Glory of battery   作:グレイスターリング

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第三十二話 友沢の過去

「……では以上で会議を終了します」

 

 夏真っ盛りの7月中旬の昼間。

 プロ野球球団の1つ『猫耳キャットハンズ』の会議室は今日も慌ただしい。

 

「ん〜……中々思うように進みませんねぇ」

「うむ……」

 

 隣に座っていた木佐貫が腕を伸ばして背伸びをする。 今月だけで異例の3度目のスカウト会議となったが、話は一向に進展をみせない。

 原因はそう、ウチの現状があまりにも酷すぎるからだ。いや、正確には " 守備力が大いに不足している " 、そこなのだ。

 

 チーム本塁打数2位、打点3位、打率2位、ここ1番の得点圏打率は1位と圧倒的な打力を誇るウチがなぜ4年連続のBクラスに甘んじてしまうのか、その原因は投手陣とセンターラインにあった。

 

 防御率、奪三振数、勝利数、勝率、セーブ数、ホールド。 どの投手項目を見ても全てが4位以下というお世辞にも優秀とは程遠い成績だ。 更に、ゴールデングラブ賞もここ数年1人も出ておらず、要のセンターラインはスタメンが数日ごとに入れ替わるのが現状となってしまっている。

 

 その為、まずキャットハンズが真っ先にしなけらばならないのは、即戦力の投手の獲得とセンターラインを強化することなのだ。

 

「……あ、そう言えば影山さんは聞きましたか? 帝王と聖タチバナの試合」

「うむ、勿論だ。 私も直接球場で観ていたからね」

「いや〜、まさかあの帝王実業があんなに苦戦するとは思いもしませんでしたよ。 帝王側の油断もあったかもしれないですけど、タチバナも力はつけていますね。 特にあの正捕手……一ノ瀬君ですね! 」

「!……一ノ瀬大地、か」

 

 私が個人的に、密かに1番期待している選手だ。

 久しぶりに彼を間近で見たが、中学時代よりも体つきが一回り大きくなり、まだまだ荒削りな点もあるがリードやスローイングも良くなっていた。

 そして何より私が評価したのが、彼の持つ底知れぬカリスマ性だ。

 その選手がグラウンドに立つだけでチームの士気が高まり、仲間のコンディションや実力にも影響を及ぼす、目に見えない力。 捕手にとってある意味1番重要な能力でもあるのだ。

 

「……木佐貫君。 君はいい選手に目をつけているね」

「え、マジっすか!?」

「あぁ。 彼の計り知れないポテンシャルとカリスマ性は驚くものがある。 近い将来、プロ志望さえ出せばとんでもない選手に化ける可能性がある」

「カリスマ性……確かにあの選手はバッティングや守備よりもその……なんかこう、見てるだけで観客の心を踊らせる、そんな選手なんですよね! 実力や実績だけなら猪狩君や眉村君たちなんですけど、あんなにも興奮させてくれる選手は一ノ瀬君だけですよ」

 

 心踊る……か。

 ふ、それさえ分かれば木佐貫はもう立派なスカウトマンだ。 我々がこの世界で勝ちにく為には、全力でそんな選手を発掘し、チームに招き入れることだからだ。

 

「……木佐貫君。 聖タチバナ学園の調査、君に任せても構わないかね?」

「えぇ!? でもタチバナは影山さんが……」

「君の話を少し聞いて考えが変わった。 私は今年の候補選手の情報をもう一度精査してくる。 君は独自で彼らを追ってほしい」

「あ……は、はい!! 俺で良ければ是非!」

 

 うむ、この調子なら任せても安心だろう。

 さて、私は目の前に迫る大仕事を片付けなければな……。 果たして今年はどんな選手を引き寄せられるか、ここご腕の見せ所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、友沢の様子は?」

「やっぱり足関節の捻挫だったよ。 幸い、選手生命を脅かす程ではなかったけど、それでも最低2〜3週間は安静が必要らしい。そこからリハビリの期間も入れると……だいたい完全復帰は1カ月以上はかかるそうだ」

 

 帝王実業戦から一夜明け、俺たちは学園近くの病院で入院している友沢の見舞いに来ていた。 さっき聖名子先生と2人で担当してくれた医師から容体を聞き、今はそれを八木沼に伝えていたところだった。

 医師曰く、捻挫の状態で無理を重ね、具合を悪化させたのは許し難いことだと俺と先生を叱り、もしフルイニングで友沢を出していたら取り返しのつかない事態にもなっていたとも言っていた。

 まぁ確かに今回ばかりは限界を超えて無理をさせすぎたと反省はしているし、試合後も俺たち選手だけでなく先生も責任を強く感じていたから今後はここまで酷くなるまで試合に出場させることはない……とは思う。

 

「とりあえず復帰の目処が付けれただけ安心したよ。 それで友沢は?」

「ん、ああ、それがな……」

 

 ガラガラガラと、病室の扉を開けてみると−–−–−

 

「だーくっそ!! 全然ハートの6が引けないんだけど!」

「ぷっ、今宮君下手くそすぎ〜」

「うるせぇわい! みずきちゃんだってまだ手札3枚あるだろ! 俺は2枚で勝ってるから別にいいしー!」

「ババ抜き……むぅ、これは実に高次元な心理戦だ……」

「あれ? 聖ちゃんババ抜きやったことないの?」

「そもそもトランプ自体が7並べしかやったことなくて……涼子は?」

「私はアメリカにいた頃に色んな遊びをやってたよ。 ポーカー・ブラックジャック・神経衰弱・バカラ……とかかな?」

「ば、ばから?」

「初耳だな。俺は知らないぜ」

「別にアンタに話してるわけじゃないでしょーが。 ほら、次は涼子よ」

「うん。 えっと……」

 

 

「笠原さん! ここはどうやって解くんすか?!」

「あー……ここは確か……」

「お前……嘘だろ? この問題基礎中の基礎だぞ? こんなのも分からないって馬鹿を通り越してもはや異常じゃ……」

「う、うるせぇよ! じゃあお前はどうなんだ! 解けるのか!?」

「そんなところもうとっくに解き終わった。 というか期末試験の課題なんてとっくに終わってなきゃおかしいだろ。 橘先輩が担任に事情を話してなきゃお前今頃留年だぞ」

「やめてください……その話は思い出したくない……」

「ああ……ここにも被害者がおったんやな……」

「みずきさんに何か頼む時って必ず数倍の対価を支払わないとやってくれませんからねぇ……」

「確か大島君の場合はパワ堂で数万円ほど奢らされたんだよね」

「橘……せめて後輩にくらい慈悲をかけてやれよ……」

 

 

「………………」

「と、友沢………」

「……もう突っ込む気も失せた。 気にするな」

「なんか…すまん……」

 

 と、ご覧の通り、トランプやら課題勉強やらで随分賑やかな病室となっていた。

 実はこの病院の院長と橘財閥の社長が旧知の仲であり、そのコネを利用して友沢だけ設備の整った病室を貸し切ってもらったのだ。 本人も初めは恐れ多く断っていたのだが、「うるさい! 怪我人は黙ってなさい!!」とみずきちゃんが一刀両断。 やむなく友沢はこの大病院に1週間だけ入院することになった。

 

「ほら皆、いくら貸し切りだからってあまり騒ぐんじゃないぞ。 友沢の怪我に響いたら困るだろ?」

「えー、これから良いところだったのに……」

「ダメよみずき、いくらお爺様公認だからってあまり調子にのったらいけません」

「あ、お姉ちゃん……ん〜しょうがないなぁ」

 

 流石のみずきちゃんも聖名子先生には頭が上がらず、渋々とトランプを片付けた。

 

「しっかし良かったよ、大事に至らなくて」

「ええ……そうね」

 

 今宮とみずきちゃんが安心そうに友沢の右足に目を向ける。

 まだ少しでも足を動かすと痛みが走るため、包帯でグルグルに固定されている。 その姿を見て改めて思う……この男は本当に凄い選手なんだと。

 

 コンコン−–−–−

 

 突然響くノック音。

 一瞬ビクッと驚いたが、俺が「どうぞ」と返し、扉が開く。

 

「……突然の来訪ですみません。 友沢亮選手のお部屋はこちらで合ってますか?」

 

 入ってきたのはまだ幼さを少し残しながらも整った銀髪の美男子だった。

 ん、まて……確かコイツって……?

 

「お前……久遠か!?」

「え……あ、ああっ!もしかして今宮君!?」

「おぉそうだよ! 久しぶりだなー! 元気にしてたか!」

 

 バンバンと嬉しそうに背中を叩く今宮。 他の皆はポカーンとそのやり取りを眺めているのに対し、友沢だけがやれやれと知った様子だった。

 

「久遠……久遠…………あっ、久遠ヒカル……栄光学院大付属の2年生エース、久遠ヒカルか!」

「おっ、流石は猪狩君の元女房だね。 まさか僕のことを知ってたなんて光栄だよ」

 

 そりゃ、知らないなんて方がおかしいぜ。

 猪狩や眉村ほど注目はされてないが、去年の群馬の秋季大会で投手デビューを果たし、そこから怒涛のピッチングで選抜の出場権を獲得。 甲子園ではベスト4まで残り、2試合に先発登板し、15イニング投げて奪った三振はなんと驚異の26個と、衝撃的な初登場だった。

 元々中学は帝王シニアだったから友沢・今宮と面識があるのは何ら不思議じゃないが、一体なぜここに来たのか?、そこが1番の疑問だ。

 

「久しぶりだな、久遠」

「……ああ、久しぶり、亮。 まさかこんな姿で再開するとは思わなかったよ」

「………久遠?」

 

 どこかトゲのある、突き放した言い方に今宮が困惑する。友沢は何かを察したように眼を薄めて視線を逸らした。

 病室になんとも言えない不穏な空気が漂う。 あまり詳しいことは分からないが、久遠は友沢・今宮同じ帝王シニアに在籍していたはず。 今はそれぞれ別のチームで戦っているが、それでも昔のよしみで仲は少なくとも悪くないはず。 なのにここまで険悪なオーラを久遠が出しているのはいささかおかしい。

 

「……悪い皆。少しの間席を外してくれないか?」

「友沢……でも−–−–−」

「分かった。 皆、一旦出よう」

 

 ここで俺らがいて邪魔なだけだ。 俺は皆を出て行かせるよう促す。

 聖名子先生も含め、全員が空気を読み、小さく頷いて退出していく。ただ、今宮だけどこか不安げな表情で2人の様子を見つめながら出て行った。

 

 

 

「……何か言いたいことがあるんだろ?」

「ああ。 1つだけ聞きたい−–−–−」

 

 ガシッ−–−–−!

 

「!!」

「どうして……どうしてあんな無茶をしたんだ!! 君はまた同じ過ちを繰り返すつもりなのか!!」

「久遠……」

 

 怒りや悲しみ、様々な思いを全てぶつけるかのように友沢の胸ぐらを掴んだ。 久遠と目を合わせた瞬間、どうしてここに訪れ、どんな話をしたかったのか、友沢には言われなくても分かっていた。

 −–−–−数年前。かつて無茶に無茶を重ねた自分が犯した "不幸な過ち "を。あの記憶が帝王戦を偶然見ていた久遠には、きっと重なって見えてしまったのだろう、と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今宮君。 1つ聞いてもいいかな?」

「?、何ですか、先生」

「友沢君と久遠君のこと。 昔何かあったんじゃないかなぁ……って思って。 あ、でも言いにくいことだったら大丈夫よ。 それぞれ辛い過去の1つや2つはあるから……」

「あー、そう言えばまだ誰にも話してなかったですね。 ……あの2人の様子を見ちゃったら気にもなる……よな。 いいですよ。 でも、友沢には一応内緒にしておいてください。 結構重い話ですから」

「いいのか? 重い話ならなおさらしない方が……」

「モヤモヤしたままにしとくのも後味悪いし、それに隼人だって少しは気になるだろ?」

「ああ……気にならないと言えば嘘になるはなるが……」

「それなら尚更だ。 そうだなぁ、どこから話すか……」

 

 

 

 

 

 それは、今からリトル時代にまで遡る。

 まだ一ノ瀬が猪狩と共にあかつきリトルで活躍していた頃、帝王リトルでは久遠と蛇島が友沢よりも先に入部し、日々練習や試合をこなしていた。 入部当初から大活躍だった猪狩達に対し、久遠達は野球は大好きであっても、お世辞にも実力やセンスは高い方ではなかった。

 当初、久遠は投手、蛇島は現在任されている二塁手ではなく、遊撃手を希望し、それぞれ4年生時からひたすら努力に努力を重ねていったそうだ。

 そんな中、約半年ほどたったある日のこと。

 

「今日から新しくウチに入る選手を紹介するぞ」

「友沢亮。 希望するポジションは投手です。これからよろしくお願いします」

 

 少し遅れる形で友沢が帝王シニアに入部してきたのだ。

 だが、まだこの時は誰も知らなかった。この少年が想像を絶するほどのセンスを持ち合わせていたとは……。

 

 

 カキーン! カキーン!!

 

「うおっ、なんだあの新入り? いきなり良い当たりを連発するな」

「あんだけ打てれば投手よりも野手として起用した方がいいんじゃないのか?」

 

 小4で既に120キロ台のストレートをコンスタントに強く打ち分け、いざマウンドに立たせてみれば、

 

「−–−–−っ!」

「バッターアウト!!」

「ふぅ……ありがとうございました、前山先輩」

「っ〜! アイツヤバイな……あんなスライダー俺じゃ無理だ」

「しかもストレートだって110キロ台を連発なんだろ? 本当に小4かよ……」

 

 先輩相手でも快刀乱麻のピッチングを披露するくらい、圧倒していたらしい。

 走攻守、そして投の4つで初日から化け物じみたセンスを披露し、同じチームの仲間や首脳陣達が直ぐに友沢へ注目するようになっていったのも時間の問題だった。

 

 

「すげぇな友沢先輩……」

「私もリトルで始めて対戦した時は憎たらしいくらいに強くて萎えたわね。 だってどんなコースに投げてもアイツは簡単に打ち返してくるから八方塞がりよ」

「横浜リトルとの練習試合、大会でも凄かったし、やっぱり天才だよ、友沢君は」

 

 かつて友沢と対戦経験のあるみずきちゃんと涼子、そしてその選手を目標としてきた大島。 反応は三者三様でも、友沢に対する評価や凄さは変わらなかった。

 

「久遠が今切り札として投げているあのスライダーも、実は元は亮から教えてもらった球種でもあるんだ」

「え、そうなのか?」

「ああ。 これは久遠自身から教えてもらった話だけどさ、アイツがピッチャーとして練習を開始したてだった頃、変化球について悩んでいた時期があったんだ。 そんな時に友沢がな−–−–−」

 

 

 

「君に教えてもらったこのスライダー。 今でも覚えているよ」

 

 かつての自分がどの変化球を投げればいいか分からず、ただひたすら模索する日々を過ごしていた時だ。

 「久遠はカーブやフォークよりも横に曲がる変化球の方が相性がいい」と、夕暮れのグラウンドで1人投げ込みをしていた自分にそうアドバイスをくれた。 友沢の教えはとにかく分かりやすく、それでいて合理的だった。 その甲斐あってみるみるとスライダーの精度は上がり、後に自分の代名詞になるまでに成長を遂げた。

 

「でもその後だったな、お前がいなくなったのは」

「うん……あの時はかなりショックだったよ」

 

 小5に上がる直前、自分は両親の仕事の都合で転校せざるを得なかったのだ。 友沢と自分は偶然にも同じ学校に通っており、そこでの生活もかなり充実していた。 それでいて、当時の自分は急な別れを受け入れるのにかなりの時間を費やしたのだ。

 

「それでも久遠、お前は三船のリトルでしっかりやってたじゃないか。 結果的には紙一重で帝王が勝ったが、実力はほぼ変わらない」

「ううん、あの試合は僕だけのものじゃない。 小森君や沢村君、清水さん達がいたからこそ、決勝まで勝ちあがれたんだ。 それに僕なんかよりももっと凄い投手だっていたし……」

「ん、ああ……茂野、いや、昔の呼び方じゃ本田だったか」

 

 僕が三船リトルに入る前、とてつもなく野球の上手だった選手がいた話をよく教えてもらった。 ちょっとワガママで自己中心的ではあるが、野球の実力は凄く、何よりいざという時頼りになり、チームの為にボロボロになりながらもどんな逆境にも打ち勝った、そんな選手の話を。

 僕は……彼のように頼りにされる存在だったのだろうか? その答えは結局見つけられなかったが、1つ確かに言えるのはあの試合に敗れた後、僕たちの心に一切の悔いはなかったということだった。

 

「で、小学校卒業後にUターンする形でまたこっちの方に戻り、帝王シニアに入部するのにも皆驚いてたな」

「ははっ、特に猛田なんかはヒカル〜会いたかったぜ〜!って泣きながら抱きついた来るんだもん。 あの時は嬉しかったけど同時にはずかしかったなぁ」

「…………そうだな」

 

 けど、帝王シニアに入部して待っていたものは楽しさではなく地獄であった−–−–−

 

 

 

 

「おい柏田!! そんなイージーボールをエラーするんじゃねぇ!! 今度逸らしたらお前は次の試合から外すぞ!!」

「は、はい!! すみません!!」

「チッ、次セカン!!」

「お願いします!」

「声が小せぇ!!」

「すみません!!、お願いします!!!」

 

 帝王シニアは神奈川県のシニアの中でも名門中の名門で、特に友沢達の世代はライバルであった横浜シニアでさえも連勝を誇っていた程に強かった。 だが1つ、問題があるとすれば−–−–−

 

「指導者……ですか」

「おう。 当時の帝王シニアの監督がかなり厳しい奴で有名でな、でもその人が監督になってから帝王は全国でも勝ち進めるくらいに強くなったし、ちゃんと結果も残してたから、どんな理不尽を突きつけられても逆らいにくかったんだ」

「俺と涼子も何度か帝王とは練習試合をしたが、対戦相手には御構い無しに罵声を飛ばすからかなり酷かったのは覚えている。 気の毒にも感じたしな」

 

 普段しっかり者の八木沼でさえもそう感じるくらい、当時の帝王シニアの監督は厳しかったらしい。 涼子もうんうんと同感してるし。

 

「で、問題になったのが2年の秋の大会の1ヶ月前だった。 帝王シニアでは月の初めにレギュラー陣の入れ替え発表をしていたんだが、その時に−–−–−」

 

 

 

 

「……と以上が今月のレギュラーだ。 何も質問はないな?」

「か、監督! どうして僕はセカンドなんですか! 今までは僕がショートを任されていたのに……!」

「ふん、決まってるだろ? 肩が強くお前よりフィールディングに長ける友沢をショートに置いた方が勝率が上がるからだ。それ以外に理由があるか?」

「し、しかし友沢君はピッチャーもやっています! それと並行してショートも行うとなると負担が大きくなってその……」

「チッ、うるせぇなぁ。 お前らは俺の言った通りにやりゃいいんだよ! これ以上口答えするなら蛇島、お前はレギュラーから外すぞ! 」

「っ……すっ、すみませんでし、た……!」

「友沢、異存はないな?」

「……はい。 分かりました」

「よし、それでいい。 お前は天才なんだ。 俺が最も期待しているんだからな。 間違ってでも変なヘマだけはやめろよ、いいな?」

「了解しました」

(くっ、そ……! 何でアイツのせいで僕が……っ!!)

 

 蛇島はリトルの時も、シニアの時も希望していたショートのポジションを友沢に取られ続け、セカンドにまわされていたんだ。

 今思えば、蛇島の友沢に対する異常なまでのあの執着心はリトル時代からあったかもしれない。

 

「僕が……僕が帝王のショートなんだ!! あんな奴に負けてたまるか!!!」

 

 居残り練習も1人遅くまでやっていたのも見たことがある。

 でも友沢や久遠とは違う、異様な感情を剥き出しにしてやっていたのは偶然通りすがった時にこっそり見ていたから覚えていた。

 そして大会2週間前の時期だった−–−–−

 

「友沢君。 ちょっといいかな?」

 

 全体練習を終え、グラウンドにはたまたま友沢と蛇島の2人きりだった時だ。

 

「ん?、どうしたんだ蛇島」

「実は折り入って君に頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?、俺に?」

「うん。 君にしかできないことなんだ。 どう……かな?」

「うーん……まぁ内容によるけど変な事じゃなかったらいいぜ」

「本当か! 助かるよ! それで頼みたいことってのがね……」

 

 

 

「っらあっ!!」

「くうっ……!」

 

 蛇島が友沢に頼んだこと、それはスライダー打ちの特訓だった。 最近の試合で自分がスライダー系の変化球を苦手としていたと知り、どうしても克服したかった。 そこでスライダーをウイニングショットとしていた友沢に投げてもらい、それでバッティング練習をすれば克服できるんじゃないかと考え、頼んだのだ。

 

「さすがはエース兼正遊撃手だね……僕なんかよりもずっと凄いな」

「ふぅ……何言ってんだ。 蛇島だってセカンドのレギュラーだろ? お前だって充分凄いって」

「っ……そいつはどうも。 さあ、日が暮れないうちにもっと頼むよ」

「ああ、悪い、なっ!!」

 

 試合までの約2週間。 友沢は蛇島に対し、キツイ練習の後でもひたすらスライダーを投げ続けた。 初めは力をセーブしていた友沢も日に日に順応してくる蛇島に刺激されたのか、段々と力が入り、やがていつのまにか全力投球でスライダーを投じるようになったんだ。

 帝王シニアの練習量は半端じゃない。 例えば学校がある日であっても容赦なく夜遅くまで練習を続け、休日なら1日練習は当たり前だった。 そんな過酷な練習後でも友沢は毎日、蛇島に付き合ってやっていた。

 

「日に日に球数は増えていくばかりだった。 初めは40球程度だったのが50、60、70、……最終的に150球近く投げていたらしい」

「ひゃっ、150!?」

「スライダーだけを150球近くって……」

「アイツ馬鹿でしょ!! そんなに投げたら肩だって−–−–−」

「−–−–−壊れた」

「!!」

 

 涼子、宇津、みずきちゃんの3人にはよく分かる。

 同じ球種の変化球を、ましてや友沢のようにあんなに鋭く曲がるスライダーをそんなに投げ続けてしまえばどうなるかなんて。 いくら強靭な肉体を持っていても、持つわけがない。

 

「秋季大会の準々決勝後、荷物をまとめてバスに乗り込もうとした時の事だった……」

 

 

 

「普段利き腕の方の肩に絶対エナメルをかけない君がその日だけは偶然かけてしまった。 そして……」

 

 

 

『友沢? どうしたんだ?』

『ちょっとまて……これマズくないか!? おい! 急いで救急車を呼べ!!!』

『ぐうぅ……ああっ……!!』

『亮……亮!!!!』

『離れろ久遠! 友沢、肩が痛むのか!? 大丈夫か!!!」

 

 

 

 けれど病院で待っていったのは投手にとって最も残酷な宣告だった−–−–−。

 

 

「残念ですが……もう投手としてマウンドに上がることは不可能でしょう。 これ以上そのスライダーを投げ続けば今度は日常生活に支障きたす可能性も出てきます……」

 

 

 医師曰く、肩の爆弾が突然爆発したようなものだと、そんな例えを言っていたらしい。

 勿論、すぐにこの事実を14歳の少年が受け入れられるはずはなかった。 治してもらえるように何度も頭を下げ、涙ながらにマウンドへ立ちたい思いを医師にぶつけた。 そんなことをしても無駄だと知っていっても、諦めきれなかったのだ。

 結局チームは投打の主軸が欠けたことが響き、準決勝で横浜シニアに敗れて秋季大会は終わった。 その後、戻ってきた友沢に待っていたのは更に酷なものだった−–−–−。

 

 

「そうか……お前はもうピッチャーができないんだな。 ならお前に用はない。 俺は二刀流のお前に価値を見出していたんだ。 しかも肩の故障なら送球さえもままならない。 そんな選手はウチにはいらん。 とっとと荷物をまとめるんだな」

「!、か、監督!! 俺はまだやれます!! 今は投げれなくても時間をかければ野手として……」

「くどい!!! 故障者を待つ時間などない!! 何度も言わせるな! とっとと荷物をまとめて辞めろと言っているんだ!!! 」

(……そうか。 所詮俺はコイツにとってただの使い捨ての駒に過ぎないのか。 なら俺がいたところでもう野球なんて……)

 

 ただ一言、「はい」とだけ小さく返事し、友沢は荷物をまとめて出て行った。

 

「監督!!! どうして亮を辞めさせたんですが!! 彼はまだ野手としてやれたはずです!! なのにどうして!!」

「なんだ、まだ使えない怪我人の心配をしているのか? 二足のわらじを履いた選手にさえ勝てないピッチャーの分際でよく俺に物が言えるな。 ならお前も辞めるか?」

「くっ……!、でも亮は……!!」

「やめたまえ久遠君。 監督の言う通りだ。 たとえどんなに優れた選手でも怪我さえすればただの使えないガラクタなんだよ。 それに、友沢がいなくなったお陰でエース候補が1人消えたんだ。 ラッキーじゃないか」

「……黙れ。 僕はこんな形でエースになれてもちっとも嬉しくなんかない。 それに!、君が遅くまで亮にスライダーを投げさせたのが原因じゃないのか!!! それなのに……君は亮に謝罪の1つもしないなんておかしいだろ!!」

「何を言ってるんだい? そもそもあの練習は友沢君と同意の上で行なっていたんだ。 同じ条件下で練習をして僕は怪我しなかったんだらこれは友沢君の自己責任だよ」

「!!!、蛇島お前−–−–−っ!!!!」

「いい加減にしろ!!! 辞めた奴のことなど放っておけ!!! 」

「っ…………!!」

 

 

 

 

「今宮から後で聞いた。 お前、何度も監督に頭を下げて退部を取り下げようとしたらしいな」

「……だって、あんなのおかしいだろ。 君は何も悪くない。 悪いのは無理にスライダーを投げさせるよう指示した蛇島なんだ。 なのに……なのにっ……!!」

 

 骨が折れそうな勢いで握られる久遠の拳。

 チラッと彼の顔を覗くとその表情は悔しさをそのまま表していた。 久遠にとって、友沢はただのチームメイトではなかったから。 同じエースを争う仲であっても彼はライバルに自分の決め球を教え、「頑張ろうぜ」とも言ってくれた。 その一言が悩める久遠にとってどれだけ支えになったのか、どれだけ彼の心に響いたのか、久遠は今でも覚えていた。

 

 

 

 

 

「チームメイトが友沢の強制退部に反論しない中、ヒカルはたった1人監督に直訴しに何度も行ってたよ。 俺はさ……情けなかったよ。 アイツは何度も大切な仲間の為に理不尽なクソ監督にプライドを捨てて頭を下げ続けたのに、俺は辞めさせられるのが怖くて行動に移せなかった……ほんと、情けない男だよ…………」

 

 今宮が聖タチバナを選んだのも友沢に対するせめてもの罪滅ぼしの為に、彼と同じ野球部の無い学校を選んだからだ。

 当然、こんなんで仲間を見捨てた罪滅ぼしになるなんて今宮は考えていなかった。 けれど、彼の不器用な性格では彼と同じ気持ちに立つことしか思い浮かばなかったのだ。

 

「一ノ瀬、お前が最初に俺を野球部に誘った時のこと、覚えてるか?」

「ああ、忘れもしないさ。 野球経験者にもかかわらず頑なに野球をやりたがらなかったからさ、土下座までして頼んだんだよ」

「ど、土下座?!」

「かわいそうだなー、2年で1番頭の悪い人間に土下座なんて」

「今宮サイテーだな」

「笠原岩本ーっ!! せめて聞こえないように言えよ!! 地味に気にしてんだから!!」

「「悪い悪い」」

 

 はは……絶対反省してないなこの2人。

 

「ま、まぁ話を戻すと、あまりにもしつこく頼んでくるから冗談のつもりで『肩を壊した俺の知り合いも入れてくれたら考えてやるよ』と条件を突きつけたんだ。そしたら一ノ瀬の奴−–−–−」

 

 

「事情はよく分からないが、そいつに野球へのやる気さえあれば大歓迎だよ。 肩が壊れててもバッティングが上手ければ文句ないしな。 てか連れてきてくれよ、きっと涼子やみずきちゃん達も歓迎してくれるはずだからさ」

 

 

「おー……」

「流石は大地だな」

「まさにキャプテンの鑑って感じだね」

「やめろお前ら……恥ずかしい……」

「俺はその言葉を聞いて確信したよ。 このチームならもしかしたら亮をもう一度復帰させられるんじゃないかって。 そしてお前は約束通り、友沢を説得させた」

 

 うーん……まぁ説得と言うよりはアイツの意思が最後に決めたんだがな。 投手がダメでも遊撃手ならまだ全然やれると思っただけだし、やっぱり帝王シニアの監督のやり方は明らかに酷すぎる。

 

「だからさ……お前には本当に感謝しているよ。一ノ瀬」

「今宮……」

 

 ニコッ、といつもの明るい笑顔に戻る今宮。 それにつられ、気難しそうだった皆の顔が明るくなった。

 俺だって感謝してるさ今宮。 普段は頭も悪くてちょっとバカな部分があるけど、ムードメーカーのお前がいなきゃ聖タチバナ野球部に活気が湧いてこなくなるんだからさ。 そういう仲間思いの所も、皆お前の良さだって知っている。

 

「……さ、そろそろ戻るか。 ヒカル達もそろそろ落ち着いた頃だろうしな」

「え、分かるのか?」

「分かるさ。 皆よりはあの2人のこと、詳しいからな」

 

 と、自信満々に答えながら友沢の病室へと戻る。 すると、病室から知らない声が聞こえてきた。

 

「おにいちゃん、あしのぐあいはどう?」

「大丈夫だ。 心配かけたな、朋恵」

「えへへ、ともえとしょうたね、おにいちゃんがはやくげんきになるようにずーっと良い子にしてたんだよー」

「そうか、そいつは安心したよ。 いいか翔太、俺がいない間は男はお前しかいないんだ。 母さんと朋美をしっかり守ってやるんだぞ」

「うん! でもぼくはおにいちゃんもまもりたいれ はやくけががなおってまたやきゅうをやってるおにいちゃんがみたいから!!」

「翔太……ありがとう」

「本当に大事に至らなくてよかったわ。 優香も亮君のこと心配してて昨日は眠れなかったんだから」

「彩音さん、心配おかけしました。 母さんのほうは……」

「優香なら朝様子を見に行ったけどだいぶ元気だったわ。 あとは亮君が甲子園にさえ出てくれれば完全に治るって言ったぞー」

「彩音さん、変なこと言わないでくださいよ」

 

 

「友沢、入るぞー」

「ん、ああっ!、翔太君に朋恵ちゃん!!」

「あー、みずきおねえちゃんだー!」

「久しぶりねー! 元気にしてた?」

「うん!! 元気にしてたよー!」

 

 中に入ると、見知らぬ兄弟2人がみずきちゃんの下へ駆け寄り、可愛く抱きついてきた。 髪の毛が友沢と同じ金髪ってことはこの2人は……。

 

「まさか……この子達って友沢先輩のご兄弟さん?」

「あー……まぁ一応な」

「うわぁ!2人とも凄く可愛い! お名前はー?」

「ぼくはしょうた!」

「わたしはともえー!」

「あ〜もうダメ……可愛くてどうにかなりそう……」

 

 涼子ってあんなに子供好きだったのか……? 長年の付き合いだが初耳だぞ。しかもぬいぐるみみたいにぎゅーって抱きついててなんか可愛いな……。

 

「ヒカル、亮、もう大丈夫なのか……?」

「ゴメン、気を遣わせて。 翔太くん達が来てくれたおかげでもう大丈夫だよ」

「そっか。 あ、えっと、そちらの方は……?」

「俺の母さんの小学校からの親友で彩音さんだ。 訳あって翔太と朋恵の面倒を見ていただいてくれてるんだ」

「え? 友沢先輩のお母さんって……」

「おらっ−–−–−」

「いってええええええ!!! 何すんだお前!!!」

「デリカシーのない奴だな。 普通そういう話はむやみに聞くもんじゃないだろ?」

「っ〜、それはそうだけどよ……すいません、友沢先輩」

 

 気にするな、といつものようにクールに振る舞う友沢。

 後でみずきちゃんから聞いた話によると、友沢の家は母親と亮・翔太君・朋恵ちゃんの4人家族で、父親は6年前に交通事故で亡くし、それからは母子家庭となっていた。 元々友沢の母親は病気持ちであり、入院と退院を繰り返しており、決して裕福な経済状況ではなかった。

 たまに、誰よりも練習を終えると走って帰宅している時があったが、それは入院中の母親に代わって友沢が兄弟の面倒を見ていたからであった。 中学時代に面識のあったみずきちゃんは時間のある時は大好物のプリンを持って2人の様子を見に行っていたが、友沢は「余計な世話だ」と一蹴したらしい。

 きっと、みずきちゃんに迷惑をかけたくなかったのと、自分の家の問題なのだから自分がなんとかしなきゃいけないという、強い責任感から断ったんだろう。いかにもアイツらしい考えだ。

 

「……そろそろ僕は帰るよ。 兄弟水入らずの所を邪魔しちゃ悪いしね」

「えー、ヒカルおにいちゃんかえっちゃうの?」

「もっとともえたちとあそんでほしかったのに……」

「ゴメンね、でも君達にはこんなにも頼もしいお兄さんがいるんだ。 今日はいっぱいお兄さんに甘えてもらおうね」

「……うん! そうする!!」

「ありがとう! ヒカルおにいちゃん!!」

 

 ゴシゴシと2人の頭を荒くを撫で、荷物を持ち上げる。

 久遠と友沢が何を語ったのかは分からない。 しかしその眼には迷いという文字は無く、表情も訪れた時よりも生き生きとしていた。

 

「−–−–−亮。 それと聖タチバナの皆。 秋季大会、そして来年の夏では必ず這い上がってこい。 僕たち栄光学院も必ず甲子園へ行く。 君たちなら帝王にリベンジできる、そう僕は信じてるよ」

「久遠……お前………」

「一ノ瀬君、君とは最高の舞台で心ゆくまで戦いたい。 だから僕は一足先に上で待ってるよ」

 

 最高の舞台−–−–−それは猪狩や眉村たちが戦っていたあの球場だ。

 久遠は俺たちと純粋に戦いたかっただけなんだ。 友沢が蛇島に怪我を負わされ、無理をしていたことを怒ったのも、俺たちにその可能性があったからこその感情だ。

 俺たちも−–−–−いつまでも負けを引きずってる場合じゃないな。

 

「今宮。 お前俺の過去を喋っただろ?」

「ぶふっ!、は、はぁ!? いやいやいやいや、べべべ別に喋ってねぇよ!、そんなデリカシーのない男だと思って…………はい、すいませんでした……」

「けど、どうして分かったんだ? 俺たちは喋ってないぞ」

「さっき大島が母さんの話を聞こうとしたときに普通なら普通に聞こうとするはずなのになんだか気まずそうな感じだったからな。 あとさっきと今とでは明らかにお前らの様子が変だ。 どこか気を遣っているような……違和感がありまくりだ」

 

 なんつー洞察力だよ。 質問した八木沼もかなり引いてるぞ。 皆も勝手に人の過去を聞いちまったから申し訳なさそうに友沢を見ているが、当の本人は少しお怒り気味のようだった。

 

「友沢、アンタこれからどうする気?」

「どうするって何をだ?」

「蛇島よ! へ・び・し・ま!! アンタこのままやられっぱなしでいいわけ!? そんなのアンタが許しても私が許さないんだから!!」

「み、みずき……少し落ち着いた方が……」

「聖!! アンタだって大切な人が危険な目にあったらどうするのよ!! このまま黙って指を咥えてろって言うの!?」

「なっ……それはその……何もしないとは言ってないが……」

「……ん? てか待て、今みずきちゃん大切な人って言ってなかったか?」

「ええ言ったわよ、それが何?」

「ってことはみずきちゃんにとって友沢は大切な人……すなわち好きってことかなのかー!!!」

「!!?」

「はああああああああああああ!?!?」

 

 ……なるほど、やっちまったなみずきちゃん。

 

「……顔が赤くなってる。図星ですねこれは」

「図星やな」

「図星」

 

「くぅおらぁぁぁぁ!!! そこの下僕トリオ!! 帰ったら生徒会の仕事をみっちりさせてやるんだから覚悟しなさいよ!!」

「えぇぇ!? ワイらもう生徒会は辞めた身やで!!」

「問答無用ーっ!!!!」

「「「ヒィィィィィィィッ!!!?」」」

 

 " 鬼軍曹 " 、まさしく今のみずきちゃんにはこんな言葉がお似合いなくらい原たちを圧倒している。 これは帰りもずっと不機嫌だろうなぁ……。

 

「ったく……蛇島の事なら別にやり返そうと考えちゃいない。 アイツが俺を憎んでいるのは知ってるし、今更あいつの足をへし折ろうとは思わない。 けど−–−–−

 

 

 −–−–−次に戦う時は正々堂々、野球でリベンジしてみせるさ。 必ずな」

 

 

 夕日の光を顔に浴びながら、そう力強く答えてみせた。

 あくまで私情を持ち込まずに試合でリベンを果たす、か。 その言葉に全員が納得したように笑った。

 

「ひとまず俺は足をきっちりと治すことに専念する。 だからお前達は何も心配する−–−–−」

「悪いけど、心配させてもらうわ」

「……橘?」

「アンタねぇ、まだ小学校に入りたての可愛い兄弟を彩音さん1人に押し付ける気?」

「はぁ? それは俺が」

「俺が面倒を見るなんて言わないでしょうね!? そんな足でよく言えたもんよ! このダメ兄貴が!」

「っ……橘お前っ!」

「だから、アンタの怪我が治るではしばらく私がこの子たちの面倒を見るわ! 拒否権は一切なし!! いいわね?」

「!…………」

 

 みずきちゃん……ふっ、そうこなくっちゃな。

 

「……私もみずきに賛成だ。 しかし1つ訂正するなら私じゃなく、私達、だな」

「ふふっ、そうね」

「だな」

「おう!」

「ええ」

「そうっすね!」

「皆…………」

「友沢、忘れるな。 お前はもう1人じゃない。 こんなにも頼もしい仲間が沢山いるんだ。1人で大変だった時は頼ったっていいんだぜ」

「頼る……か。 いつのまにか忘れてたかもしれないな、俺は」

 

 つい1人で抱え込んじまう癖は俺にだってある。 友沢の気持ちもわからないわけじゃない。 でもな、なにもかも1人でやり遂げるほど人間は強くない。 そんな時に頼りなるのが仲間なんだ。

 

「とはいえ朝まで家にいるわけにはいかないし、一応アンタが退院するまでは私が家の者を手配しておくわ」

「……もう頭が上がらないな」

 

 さすがは橘財閥のお嬢様だ。 やることが庶民とは全然違うぜ。

 

「翔太君、朋恵ちゃん。 暫くの間私たちが家に行くから大丈夫よ。 安心してね」

「わーい! みずきおねえちゃんたちならうれしいー!」

「わたしね、さっきぎゅーってだきしめてくれたおねえちゃんとおふろにはいってねるときにはいろんなおはなしがしたい! 」

「ふふっ♪、もちろん喜んで!」

 

 皆すっかり友沢兄弟と打ち解けて安心だ。これなら友沢や彩音さんの留守中でも大丈夫そうだな。

 

「ありがとう皆さん。 亮君のお母さんには私から言っておくから安心してね」

「ありがとうございます。 私も彼の顧問としての責任があります。 是非協力させて下さい」

「ふふっ、お姉ちゃんが作るご飯は絶品だから2人も喜ぶと思うわ!」

「もぅみずき、あまり姉をからかうんじゃありません!」

 

  はっはっはっ!、と笑いが溢れる病室。

 まずは友沢の怪我を治し、そして今度は秋季大会に向けて再始動だ!! 帝王にリベンジし、次は俺たちが甲子園大会の出場権を奪ってやるぜ!!

 

 

 

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