SALO(ソードアート・ルナティックオンライン)   作:ふぁもにか

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 親の居ぬ間にSALO執筆。というわけで第8話です。時間軸を飛ばしたので地の文の量がヤバいことになっております。サブタイトルのクオリティも一気に安っぽくなっております。



勇者キリト

 参加者のほとんどに深いトラウマを残したかの惨劇――第一層ボス攻略失敗から一か月の時が流れた。その間、キリトとアスナの共同戦線はそのほとんどをリトルネペント狩りに費やしていた。理由は単純明快。ホルンカの村を拠点にして三日が経過した頃、キリトがやっぱりアニールブレードほしいと欲を出したからだ。二人は『森の秘薬』といういかにも他ゲームでもありがちなクエストを受けた。レイピアを愛用しアニールブレードを使うつもりのないアスナもこのクエストを受けたのはアニールブレード一本だけじゃ不安だというキリトの要望あってのことだ。その後二人はそれまでの花つきでも実つきでもないノーマルなリトルネペント単体を半ば闇討ち状態で襲撃するやり方と同時並行で花つきリトルネペントの捜索を始めることにした。そして、ここで二人は数々のβテスターを屠ってきたリトルネペントの恐ろしさを目の当たりにすることとなった。

 

 花つきのリトルネペントこそ割と頻繁に見かけるもののその9割以上が実つきのリトルネペントと行動を共にしていたのだ。だが問題はここではない。何と実つきのリトルネペントが二人を発見すると即座に自ら実を攻撃して破裂させてみせたのだ。破裂した実から独特としか言いようのない臭いが伝染することで仲間を呼び寄せ、呼び寄せられたリトルネペント達の中の実つきが二人を捕捉した瞬間に自ら実を破壊しさらに広範囲から仲間を呼び寄せるという悪循環。あっという間に集まった三ケタを超えるリトルネペントの大群からHPゲージを赤色に突入させながらも二人とも逃げ帰ることができたことはまさしく奇跡と言っていいだろう。ちなみに二人はその日の細かい記憶を覚えていない。さぞかし恐怖だったのだろう。それでもリトルネペント狩りを続ける辺りはさすがとしか言いようがない。それにしてもフレンジーボアといいセンチネルといいリトルネペントといいこの世界の魔改造モンスター達はどうも群がるのが好みのようである。

 その恐怖体験以後。二人は慎重に慎重を重ねて花つきリトルネペントを捜索&討伐していたので『森の秘薬』クエスト達成に一か月もの月日がかかってしまったのだ。といってもリトルネペントの巣窟にて何度かレアアイテム入りの宝箱を発見したので全くの時間の無駄ではなかったのだが。ちなみにここにはベッドで眠る病気の少女を一か月も待たせてしまったことに多大に罪悪感を感じた二人が中々依頼者の家に入れなかったという余談が存在する。現実世界でそのような事態になれば鬼畜以外の何物でもないので当然の反応である。『森の秘薬』クエストが時間無制限で良かったと安堵する二人であった。

 

 ちなみにアスベルことアスナは宿でキリトと二人きりでいる時以外は常にアスベルとして変装している。先述のレアアイテム入りの宝箱から顔を覆えるフードつきの強力な防具一式を手に入れたので今のアスナは純白の服に包まれている。なぜ変装しているかについてはこの一か月の間に徐々に話してくれた。簡単にまとめると当初始まりの街で待機組として震えていたアスナ。いつまでもこのままではいられないとなけなしの勇気で奮起して質素としかいいようがない宿から飛び出した所を男に襲われそうになったそうだ。必死に逃げている所で別の男に助けられ安堵しているとその男も下心満載でアスナを襲おうとしてくる。アスナを狙って襲ってくる男。善人ぶって内心では何を考えてるかわからない男。アスベルへの変装は立て続きに男に襲われかける経験をしたアスナが他プレイヤー特に男に警戒心を募らせた結果らしい。性別のことを考慮しなければ軽い人間不信である。それゆえのアスナの変装の徹底ぶり。それゆえの孤高のソロプレイヤーとしての日々。二人が出会った当初アスナがキリトをその男どもと同類に思っていた事実を知ったキリトがショックから半日使い物にならなくなったのは記憶に新しい。「キリトは特別だよ」とのアスナの言葉がなければ立ち直りはもっと遅くなっていたことだろう。

 男除けのためにアスベルという仮面をかぶり始めたアスナだが今ではもう一つの意味合いがある。ズバリ精神状態の安定化だ。一人称『ボク』の男として強がることがモンスターと対峙してもよほどのことがない限り心が折れることなく戦える不屈の精神という副産物をもたらしたのだ。現にアスベルの仮面を取っ払ったアスナは不意にガクガクと恐怖に震えることがある。強く気高いソロプレイヤーと完全無欠のソロプレイヤーとは意味が違うことをキリトは悟ることとなった。

 

 こうして一か月の時を二人三脚で歩んできたキリト&アスナコンビは今現在トールバーナへと向かっている。第一層ボス攻略のリベンジのための会議が開かれるそうなのだ。おそらく前回ボス攻略に参加した将来有望だったプレイヤー達はほとんどやって来るまい。前回は72人。今回は何人集まったものか。あまりに少ないようならボス攻略の延期を提言する必要があるなとアスナと意見を一致させ、キリト一行は前回と同じ会議場所へと歩を進めるのであった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 キリトは窮地に陥っていた。眼前には50人ほどのプレイヤー。その全員がキリトにキラキラした憧れの視線を向けてくる。さながら正義の味方を見る子供のようである。全くもって慣れない光景にキリトは引きつった笑みを隠せない。だがその引きつった笑みを都合のいいように解釈したのか、少数派であるはずの女性プレイヤーの嬌声があがる。余談だが今回のボス攻略の参加者のうち四分の一は女性プレイヤーである。どうしてこうなったとキリトは内心逃げ出したい衝動に駆られていた。

 

 事の発端はキリトとアスナがトールバーナへと足を踏み入れたときにさかのぼる。キリトとアスナの姿を捉えた瞬間固まる群衆。ヒソヒソと近くの人と何かを確認しながら二人を見つめるプレイヤー達の視線に気まずさを感じていると突然彼らが二人を取り囲んだのだ。「おおおおお! キリトさんだ! キリトさんが来たぞおおおおおお!!」という誰かの叫び声によって。「本物だ! 本物の勇者キリトだ!」「キリトさんに会えるなんて光栄です!」「これ差し入れです! 受け取ってください!」「握手してください!」「サインしてください!」とキリトを揉みくちゃにする群衆達。興奮で完全に我を失っているのが手に取るようにわかる。

 『アハハ……随分と人気者じゃないか。良かったなキリト。じゃあボクはこれで』と現場から退散しようとする変装アスナの手を逃がすかとキリトが掴んでいるとキリトに向けられていた視線がアスナにも向けられる。「あ、あなたはもしかして……勇者キリトさんの懐刀、『閃光』のアスベルさん!?」との声があがり『人違いだ』とアスナが否定するも効果なし。アスナも巻き込まれる形で二人とも揉みくちゃにされることとなった。なにがどうなっているのか。わけがわからずただされるがままと化した二人を救ったのは蒼髪長髪の気持ち的にナイトをやっているディアベルだった。

 

 上手くキリトとアスナを人気のない路地裏へと連れ込んだディアベルは二人に事情を説明した。第一層ボス攻略失敗時、ディアベルは参加者にこの訃報について決して他言しないよう強く言い含めていた。だが意気揚々とボス攻略に乗り込んだプレイヤー達の変わり果てた姿に他のプレイヤー達が何も察しないわけがない。瞬く間に絶望が伝染する中、ディアベルがとった策はキリトとアスナを祀り上げることだった。確かにボス攻略には失敗した。だが希望を捨てるのにはまだ早い。俺達には勇者キリトと閃光のアスベルがいる。窮地に立たされた他のプレイヤーを救うために我が身を賭してボスと対等に渡りあった二人がいる。二人がこの世界に存在する限り俺達の希望の灯は消えない。さぁ皆。SAO攻略のために二人の光明の下に集おうじゃないか! と始まりの街の待機組を初めとする他プレイヤー達をこれでもかと煽った結果が先の騒動らしい。確かに大筋は間違ってはいないが細部で食い違いがある。こうやってプレイヤーを扇動する辺り、案外ディアベルには独裁者の才能があるのかもしれない。

 この攻略会議もキリトが招集したことになっていることをディアベルから聞いたキリト。おいお前何してくれてんだよという非難の眼差しを向けていると彼は二人に土下座と謝罪を始めた。すまなかったと。こうするしかなかったと。SAO攻略なんて不可能だという絶望的な空気を変えるには二人を利用するのが一番効果的だったんだと顔を下に向けたまま本音を吐露する。俺は無力だ。俺ではもう彼らを導けない。導ける気がしない。だから頼む。君達の力で第一層ボス攻略を成功させてくれとそのまま頼みこむディアベル。彼の真摯な思いに触れた二人は互いに顔を見合わせ仕方ないかとため息混じりに受け入れた。こうしてキリトはアインクラッドの勇者を、アスナは勇者キリトが信を置く凄腕パートナーを演じることとなり今に至るのである。

 

「皆、まずは俺の招集に応じてくれたことに感謝する。もう知っていると思うが俺はキリト。職業は……気持ち的に勇者をやっている」

 まさか一月前のディアベルの位置に自分が立つことになろうとは。キリトは尊敬の眼差しの集中砲火を受けながら前回のディアベルの演説を参考に参加者に語りかける。内心では噛まないように必死である。ユーモアに富んだ発言を考える余裕などあるわけがない。

 

「まず最初にこの第一層ボス攻略会議の参加にレベル制限をもうけたことについて謝罪させてもらう。だがわかってほしいのはそれだけ第一層のボスが手ごわいということだ」

 キリトの一言一句を聞き漏らすまいと静まりかえる会議場。そのプレッシャーは並大抵のものではないだろう。ちなみにレベル制限をもうけたのはキリトの名を騙ったディアベルだ。レベル25未満の会議に参加できなかった約100人プレイヤーが勇者キリトの役に立てなかったとトボトボと哀愁を漂わせて帰る姿は見ててやるせない思いになったことをここに明記しておく。

キリトは隣のアスナを見やる。集まったプレイヤーへの演説を全てキリトに押しつけ終始無言を貫くアスナを羨ましく思わざるにはいられない。ついでに視界の端でさっきから笑いをこらえている見た目おっさん四人衆を恨めしく感じながらキリトは言葉を続ける。今自分がどんな顔をしているかが気になって仕方なかった。

 

「厳しい戦いになるだろう。この中で犠牲者が出る可能性は否定できない。けれど。俺を信じてついてきてほしい。証明して見せようじゃないか。SAOは攻略可能な世界だということを! 俺達一人一人の力を合わせれば道は切り開けるということを!!」

 拳を振るって力強く声をあげるキリト。それを契機に会議場が熱気に包まれる。ドッと興奮に沸くプレイヤー達を見渡してこれは上手くいったと思っていいんだよなとキリトはほっと息を吐く。

 

「――それでは作戦会議を始める」

 熱気が収まるのを見計らいキリトは言葉を紡ぐ。キリトが考える不敵な勇者の笑みを浮かべて。かくして厳粛な空気の中、暴虐の限りを尽くす虐殺王――イルファンネオ――の攻略会議が始まった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「はぁ……疲れた」

「同感」

 その晩。トールバーナの宿に入った二人は揃ってベッドにダイブする。タイミングが一緒な辺り二人のシンクロ率はかなりのものである。ボス対策会議、親睦を深めるための食事会を経た二人の精神的疲労は溜まりに溜まっている。主に食事会にプレイヤー達に群がれたことが原因だ。有名人がいかに苦痛を伴う立場であるかを身をもって知った二人は精神的に参っている。こんな調子で明日のボス攻略は大丈夫なのだろうか?

 二人して何も言わず沈黙を貫いていると控えめなノック音が響く。二人は目を見合わせる。よし、居留守をしよう。これ以上誰かと会えば明日のイルファンネオ戦に影響が出かねないと危惧したゆえの行動である。すると「あれ? 今留守か?」「おかしいなぁ。確かこの部屋に入るの見たんだがなぁ」との声が扉越しに響く。その声にキリトは聞き覚えがあった。

 

「なんだ。クライン達か」

「知り合いなの?」

「あぁ。会っていいか?」

『……ん。いいよ。キリトの知り合いならアスベルの仮面だけで十分そうだしな』

 アスナはベッドから壁際に移動する。腕を組み背中を壁に預ける様はまさしくアスベルスタイルだ。その早業にキリトは苦笑しつつ扉を開けた。

 

「よお皆。久しぶりだな」

「――ッて、なんだよいるんじゃねえか。居留守使うなよな」

「仕方ないだろ。こっちは疲れてんだ。察してくれ」

 不満そうにキリトの頭をガシガシと撫でるクラインの手を払いのけ彼らを部屋に招き入れる。いつもの4人だけだと思っていたのだがどうやら違うらしい。アスナ同様フードつきの黒服で身を包んだ小柄でいかにもすばしっこそうな者が追加されている。計7人が部屋の中にいるため少々窮屈に感じられる。

 

「にしてもキリトが勇者ねぇ。すっかり有名人だな。勇者キリト」

「その言い方は止めてくれ。今は聞きたくない。こっちは好きで勇者やってるわけじゃないんだよ」

 キリトはげんなりとした表情を隠せない。クラインからしてみればいつもの戯れなのだろうが今のキリトに『勇者』はNGワードだ。キリトに一瞬で多大な精神的疲労を蓄積させる魔の呪文と同義だ。一気に不機嫌になるキリト。これはマズいと危機感を抱いた見た目おっさん四人衆は巧みな連携でキリトを宥め煽てあげる。すっかり上機嫌と化したキリトにアスナはやれやれとため息をついた。

 クラインの話によると本当なら食事会でキリトと接触するつもりだったそうだ。だがキリトとアスナに群がる群衆の壁を前に突撃を断念。二人の宿で話そうとここまで追跡していたらしい。全く気付かなかった。キリトは内心で驚愕を顕わにする。同時にクライン一行に気づかないほどの自分の疲れ具合にキリトは呆れざるを得なかった。

 ひとまずクライン一行に相棒たるアスナを紹介する。当然『アスベル』としてだ。たとえキリトの知り合いであっても男に対する警戒心は健在のようで『よろしく』との言葉を最後に何も語ろうとしないアスナ。しかしクライン一行は気を悪くするどころか「くッ、何て凛々しい奴なんだ!?」「ま、負けたぜ……」などと口々に言い合っている。好評価のようでなによりである。だがキリトの知り合い=皆いい人という考えからアスナを全面的に受け入れていることをわかっているキリトとしてはいずれ誰かに騙されないか心配でならない。

 

「ところでクライン……そこの人は誰なんだ?」

 キリトはさっきから一言も話さず会話に入ってこない小柄な人物のことを尋ねる。クライン一行の新しいメンバーだろうか。キリトを招き入れたときみたいに手を差し伸べたのだろうかとキリトは視線を謎の人物に向ける。今までアスナを凝視していた辺り、自分と同じく正体を隠すアスナに同族意識でも感じていたのかもしれない。

 

「あぁこいつはな――」

「いいヨクーちゃん。自分で言うかラ。オイラはアルゴ。元βテスターの情報屋ダ」

 話題を振られたクラインが紹介するより先に謎の人物――アルゴ――が一歩前に出て自己紹介する。声の高さからして女性プレイヤーだろう。男性プレイヤーだとしてもそこまで違和感があるわけでもないが。アルゴの情報屋発言にキリトとアスナは顔を強ばらせる。クラインをクーちゃんと愛称で呼んだことは華麗にスルーしている。無理もない。二人はこの場において皆の希望たる『勇者キリト』及び『閃光のアスベル』としての仮面を捨てている。偽りの勇者像を知った情報屋たるアルゴが真実を言いふらせばどうなるか。半ばキリトとアスナを崇拝しているプレイヤー達が簡単に受け入れるとは思えないがそれでも心の奥底で疑念は生まれるかもしれない。その小さな疑念が明日のイルファンネオ戦で命取りになるかもしれない。

 

「あぁ心配しなくていいヨ。今ここで見たもの聞いたものはいくらコル積まれたって言いふらさないかラ」

「……本当か?」

「これでも現状は把握してるつもりダ。オイラだってできるだけ早くこの世界から脱出したイ。折角他のプレイヤーがSAO攻略に乗り気になってくれたんダ。今の機運を壊すつもりはないヨ」

 情報屋。βテスター。信用できない要素盛り沢山なアルゴを警戒するキリト。アルゴは肩をすくめて「それに二人の立場が悪くなるようなこと広めたらKコミュニティ出入り禁止になりかねないからナ」と付け加える。聞くとKコミュニティとはかのクラインコミュニティの進化系であり会員3500人を束ねる一大情報組織と化しているそうだ。現在そのトップに君臨し集約される膨大な情報をアルゴとともに整理しているクライン。想定外極まりないクラインの立場の変化にキリトは絶句する。クラインの人望の高さは理解していたつもりだったがまさかここまでとはといった心境だ。確かに情報屋を名乗る者にとってKコミュニティ使用不可は厳しいだろう。情報屋廃業といって間違いない。クラインがここに連れてきたということもありキリトは警戒を解くことにした。

 

「今日ここに来たのは君と末永い関係を持ちたかったからだヨ。情報屋たる者様々な人と仲良くやっていく必要があるからナ。クーちゃんに無理言って頼んだんダ。もう一人いたのはうれしい誤算だったけド。これからよろしく、キー坊。アーくん」

「キー坊!?」

『アーくん!?』

 速攻であだ名を定めたアルゴにキリトとアスナは裏返った声をあげる。何とかして『キリト』、『アスベル』と呼ばせようとする二人だが肝心のアルゴは「だって二人とも愛称で呼んでもらいたそうな顔してたかラ」と一歩も引く様子を見せる気配がない。百万歩譲って二人がそのようなわかりやすい顔をしていたとして顔を隠すアスナの顔をどうやって察知したのだろうか。両者の譲ることのできない舌戦は二人が折れることで終結した。5分間の激しい攻防である。ちなみにこの時アスナも毒気を抜かれる形でアルゴへの警戒を止めることとなった。

 

「ところでキー坊。一つ聞きたいんだガ?」

「何だ? 答えられる範囲なら答えるけど」

「正直な所、明日のボス戦の勝率はどのくらいだと見積もっているんダ?」

「……ボス攻略だけなら五分五分だな。だが犠牲者ゼロでの勝利となると一気に厳しくなる」

 アルゴの不安そうな問いに自然とキリトの表情が険しくなっていく。重苦しい空気が部屋に浸透していく。前回の攻略戦から一か月。レベルがあがった分、さすがに一撃を受け止めただけで殺されるなんてことは発生しないはずだ。だが相手はイルファンネオ。四刀流以外にも隠し玉があると考えていいだろう。茅場晶彦の性格からして不意打ちのタイミングで打ち出されるであろう別パターンの攻撃に果たして何人が対応できるか。こればかりはレベル云々の問題ではない。

 

「――けど」

「けド?」

「今の俺は勇者の看板背負ってるからな。誰一人死なせずに攻略してみせるよ」

「ほぉ~言うようになったじゃねえかキリト先生!!」

「さっすがキリト先生! ゆるぎないぜ!」

「明日はよろしく頼むな! キリト先生!!」

「だから『先生』は止めろって――」

『期待してるよ。キリト先生』

「アスベルもか!? アスベルもなのか!?」

 キリトの力強い宣言に感嘆の息を吐くアルゴをよそにキリトを弄り始めるクライン。ちゃっかり見た目おっさんなバンダナ二号と小太り天然パーマ男とアスナが便乗したことで部屋の重苦しい雰囲気が完全に一掃される。かくしてキリト以外の全員でキリト弄りを敢行した後、彼らは他愛もない話に花を咲かせる。結果、彼らとの軽いやりとりでキリトとアスナは精神的疲労の回復に成功。万全の状態で明日のイルファンネオ戦を迎えるのだった――

 




――Information.キリトが【勇者キリト】にクラスチェンジしました。
……うむ。この話は本当に書けてよかったです。そもそもSALO自体『もしもビーターさんが皆の人気者だったら……』という私の妄想から発生した二次創作ですからね。
P.S.アルゴの口調、これでいいのかな?

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