はくのんの受難   作:片仮名

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な、長かった……ラプンツェル辛い。
林檎が三個は砕けました。
まぁおかげでミッションが複数個同時にクリアできましたが。





※Aチームに関して勘違いがあったので修正。
 内容に変化はなく、読まずとも支障はありません。


五話

 

 

 

 

 

 あれからまた時は流れ、数日後には外部から呼ばれるエリートの集団が到着する予定である。

 ちなみにマシュはカルデア選抜のAチームに入る予定だということなので、Aチームは身内といえどしっかりと見極めておかないといけない。マシュを襲う野獣がいる可能性は捨てきれない。何としてでも後輩の柔肌は私が守って見せる。もう奪われる前に奪っちゃうのも、なんて考えて思考を停止させる。

 ダメだ、最近の私はナニカに飢えている。

 ああ、後輩と穏やかな空間でゆっくりとくつろぎたい。

 

 ――と、後輩といえば。

 

 驚くべきことに見つけたのだ。

 誰をと聞かれれば、遠坂凛と間桐桜の両名である。

 同姓同名、顔立ちなんかもそっくりの、こちらに置いての二人である! ……あぁ、桜に関しては再現元であるから少し違うのか。加えて凛もまぁたしかに凛なのだが、凛の写真を見たときにふと思い出したことがあったのだ。

 

 ――そういえば凛って、本体は金髪だった。

 

 そして写真の凛は月の凛と同じ黒髪。

 おまけに容姿は大人びていて、その隣には仲睦ましく歩くどこか見たことがあるような男性が写っていた。いつの間に男ができたのか、と驚いていたらデータベースの年齢の欄を見てさらに驚いてしまった。なんと既に二十歳を越えていたのである。

 

 それはつまり、この遠坂凛は容姿こそ一緒ではあるが厳密には別人ということだ。

 何故こんなデータが出てきたのか、それはドクターの手伝いで資料を纏めていた際に、招集をかけたマスター候補とされる優秀な魔術師のリストも混ざっていたのだ。当然優秀な魔術師である凛にもお呼びがかかっていたというわけである。

 ちなみに桜も同様で、他にもロードと呼ばれる男性やらとかつてあった(・・・・・・)聖杯戦争の参加者が記載されていた。驚くべきことに、というかよく考えれば予想はついたのだが、案の定この世界でも聖杯戦争は起きていたのだ。

 そこに参加している凛は、なんというかさすがである。

 どこに行っても聖杯と関わる運命にでもあるんじゃないだろうか――人のこと言えなそうだけど。

 加えてレオにも要請が言ったようだが、跡取りを出せるかと断られているらしい。いやいや、月じゃまんまその人が殺し合いに出張ってましたからね? 負ける可能性なんてゼロであるとばかりに威厳を保って太陽の騎士と参加してたからね? 

 あ、門司にも要請は行っていた。どうやら門司、常識はずれの破戒僧っぷりは相変わらずのようであちこちの遺跡やら神社やらに出没しているらしい。ただその神出鬼没であるため要請を出しても届かないらしい。物理的に。

 残念だったのがラニについて欠片も分からなかったことだろう。アトラス院はだいぶ閉鎖的らしく、演算装置を貸し出してもらえただけ奇跡だとドクターが言っていた。

 と、まぁそんな感じで友人たちの近況である――と、二人ほど忘れていた。

 なんとシンジを発見したのである! しかも本体の年齢は桜の一つ上で、月とは違ってすでに成人していた。違いがあるとすれば他には、彼は魔術の才能がからっきしであるということか。月において私よりもはるかに優れていた彼がと思うとやるせなくなるが、それで彼のいいところがなくなってしまったわけじゃない。

 私はできるシンジを知っている!

 それとジナコも確認した。ジナコが食いついてきそうなスレを建て、餌をぶら下げて待ってたらそれはもう見事に釣れた。相変わらずゲームに関しての腕前はすさまじいらしく、彼女のネームは世界中にゲーマーが知っているレベルであった。流石である。

 そのウチ大会でも見に行きたいものである。

 

 ――ちなみに、凛も桜も要請は断っていた。

 

 桜はもう魔術師ではないらしいし、凛はよく分からないが『世界の危機とかお人よしが食いついたら止められないから二度と来んな!』と返事が返されてきたらしい。どうやら凛はまた厄介な人物に捕まってしまったらしい。世界の危機に食いついたら離れないお人よし……あれ、なんで今ギクリとしたのだろうか。

 どちらかというとそれはアーチャーだと思うのだが……まさか?

 

 ――何にせよ、どうやら私は今回彼らとの接点を持つことは難しいらしい。

 

 ま、すべてが終わった後に押し掛けるとしよう。

 

 

 

 

 また、最近になってまた私の周囲に変化が起きている。

 どういうわけかここ数日間、ずっと私の傍にマシュがいるのである。

 確かに最近は午前のトレーニング後は仕事が忙しくて会話したりゆっくりとすることができなかったが、どうしてこうなったか。いや、私としては可愛らしい後輩が親ガモの後ろをついてくるかの如く離れない姿は至福である。

 しかしトイレの前で待機しているのはいかがなものか。

 そこで何があったのかをマシュに聞いてみたのだが、

 

「先輩の身辺警護のためです」

 

 と言ってチラチラと廊下の向こう側を注視していた。

 その視線の先に誰かいたような気がするが、慌てたように走り去っていった。

 うん、わからん。

 

「それでは先輩、行きましょう。この後、何かご予定が?」

 

 いや、特にない。

 今日はドクターも受け入れ準備で忙しいらしく、私も久しぶりにお休みである。

 なので部屋に戻ってゆっくりしようかと思っていたのだが……

 

「……! あ、あの、先輩。それでしたら……マッサージでもいかがでしょうか! ここ数日の特訓を得て、ドクターが滝のように涙を流すレベルから、ドクターの顔が引きつるレベルまでランクアップしました」

 

 却下で。

 

「そんな……!?」

 

 それよりも一緒にのんびりしよう。

 ここ最近はマシュとの時間も取れていなかったし、久しぶりにマシュとの時間を過ごしたい。

 

「そ、それはずるいです先輩。はい、私でよろしければ、お付き合いさせていただきます」

 

 一人こっそりと拳を握る。

 あっぶねー、危機は脱した。

 いや、できるならばマッサージを受けたいとも思うのだ。しかし先日ドクターが、

 

『ははは、なんだか最近ね、痛みに……慣れてきちゃってね……このままだと僕の到達点が心配で心配で』

 

 と引きつった顔で言っていた。

 私がマッサージを受けるのは、ドクターを笑顔にできるようになってからでいいんじゃないかな!

 

 ――ドクターの犠牲を無駄にはしない。

 

「それで、どちらにいかれるのですか? 今の時間ならばカフェテリアも空いていると思いますが……」

 

 カファテリアもいいが、それよりも私の部屋へいこう。

 月では私的な時間を過ごせる場所がマイルームしかなかったからか、ゆっくりしたいと思うと真っ先に浮かび上がってくるのが自分の部屋だった。それにマイルームならば外部からの邪魔は入らない。二人でのんびりするにはちょうどいい空間なのだ。

 マシュを連れて自室へ入り、ひょいとベッドへと座らせる。

 

「な、流れるように、抵抗もできずに座らされてしまいました……」

 

 今日のマシュはお客さんなのだから、もてなすのは私の役目である。

 以前聞いたところマシュはあまり『外』のことを知らないのだという。そこにどのような事情があるのかは分からないが、私にできることがあるのならば『外』にはどのようなものがあるのかを伝えたい。

 まぁこの世界の外がどうなってるのかは私も良く知らないんだけどね!

 そこで大した違いがないと分かった食べ物でも作ってみようと思ったのだ。材料は既にそろえてあるし、機材もドクターに頼んで搬入済み。アーチャーが見ても及第点はもらえるだろう料理道具を準備してあるのだ!

 あ、お金はカルデアからお給料をいただいているので支払いはそれ。

 何気に追いはぎや宝探し以外で初めて自分の力で手に入れたお金だったりする。まぁここにいても使い道はないので、今後の自分のため後輩のためと思えば痛くもない出費である。ここには取り立て人もいないようだし。

 

「先輩の部屋が、こう、見たことがないほどに生活感があふれています……!」

 

 そうだろうそうだろう。

 マイルームの改ざんなんてできなかった私が、どれほど模様替えというものに憧れていたか! 

 一応いっておくけど私も女だ――!

 

「ああ! 落ち着いてください先輩!」

 

 む、そうだった。

 こんなことをしている場合じゃない。

 今日はマシュに、私の好きなものを食べてもらういいチャンスだと思って誘ったのだった。

 

「先輩の好きなもの、ですか。とても興味があります。ウドン、オスシ、オソバ、テンプラ……先輩の出身地である日本の食べ物ですね」

 

 確かにそれは日本の食べ物である。

 しかし、今日は日本関係なくデザート系で攻めていこうと思う――プレミアロールケーキで。

 それ以外の選択肢とかない。

 

「ロールケーキ……スポンジを丸め、中に生クリームを入れた食べ物……ですか?」

 

 うん。

 至高の甘味。

 

「今、先輩の変わらない表情の中から少しだけ読み取れた気がします……先輩をそうまでさせる食べ物なんですね」

 

 そうなのである。

 あれには何度命を救われたことか。

 大量購入した果てに消されかけたので、購買の店員に貴方からマーボーを奪うようなものと言ったら固定化してくれた。それからはMPが切れそうになるとモシャリと食べ、同時にカロリーも摂取し体重計が怖くなるのだ。

 

「ですが先輩、材料はどうするのでしょうか。ここは最果て、材料なんてどこにも……」

 

 ドクターに頼んで通販してもらった。

 

「一応ここ、機密いっぱいの人類の重要拠点なんですが……」

 

 何にせよ準備は整っている。

 そこで見ていてほしい。

 

「うぅ、先輩一人に負担をかけてしまうのは……いえ、マシュ・キリエライト、待機します」

 

 うん、そうして欲しい。

 何気に私も誰かのために手料理を作るなんて初めてなので緊張した。

 

「先輩の……初めての手料理……何でしょうか、胸の奥が温かくなりますね」

 

 頬を染め、クスリと笑うマシュが可愛すぎる。

 ああ今すぐ道具を放り投げて抱きしめたい衝動に駆られてしまう……!

 しかしそんなことをすればアーチャーにお説教されてしまうので自重する。

 

「……あ、ですが先輩、緊張したと表現が過去形のような気がするのですが」

 

 いいところに気が付いた。

 まぁ見ていてほしい。ドクターに見せてもらった料理番組をちょっと真似してみたのだ。

 まず生地ですが――――完成品があるのでそれを使います。

 

「スポンジ用の粉の意味が……!」

 

 大丈夫、ちゃんと完成品も手作りである。

 続いて生クリームですが――――これも完成品があるのでそれを使います。

 

「あぁ、生クリームまで……と、ここまでの流れならばフルーツも……?」

 

 うん、すでにカット済みなのでちりばめるだけである。

 それをマキマキすれば完成。

 

「何でしょうか……嬉しいのですが何か寂しいような……先輩は、色々な感情を体験させてくれますね」

 

 褒められているのか褒められていないのか。

 まぁ何にせよ後は巻くだけなのだが――――これもすでに完成品がある。

 

「あぁ。遂に唯一残された作業まで……」

 

 冷蔵庫から取り出してマシュの元へ。

 あれ、違ったのだろうか。ドクターが持っていた動画だと、大抵のものがすでに準備されていたのだが。

 まぁ、元々の目的は食べてもらうだけではないので一先ず置いておく。

 

「とても美味しそうです。できるなら最初から先輩の料理姿を見てみたかったという思いもありますが、それはそれ――――いただきます」

 

 そういいながら一口。

 するとピタリとマシュは動かなくなり、どうしたのかと不安になる。

 私の味覚がおかしくなければ、いい感じに再現できていたと思うのだがさて。

 ちょんちょんとマシュをつついてみれば、突然胸に頭突きを食らった。

 

 ――ふぐぅ。なんの、これしき。

 

「美味しい、です……美味しいです、先輩。私も初めてだと思います。こうして誰かに、私のためだけに料理を作ってもらえたのは。嬉しいのに、涙が流れたのは……初めての体験です」

 

 その言葉に、一瞬だけ思考に空白が生まれる。

 つまりマシュは今の今まで、誰にか何かを作ってもらうという経験をしてこなかったということか。私だってただのコピーであったから、そのような経験は最初こそなかったが、私のために誰かが何かをしてくれるなんてことが良くあった。

 凛もそうだしラニだってそうだ。

 自分のサーヴァントたちだってそう。

 アーチャーの料理はどこか懐かしいような味がしたし、キャスターの料理は心が満ち足りた。

 エリザベートだってアレだったが、実は結構嬉しかったりしたのだ。

 

 ――そんな気持ちを、私はマシュに与えられたのだろうか。

 

 なんだかおこがましい考え方だが、嬉しいと思ってしまう自分がいる。

 自然とマシュのサラリとした髪に手が触れて、腕の中に閉じ込める。

 

「なんだか、先輩と出会ったから、色々と貰ってばかりな気がします」

 

 ――マシュが望んでくれるなら、私にできることは何だってして見せる。

 

 かわいい後輩が笑ってくれるなら、多少の苦労くらいどうということはない。

 何せ世界を救うためとかいいつつ桜のために戦って、魔性菩薩を滅ぼしたくらいだ。それに比べれば大半の事はどうということはないのである。温かい料理が食べたいというのなら、大したことのない腕前の私でいいのなら心を込めて作り上げよう。

 

「先輩はきっと、気づいていないのだと思いますが――私は先輩にいろいろなものを貰ってばかりです。何かを返したい、はっきりと私自身がそう感じています」

 

 そういってマシュが顔を上げれば、そこには尊いと思える笑顔があった。

 見上げるように私を見て笑顔を浮かべるその姿は――――ちょっと私の理性を崩しにかかってきてた。

 おっと、びーくーるだ私――セイバーのときの過ちは繰り返さない。

 

 ――なら、マシュも私に作ってほしい。

 

「――――――――――え」

 

 幸い、材料ならば丁度ここにある。

 スポンジは作ってあるし、生クリームだって、カットフルーツだってある。

 一からとは言えないが、私が作ったものの材料がすべてそろっているのだから。スポンジにクリームを乗せカットフルーツを散りばめる。それを綺麗に巻いて何等分かに切り分ければ完成である。

 

「……ですが先輩。やっぱり私は――――」

 

 ――最初の一歩を踏み出すのなら、これくらいがちょうどいい。

 

「最初の一歩……ですか?」

 

 そうだ。

 相手に何かを作る体験、そのはじめの一歩。

 それはどんな感覚なのか、どんな思いを抱いているのか、それらを知る一歩。

 

 ――それを理解して、最初から作りたいと思ったのなら……一緒に一から作ろう。

 

 スポンジを一から、生クリームを一から、フルーツを切ろう。

 その原材料だってまだ私の部屋に残っている。

 作りたいと思えたのなら、今すぐにだって作れる環境はすでに整っている。

 

「先輩――――もしかして、その為に材料を……」

 

 考えすぎである。

 ドクターが見せてくれた料理番組がなんかBBチャンネルに似てるような気がして魅入っていただけだ。

 その結果、よしこれで行こうと決心した結果に過ぎない。

 巡りあわせが良かった、それだけなのだ。

 

「――なんで先輩がああまで気難しい職員の方々と仲良くなれたのかが、よく分かった気がします。よろしくお願いします、先輩……!」

 

 マシュはそういいながら、今まで見たことがないような笑みを浮かべてそういった。

 その笑顔が見れただけで、私は報われたような気持ちになるのであった。

 

 

 

 その後、一緒に一から作ってクリームまみれになって互いに笑って、完成品を冷蔵庫に入れて一緒にお風呂に入った。お風呂上りに牛乳を飲み、冷えたロールケーキを食べてその美味しさに口元が弧を描く。

 一心不乱にパクパクと食べるマシュが可愛くて、昔セイバーにやったように口元へとケーキを運べば視線を迷わせ恥ずかしそうに口に含む。何か訴えるような視線を感じたが、ただ可愛いだけで私的にはノーダメージである。

 途中でドクターが様子を見に来たが、ドクターは嬉しそうに笑いながらこそこそと帰っていった。その後、私とマシュにお呼びがかかることはなかったことから、ドクターが気を利かせてくれたのだと思う。ずるい上司である。

 その日はずっとマシュと共に過ごした。

 疲れてうとうとするマシュを制服のままベッドに放り込んで抱えて眠る。

 抵抗する様子もないのでそのまま布団を被れば、

 

「温かいです……せんぱい」

 

 そんな可愛らしい声が私の耳をくすぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、マシュがまた廊下の向こうを注視していたのでどうしたのかと見てみれば、なぜかマシュは勝ち誇った顔をしていて、視線をずらすとまた走り去っていく影が見えた。行きましょうと声をかけられたので移動を再開したが、あの影の謎は深まるばかりである。

 

 

 

 

 追伸:私にマスター適性がみつかったらしい。

 




追伸との温度差よ

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