暴鋸物語(仮題)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

6 / 12
第6話

(俺は…………どうしたいんだ…………?)

朝から頭の中ではずっとそんな事を考えてばかりだった。朝、目が覚めてみればいつもの光景が広がっているだけで、決してゼーキューレ半島ではなかった。それに、俺の身体からは尻尾も生えてなければ、翼のようなものも無く、竜と人の中間のような姿とは違う、人間の姿だった。あれは夢だったのだろうか…………?それにしてはやけに現実味を帯びていた。そして、アリシアが最近俺の周りで起きた事を知っていた…………それだけがどこか俺に違和感を感じさせる。本来なら知りえない事だ。それをどうして彼奴が知っていたんだ…………?

だが、そんな事よりも俺は別な事が頭から離れないでいた。アリシアから言われた織斑を守れという事だ。俺は彼女と特別な関係を持っているわけでも無く、ただその場にいて偶然助けた、それだけである。別に彼女がどんな理由であんな目に遭っていたのか、俺にはその理由を知っているわけではないうえに、俺自身特別知りたいとも思っていない。だが…………そんな俺でも、後悔だけはしたくないと思っている。彼女の目…………俺はそのどこか優しげな目を見た時、その奥に哀しみが宿っていたように感じた。どうしてなのか俺は…………俺は彼女の涙を見たくないとどこかで思っている。彼奴には悪いが、アリシアの姿を重ねてしまったからなのかもしれない。だが、理由はそれだけじゃない…………はず。今の段階ではまだ言葉に表す事ができない。俺が誰かが哀しむのを見たくないだけなのだ。詰まる所、俺の自己満足であり、結局はエゴだ。押しつけがましいのもいいところだろう。そう考えてしまえば、俺は彼女を守らない方がいいのかもしれない。しかし、それではアリシアと約束した事に反する事になる。…………決断を下せない自分が此処まで情けないと思った事はない。そのせいなのか、苛々が募っていく。——ああ、もう!考えるのは止めだ!第一俺は相当なバカだ。考えるのは得意分野じゃないんだ。一先ず苛々をどうにかするため、頭を掻きむしった。

「帝鋸、これ答えてみるか?だいぶ考えていたようだしな」

「はぁっ!?」

そう、今は国語の授業中だ。先公は何を思ったのか俺に指名してきやがった。しかも、だいぶ考えていたって…………それは俺自身の事だからこんな詰まらない授業の内容なんかじゃない。この瞬間、俺はあの先公に対して氷ブレスをぶつけてやりたいほどブチ切れかけていた。

「…………わかるわけねえだろ」

「いや、質問も何もまだしてないんだが…………まぁ、そこの文から読み取れる事を言ってくれ」

そう言われ、俺は教科書に目を落とす。考えるのが苦手な俺にとってこの質問はこの上ないほど最悪なものだ。チッ…………テキトーに答えて逃れるか。

「自分を守るか、他人を守るか、その葛藤の中にいる…………こんなのでいいか」

「それで正解だ帝鋸。ここを読み取るには——」

その後の先公の解説など俺の耳に入ってこなかった。それよりも、俺の頭の中にはさっきの俺の言葉が反芻されて再生されていた。

(自分を守るか、他人を守るか、か…………まさに今の俺そのもののようだな…………)

結局、その後も俺はずっと思考の海から抜け出す事などできなかった。それでも結論は未だに出ない。そんな自分が情けなくて仕方なかった。

 

 

「いよー、今日のルオンは冴えてたな!」

授業が終わり昼休みとなった。俺の元にはいつも通りジョウがやけに高いテンションでやってくる。どうやらさっきの授業で答えたのが相当すごかったようだ。俺としてはどうでもいいんだがな…………。

「偶然当たっただけだ…………特にすごいものではないだろ?」

「いやいや、いつもなら反応すらしないルオンが答えたんだぞ。ここがゼーキューレ半島にでも変わるのかと思ったぜ!」

「…………わりと冗談にならないぞ、それ」

この温暖な地域がゼーキューレ半島と同じような極寒の地域に変わるなど、想像したくもない。どれだけの生命が息絶えるのか見当もつかないぞ。第一、此処には普通の土地がある。氷河だけの世界はそう簡単にできないだろう。

「というか、俺が反応してないってどういう意味だ?当てられればそれなりには反応しているが…………」

「ブフッ!お、お前、それ本気で言っているのか?お前いつも外ばっか眺めて、授業すら聞いてないだろ!」

「うるせえ!」

ジョウは俺を指差してゲラゲラと笑ってきやがった。…………何故なんだろうか、妙に殺意が湧いてくる。あのゲラゲラと笑っている顔に氷ブレスをぶつけてやりたいほどだ。

「まーまー、落ち着けって。わりと鼓膜に響くわ」

「それだけはお前にだけは言われたくないな!?」

「ほらほら〜、あまりピリピリしてると禿げるぞ?」

「喧しい!」

バチッ、という音とともに俺の口から黒い雷のようなものが出る。この事に俺は一瞬しまったと思ったが、見ていた奴はジョウ以外にいなかったようで、誰も気がついていなかった。…………今のは本当に冷や汗ものだった。あの黒い雷のようなものが出た時は、俺が本気で怒っているという事を示すものだ。それだけ俺の頭には血が上っていたのだろう。

「お、おいおい…………龍雷だけは勘弁してくれよ。本気でそれは怖いんだって」

「…………お前が余計な事を言なければいいだけだろ、大バカ野郎」

「いつの間にか大バカ野郎に降格!?」

俺も末期だー!、と叫んでいるジョウを俺は一旦無視して視線を外へと向けた。空には青空が広がっている。それとは反対に俺の心はいろんな感情がせめぎ合って、曇りどころか大荒れの空だ。ゼーキューレ半島名物のブリザードと同じだ。…………俺はまだケリをつけることができないのか。いい加減、男ならそろそろ腹を括って決めるべきなのだろうが、俺にはその一歩を踏み出す勇気がない。それでは未だに足踏みをしたままだ。そう考えるたびについ溜息が出る。

「ため息なんてついちまってどうしたんだ?今日のお前はいつもと変だぞ?」

「仕方ねえだろ…………俺だってたまには悩む時だってあるんだ」

「悩むって、あの織斑って子の事か?」

「何故そこに行くつくんだ…………俺は別に織斑の事なんて——」

「——あの…………帝鋸さんはいますか?」

そんな時だった。弱々しくだが俺を呼ぶ声が教室の入り口から聞こえた。そっちに視線を向けるとさっき話題に出かけていた件の織斑がいた。

「おーおー、お前はそうでなくても向こうはあるんじゃないの〜?」

「うるせえ。お前は黙っていろ」

俺は頭を掻きながら織斑の元へと行った。チッ…………なんで周りの奴らは俺を見てくるんだ。それも妙にニヤけた面をして…………氷ブレスをぶつけてやるぞ。ああ…………なんなんだよ、余計苛々してくるじゃねえか。

「で、お前は何をしに来たんだ?」

「そ、その…………これを、お返しに…………」

そう言って織斑は俺にジャージを渡してきた。俺の手元にきたジャージは昨日こいつに貸したやつだ。ただ、貸した時は相当皺だらけだったものであるが、今のは皺を伸ばされ綺麗に畳まれている。…………礼儀がある人間もいるんだな。ゼーキューレ半島にきた奴らの大半は何かを求め、そしてその何かを手に入れられなかった時は八つ当たりばかりしていた。それは命を奪った時もそうだった。てっきり、人間はそんな奴らしかいないものだと思っていた。そう考えると織斑は、正しさというものを重んじているのかもしれない。こんな奴はあまり見たことがない。あるとして…………この間ゼーキューレ半島で会ったあの女ハンターだけだな。

「そうか…………ありがとよ」

「い、いえ…………こちらこそありがとうございました」

「…………」

「…………」

会話なんてものは続かない。互いに礼を言って、そこから先は互いに口を閉ざしたままだ。織斑は何かを言いたげな顔をしているが、言葉にできず、「あの…………」とか「その…………」とかしか言わない。

「何か言いたいことでもあるのか?」

「い、いえ…………そ、それに私がここにいたら迷惑でしょうから…………」

「どうしてそう思う?」

「だ、だって…………私は皆さんから疎まれてもおかしくないんですよ…………そんな皆さんを不愉快しにか出来ない人が——」

チッ…………面倒な奴だ。自己否定しかできないって、どれだけ自分に自信を持てない奴なんだ。俺の周りには自分に自信を持っている奴らしかいない。ジンにしかりクロウにしかり、俺たちは全ての頂点に立つ者だから、誇りくらい持っている。そうでない奴らも必死に生きて、そんな自分らに誇りを持っていた。だからこそ、俺は目の前の奴に苛々している。自己否定を否定するわけではないが、それよりも自分の事に目を向けられていないんじゃないかと思う。

だが、俺にはかける言葉が見つからない。無い頭を捻っても、出てこないものは出てこない。そう悶々としていると、

「そうか〜?別に織斑ちんは自慢なんてしてねえし〜、俺らからすりゃ受けはいいぞ〜?」

「そうそう。織斑っちは優しいからね〜、うちらは織斑っちの事をハブったりしないよ」

クラスの奴らが口々にそう言ってきた。どうやらこいつは…………俺が思っているほど悪い奴ではなさそうだ。それどころかこいつはこのクラスの連中から好かれているらしい。

「み、皆さん…………!」

織斑はそれが嬉しいのか涙を流す。しかし、そこまで感激することなのだろうか?アリシアにそんな事を言ったことは無いが、泣くほどでは無いと思う。では一体何故なんだ?俺はまた思考の海に潜っていく。織斑はそれに気がつかないようだが、それはそれで構わない。

そんな時だった。

「おう、ここにいたのかよ、織斑。ここにいたらバカがうつるぞ」

「やっと見つけたわよ。この出来損ない。早く戻って勉強してなさい」

「ただでさえ無能なんだから、その分遊んでんなよ」

嫌に自分を誇張していそうな声音。それでいて織斑を貶すような言葉を発している奴ら…………おそらく一組の連中だろう。だが、どうして織斑だけが責められているんだ?俺にはわからない…………全くもってわからないが、俺は今非常に不愉快な気分だ。苛々が募っていく。少しでも気を緩めれば龍雷が出てしまいそうだ。

「おい、この間のテストの平均が下がったやつ。お前、自分の所為じゃないとか思ってないだろうな?」

「ち、違う…………そ、そんなこと私は——」

「惚けんな!あんたが原因なのは、こうやってバカ達と遊んでいるのが証拠よ!」

織斑は反論しようとするも、それを暴言でかき消す奴ら。確かに弱者の発言をかき消すような奴はゼーキューレ半島にもいた。だが、そいつは群れ全体の事を思ってのことであり、一族の長として仕方のないことであった。

しかし、目の前の奴らはそいつらとは違うように見える。織斑の発言をかき消しているのは、言っているのが織斑だからであって、責めているのも織斑だからということ…………なのか?

「で、でも!皆さんをバカなんて言わないでください!」

「煩い!バカは私達のような才能ある人のもとで動くことしかできないのよ!撤回する気などないわ!」

「ふざけんな!お前らなんざより、織斑ちんの方が才能あるだろ、この勉強オタク!これだから、勉強しかできない一組って言われてんだよ!」

「文句があるならこっちにくるんじゃねえーよ、この人ができてない連中が!あ、織斑っちはこっちにいていいからね〜」

…………このクラスの連中から織斑が好かれている理由が垣間見えた気がする。こいつは、他人を悪く言われるのが好きじゃないようだ。こんな奴はあまり見たことがない。そもそもで俺には俺たちを悪く言うような奴らなどおらず、俺たちの中であっても冗談程度で済まされる。それ故俺も別段不快に思ったりしない、思ったこともなかった。だが今のこの状況を見て、沸々と怒りが湧いてくるのがわかる。苛々のボルテージが次第に上昇していくのがわかる。

「くっ…………どいつもこいつもお前のせいだ、この恥晒し!俺が天誅を下してやる!」

そう言って一組のやつの一人が織斑に向かって殴りかかってきた。織斑はそれから身を守るように腕で頭を覆っている。本来なら俺には関係の無いことなのだが…………何故なんだろうか、それがいかにも不条理なものに思えてきて、俺の苛々が自分の限界を超えて蓄積している。織斑とそいつの距離はたいして無いが、奴の拳が振るわれる速度が異様に遅く見える。俺はどうしたいんだ…………自分を守るのか、他人を守るのか…………いい加減はっきりしろよ…………!

——その子を守ってあげてね——

その時、俺の脳裏にはあの時、アリシアに言われたことが過ぎった。そうか…………結局、俺は彼奴の言う通りに動くべきなんだろうな。確かに俺は誰かを失う哀しみを受けたく無い。だが、だからと言って誰かとの関わりを持たないというのが、そのための最適解かと言われてしまえば、そうではないんだろう。失いたくなかったら、失わないように守っていけばいい。…………織斑は俺の守りたいものの中にある、というわけではないが…………アリシアとの約束を蔑ろにするわけにもいかない。それでも、俺の中に渋々といった感情がない。むしろ、望んで行動しようとしている。…………もう、後悔だけはしたくないからな。

俺は織斑と奴との間に入り込み、奴の拳に俺の拳をぶつけていた。俺には何かがぶつかったという感触しかない。

「いっ、てぇぇぇぇっ!?て、手が!俺の手が!!」

だが、俺の拳にぶつかった奴の拳はそれどころではなかったようだ。指の皮膚は剥がれ、まるで鑢のようなもので擦られたような感じの傷ができている。その傷を見た時、俺は思わず自分の拳に目をやった。そこには人の皮膚があったが、僅かに、ほんの僅かに蒼い鱗が出ていた。俺の鱗は尖っており、鮫のような鑢状になっている。おそらく、それが原因で皮膚を削られたのだろう。だが、俺はこいつに同情する気などさらさらない。

「お、お前っ!俺に何をした!?」

「軽く拳をぶつけただけだろう。頭が良くても、それはわからないようだな」

「ば、バカにしているのか!?この不良の分際で!!」

「煩いんだよ。ギャーギャー喚くな。発情期の角竜か、このヤロー。さっさとこっから去れよ」

「「「そうだ、そうだ!!」」」

俺に同調し、クラスの連中も口々にそう言ってくる。正直、俺のクラスは俺を含めてバカしかいない。だが、人との繋がりを大切とする奴らの多いバカだらけだから…………俺の仲間を、人との繋がりを大切にしない奴らを許せる気はない。頭がいいからって、その全てが正しいとは限らないだろうしな。

一組のやつらはまるでにが虫を噛み潰したような顔をして、自分達のクラスへと立ち去っていった。チッ…………面倒な奴らだった。彼奴らが去ってから、クラスの連中はいつも通りのバカ騒ぎを始める。これでいつもの姿に戻ったな。一つ面倒なことを終わらせた俺は自分の席に戻った。はぁ…………面倒事に首をつっこむ事はあまり得意じゃないな。そう思いながら、俺は再び外を眺め始めた。

「あ、あの…………」

そんな時、織斑は俺に話しかけてきた。変わらない、どこか一歩引いているような声だ。しかし、ここで応答しないというのも酷な話だろう。

「今度は何の用だ」

「さ、さっきは…………助けてくれてありがとうございました!」

「なんだ、そんな事か。気にするな。俺がしたかったからしただけだ。礼を言われるような事はしていない」

「そ、それでも…………帝鋸さんは私を助けてくれました。私、とても嬉しかったんです。だから、本当にありがとうございました!」

織斑はそう言って俺に綺麗なお辞儀をしてきた。その光景にクラスの奴らもどこか驚いた顔をしている。無理もない。こんな奴に礼をしてくる奴など物珍しいからだろう。実際、俺も驚きを隠せない。この後、俺はどんな言葉をかけたらいいのか、それもわからない。

「…………ルオン」

「え…………?」

「俺の事は名前で呼べ。帝鋸なんていう大層な名で呼ぶな」

元よりこの名字はジンが考えてつけたものなのだが。この名字は俺たちの特徴からつけられている。俺かすれば呼び方が幾つかあるというのはあまり好きじゃない。この名字についてもそうだ。そんな大層な名前で呼ばれる必要性はない。それに…………どこかで織斑にルオンと呼ばれたい俺がいる。織斑はしばらく状況を飲めずにいたようだが、

「はいっ!ルオンさん!」

あの時見た儚い笑顔ではなく、満面の笑みで答えてくれた。それを見た俺の顔も少し緩んでしまう。こんな風になったのは、アリシアが笑っていた時以来だな。

「嘘だろ…………!?あのルオンが微笑んでいる!?」

「マジで!?あの無愛想ヤローが!?」

「世界の終わりなのか…………?」

「私、幻覚を見ているのかも…………」

「ここがゼーキューレ半島になる予兆じゃねえのか!?」

…………だが、あいつらはどうやら俺がほとんど笑わないような奴に思えているらしい。俺は一体どんな奴だと思われているんだ。俺だって笑う時は笑うさ。とりあえずは、

「ジョウ」

「な、なんだ!?今度は氷河期でも——」

「煩いから死ね」

「容赦ねえし、なんで俺だけ!?」

「お前だから」

「あぁ、なるほど…………って、理由になってねえだろ!?」

とりあえずジョウ、これは俺の中で一つの鉄則みたいなものとなっている。ジョウはいつも通り、理由の説明を求めてくるが、こいつはバカだからな。理解できるはずがないだろう…………旧知の仲だっていう簡単な理由に。

そんな俺たちの様子を見て、織斑はまた楽しそうに笑ってくれていた。その笑顔は——少し彼奴に失礼だが——アリシアよりもどこか綺麗に見えてしまった。そんな風に思える俺がいるのが、どこか嬉しくて、どこか寂しく思えるのだった。

 

◇◇◇

 

(ルオンさん…………)

放課後、私は思わず彼の名を心の内で呟いていた。私と彼の面識はほとんどないに等しい。あの時助けてもらったのが最初の出会いだ。なのに、彼は私の事を何回も助けてくれた。それが、私にはとても嬉しかった。鈴達は別として、殆どの人は私に手を差し伸べてくれなかった。それに、私が誰にも迷惑を掛けないように心の内に全てを封じ込めていた。幸い、私の行っている学校は電車を乗り継いだ先だから、私の住んでいる町の人はみんな私や千冬お姉ちゃんに優しい。だから迷惑を掛けたくなく、いつも元気なふりをしていた。それは鈴達にも言える事。だから、ルオンさんにも迷惑を掛けたくない…………そう思っている。

でも、今日お話できてちょっと嬉しかった。四組の人って言っていたし、最初の無愛想な態度もあって少し怖いって思ったけど、私に手を差し伸べてくれた人だから、どこか興味を持っていた。お話してみると、声音とかちょっと怖かったけど普通にいい人だった。ただ…………あの声と眼をどこかで見た気がするんだよね…………ここじゃないどこかで。どこだったかな…………?

そんな風な事を考えながら、鈴達には悪いけど一足先に帰ろうと下駄箱へと向かっていた。私は部活なんてやってないからね。…………やりたくてもやれそうにないっていうのが本音なんだけど。そして、下駄箱の蓋を開けた時、私は一つの手紙がある事に気がついた。幸いにも靴にいたずらはされていない。私はおそるおそるその中を開いた。

『今日の事はお前のせいだ。いつかその責任を取ってもらうぞ』

そ、そんな…………私は何もしていないのに…………。今そんな事を考えていたって仕方ない。ふと、さっきの嬉しさとは裏腹に悲しくなってきたのか、涙が溢れてきた。それと同時に、まるで私の心を表しているかのように雨も降り出してきた。

(あ、傘持ってくるの忘れちゃったな…………どうしよう…………)

傘を持ってくる事を忘れていた私は、しばらくその場で呆然と立っているだけだった。はぁ…………嬉しい事の後には不幸が続く事ってあるんだね…………。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。