SALO(ソードアート・ルナティックオンライン)   作:ふぁもにか

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 今日はSALO更新できないと感想で返信したな? ……あれ嘘です。はい。やっぱり前回の勇者キリトくん関連で感想たくさんもらってよほど嬉しかったんでしょう。執筆速度にブーストがかかったんですね。わかります。


VS.Illfang the Kobold Lord Neo

 第一層ボスフロア前にてキリトは相変わらず一月前のディアベルの位置に立っている。ボス戦を目前に控えてさすがに緊張しているのか。先ほどまでの勇者キリトと閃光のアスナ両名に向けられていた熱烈な視線は鳴りを潜めプレイヤー達は不安そうに辺りを見渡している。当然だろう。ここにいる参加者は前回のボス攻略戦に参加していない。ボス戦の初経験者だ。対する相手は四刀流の怪物『Illfang the Kobold Lord Neo』略称イルファンネオ。前回の攻略戦で過半数を超えるプレイヤーを殺戮し生き残ったプレイヤーのほとんどに深いトラウマを植えつけた悪魔といっても差支えない存在。いくら入念に攻略会議を行ったとしても得体の知れない恐怖は拭いようがない。レベル25以上だろうと怖いものは怖い。

 

(ここで皆の士気をあげるのも勇者の役割だよな……)

 キリトはため息を吐きたい衝動を抑えてボス戦参加者を一瞥する。実を言うと今のキリトの精神状態はあまりよろしくない。原因は今朝のこと。宿で変装アスナとゆったり朝食を取っている所に闖入者が現れたのだ。「私を弟子にしてください勇者様! 何でもしますから!!」と頭を地面に打ちつけて土下座を敢行するクラディールと名乗る見た目おっさんでいかにも頭の固そうな男。犯罪者ギルドもストーキング行為も知らない純真さは結構だが他のプレイヤーのことも考えてほしい。

 キリトとアスナが泊まる宿は値段の割にそれなりに設備が整っているため人気が高い。第一層の宿としては最高クラスだろう。ゆえに利用客も多い。今のクラディールを例えるならば満員電車の中で土下座を行っているようなものである。邪魔にも程がある。完全に障害物だ。いい返事がもらえるまで土下座を止めるつもりのない迷惑極まりない男の弟子入り申請をキリトは勿論丁重にお断りする。だがそれをどう捉えたのか「……そうですか。今の私では力不足、ということですか。わかりました。では勇者キリト様の弟子として認められるよう今からレベルアップしてきます! 待っててください私の勇者様!!」と颯爽と去って行ったのだ。キリトが断ったにもかかわらず全く弟子入りを諦めない男。先が思いやられるキリト。見た目おっさんな男が最後にみせたある意味で破壊力抜群な満面の笑み。精神状態が悪くなるのも尤もである。肝心の彼がレベル25未満であり今回のイルファンネオ戦に参加していないのが不幸中の幸いか。

 

「皆聞いてくれ。俺達は今からボス攻略を行う。怖いかもしれない。逃げ出したいかもしれない。けれど俺達は決して一人じゃない。ここにいる51人全員が共通の目的を持った同志だ。自分に何ができるのか。何ができないのか。落ち着いてしっかりと考えて行動してほしい。自分にできないことがあるのなら存分に数の力を頼ってほしい。俺を頼ってほしい」

 キリトはむしろ自分を慰めてほしいという願望をおさえつけてボス攻略戦参加者のメンタルケアに取りかかる。本当にクラディールとやらは空気の読めないタイミングで弟子入り申請したものである。かつてのディアベル同様に一人一人の目を見据えることも忘れない。アスナを真似したつもりなのか参加者のうちの5人がフードつきの服で顔を隠しているので全員の目を見据えることは叶わなかったが。

 

「皆は俺を勇者だと称するけど俺から言わせてもらえばこれからボス戦に挑む君達一人一人が勇者だ。始まりの街で待機するもの達にとっての希望だ。勇気ある選ばれし者達だ。自分の可能性を信じてほしい。君達一人一人の可能性が道を切り開く礎となると信じてほしい。たとえどんな不測の事態が起こっても俺達ならばボスを倒せると信じてほしい。……俺からの話は以上だ」

 

 キリトは目を瞑り雄弁に語る。未だ大量に降り注ぐ視線に慣れずひそかに冷や汗を流すキリトがここまで雄弁に語れるのはアスナ作の台本をしっかり頭に叩き込んだからだ。今のキリトなら仮にあまりの緊張で我を失ったとしても同じことが言えるだろう。アスナ式のスパルタ教育はダテじゃない。

 

「――行こう、皆。俺達の力を見せつけてやろう」

 キリトは不敵な勇者っぽい笑みを最後に扉へと体を向ける。前回のボス戦は失敗に終わった。それでSAO攻略は絶望的になると思われた。第一層ボス攻略戦の機会は二度と訪れることはないと思われた。やり方はさておきこれはディアベルが作り出してくれた正真正銘のラストチャンスだ。今回の攻略戦に失敗すれば誰もが勇者キリトと閃光のアスベルという二筋の光明を虚像だと思い込み始まりの街にとどまることだろう。今度こそSAO攻略が不可能になる。イルファンネオ攻略し隊、計51人。絶対に失敗の許されない崖っぷちの攻略戦が幕を切って落とされるのだった――

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ラッキーだ。ボスフロアに入って早速キリト&アスナコンビは内心でガッツポーズをする。眼前にはイルファンネオ。勇者キリト一行の登場を奥の玉座で待ち構えていたイルファンネオはキリト達の元まで一っ跳びでやってくるといった何とも派手な登場を見せつけると自らの獲物を睨みつける。今にもレーザービームが発射されそうな勢いである。相変わらず四本の腕には四本のタルワールを装備している。初めてのボスとの対面の衝撃で参加者達が一瞬思考停止になる中、二人は思わず微笑みを浮かべる。今回もイルファン戦を経由してイルファンネオ戦に挑まなければならないと予測していたのでこれは嬉しい誤算だ。イルファンネオの取り巻きが召喚されておらずイルファンネオ単体だけなのがそれに拍車を掛けている。尤も、イルファンネオ攻略し隊の隙をついて『Ruin Kobold Sentinel Neo』略してセンチネルネオなるモンスターが召喚される可能性は捨てきれないので油断は微塵もできないが。

 

「――行くぞ!」

「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」」」

 イルファンネオの鼓膜を破かんばかりの力強い咆哮。これが戦闘開始の合図となった。キリトが先陣をきってイルファンネオへと駆ける。ここにはイルファンネオの迫力に言葉を無くす参加者の戦意を奮い立たせる狙いがある。果たして狙い通りに他のプレイヤーのうちの遊撃隊が勇者キリトの後に続けとキリトに追随する。彼らの動揺が少なくて済んだのはボスを目の当たりにしてもなお動じずに悠然とたたずむキリトとアスナの後ろ姿を見たゆえだろう。二人の存在は確実に彼らの精神安定剤と化しているのである。

 

『A隊、B隊、C隊。イルファンネオに突撃!! D隊、E隊、F隊。周囲を警戒しつつイルファンネオを包囲しろ!!』

 キリトの後に続かずその場にとどまったアスナが声を張り上げる。今回のボス攻略戦においてのアスナの役割は部隊の指揮。類いまれなる戦術眼で戦況を把握し常に最良の指示を飛ばす必要のある、攻略戦の要だ。ジェスチャー付きで指示を伝えるのは前回いくらディアベルが声を張り上げてもイルファンネオの無駄に大きい雄叫びに全てかき消された経験ゆえだ。たとえアスナの声が届かなくともジェスチャーで理解してもらう。人は概して過去の苦い経験から教訓を学ぶものである。

 ここで今回のイルファンネオ攻略し隊の部隊編成を簡単に見てみよう。A~C隊は8人編成。D~F隊は7人編成。ここまでは前回ディアベルが構築したものとほとんど変わりない。変化が如実に表れたのは遊撃隊の存在。今回のイルファンネオ討伐戦においてアスナの指令を無視してボスと対峙できる特別枠だ。ここに所属するのは絶滅危惧種たるソロプレイヤー4人。これにはキリトが以前ディアベルの「まずは6人のパーティを組んでみてくれ」発言で窮地に陥れられたことが大いに関係している。自分と同じ目に遭ってほしくない。ソロプレイを勤しんできた優秀な者達を無理にパーティに組み込む必要はない。キリトの実体験を伴う思いが自由に行動できる遊撃隊を生んだのである。ちなみに我らが勇者キリトは遊撃隊に所属している。ソロプレイヤー4人が勇者キリトと肩を並べて戦えると歓喜したのは記憶に新しい。ソロプレイヤー=コミュニケーション障害者を前提とするキリトの考えを知れば少なからずショックを受けるだろうが。

 

『D隊、E隊。A隊、B隊を援護しろ! F隊。C隊とスイッチ!!』

 暴風雨のごとくタルワールを振り回すイルファンネオの注意をイルファンネオの周りを縦横無尽に駆け巡る遊撃隊が引きつける。キリトがソードスキルを発動させわざとイルファンネオに隙を見せイルファンネオがそこに目を付けた所をA~C隊が攻撃を仕掛ける。だがイルファンネオの腕は四本だ。キリトを狙いつつ他のプレイヤーを攻撃するなど容易い。攻撃の余波で吹き飛ぶプレイヤー達の穴をすかさず別部隊と遊撃隊が埋める。いくら相手がイルファンネオという圧倒的な力をもつ理不尽ボスであろうと多勢に無勢。高度に統率がとれているなら尚更である。開始早々イルファンネオの膨大なHPゲージを残り四分の三に減らすことに成功したことでボス攻略戦初参加者達は順調に進む攻略戦に当初抱えていた不安をすっかり消し去り勝利を確信し始める。

 

(そろそろだな(かな))

 だがボス戦経験者たるキリトとアスナは知っている。プレイヤー達が安堵しその安堵が油断に変わる所を見計らって相手がこちらの統率を崩壊させる策を行使してくることを。現に眼前のイルファンネオは前回よりもはるかに動きが鈍い。モンスターの弱体化があり得ない以上、イルファンネオは本気を見せるタイミングを計っているのだろう。どのタイミングで本気を見せれば一人でも多く獲物を駆逐できるか。全滅を成し遂げられるか。イルファンネオの動きが止まる。血走った目が一瞬アスナを射抜いたようにキリトには感じられた。

 

「――ッ。くるか」

『全隊下がれ! 仕掛けてくるぞ、警戒しろ!!』

 通常ならイルファンネオの硬直は大ダメージを与えるチャンスだ。ソードスキル発動し放題のボーナスタイムだ。だが先のキリトのごとくあえて隙を見せている可能性がある。いやそもそもイルファンネオが今までと全く違う動きをみせた以上、これからのイルファンネオの猛攻は先ほどまでとは明らかに変質していると見て間違いない。キリトはいち早くイルファンネオから距離をとりアスナが声を張り上げる。アスナの切羽詰まった指示に全隊はすばやくイルファンネオから退避する。

 

 果たしてイルファンネオは仕掛けてきた。イルファンネオの天井に向けての割れんばかりの咆哮。同時にボスフロアに十数体のイルファンネオの取り巻きが召喚される。HPゲージに『Ruin Kobold Sentinel Neo』と表示されているのでこちらのセンチネルネオもイルファンネオ同様センチネルの第二形態と言って問題ないだろう。身に纏う鎧は相変わらずだが腕が四本となりその一本一本には棍棒が握られている。多勢に無勢な状況からの逆襲。イルファンネオ攻略し隊主催の『数の暴力☆大作戦』を覆すイルファンネオの策略。それはわかる。キリトとアスナが事前に想定していた範囲内である。しかしイルファンネオによるセンチネルネオの召喚位置は二人の想定を軽く超える常軌を逸したものだった。

 

「なっ!?」

『――ッ!?』

 アスナを取り囲むようにして現れるセンチネルネオの軍勢。キリトの視界に映るアスナの姿がセンチネルネオによって塗りつぶされる。アスナを殺せば戦況は一遍すると判断したイルファンネオの策略によりアスナが全隊と隔離される。一刻も早く作戦の要たるアスナを潰すための万全の布陣だ。

 

「アスベルッ!!」

『来るなキリト! ボスに集中しろ!! 全隊フォーメーションγ!!』

「な、アスベル!?」

 アスナ救出に駆け出そうとするキリトを声で制しアスナが指示を飛ばす。その指示内容にキリトは目を見開く。フォーメーションγ――それは全指揮系統を握るアスナが何らかの形でイルファンネオ攻略し隊の指揮が不可能と化したときの万一のための指示だ。フォーメーションγをもってアスナの持つ指揮権は消滅。A~C隊はボス攻略を中心に、D~F隊は不測の事態への対処を中心に据えて各部隊のリーダーが臨機応変に指揮をとることになる。言ってしまえばセンチネルネオに囲まれたアスナがフォーメーションγを発動させ指揮権を手放したということはそのままアスナが自分の死期を悟ったことを意味する。

 

『ボクは大丈夫だから君は来なくて――』

「何が大丈夫だ!? アスベルお前完全に死ぬ気じゃねえか!?」

『これはチャンスなんだよキリト! ボスがボクを狙い撃ちにしてくれているおかげで他の場所の取り巻きの出現率は低い! ボクが時間を稼ぐから君はさっさとボスを叩け!!』

「けどッ――」

『君は勇者だろ!? 勇者なら常に最良の判断をしろッ!!』

「――ッ!?」

 ボス攻略初期段階でのフォーメーションγの発動。閃光のアスナ脱落の可能性。予想だにしない展開に動揺がプレイヤー陣に伝染する中、アスナを失いたくない一心で駆けるキリトの足をアスナは勇者の重みをもって止めさせる。確かに現状はチャンスといっていいだろう。アスナへのセンチネルネオの集中砲火により本来ならイルファンネオ攻略し隊全体を囲むはずだったセンチネルネオの出現は散開している。十分D~F隊で対応できる数だ。これなら残りのA~C隊及び遊撃隊でイルファンネオに集中できる。中々好条件だ。大量のセンチネルネオに命を狙われるアスナのことを考慮しなければ。勇者ならば決断すべきだろう。人一人と残り全員。どちらかを切り捨てる必要があるならばキリトはすぐさま残り全員を選択しなければならない。たとえその一人がキリトにとって特別な存在だとしてもだ。勇者たる者の責務である。

 

(けど、俺は――)

 それでもキリトは動けない。どちらか一つを選択できない。人一人と残り全員。両方とも救おうとする感情を合理的な判断を下す理性が排除できない。キリトが立ち止まっている間にも戦況は変わっていく。それでもキリトは動けない。この場の全員を救ってこそ勇者じゃないのか。誰かを犠牲にしなければどうしようもできない奴は勇者と言えるのか。やっぱり勇者なんて俺には荷が重すぎたんじゃないのか。それらの思考がキリトのあらゆる行動を蝕む枷と化す。キリトは自己否定という名の現実逃避に走ろうとする。

 

「――キリトォォオオオ!!」

「ッ!? クライン!? 皆!?」

「アスベル救出は俺達E隊が引き受ける! お前はボスに向かってくれ!! あっちがヤバいことになってる!!」

 キリトを思考の渦から引き揚げたのはよく聞きなれた声だった。ハッと我に返るとクライン率いるE隊がアスナを取り囲むセンチネルネオに突き進む姿が見える。彼らの周囲にセンチネルネオがいないことを鑑みるにあらかたセンチネルネオを駆逐した上での援軍なのだろう。

 

「……クライン。アスベルを任せた」

「おうよ! 行くぞてめえら! 数が多いから何だってんだ! 取り巻き程度に後れをとるんじゃねえぞ!!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!」」」」」

 主戦場たるイルファンネオの方に目を向けると本気を出し始めたイルファンネオに押され始めているA~C隊&遊撃隊の姿が映る。何人かがイルファンネオの攻撃の余波で吹っ飛ばされているため明らかにイルファンネオと相手取るプレイヤー数が減っている。確かにあの状況はマズい。いつ犠牲者が出てもおかしくないほどの危うさだ。クライン達なら必ずアスナを助けてくれる。根拠もなく確信したキリトの体はついさっきまでとは打って変わって軽くなっている。日頃の信頼関係の賜物である。キリトはイルファンネオへと全力で走り出す。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 キリトは咆哮とともに全速力で走る。向かう先はイルファンネオの足元にいる女性プレイヤー。逃げ遅れたのだろう。間近からイルファンネオに睨まれた黒髪のいかにも戦闘の向いていなさそうな少女は戦意をなくし腰を抜かして震えている。「――サチ早く逃げろ!!」と金髪の少年が少女を助けようと向かっているがイルファンネオの繰り出す凶刃の方が速い。このままではあの少女がイルファンネオ攻略し隊初の犠牲者となってしまうだろう。

 

(俺は誰も死なせない。誰一人だって死なせてたまるかッ!!)

「間に合ええええええええええええええ!!」

 キリトは魂の叫びをあげ少女に迫るイルファンネオのタルワールなどお構いなしにボスフロアを駆け抜ける。視界に迫る絶望しきった少女。迫る凶刃。間に合え、間に合えとキリトは精一杯手を伸ばし――そしてイルファンネオのタルワールが振り下ろされるのだった。

 




 ――Information.クラディールさんが壊れました。
 ――Information.アスナ&サチに死亡フラグが付与されました。
 前回アルゴさんを半ばゲスト出演で登場させたから今回も誰か出したいなぁーと思っていたらなぜか綺麗なクラディールさんに白羽の矢が立ちました。……時々自分で自分の思考回路がよくわからなくなります。どうしてこうなった!?
 アスナ&サチも割と絶望的な状況下ですね。DEADENDフラグが見え隠れしています。ホント、ルナティックモードマジ怖い。
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