はくのんの受難 作:片仮名
つまり誤字率上昇中……一度見直してはいるんですけどね。
さて七話でようやく冬木に到着と。
いやぁ、ようやくスタート地点ですね。
鯖の召喚は近いぞはくのん。
今更ながら、お気に入り登録してくれた多くの方々ありがとうございます。
少しづつ増える数字は励みになっております。
そしてコラボイベ完走完了。
ランタン、大変美味しゅうございました。
七話
「……揺すっても起きてくれません。この危機的状況の中、流石です」
――――……誰かの声が聞こえた気がする。
そして、何かに頬を舐められたような感覚。
徐々に徐々に、私の意識が覚醒していく。
「おはようございます、先輩。その様子だと快眠できたご様子、なによりです」
――あぁ、おはようマシュ。それとフォウ。
私の頬を舐めていたのはやはりというか、リスっぽい生き物であるフォウであった。彼、彼女はなぜか嬉しそうにステップを踏んでおり、そのふわふわもここもした尻尾が宙で踊る。無意識に手が伸びかけるが、取りあえず自重する。
「……先輩、あの、少しよろしいですか?」
そういわれて、私はようやく地面に横たわっていたことに気づく。
道理で背中が痛いと思ったが……はて、一体ここはどこなのだろうか。あれか、また雪山に放り込まれたときのように今度は真逆の灼熱地獄か。流石の私も主犯格を起訴せねばならなくなってきたようだ。私の人権はどこ行った。
と、言うかである。
――マシュがコスプレしてる件。
「ち、違います! これには少々事情が……!」
何故か眼鏡は外れていて、なかなかに露出の高い軽装の鎧のようなその姿は懐かしい面子を思い出す。何より、私の知っているマシュと比べてその身が秘める魔力の質が別物だ。そして私は近い存在をこの目で見続けてきた。敵として、味方として。
うん、まぁ事情はあるのだろう。
何せ私たちは先ほどまで目の前に死が迫る危機的状況下にいて、今度は場所こそ違うが辺り一面火の海の都市にいるのだから。明らかに室内とは異なる空気、空間、黒い煙が覆いつくす赤い空――本当にどこなのだろうか。
まぁ取りあえずマシュがこうして無事だったことに安心だ。フォウが着いてきてしまったのは、直前まで私の傍にいたからだろう。……今思えば火の中に飛び込む私についてくる獣って、どれだけ度胸のある生き物だ。
「まったくブレないその様子、見ていると私も安心してしまいます……いえ、そうではなく。今はそう悠長に説明している時間はありませんので、端的に」
マシュの前置きに、体を起こす。
そうしてマシュは、私の後ろにいるナニカを指さして言った。
「――――どうやら、未だ死地からは抜け出せていないようです」
後ろを見れば――そこにいたのは形容しがたい、僅かながらに人の形をとる化け物。
かつて私が闘ってきた純粋な殺意のみの敵性エネミーとは違う、生き物らしい殺意と怨嗟を含む現実味を帯びたナニカだ。
思考がカチリと切り替わり、考える。
「先輩――いえ、マスター。私に指示を。事情の説明をするためにも、この場を乗り切ります」
マシュが前面に展開するのは、体よりも遥かに巨大な盾のような武装。
あれで戦うとなると――――やっぱり殴るのだろうか。ああ、私の可憐でおしとやかで無垢な後輩が……!
「あ、あの、マスター。できれば指示を……! 正直に言ってしまえば私、自身を前面に出しての戦闘経験はゼロです。それはもう草食動物と同等レベルです」
大丈夫、私もだから。
しかしあの敵性エネミー、一体何なのだろうか。聖者のモノクルでも使ったら情報が読み取れはしないだろうか。いや、今は時間が惜しいからこの場を乗り切ることを最優先としよう。先ず、マシュのステータスが知りたいところだがそんな余裕はない。
であれば、マシュを信じるのみである。
恐らくだがマシュは――――サーヴァントになっている。
あれだけ共に過ごし、戦った仲間たちと似通った感覚を、私が間違えるはずもない。随分前にドクターや所長の言っていたカルデアの研究の一つである人とサーヴァントの融合というやつではないだろうか。
そうであるならば、あの程度の敵は最早敵ではない。
念には念を入れて、回路は起動しておくが。
――gain_mgi(16)で魔力強化!
――gain_str(16)で筋力強化!
――gain_con(16)で耐久力強化!
「マスター、流石にこれはその、過保護なような……! 回路起動、むしろすでに魔術実行済みというか」
まずは小手調べだ。
ここであの敵が実は強くてマシュが致命傷とか、私が私自身を許せなくなる。
だからせめて、最初の戦いは今持てる最大の支援をするのが私の仕事だ。ただ、今の強化で回復しつつあった魔力の大半を消費してしまったので、最低レベルの回復魔術を後一回程度使えるかどうかレベルの魔力しかない。
ダメだと思ったのなら即撤退。
「小手調べを優に超える過剰戦力のような気もしますが、了解しました。――――マシュ・キリエライト。シールダー、行きます……!」
瞬間、か細い足に踏み抜かれたコンクリートは、粉々になって空へと舞った。
巨大な盾が縦横無尽に振るわれる。先端の分厚いプレートの部分で敵を分割し、迫る複数体の敵に盾を突き出し粉砕する。その光景に唖然としながら頭の片隅では冷静に敵を分析する私がいる。敵性エネミーに比べて一個体の戦闘能力は非常に低く耐久力もない。ただ武装がそれぞれ違う個体が存在し、遠距離の個体が持つ弓は少々危険か。
とは言えあの程度の弓ではサーヴァントの体は易々と貫けない。
問題があるとすればそれは――――
しかしアリーナと違い、ここには身を隠す遮蔽物が多く存在している。
岸波白野は華麗に瓦礫に隠れます。
あ、敵が弓構えてるから一応防御ね。当たり所次第ではダメージが入ってしまうから。
「了解しました。続いて迎撃に移ります――――!」
次、大振りの一撃。
回避後に反撃――――後、再度防御。
弓が邪魔だから先に排除しよう。
うん、基本的に攻撃パターンも単調でサーヴァントとは比べ物にならない。
「マスター、次は――――」
弓もいないし、敵にマシュの攻撃を阻めるものもなし。
確実に敵を仕留めて、この場を離脱しよう。
「はい。マスター、いえ、先輩。やはり先輩がいてくれれば、何でもできてしまう気がします」
そういいながら、マシュは最後の敵を粉砕した。
戦闘終了後、マシュが緊張した面立ちで戻ってくる。
その視線は私の全身に向けられていて、怪我がないかを確認していることがすぐにわかる。この状況下で他人の心配をするとは、何とも優しい後輩か。そんな後輩を安心させるために軽く体を動かして健全であると伝える。
「お怪我がなくて何よりです、先輩。加えて、戦闘での的確な指示ありがとうございました」
別に感謝されることでもない。
矢面にマシュを立たせているのだから、私は後ろからサポートするくらいでなければ釣り合いは取れない。というか、現状では釣り合いなんて取れていない。危険度は圧倒的にマシュの方が高いのだから当然である。
……さて、取りあえず一段落着いたところで。
「……はい。先輩の考えている通りかと。一緒に訓練していた先輩はご存じだと思いますが、私の運動神経は並み以下。居残り訓練が日常のインドア系研究員。それがかつての私です。その私がこうして戦えたのは一重に――――」
その時、マシュの言葉を遮るかのように電子音が鳴る。
それはいつもドクターから連絡を受けるときの音で、もしやと考えていると案の定だった。
『よ、ようやく繋がった! こちらカルデアの管制室だ、聞こえるかい!?』
「ドクターですね。こちらAチームメンバー、マシュ・キリエライトです。現在、先輩と共に特異点Fにシフトしています。両名、心身ともに問題はありません」
ん、あれ、今、特異点Fって聞こえた気がする。
それって確か元々レイシフトする予定だったあの――――あ、そういえばアナウンスがそんなことを言っていた気がする。つまりは、あの危機的状況下でもファーストオーダーは開始され、あの場にいたマスターである私たちがこうして送られたということか。
あれ、でもレイシフトって
「レイシフト適応、マスター適応、ともに良好。流石は先輩です」
『あー、やっぱりか。やっぱり岸波ちゃんもレイシフトに巻き込まれたのか。どうせ逃げてって言っても素直に出ていくとは思わなかったけどこう来たか! いやまぁ、コフィンもなしに意味消失に耐えてくれたのは幸いだ。……なんでか、意味消失くらいなら岸波ちゃん耐えきっちゃうんじゃないかって心のどこかで思ってたけど』
意味消失……あぁ、成程。なんかぐわんぐわんしたやつか。
悟り開いた人に消されかけたあの時より遥かにマシである。
『お、おーい、岸波ちゃん? なんだか遠い目をしてるけど……? と、そうだ、マシュ! 無事だったのは良かったんだけど、その恰好はどういうことなんだい!? ハレンチすぎる、露出が多すぎる! 僕はそんな子に育てた覚えはないぞ! 岸波ちゃんってばちょっと怪しいから食べられちゃうぞ!』
――よし、帰ったら覚えておけ。
この体に刻まれたツボというツボを押してやる。
『あ、目が座った。表情変わらないのに目だけ座った。これはマズイパターンだ、僕でも分かる! と、まぁ冗談はこのくらいにしておこう』
む、うまく逃げられてしまった気がする。
まぁいい。今はそれよりもマシュの話を聞いておきたい。
「先輩は肉食ではなく、どちらかといえば草食です。いえ、正確には雑食なのですが……そうではなく。どこから話せばいいのでしょうか。先ず私の格好ですが、こちらでの戦闘を考えカルデアの制服では先輩を守れないと判断し、変身した次第です」
『戦闘、変身……? その物言いだと、マシュが戦ったように聞こえるけど――そういえば、岸波ちゃんにマスター適性が確認されたけど……適性を確定させたサーヴァントがいない。となれば消去法で……キミ、なのか?』
「はい。身体状況をチェックしていただければすぐにわかるかと。身体能力、魔力回路、すべてが向上しています」
焦ったようにドクターがデータをチェックすれば、それは間違いないと証明された。
どうやら私の予想は的中していたらしく、マシュはサーヴァントと融合しデミ・サーヴァントと化したらしい。
おまけにその経緯というのが、怪我を負い戦闘もままならないマシュと直接的な戦闘力を持たない私が特異点に送り込まれてしまうという事態が起こった。そんなとき、マスターとの契約を失い消滅間際の英霊が契約を持ち掛けてきたのだという。
『体を碌に動かせない私が先輩を守るためには、私自身が盾になるのが最も効率的と判断しました。サーヴァントとの契約を引き継ぐことも考えましたが、やはり負傷した私では足手まといです。先輩は優しいですから、危険に陥っても一人で逃げてはくれないことが先ほど証明されましたし』
とのことでなんか、反論ができなかった。
特に後半部分のところとか。
その後、詳しく話を聞いてみたがマシュの中に英霊の意識はなく消滅してしまっているらしい。おまけに宝具はあるのだが、英霊の真名を知ることができなかったのでその身がどのクラスなのか、宝具の名前も分からないので使用不可とのことだった。
どっかで似たような状況を見たことがあるネ!
『さて、状況は理解できた。これより先、マシュと岸波ちゃんは運命共同体だ。マスターを失えばサーヴァントが、サーヴァントを失えばマスターが同じ道をたどる。二人とも気を抜かず……む、通信が安定しない。予備電源に切り替えたばかりだからしょうがないか。取りあえず、霊脈を探してほしい。そうなればこちらからの通信も安定するだろうから』
そして最後に、無茶はしないようにといって通信は切れた。
さてそれでは移動しようかと思ったところで唐突に肩に重みが。
「フォーウ! キューゥ!」
そうだった、フォウがいたんだった。
というかドクターとの通信が繋がっている間、どこにいたのか。
おかげで報告し忘れてしまったが……まぁ、後でいいか。
若干ドクターの扱いがとも思ったが、今は余裕がないということにしておく。
――じゃぁ、その霊脈を目指して歩こうか。
「はい、先輩。では私が先輩の周囲、地中と上空含め360°完全にカバーさせていただきます。入り込む隙間なしです」
拳を握る後輩の姿、プライスレス。
何だかドクターすらもハレンチというこの姿に慣れてきた自分が少し悲しい。
身近なところにもっとハレンチな恰好の女の子いたからね。セイバーとかキャスターとか、桜ズとか。寧ろ穿いてないエキゾチック美少女もいたからね!
ただ正直に本音を言うのなら――――悪くない。
この微妙な露出のもどかしさ、悪くない!
「先輩、あの、どうかしましたか?」
――なんでも。さぁ、目的地は近いようだし向かうとしよう。
そうして私たちは、ドクター指定の霊脈を目指して歩き出した。
「キャ――――! なに、なんなの、コッチに来ないでー! って、貴方たち!? ああもう、何がどうなってるのかわかんないけど手伝いなさいー!」
のだが、道中、なんだか聞き覚えのある悲鳴が飛び込んできた。