Glory of battery   作:グレイスターリング

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第六話 夏・開幕 vs おてんばピンキーズ(前編)

「んー…やはりこんなものか」

 

 ビルが所々そびえる一角に、大好評で有名な野球週刊誌『THE 週刊パワスポ!』の編集ビルが立っている。。

 その中に、未来のスーパースターを見つけて発掘することを仕事にしている『スカウト部』たるものが存在しており、部長を務める『影山修造』はここ最近、ある問題に大きく悩まされている。

 

(今年は高校も大学も社会人もめぼしい選手が見つからないな……)

 

 壊滅的なスター選手不足──。

 昨年、『神童裕二郎』という怪物が甲子園を大きく世間を賑わせ、その影響力は社会現象になったほどだ。

 甲子園二連覇に完全試合を3度、更には奪三振・勝数・防御率で歴代トップ5に入る実績も伊達でなく、現プロ野球界で日本のエースと名高いあの『茂野英毅』を凌ぐかもしれないと、世間から強く期待されている。

 

(だが今年はそんな“怪物”という名に相応しい選手がいないのも現実、か)

 

 夏の甲子園や大学リーグなどを目前に未だこの私を奮い立たせる選手に巡り会えていない。

 確かに、能力面だけの評価で判断すれば、既にプロ基準へ到達しているバッターやピッチャーは少ないわけではない。

 ──しかしそれでは半流止まりのプロにしかなることはできない。一時のブームのように、すぐ書き消されてしまうだろう。

 そんな厳しい世界のトップに立つ選手達は、全員に共通して持っている“力”があるのだ。

 

 

 

 その力とは、圧倒的カリスマ性──。

 

 

 簡単に言えば、『プロとしてのオーラを放つ選手や、自分にしか持っていない風格があるプレイヤー』のことを意味すると、長年のスカウト生活で認識している。

 私が輩出する選手は、どうして大器するのか?理由は簡単だ。

 

 ──魅力ある選手を見つければいい、ただそれだけだ。

 

 

 

「さてと…どうしたものかな……」 

 

 とは言ったものの、ドラフトまであと半年を切っている。スカウト部の部長という肩書き以外にも、私はプロ野球球団『またたびキャットハンズ』の専門スカウトも仕事として任され、かなり多忙な日々を送っている。

 神童裕二郎をたんぽぽカイザーズに取られ、かなり痛手となってる現在、一刻も早くスカウトの目処を立たなければならない……

 

「失礼します、木佐貫です。先週頼まれた大磯国際大学のデータが取れましたので提出しに来ました」

「おお、いつもすまないな。机の上に置いといてくれ」

 

 木佐貫幹久。私の一番の助手であり、入社3年目の若手スカウトだ。

 

「影山さん、また悩んでるんですか?ここのところずっと険しそうですよ」

「……やはりそう見えてしまうかね。否定できないが」

「そうですか……あ、だったらコレ見に行きません?」

 

 そんな姿を見た木佐貫は、肩にかけていた愛用のショルダーバッグを開け、一枚の紙切れを私のデスクに置いた。

 

「実は今日の9時から横浜シャインスタジアムでリトルリーグの全国予選が始まるんですよ。最近の影山さんはかなり疲れてると思ったので、気分転換にと思って持ってきたんですが……」

「ふむ…リトルリーグか…」

 

 そういえば一年前に暁リトルというチームを特集に取り上げたことがあった。猪狩君と一ノ瀬君と言ったかな……暁リトルを初の全国制覇させたとして注目を受けたことがあるが、プロを意識しての評価はしなかったはずだ。

 実力は認めるが間近で彼等の試合を見たわけではなく、ましてや弱冠小学四年生のちびっこだ。まだその観点で見るには早すぎる。

 でもここでダラダラ考えていてもキリがないし、ここは気持ちを切り替えるつもりで行ってみるのも悪くはないか。

 

「分かった。用意が出来次第、出発しよう」

「はい!運転は任せてくださいよ!」

 

 今まで目を通していた資料や編集雑誌を机の中にしまい、長く使い続けたメモと鉛筆を鞄に入れてオフィスを後にした。

 せめてリトルでもいいから有望性ある選手がいてくれたら面白いのだがな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏の神奈川予選も順調にトーナメントがスタートし、県内から様々なリトルチームが二枠の全国行きへの切符を賭けて白熱した試合を展開していた。

 スタンドでは各チームの保護者を始め、地域の住民や野球好きの大人に子供など、老若男女多くの観客で賑わっている。

 そんな熱い中、俺達の試合も第二戦目に始まり、試合の行方は大きく動いていた。

 

 

          

   

  YL  5 2 1 6 5 3 

 

  SL  0 0 0 0 0   

 

 

 

 オーダーは帝王リトル戦から少し変わり、キャッチャーが寿也でピッチャーに江角さんが入った。俺は涼子とベンチスタートかと思いきや、三番ファーストでスタメンに選ばれていた。

 四番には真島キャプテン、五番に寿也が入る打線重視の采配は見事に適中。三・四・五番で稼いだ打点は驚異の15打点を叩き出し、ホームランも合計で5本と存在感を強く示している。

 それでも最終回の攻撃は続く――

 

 

『三番ファースト、一ノ瀬君』

「頼むぜ一ノ瀬。もう一本ぶちかましてやれ」

「頑張って、大地君!」

 

 ワンアウト満塁。フォアボールとヒットでこれ以上にない最高のチャンスが巡ってきた。

 寿也とキャプテンから声援を受けた俺は、ネクストサークルから立ち上がって軽く屈伸をしてからボックスへと入っていった。監督のサインは特に無し、つまり自由に打てってことだ。

 

(悪いけど、ゲームセットのコールが鳴るまでは例え100点差でも手を抜くつもりは無いからな)

 

 どっしりと構えて迎え撃つ。もう相手ピッチャーは戦意喪失気味の状態だ。

 

 

 ――その初球、甘く入ったカーブがキィィン!と鳴り響きながらレフト方向にへ高々と飛ぶ。

 

 

 俺は打球を見た瞬間に確信し、右手をグッと空に掲げた。

 

 

 

 

 

 

 評判通り、いやそれ以上だろうか。

 スコアボード下にズラリと並ぶ0の文字とは対照的に、上は22点と重い数字がのしかかっている。

 後に聞いた話では、クリーンナップを担う3・4・5番だけで総合得点の約7割を叩き出したらしい。

 

 

『三番ファースト、一ノ瀬君』

「うわ~っ、一方的な試合展開ですね。しかも次は三番ですし」

 

 私から見ても勝ちは決まったも当然。流石は横浜リトルだ……そう思ったその時、

 

 ドカッ──。

 

 レフトスタンド上段から響いた鈍い到達音。バッターはダイヤモンドを悠々と回っていた。

 

(何だ……ここまであの彼が飛ばしたというのか…!?)

 

 ボールは完全にスタンドインしている。だがその現実を信じられず、私は木佐貫に確認をとった。

 

「幹久君、今のホームランはどこまで飛んだのかね?」

「えっと…今のは上から三段目まで届きましたよ。小学生なのに凄いパワーですよねぇ……」

 

 違う。パワーだけでは小学生にあそこまで飛ばす力はない。だとすればパワーとは反対の、バッティング技術で打ったに違いないはずだ。

 フォーム・スタンス・スイング・打点・選球眼など、多種多量な技術を用いなければ、あのホームラン成立しない。

 

 (間違いない。もしこれが真実だとすれば彼は…)

 

 

 怪物に化ける──。

 

 その予感がビンビンに感じてくる。

 

 そう、これだ。この血が煮え出る感覚、見るものを魅了させるそのパワー。私はこんなプレーヤーが現れるのを待ってたのだ。

 

「…幹久君、そろそろ帰ろうか」

「んえっ?もう帰るんですか?!」

「もう満足したよ。君のおかげでとんでもない才能と出会えたからね」

 

 ワクワクが止まらない。これから彼がどれだけ成長するのか非常に楽しみでしょうがないのだから。

 そして願わくば、私の思い描いた最高のプレーヤーになって活躍してほしい。

 

 

 その日を境に、元暁リトルの『一ノ瀬大地』を忘れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 結果は26-0の大勝でウチが勝ち、これによって来週の日曜日に同じ場所で、宿敵『おてんばピンキーズ』との対戦することがほぼ確定した。

 

「今日はいい形でゲームを運べたな」

「とくに一ノ瀬の最後の打席、すげぇ当たりだったぜ!」

 

 試合が終わり、バスに荷物を積み込みながら、各々が今日の試合の感想を言い合っていた。

 やっぱりあのホームランは出来すぎだったとは自分でも思った。しかも樫本監督が『文句無しのベストパフォーマンスだ』って誉めてくれた。あの人滅多に誉めたりしないから何だか新鮮に感じちゃったなぁ。

 

「お疲れ様、大活躍だったね」

「おう。応援ありがとな」

 

 涼子は残念ながら登板無しだったが、次の試合は俺とバッテリーを組むことが決まっている。

 今日も様子を見てたけれど、凄く投げたいオーラを全快に解放してたな。

 

「来週は頑張ろうね。大地君のリード、信じてるから♪」

 

 ニコッと満面の笑みで微笑んできた。うわ…あ……今凄く可愛く見えたんだけど……。

 

「信じてくれるならそれは嬉しいよ。俺も頑張って涼子を勝ち投手にさせるよ!」

「──?!う、うん!ありがと…」

 

 涼子の頬がほんのり赤らめてるけど気のせいか…?熱じゃなければいいけどな。

 

「おーい、そろそろ帰るぞ」

 

 窓からキャプテンが声をかけられ、気付いてみると俺ら以外皆バスに乗っていた。

 急いで荷物を持ってバスに乗り、中で反省会をしながらグラウンドまでゆらゆら揺れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前9時10分──。今日は試合疲れがあるかもしれないという監督の計らいで練習が無しになったので、前から約束をしていた聖ちゃんのコーチをするべく、連日でシャインスタジアムに来ている。

 

(しっかし暑っついよなぁ…日陰だっていうのに…)

 

 明確な指定場所を決めてなかったため、一番見晴らしの良い北側入り口のベンチで待つことにした。

 このドームは東西南北に入り口があるのが特徴で、正規の入り口は北なので、こっちは人の出入りも多い。

 

(少し早かったか。まだ時間も20分前だし)

 

 遅刻よりはマシだからいいけどね。男が遅れたらシャレにならないし。

 

「大地、待ったか?」

 

 バックから携帯電話を取りだし、時間を再確認していた所に聖ちゃんも丁度到着した。

 

「ううん、全然待ってな……え………」

「どうしたのだ?何かおかしいか?」

「え、いや…なんで着物なのかなぁって思ったから…」

「変なのか?これが私の普段着だが…」

 

 ピンク色の着物を着た聖ちゃんは、まさに大和撫子と名乗るのに相応しい雰囲気だし、非常にその魅力はあるんだけれど……

 

(わざわざこの暑い時に着なくてもよかったのに…周りの視線が結構痛いよ)

 

 本人曰く、これが私服らしい。だから俺のラフな格好とは正反対過ぎて違和感満載な所をツッコンだら負けだ。もう真面目なんだしいいだろ~!そんな今日この頃です。

 

「それじゃあどこで練習する?つってもこの格好で野球は出来るの、聖ちゃん?」

「それなら心配ない。練習場なら既にある」

「えっ、もう見つかったの!?」

「まずはそこまで案内しよう。ついてきてくれ」

 

 そんなわけで聖ちゃんが用意してくれた場所まで歩くことになった。距離は3kmほどで着くらしいから、それほど時間はかからない。

 ──ただやっぱり気になるのは聖ちゃんの着物姿だ。

 

(視線が辛すぎてこっちが恥ずかしいよ…)

 

 すれ違う度に驚嘆する声が聞こえるもんだから、顔耳まで真っ赤になるぐらい超恥ずかしい。

 

「ひ、聖ちゃんってさ、どうして着物とか着るの?」

 

 恥ずかしいのを承知で尋ねてるみる。

 

「これか?別に深い意味はないんだがな、私の実家は寺をやってるからどうしてもこういう服になってしまうんだ」

「お寺?ははぁー…どうりでそんな雰囲気が漂うわけだ」

「ちなみに今日練習する場所もそこと関係するから楽しみにしていてくれ」

 

 待てよ。つまり聖ちゃんの言ってた練習場って……お寺?!

 いやいや、まさかねぇ。そんな変な話があるわけ――

 

 

 

 

 

 

「──」

「ささ、ここが私の家だ」

 

 前言撤回、そんな話はあった。しかも俺が絶句するほど立派なお寺である。

 

「にし…まん…なみた……?」

「西満涙寺(さいまんるい)と言うんだ」

「全部音読みか…」

 

 殆どの小学生は初見で読めないだろう。読めたとしても寿也ぐらいの学力がないと厳しいな。

 

「そこで待っててくれ。今用意をしてくる」

 

 お寺横と隣接している和風造りの家へ入り、10分ぐらいすると練習着になって戻ってきた。

 

「待たせたな」

「ううん、大丈夫」

「それじゃあ始めるか」

 

 聖ちゃん家の敷地はそれなりに広く、お寺手前にキャッチボールができるほどの場所が確保できるので、支障は全然ない。

 

「キャッチャーを教わりたいって言ってたけどどれからやろっか?キャッチングとかリードとか色々あるけど…」

「実はキャッチングで悩んでることがあって…スクリューの捕球の仕方なんだ」

「スクリュー?」

 

 簡単に言えば、左投手が投げるシンカーのことだ。そもそも右投げの方が選手人口は多い上、シンカー自体の難易度も高い。

 

「どうだ、出来そうか?」

「ん~…聖ちゃんが想定してるピッチャーの変化量とかにもよるけど、それなら良い練習法があるよ」

「本当か!?」

「うん。ちょっとそこに構えてて」

 

 構えてもらった所から斜め右後ろに俺がボールを持って立つ。

 

「ちゃんと捕ってね…うらっ!!」

「なっ!?……くっ…」

 

 ピッチャーから見て左へ流れる鋭い送球。反射的にグローブを出すが惜しくもミット真ん中で捕れず、後ろへ後逸した。

 

「どう?これは俺がカーブの捕球とかに使ってた練習法なんだけど、こうやって投げる人が角度を変えて投げれば、ストレートでも変化球に近い球が投げれるんだ。そこから更に…おりゃっ!」

 

 ボールの面に回転をかけ、弧を描くように急角度で落ちた。

 

「…ふっ!」

 

 今度はスバンッ!と綺麗に捕球することに成功した。

 

(なっ…!?こんなに早く捕るとは……)

 

 とんでもないセンスだな。もしかして聖ちゃん、俺よりも成長するんじゃないか?

 

「ふぅ…どうだ?」

「ナイスキャッチだったよ。でも捕る瞬間が手だけしか動いてないから体も使いながら全身で捕球するイメージを持ちながらやれば、さらに安定性が増すよ」

「体か?ならそこも詳しく教えてくれないか」

「…マジですか」

 

 

 

 そういうわけで、聖ちゃんの様々なリクエストに全力答え続け、気つけば太陽が西に傾いていた。

 ちなみに昼食は今日のお礼を込めて、聖ちゃんの家で豪華な懐石料理をご馳走になった。

 

「ふぅ~…今日はここまでにしようか」

「ん…そうだな」

 

 短時間の間だけしか教えられなかったけど、ほぼスクリュー捕りはマスターできてるはずだ。あとは自分の調子次第で変わってくるだろう。

 

「大地」

「なに?」

「どうして私にそこまで教えてくれたんだ?来週は敵同士戦うのに、お前はそれでいいのか?」

「全然いいさ。ライバルが強くなればなるほど、戦うときにその分楽しみが増えるからね」

「楽しむ……ふっ、そうか。だから私が憧れるのだな…」

「えっ、なんか言った?」

「っ!…なんでもない!!」

 

 誰かに憧れ…とか言ってたけど何だったんだ?尋ねたら全力で否定されたし。つーか顔赤すぎ。まるで昨日の涼子と同じだぞ?

 

「…まあいっか。じゃあそろそろ帰るね、じゃ!」

「あ、ああ………大地!」

「ん?どしたの?」

 

 

 

「来週はい良い試合にしよう。それと今日は私の為にありがとうだ」

 

 聖ちゃん……。

 

「…うん!お互いベストを尽くして頑張ろーぜ!!」

 

 俺が左手を出したのを見て、聖ちゃんも左手で握手に応じた。もう彼女の顔から固さはとっくに消え、今日一番の笑顔で俺を見送ってくれた。

 

(今日は楽しかったよ。俺からもありがとう、聖ちゃん)

 

 ちょっぴり言葉に出すのが恥ずかしかったから心の中でお礼をした。教えていたときの聖ちゃんの目はとても輝いていたから、教えるこっち側も楽しかったし、なにより聖ちゃんの野球に対する気持ちが強く心に伝わった。

 

「…駅まで走るか」

 

 体が急に動かしたくなり、鞄を肩に揺らしながら全速で走り出した。

 相手の気持ちを思いながら野球をするなんて考えたことがなかった。それも聖ちゃんと出会ったことで、少し分かるようになった気がした。

 負けたくない気持ちはどちらも一緒だ。ならどちらがその決意が強いかで勝敗が決まる。単純かもしれないが、改めて考えてみると皆そうなんだよな。

 

(だったら俺達のやることはただひとつだ!)

 

 おてんばピンキーズに俺達の勝利への思い、ぶつけてやるぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大会第二週目に入り、決勝トーナメント16席の奪い合いもいよいよ大詰めとなった。

 他のブロックも順調に進んでいるらしく、俺達がライバル視している帝王リトルや三船リトルも勝ち上がって来ている。

 

 

1番ショート 伊達

2番セカンド 村井

3番キャッチャー 一ノ瀬

4番サード 真島

5番ファースト 佐藤

6番センター 関

7番レフト 松原

8番ライト 菊地

9番ピーク 川瀬

 

 練習試合と変わらないオーダーだ。

 

 

1番センター 矢部

2番ショート 小山

3番キャッチャー 六道

4番サード 薬師寺

5番レフト 大田

6番セカンド 荒田

7番ライト 飯窪

8番ファースト 岡崎

9番ピッチャー 早川

 

 注目は1・2・3・4番とピッチャー陣だ。

 俺の取ったデータに基づくと、まず矢部君の俊足で出塁。その流れで小技の利く雅ちゃんが送り、巧打の聖ちゃんが強打者の薬師寺に繋げる、それがおてんばピンキーズの基本的戦術だ。

 ピッチャー陣はもっと厄介で、右のアンダースローと左のサイドスローをリレーで投げきる変則登板が鉄板らしい。

 いかに上位打線を抑えながら、変則ピッチャー二人を打ち崩していくかが勝負の鍵だろう。

 

「準備はいいな……集合っ!!」

「「「「オオォーーーーッ!!!!!」」」」

 

 キャプテンの合図により、全員がホームベース前へ集合する。

 偶然か、それとも運命か。俺の前に並んだのは聖ちゃんだ。

 離れ際、俺にボソッと言うように口を開いた。

 

「勝つのは私たちだ」

「どうかな。俺達だって負けてらんねーんだよ。望むとこだ。」

 

 神奈川県No.2の強豪だ。初戦のような一方的な展開にはならないだろう。

 ――だとすれば今日の試合、荒れるかもな。

 

 

 

『1回の表、横浜リトルの攻撃は、1番ショート伊達君』

「よっしゃ!まずは頼むぜ伊達ーっ!」

 

 親指を立てて声援に答え、意気揚々とバッターボックスへ入った。それに対し、早川・六道バッテリーは冷静に迎え撃つ。

 

「声援は気にするな。自分を信じてミットに投げてこい」

「うん!いい形でみずきにつなげようね!」

 

 両者の準備が整い、主審が『プレイボール!』のコールし、いよいよ試合が始まった。

 立ち上がりの初球、低めいっぱいにストレートが決まってストライク。横浜リトルベンチや観客席からは、あおいちゃんの投球フォームを見て、おおーっ!と歓声を漏らした。

 

(一ノ瀬の言う通りアンダースローか……確かに打ちにくそうだな…)

 

 一度体が低く落ち、腕が地面スレスレを通過して放たれるスタイル。小学生とは思えない綺麗なサブマリンだ。

 続く2球目は外角を僅かに逸れてボール。ちなみに球種はストレート。

 三球目、インハイから浮き上がるようなストレート──。珍しく通常のヒッティングでボールを叩き、打球は三遊間を痛烈に襲う。よしっ、これなら確実にレフト前だ!

 

 

「…よっ!……んあっ!」

 

 ショートがダイビングキャッチでパシッ!と捕球し、素早いスローイングでファーストへと送球した。

 

『アウトォ!』

「なっ……なにっ!?」

 

 ショートのファインプレーで、会場は再び大歓声と拍手で包み込まれた。

 あまりの守備力に横浜リトルのベンチサイドは仰天した。

 

「凄い守備力だね…」

「ああ、偵察以上の力を見せてるな。これは三遊間に打ったらダメっぽいな」

 

 ノックから上手いなぁとは思ってたけど、まさか試合でこれほどのプレーを初っぱなからやるとはね……

 

「ナイスキャッチー!助かったよ雅ちゃん!!」

「えへへ、ありがとう。あおいちゃんもナイスピッチだよ♪」

 

 

『2番セカンド村井君』

 

 ん、ネクストは俺か。あおいちゃんはストレート以外にもカーブも投げれるから、できればここでタイミングを掴んでおきたかったが、ゴキッ!と気持ちよくない打球音が遅れて聞こえてくる。

 

(……あ、またショートゴロか)

 

 危なげなく冷静に処理してツーアウト。

 

『3番キャッチャー、一ノ瀬』

 

 うおっしゃ!ここはなにがなんでも塁に出て、キャプテンや寿也に繋げてくぜ。

 独特の沈みこみからリリースされ、キレのいいストレートがアウトコースに入った。

 

(球速は80km/h位でさほど速くはない。だけど回転がしっかり掛かってるから真芯で捉えないと飛ばないな)

 

 ここまでカーブはない。なら今は焦らず球筋を見極めることに専念しよう。

 同じリズムで投じた2球目はまたもやストレート。今度は内角に散らしてきた。

 

(くっそ、追い込まれたか。それにしてもカーブが全然来ないな…)

 

 ベンチからは『ストレートに絞って打て!』と聞こえるが、まだ相手がカーブを投げないと決まったわけではない。

 集中力を高めて望んだ3球目は、高めに大きく外れてボール。その次も外角高めにずれ、これで2-2だ。

 

「あのピッチャー、カーブを中々投げてこないね」

「うん。大地君も惑わされてる感じがするしね」

 

 平行カウントから次のサインを聖ちゃんが出すが、あおいちゃんが頷かない。

 何度も首を横に振り、6回目でようやく受け取った。ダミーの首振りかどうかは知らないけど、次で決めに来そうだ。

 先程より緩い腕振りでリリースし、やや低めの真ん中に飛んでくる。

 

(球が遅い、これはカーブだ!)

 

 待ってましたと言わんばかりのフルスイングで打つ!が、ボールはバットに当たらなず、ブルンッと豪快に空振りしてしまう。

 

『ストライク!バッターアウトォ!!チェンジ!』

「ナイピーでヤンスー!」

「よしよし!いいピッチングだったな、早川」

「皆がいてくれたお陰だよ。さ、矢部君からどんどん出塁しよー!」

 

 ガッツポーズを決めてベンチへと戻っていったピンキーズナイン。

 なんで当たらなかったんだ……少し遅かったからカーブかと思ったのに……くそっ!

 

「大地君、守備だよ」

「……分かってるよ」

 

 恐らく変化しなかったからただのスローボール――。俺のカーブ待ちを読んだ聖ちゃんがわざと投げさせたボールか……あーもう!、まんまとやられたぜ。

 

(終わった事にクヨクヨしててもダメだ。切り替えて守備に徹しないと…)

 

 レガースとプロテクターを付けてマウンドへ急いで駆け寄った。既に涼子はスタンバイして待っててくれた。

 

「悪い、待たせた!」

「大丈夫よ。私は大地君が前の打席を引っ張ってなければ問題ないから」

「任せろって、オンオフの切り替えはきっちりできるからよ」

「ふふふっ、それを聞いて安心したわ。ここを0点に抑えていい形で真島さん達に繋げてあげようね」

「そうだな。うし、気合い入れて投げるぞ!!」

 

 グローブでハイタッチして締め、投球練習へと入る。うんうん、どの球も走ってるし緊張もあまりしてないようだ。

 5球ボールを受け、最後にセカンドへ送球してバッターがボックスに向かう。

 

『1回の裏、おてんばピンキーズの攻撃。1番センター矢部君』

「メガネー!塁に出ないと承知しないわよー!!」

「そんなプレッシャーかけないでくれでヤンスよ…」

 

 さて、1番に座る矢部君だが、みずきちゃんの鬼特訓のお陰か、とてつもなく足が速い。普通のゴロをを内野安打にさせる力は充分ある。なら三振かフライで押さえるのが理想だ。

 

(ミート力もあるから甘いコースは投げれない。まずは外角で様子を見るぞ)

 

 コクンと頷き、こちらも綺麗なギブソンフォームで投げ込まれた。カウントは勿論ストライクだ。

 

「いいぞ、ナイピッチー!!」

 

 嬉しそうな表情で「ありがとう!」と返り、直ぐに投球態勢へ戻す。

 今日の試合、恐らく乱打戦というよりは投手戦になるだろう。ともなれば涼子のリズムで投げ、早い段階で自分のペースにしたい。

 

(こっちはガンガン色んな球種を使うぞ。次は低めにカーブだけど、内外角は問わない。思いっきり投げてこい!)

 

 涼子だって変化球のレベルは高い。甘く見られたら困るぜ。

 ビュッ!と腕をしならせ、やや内角の甘いコースに行った。矢部君は慌てて振るが、タイミングが合わずに空振った。

 

『ストライクっ!』

 

 2-0、投手有利のカウントに持ってこれたな。次のボール、矢部君は必ずストライクが来れば焦るはずだ。

 

「内野前進!セカンドはベースカバーをお願い!」

 

 次はムービングファストで確実に打ち取りたい。だが念には念で、矢部君の足を考慮して前進守備をとらせた。

 監督も考えが伝わり、俺の方を見て軽く頷いた。

 ボールは外側のくさいコース、俺の構えた通りにきた。バット手前で僅かに落ち、バット先端に当たった。

 

「セカンド!」

「ああ任せろっ!」

 

 涼子の横をボテボテと転る。ヤバイ、このままだと矢部君の足の方が早い!

 

「ちっ、間に合えよ!!」

「うおおおでヤンスーーーぅ!!!!」

 

 ズザザーッ!とヘッドスライディングでファーストベースに潜り込んできた。

 タイミングはほぼ同着だが果たして……

 

 

『セーフ!セーーフ!!!』

「うおっしゃでヤンスー!」

 

 かなり際どかったが判定はセーフで内野安打──。

 村井のフィールディングは悪くなかった。打ち所がよかったのと、矢部君の足が想像以上の速さだった。運もあったとはいえ、辛口なジャッジだぜ。

 

(ふぅ、最悪なランナーを出しちまったな。ここからは盗塁も視野に入れてリードしないと…)

 

『2番セカンド小山さん』

 

 ここでピンキーズ側の采配はただ一つ、“ 送りバント”で堅実に繋いでくるだろう。

 雅ちゃんはバントの名手だし、矢部君の足を考慮すれば送ってきても何ら不思議ではない。

 

(バッターにパワーはない。バントが来たらさせて、盗塁だけには気を付けよう)

 

 俺のサインしたコースはアウトコースのボール球。涼子が頷き、セットアップでミット構えたところに届いた。

 

(走らなかったか…でもそれでいい。ランナーだけには警戒しつつ、このバッターを抑えればオッケーだ。)

 

 今度はバントを想定し、低めやや甘いコースのストレートだ。万が一エンドランされてもパワーヒッターではないから強襲はされない。ウチの守備力を信じてリードすれば守りきれるはずだ。

 涼子は長い間合いをとり、警戒する素振りを見せながら投じた。コンパクトにバットを横に構えてコンッと、打球はサード線付近へ転がった。

 

「私が!」

 

 前に出ていた涼子がキャッチし、二塁に目もくれずにファーストへ送球。

 

『アウト!』

 

 結構難しい場所にバントしてきたな。今は涼子が分かってて前に出たからアウトだったけど、もし分かってなかったらセーフかも…。やっぱりどのバッターも侮れないぜ。

 

『三番キャッチャー六道さん』

「聖頼むわよー!!」

「次の俺に回してくれよなー」

「……ああ」

 

 相手は巧打の聖ちゃんだ。雅ちゃんと同じく非力にしろ、バッティングマシンのボールをコンスタンスに打ち分ける卓越したセンスは要注意しなければならない。そのミートがどれだけ実戦で発揮されるか見所だな。

 

(このバッターは慎重に攻めてくぞ。最初はアウトコース低めにカーブからで)

 

 サインに頷き、滑らかな軌道を描きながらミットに収まった。

 

『ストライク!』

 

 ピクリとも動かず見送ったか。返球しながらチラッと覗くが、聖ちゃんの目はピッチャーにしか向いてなかった。

 すげぇ集中力──。それが巧打の秘訣らしいな。

 続く2、3球目はわざとボール球を投げさせ、相手の出方を見てみた。

 

(選球も冷静に見れてるな。少しでも打ち頃だと見極められて打たれそうな感じだ。それならあえて力押してで打たせれば…)

 

 カウントは1-2でまだ追い込んではない。

 1、2番とまだ唯一使用してないコース──。そう、高めだ。そこへムービングを使って誘えば、凡打率はかなり高くなる。

 両者冷静に見つめ合い、緊迫の中で涼子が投じた。

 狙い通りに聖ちゃんはバットを振ってきた、が、凡打とは思えない鋭い快音が球場を伝えた。

 打球は鋭いライナーでライトへぐんぐんと伸びていく。なんとか大きく後ろに下がって菊地が捕球するも、ランナーは既にタッチアップしている。

 

「急いで中継に!」

 

 手際のよいホームは踏ませないものの、ランナーを余裕でタッチアップに成功。これでツーアウト3塁、スコアリングポジションへとさらに追い詰めてくる。

 

「すいません、タイムを」 

 

 時期尚早と思われるが、次は4番で先制のピンチでもある。ここで一声掛けておかないと不安にさせるかもしれない。

 

「涼子、大丈夫か?」

「大丈夫よ。そんなに心配されるほど、私は弱くないわ」

 

 うん、どうやら動揺はしてなくてひとまず安心したぜ。まさかムービングを一発で捉え、ましては完璧なスイングで流してきたから俺はビックリものだったが…俺より心が強くて頼もしい限りだ。って、俺が弱気でどーすんだよ。

 

「あの当たりは気にするな。ツーアウトになったし結果オーライと考えよう」

「そうね。ピンチだけどツーアウトなんだし、頑張って抑えましょ!」

「もちろんそのつもりだ。次も好投を頼むぜ」

 

 やせ我慢でできる目付きではなかった。本当に冷静さを保ってられるようになったな。当初と比べても大部、俺に対する信頼が強くなってる気がするし、それはそれで素直に嬉しいぜ。

 

『4番サード薬師寺君』

 

 さーて、もしかすると今日一番の山かもな。

 チームで一番のパワーに確実性も重ね合わせた順応的なミート、こいつは巧打とは正反対の“豪打”できるバッターだ。

 

(まずはクロスファイヤーで内角を抉るぞ。球種はムービングで)

 

 セットからワインドアップへ切り替えたらボールは、若干威力を増してミットに迫る。薬果敢に初級から狙うも、完全に詰まらせてファールに。

 クロスファイヤーは右対右にも効果はあり、薬師寺は馴れない投法に戸惑っている。

 

(2球目もクロスファイヤーたが、今度はカーブで惑わすぞ)

 

 体付近をギリギリ通過すると見せかけ、ボールはバットから上手く逃げていく。

 切れ味抜群のカーブが内角低めをへ落ちて、またもや空振り。

 案外アベレージヒッターってわけではなさそうだな。スイングは結構荒れてるし、これは丁寧に的を外せば三振もいけるぜ。

 

(三球勝負だ。外角低めギリギリに渾身のストレートを投げてこい!)

 

 要求した通りにリリースされたボールは、今日一番のコントロールとスピード、まさにベストショットと言っても過言ではないぐらい文句なかった。

 

 カキィィィィン!!と強烈な音を立てて伸びていった。

 

 おい…待てよ……嘘だろ……っ!!

 

 打球はあと僅かcm単位足りず、ホームランにはならなかった。それでもライト線を襲った長打コースとなり、この試合初の得点が入った。

 

「ナイスバッチ!、さすが頼れる4番!!」

「やったわね、まずは先行よ!!」

 

 ピンキーズベンチの喜びと対照に、俺と涼子は驚くだけだ。

 ──なぜ追い込まれた状態でアウトコースの厳しいボールをあそこまで運べたのか?

 二塁ベース上でガッツポーズをしている薬師寺を見て、俺はギリッと歯軋りをして悔しさを痛感した。

 

(もう点数はやれない。次は死んでも断ち切ってやる!)

 

 5番の大田は4球目のムービングを引っ掛けてセカンドゴロ。二度ピンチを作るも、何とか1失点内で留めた。

 

「ゴメン、俺のリードミスだ」

 

 ベンチに戻り、涼子に謝った。

 

「大丈夫!まだたった1点だし、次はきっちり抑えればまだ勝機はあるわよ」

「…そうだな。まだ始まったばかりだ、次に集中!」

 

 逆転して勝つためには何とかしてあのバッテリーを攻略し、最低でも2点を取らなければならない。

 

 あと残された回数は5回──。

 

 次の打席までに必ず突破口を開い勝つぞ!

 

 

 

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