SALO(ソードアート・ルナティックオンライン)   作:ふぁもにか

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本日。何かいい作品ないかなぁーとランキングのルーキー日間にアクセスしたらSALOがランクインしててビックリしました。絶望展開のBADENDフラグが跋扈しているSALOは正直読者を選ぶタイプの二次創作と思っていただけに、ね?


希望として

 

「あ、ああ――あああああああああああああああああああ!!」

 重々しい空気の中、真っ先に声をあげたのはキリトだった。震える手で頭を抱えて叫び声をあげる。人が死んだことに、それも自分を生かすために死んだことに絶叫する。茅場晶彦の思い通りにさせたくないキリトにとってあの場においてこれ以上誰一人だって死なせるわけにはいかなかった。あってはならなかったのだ。それが崩された今、キリトは完全に平静を失っていた。

 

「なんで!? なんでだよ!? なんでこんなことになってんだよ!?」

 キリトは狂ったように叫ぶ。いや実際に狂っているのだろう。キリトは何度も何度もなんでを連呼する。答えるものの有無にかかわらずキリトは崩壊寸前の精神状態で声を張り上げる。この場の生き残りの誰もがキリトに何と言葉を掛けたらいいものかわからず黙っている。いや誰もが信頼できる仲間の消失や暴虐の限りを尽くすイルファンネオによって精神的にズタボロとなっているためキリトの言葉など耳に入っていないといた方が正しい。ただただ響き渡るキリトの悲痛の叫びを止める者はいない。……一人を除いて。

 

『落ち着けキリト!!』

「落ち着け? ふざけんなよ。これが落ち着いていられるか! そもそもお前が俺を止めてなければあいつは――」

 アスベルは取り乱すキリトを見てられないと彼の両肩を掴んでキリトに冷静さを取り戻させようと叫ぶ。だがそれがキリトの逆鱗に触れた。茅場晶彦への憤り。自分のせいで犠牲となったプレイヤーの存在。やり場のない怒り、後悔を抱えてキリトはアスベルに激昂する。これが八つ当たりだという認識がないまま、キリトはアスベルの胸倉を掴み怒りのなすがままにアスベルに全責任を押し付けようとして――

 

『落ち着けって言ってるだろッ!!』

「~~~ッ!?」

 アスベルの渾身の頭突き。まともに喰らったキリトは放心状態になりアスベルの胸倉から手を放す。そのまま数歩下がってアスベルを見やる。キリトを見つめるアスベルの眼光が鋭さを増しているようにキリトは感じた。

 

『頭は冷えたかキリト?』

「アスベル……」

『こっちからも言わせてもらうけどな。もしもボクが君を止めなかったら君はどうなってた? あの人も君も二人とも助かってたとでも言うつもりか? ないな。確実に二人とも死んでいた。君を助けるためにボスに立ち向かっていったあの人の思いが無駄になっていた。たとえ君が自殺志願者だろうとボクの知ったことじゃないけどな――君の独善で人の思いを蔑ろにするな。あの人の思いを踏みにじるな』

 アスベルは静かに自らの思いを語ることでキリトを諭す。沸々と湧き上がる怒りを抑えて語りかけているようにキリトには感じられた。頭突きの衝撃とアスベルの言葉で少しずつ我を取り戻し始めたキリトは気づく。アスベルが泣いていることに。強く気高い孤高のソロプレイヤーが涙を流していることに。よく見ればわずかながら肩も震えている。尤も、アスベルは顔を隠しているので零れ落ちる涙が見えただけなのだが。

 

「落ち着いたかい?」

「あぁ……」

「君がいなければ俺達は全滅していた。よくて数人生き残ったぐらいだろう。本当に助かったよ。ありがとう」

 キリトが落ち着いた頃合いを見計らってディアベルが感謝の念を伝える。だがキリトは喜べない。救われた29人より失われた43人の方がキリトに重くのしかかる。ディアベルも同様なのだろう。29人ものプレイヤーが生き残れてよかったと無理やり納得させようとしているのが表情から容易に読み取れる。

 かくして第一層ボス攻略は全滅の危機こそ免れたものの参加したプレイヤーに深い傷跡を残し始まりの街で待っている大勢のプレイヤー達を絶望のどん底に突き落とす結果となった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『それで? 話って何かな?』

「……さっきは悪かった。ごめん」

『……え?』

 キリトは部屋に入ってきたアスベルに頭を下げる。気配で様子をうかがうとどうやらアスベルはキリトの謝罪に戸惑っているようだ。とりあえずアスベルが怒り心頭でないことに安堵する。ちなみに現在地は第一層トールバーナ。ここにたどり着くまで互いに一言も話さなかったキリトとアスベル。ひそかに気まずい思いをしていたキリトは「話がある」とアスベルを宿に連れ込み自分の愚行を謝罪することにしたのだ。殊勝な心がけである。

 

『い、いや。キリトが謝ることじゃ――』

「それでも俺は危うくお前を悪者にする所だった。だからここは謝らせてほしい」

 キリトがアスベルに罪悪感を抱く主な理由がそれだ。あの場にいたのは何もキリトとアスベルだけではない。もしもあのままアスベルを非難していたら。もしもアスベルがキリトの言い分に反論しなかったら。戦意を木端微塵に砕かれ仲間を喪失した生き残り組がキリトに便乗して全責任をアスベルに押し付けたかもしれない。こうなったのは全部お前のせいだと敵意をむき出しにして非難していたかもしれない。あの時涙を流すほどに参っていたアスベルの心に止めを刺していたかもしれない。

 

「……頭をあげてほしいな、キリト。それに謝らないといけないのはボクの方だ。本当にごめん。君に命を救われたってのに君に怒ったりして。本来なら君は称賛されてしかるべきなのに――」

「いや、あそこでアスベルが怒ってくれたから俺も冷静になれたんだ。だからここは俺が悪い――」

「いやいや、それでもボクの方が――」

「いや俺の方が――」

「いやボクの方が――」

 互いに自責の念を抱く二人。両者一歩も譲らず「謝らせてほしい」と謝罪合戦を繰り広げる。結局十分後に両者が相手の言い分を受け入れ互いに身を引く形で第一回謝罪合戦は終結する。勝者を出すことのない時間の無駄な合戦であったことをここに明記しておく。

 

「なぁアスベル。聞いていいか?」

「ん? 何だ?」

「あの人、確かエギルって人だったよな? なんであの人は自分の命を落としてまで俺を助けようとしたんだ?」

 キリトはずっと気になっていた疑問をアスベルにぶつける。最後に見たエギルの笑み。思い返せばあれは明らかに死を覚悟し受け入れたものの顔だった。だからこそわからない。なぜ彼はそこまでして自分を助けようとしたのか。彼とキリトとは面識はない。一言だって会話していない。全くの赤の他人である。どう考えても彼にとってキリトは命を捨ててまで助けようと思うような相手じゃないはずだ。それこそ彼が聖人君子でもない限り。

 

「……」

 アスベルは少々の沈黙の後にぽつりぽつりと話した。生き残りのその全てがボスフロアから退避してもなおイルファンネオから逃げないキリトをまさか死ぬ気なんじゃないかと思いキリトを救出しようとするアスベルに「俺に行かせてほしい」とエギルが頼み込んだこと。ルインコボルドセンチネルとイルファンネオの件で恩があるからと、彼がいなければ二度死んでいた命だ、惜しくはないと強い決意を表明したこと。キリトとアスベル、二人はSAO攻略の希望だからと、ここで失うわけにはいかないと笑みを浮かべてアスベルに言葉を残したこと。そしてディアベルに扉の開閉の件を頼んでそのままボスフロアへと躍り出たこと。

 そこから先はわかる。彼はイルファンネオの攻撃の余波を計算してキリトがボスフロアの入り口の方へと吹っ飛ばされるようにキリトの背中を押したのだ。こうして彼はキリトを救いキリトの犠牲となったのである。

 

「俺達が希望、か……」

 買いかぶりすぎだとキリトは自嘲する。アスベルに関しては全くその通りだと言える。ここまでソロでこの世界を生き残ってきたアスベルは確かにSAO攻略の希望となりうる要素を持っているだろう。だが自分はそんな高尚な人間じゃない。デスゲーム開始時にはβテスター時の情報を駆使して自分が有利に生き残るためにクラインを見捨ててまで広場を去っていたのだ。たかが一度フレンジ―ボアに殺されかけたくらいで情けなくガタガタ震えていたのだ。そんな人間を『希望』と見なすなんて勘違いもいい所だ。

 

(――けど)

 彼がキリトに希望を見出して身を投げ出したのならば。キリトをSAO攻略のためになくてはならない存在だと判断してくれたのならば。その期待に応えなければならない。いや期待をいい意味で裏切るぐらいがちょうどいいだろう。彼の犠牲を無駄にしないためにももっと強くならないとなとキリトは決意を心に宿す。

 

「ところで、これからキリトはどう動くつもりなんだ?」

「んー、そうだなぁ……」

 強者になることを心に決めたキリトにアスベルが問いかける。キリトは悩むそぶりをみせる。だが心はすでに決まっている。自分が圧倒的強者となってSAO攻略の希望の一柱となるためにはあの場所しかない。すなわち未だ誰一人生還者を出していない未知の領域――リトルネペントの巣窟だ。

 

「とりあえずホルンカの村に向かおうと思う。しばらくはそこでレベル上げだな」

「そうか。なら明日の早朝にでも出発しよう。今日はもう暗い」

「あぁそうだな……って、え!? アスベルも来るのか!?」

「一緒に行動したら何か不都合でもあるのか?」

 数々のβテスターを死に追いやっている場所なためあまり期待はしていないがもしもアニールブレードが手に入れば最高だ。火力不足が補える。キリトがアニールブレードを携えた自分の姿を想起しているとアスベルがキリトと行動を共にする意思をさり気なく表明する。キリトは思わずアスベルを凝視するが意思は固そうだ。

 確かにアスベルがいてくれれば心強い。センチネル戦を通して培ったアスベルとの綿密な連携は簡単には捨てがたいキリトの武器だ。しかし。いくらセンチネルの大量虐殺で大幅にレベルアップしたとはいえ相手は前述の通り数々のβテスターを死に追いやっているであろうリトルネペントだ。他のモンスター同様何が起こるかわからない。何をしでかすかわかったものではない。下手をすれば自分もアスベルが死ぬかもしれない。自分が死ぬだけならともかくアスベルまでも巻き込みたくはない。

 

「いやそういうわけじゃない。だけどこれから俺が向かう場所は結構危険だから――」

「だったら尚更二人で行動した方がいいんじゃないか?」

「ま、まぁそうなんだけど――」

「それに、忘れたのかキリト? ボクと君とのパーティは第一層ボス攻略までの暫定だと言ったのは君だよ?」

「あ……」

 いかにパーティを解散し各々別行動をとることをアスベルに納得させたものかとキリトが頭を悩ませているとすぐさまアスベルに揚げ足を取られる。先手必勝と言わんばかりの早業である。平行世界で『閃光』と称されるわけである。そう言われてしまえばキリトは反論できない。実際にまだ第一層ボスは攻略されていないのだから。まさかこんな形で揚げ足をとられるとは思わなかったとキリトはため息をつきアスベルの同行を承認する。

 

「それじゃあ改めてよろしく、キリト」

「ああこっちこそよろしくな、アスベル」

 アスベルから差し出される手をキリトは掴む。あぶれ者同士の即席パーティ関係はもうしばらく継続されるようだ。自然と笑みを浮かべる二人。エギルに希望と称された二人の心は第一層ボス攻略失敗直後にもかかわらず、折れるどころか強化される。SAO攻略不可能なんてあり得ない。二人の存在こそがそれを証明しているように思われた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ところでさぁ。アスベル、一つ言いたいことがあるんだけどいいか?」

「ん? 何かな?」

「アスベルは演技してるつもりみたいだけど、さっきから地の声出てるぞ?」

「ふぇっ!?」

 キリトが宿のベッドに仰向けに寝転がりつつアスベルの演技ミスについて指摘するとアスベルから何とも可愛らしい声があがる。これでアスベルが『アスナ』というSAO内では割と珍しい女性プレイヤーだと完全に証明された。キリトが今まで指摘しなかったのはさっきまでがとてもそのことを指摘できるような空気ではなかったからだ。雰囲気壊す、よくない。キリトはある程度は空気の読める少年なのである。

 

『え、えと……ナ、ナンノハナシカナー?』

「……もう手遅れだと思うぞ?」

キリトの眼前であたふたするアスベルはコホンとひいき目でもわざとらしく感じる咳払いとともに声音をアスベルのものに戻す。本人はこれで誤魔化せると信じているようだが誰がどう見てもバレバレである。救いようがないバレバレっぷりである。キリトがジト目でアスベルを見つめるのも無理はない。トールバーナの宿の一室を静寂が包む。やがて場の空気に耐えられなくなったのかアスベルは観念し「まぁキリトならいいか」と顔を覆い隠すフードを取っ払った。

 

「え……」

「? キリト?」

「――ッ!? あぁいやなんでもない気にしないでくれ」

「??」

 キリトは素顔を晒したアスベルから慌てて目をそらす。一瞬見惚れてましたとは絶対にいえない。それほどまでにアスベルの顔立ちが整っているのだ。いやここは可愛いと言った方がいいかもしれない。腰まで届いていると思われる栗色ストレートの髪も榛色の透き通ったかのような瞳もアスベルの可愛らしさを際立たせている。男除けのためにアスベルが変装しているならばきっと中身は美人なんだろうなとあらかじめ推測していたキリトだったがここまでだとは正直思っていない。首をコテンと傾けるアスベルに今のおそらく赤くなっているであろう自分の顔を見せたくはなかった。

 

「そんなことより、なんで今まで顔隠してたんだ? わざわざ変声に口調まで変えてさ」

「えーっと。……言わなきゃダメ?」

 自分の状態を悟られないよう話題逸らしを決行するキリト。だが話題が悪かったのかアスベルは嫌そうに顔をゆがめる。心なしか体も震えてるような気がする。やっぱりこれはアスベルの地雷だったかとキリトは慌てて言わなくていいことを伝える。その後、キリトはほっと安堵の息を吐くアスベルから本当の名前を教えてもらった。面倒なことにならないよう実はアスナだと最初から知っていたことを隠した上での対処である。尤も、本当の名前といってもあくまでアバター名なので現実世界の名前と一致するかはかなり怪しいが。

 かくして。その日の夜。キリトとアスベルもといアスナはしばらく他愛のない話を交わした後、明日からのおそらく激戦となるであろうリトルネペント戦に向けて休息をとるのだった――

 




 次回。再び時間軸が飛びます。リトルネペント戦省略ですね、わかります。そして次回で最も私がSALOで書きたかったシーンにたどり着きます。だというのに……ここ数日。お前いい加減後期受験勉強やれよ的な空気が周囲を漂い始めてきたのでしばらくは更新できないかもしれません。折角の一日一話更新がああああああああ!?

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