよな!? 完全勝利だよなッ!?」

「やりましたねディアベルさん!!」

「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」

 次の瞬間。ボスフロアは歓喜に包まれる。誰もが全員で掴み取った勝利に雄叫びをあげる。狂喜乱舞する。仲間と肩を組み合ったり安心しきって腰を抜かした一人を周囲が弄ったりしている。軽くお祭り騒ぎである。

 

『……やったなキリト』

「ああ。ボス戦への加勢はできなかったけどな」

『誰も死ななかったんだ。それだけで十分だと思わないか?』

「それもそうだな」

 歓喜の渦に呑みこまれるイルファン攻略し隊を傍目に騒ぐ気のない二人。少し離れた所で完全勝利の余韻に浸る。一匹狼気質なあぶれ者らしい行動といえる。

 

(おかしい……)

 しかし。キリトは完全勝利を純粋に喜べない。こうも上手くことが進んでいいのか? 犠牲者ゼロなんてホントにあり得るのか? この世界はそこまで俺達に優しいものなのか? キリトを漠然とした不安が浸食していく。どうしても違和感が拭い去れない。知らず知らずのうちにキリトの表情は強ばっていく。

 

『? どうかしたのか?』

「ッ!? い、いや。なんでもない。ただディアベルにレアアイテムとられちゃったなって思ってさ」

『??』

 キリトは内心の懸念を感づかれないように咄嗟に話題を切り替える。ますます首を傾げるアスベルにラストアタックボーナスについて説明すると案の定呆れられた。その間にキリトは考えすぎだと得体の知れない不安感を心の奥底に封印する。そのまま第一層ボス攻略に成功したことをクライン達に伝えようとメッセージを飛ばそうとする。『はぁ……レイピア壊されちゃったなぁ』と今更ながらにため息を漏らすアスベルをしり目に。

 

 この時。誰も気づかなかった。いつまで経っても第二層への道が開かれないことに。ディアベルの元にラストアタックボーナスによるレアアイテムが付与されないことに。HPゲージがゼロになれば光の粒子とともに消滅するはずのイルファンが消えていないことに。犠牲者ゼロの完全勝利に酔いしれる彼らは誰一人としてこれらの違和感に気づかない。誰も気づけない。これが後の悲劇の幕開けとなるのだった――

 




 次回。絶望が加速します。アクセル・ワールドですね、わかります。とりあえず次回で絶望展開タグを最大限発動させるつもりです。このままでは終わりません。ルナティックモードマジ怖い。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。