「チッ…………本当に雨が降ってきやがった。傘持ってきて正解だったな」
「ああ、全くだぜ。濡れるのは勘弁だわな」
「そういえば水没林から移動して、暫くは毎日のような雨なんて見なかったな…………」
「密林の夜も土砂降りの雨だったっけ…………」
「森丘でもたまに雨は降っていただろ。そこまで懐かしむものか?」
「俺の場合、雨が降っていようが降ってまいが御構い無しだけどな!あ、ルオン、俺のとこも傘に入れてくれや」
帰り際、突然雨が降り出した。まぁ、念の為傘を持ってきていたのが正解だった。天気予報は良く当たるもんだな。さっきまでは快晴だったっていうのに、いきなりの土砂降りの雨だ。こっちに来てからは見慣れたが、ゼーキューレ半島では雨はまず降らず、代わりに雪か雹のどちらかが降っていた。ブリザードが吹き荒れるのはいつもの事なのだが。
「おい待て、ジョウ。お前、傘はどうした?」
「家に放置なう」
「大バカ野郎、とりあえず死んでおけ」
「なんでそうなんの!?お前の中で俺に対する評価ってどうなっているんだ!?」
「喧しい食に関して貪欲な救いようのない大バカ野郎」
「こいつ容赦ねえ!!」
俺の中でのジョウの評価はそんなものだ。こいつの頭の中は食うか寝るかのどれかしかない。食い意地だけは俺らの中でも一番だ。だが、それ以外は軒並み低い。まぁ、俺もジョウの事を言えた口ではないが、こいつほど酷くはない。最も、食い意地はジョウに劣らないが。
「第一お前は別に傘なんてなくてもいいだろ。ヴルカン火山からゼーキューレ半島まで普通に移動できるような奴なんだから」
「いやいやいや、そういうわけでもないんだわ。この体になってから濡れるのはあまり好きじゃなくなってさ。人間ってそういうものだろ?」
確かにそれは言えている。俺たちは本来、雨が降ろうが火山灰が降ろうが雹が降ろうが関係なくその場に生きてきた。今更自然現象がどうのこうのと言うことはない。だが、この体になってからは雨で濡れるというのがあまり好きではなくなった。それがどうしてなのかはわからないが、この体が本能的に嫌がっているのだろう。
「ま、それも一理あるわな。俺は砂嵐や火山灰は得意だが、雨だけはやっぱり無理だしな」
「俺は雨が良く降るところや湿気の多いところにいたから、雨など今更なんとも思わないな」
「私もジュンゲル密林にいた時は毎晩の見張りの時大雨だったし、濡れるのは慣れちゃったよ?」
「俺も同じだ。ヒューゲル丘陵地帯もそれなりに雨は降っていた。濡れる事など一々気にしてられるか」
どうやら濡れたくない派と濡れてもいい派の二つに分かれた。俺?俺は濡れてもいい派だ。時々ゼーキューレ半島近海とかの海に潜る時もあったしな。あの近海、割とでかい魚とかいるから、エサが乏しくなった時には重宝していた。
「おおう…………マジかよお前ら」
「今更なことを言うな。さて、そろそろ帰るとするか。そろそろ店も開けなければならん」
「げっ、もうそんな時間か!悪いな、俺たちは先に帰っているぜ!」
ジンとクロウはそう言って、足早に帰って行った。まぁ、俺たちは生活費の足しを稼ぐため、小さな喫茶店をやっている。俺も店番をした事はあるが…………何故か無愛想とかと言われ、それ以来は何もしていない。裏方で材料の運び込みをしていたくらいだ。ほとんどの仕事はジンとクロウがやってくれている。あの二人、生息域が全く違うのに良く一緒に居られるよな。
「それじゃ、私達も帰ろっ。二人だけに仕事を任せておくのも気がひけるしね」
「その通りだな。ルオン、俺たちも行っているぞ。お前もあまり遅れてくるなよ」
「わかってるっての…………」
リオとレイも帰るようだ。だが、あの二人は傘を一本しか持ってきていない。おそらくその中に二人で入るつもりなのだろう。まぁ、リオとレイじゃ体格差がありすぎるから、なんとか傘の中に収まるだろう。それ程までにレイの身長は小さい。リオと比べたらまるで子供のようにしか見えない。まぁ、それにも理由があるから仕方ないんだがな。
お熱い夫婦は帰り、教室には俺とジョウが残った。さて…………このテンションがやけに高いバカを引きつれて、俺も帰るとするか。あまり遅くなると、ジンに怒られるしな。
「俺も帰るとするか」
「俺は!?」
「チッ…………仕方ねえ。お前も来い」
「さっすがルオンだ!あーいしてるぜー!」
「煩い、次騒いだら鋸角ぶっ刺すぞ」
俺の脅しもなんのそのといった感じで、いつも通りの飄々とした雰囲気を醸し出しているジョウ。俺はそんな残念な旧友を横目で見ながら、やれやれと思っていたのだった。本当にブレないやつだ。できれば、こいつには変わってほしくないと思っている俺がいる。こいつがいたから俺は本当に壊れずにここまでこれたのかもしれないからな。いつまでも変わらないバカをやっているこいつの事が、俺は自由な奴だと思い、どこかで少し羨ましく思えたのだった。
そんな風に一人バカ騒ぎしている奴をスルーしながら、俺は昇降口へと向かった。外と繋がっているここは雨により空気が冷やされており、吹き込んでくる風によって、俺にとって最も心地の良い風となって吹き当たってくる。ゼーキューレ程ではないが、俺は少し寒いくらいの気温でなければあまり動きたくはない。別に暖かいところが嫌いというわけではないが、ゼーキューレ生まれだと自然とこうなってしまうのだ。最もあそこは全てを凍てつかせる最も厳しい世界ではあるが。
「うぉー…………冷えるなぁ」
「ゼーキューレ半島のところまで泳いできたお前が言える口か?」
「あれは俺の体があっちだったからなんとかなったんだよ!この体じゃ割と冷えて仕方ねえんだ!」
「それだけ騒げるなら問題ねえな」
「やっぱりこいつは慈悲がねえ!」
俺はそこまで血も涙もないようなやつか?とはいえ、ジョウに強く当たっているのは自覚がある。バカだからいじっていたいというのもあるが、それ以前に旧友だからやれる事というのが大きい。そんな風にジョウを弄りながら自分の下駄箱へと向かう途中、ある人物を見つけた。
「織斑…………お前、何やっているんだ?」
下駄箱の前で何故が呆然としている織斑の姿があった。何をやっているんだ、あいつは?まだ帰らないのか?どうしてなのか、彼女に対する疑問が幾つか出てきた。まぁ、この際その疑問に関してはどうでもいいか。
「あ、いえ…………その…………傘を忘れてしまって…………」
ああ、そういう事な。傘を持ってくるのを忘れたから、帰ろうにも帰れないってわけか。確かにこの雨じゃ帰るのは厳しいな。少し助け舟でも出してやるか。
「なら、俺の傘にでも入っていけ。それならなんとかなるだろ」
「あのー、ルオン?俺の事は——」
「ずぶ濡れで帰れ」
「…………俺のライフはゼロなんだけどー」
隣のバカはなんとか黙らせた。ジョウは別になんとも思わないが、織斑だと何処か不憫なように思えてしまう。それがどうしてなのか、今の俺にはまだ知る由もない。
「い、いえ!な、なんだか晴れてきそうなので、このまま帰りますから!」
俺が提案するも、織斑はそう言って駆け足で出て行った。しかしな…………雨は止むどころか、激しさを増しているぞ。この中を帰ったら風邪を引くんじゃねえのか?
「ルオン、なんか雨合羽出てきたから俺それで帰るわ。お前はあの子を早く追いかけなよー」
どこから取り出したのか知らないが、雨合羽を着たジョウはそう言ってきた。つまり、俺は織斑を追いかけろって事か…………まぁいいか。なんだか女の子をずぶ濡れで帰らせるのも気がひけるからな。
「悪いな。それじゃ、またな」
俺はそう言って織斑の後を追いかけた。どうやら脚力はゼーキューレ半島であっちの姿でいた時と変わらないようだ。流石に爪などがあるわけでもなく、地面をがっちりと捉える事はできないが、それでも並の人間よりは速く走れる。校門を出たすぐくらいのところで雨に濡れている織斑の姿を見つけた。あいつ…………もうびしょ濡れじゃないか。どこが晴れてきたから大丈夫だ、なんだよ…………余計に心配をかけさせるつもりか、あいつは。
「おい、待て!」
「る、ルオンさん!?」
「まったく…………そんなずぶ濡れの姿を見て見ぬ振りができるわけねえだろ。いいから俺の傘の中に入れ」
「で、ですが…………それじゃ、ルオンさんに迷惑が…………」
「そんなこと気にしないぞ。別に怒ったりもしないから入れ。風邪引くぞ」
引き下がろうとする織斑を焦ったく感じた俺は、強引に俺の傘の中へと彼女を入れた。既にびしょ濡れになっているから風邪を引くかもしれないが、これ以上濡れずには済むだろう。
「その…………すみません」
「謝らなくていい。行くぞ」
織斑を傘の中に入れた俺は一度自宅の方に向かう事にした。流石に彼女の家の事など俺は知らない。だから、一旦雨宿りという形で俺のところの喫茶店に入れてやろうと思っている。レイがいるから対処もなんとかなるだろう、きっと。
「…………」
「…………」
歩いていく間、俺と彼女の間に会話は存在していなかった。別に俺から話しかける事もないからな。知ったところで俺に何か変化があると聞かれたら、それはあるかもしれないし、ないかもしれない。だが、特に聞きたい事もないから話しかけていない。俺も俺でさっきから視線を感じている。おそらくその主は織斑だろう。だって、今道を歩いているのは俺らくらいしか姿が見えないからな。俺が織斑の方を向くと急に視線を逸らされ、前を向くと再び視線を感じる。…………なんなんだこれ。別に鬱陶しいとかとは思わないが、気になって仕方ない。アリシアの時はこんなことなかったしな。
「おい」
「ひゃい!?な、なんでひゅか!?」
ふと俺が声をかけると彼女はどこか裏返った声で返事をしてくれた。それがなんだが可笑しくて、つい顔が緩んでしまう。
「ちょ、ちょっと!笑わないでください!」
「悪い悪い。で、俺に何か用があるのか?」
あまり関わったことのない奴なのに、俺はまるでアリシアに話しかけている時のように自然体で話をしていた。別に似ているからという理由ではない。もっと別な…………どこかで一度会っているような気もする。どこで会ったのかは思い出せないが…………。
「い、いえ…………どうしてルオンさんは私を気にかけてくれるのかな、って思ったんです…………私達、あまり関わりがないはずですよ?」
確かにそうだな。こいつとの関わりはまったくと言っていいほどない。俺があの日、あいつの夢を見て苛々して気分転換に校舎裏に行かなかったら、こいつと巡り会うこともなく、今まで通りの生活をしてきたはずだ。だが、こいつと会ってからというものの、俺の心情は変化しつつあった。現在では他人を拒むようなことはせず、むしろこいつを受け入れようとしている。アリシアから言われたということもあるが、俺にはそれだけではない理由がある。明確になってはないが、俺は後悔だけはしたくない、そう思っている。
「そうだな…………俺たちは確かに関わりなんてなかったな。だが、誰かを助けるのに関わりも理由も関係ないだろ。あの時の俺はきっとそんな風に思っていたんだろう」
「ルオンさんって凄いですね…………自分の思ったことを行動に移せるなんて…………引っ込み思案な私からしたらとても羨ましいです」
織斑は少し笑いながらそう言ってきた。その笑い方がやはりアリシアとそっくりだった。どうしても目をそらしたくなってしまった。重ねて見るなと彼奴から言われているのに、俺は未だにそれをしてしまっている。そんな俺が情けなくて仕方ない。
「どうか…………したんですか?」
「いや…………気にしないでくれ」
織斑は俺の顔を怪訝そうに見てくる。彼女は彼奴と違うんだ…………重ねてなんて見るわけにいかない。アリシアは死んだが、俺の心の中で生きている。そう思っていればいいんだ。
しばらく歩き続けると、やっと俺の家が見えてきた。小さな喫茶店だ。名前は『飛竜の巣』。そのまんまだ。
「こんなところあったんですか…………」
「あまり目立たないからな。まぁ、雨が止むまでここにいろ」
「い、いえ!ここまでくればあとは大丈夫ですから!」
「…………どこを見て大丈夫と言えるんだ、全く。それにここは俺の家だ。気にする必要はない」
織斑は相変わらず遠慮気味である。というか、俺がここまで手を出しているのが驚きだ。本当に今までとは真逆の姿だ。
「で、では…………お邪魔、します…………」
織斑はドアをゆっくりと開けて入っていった。一方の俺はというと、傘を畳み、雨粒を飛ばしていた。濡れたまま持ち込むわけにもいかないからな。
「今帰った」
「おう。で、そこの美少女は一体どうしたんだ?」
家に入ると真っ先にクロウがそう聞いてきた。しかも、妙ににやけた顔をして。…………何故かサマーソルトキックをしてやりたい気分になったが、俺は悪くないよな?
「どうしたって…………こいつ、雨の中傘もささずに帰ろうとするから、俺の傘に入れて、ここで雨宿りさせてやろうと思っただけだ。他意はない」
俺が織斑を指差してそう言うと、彼女は「あうぅぅ…………」とかと謎の声を出しながら、顔を赤くして俯かせてしまった。恥ずかしいことでも言ったか、俺?
「おおう、そうなのか…………って、お前がそこまでやったのか!?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「いや待て待て待て待て!?今までの来るもの全部拒んできたお前はどこに行ったんだ!?」
「ゼーキューレにじゃないのか?」
「しかも、冗談まで混ぜ込んできている!?やべえぞ…………お、おい、お前ら!ルオンが壊れた!!」
「誰が壊れたんだ、誰が」
どうやら俺が織斑に手を差し出したのが意外を通り越して、最早常軌を逸脱したものだとクロウは認識したようだ。というか待て、俺はそんな無慈悲なやつだったか?少なくとも俺はそう思ってないぞ。あと、俺は全く壊れてないからな。それに、俺だって冗談の一つや二つは言える。ゼーキューレ半島にいた頃はよくアリシアやヴェリス、偶にジョウとそうやって笑い合っていたからな…………そう思うと少しずつ昔の俺に戻ってきているのかもしれない。
「ルオンが壊れただと!?一体どういうことだ!?」
「どうもこうもねえ!る、ルオンがすっげえ美少女連れて帰ってきたんだよ!」
「マジか!?あ、あのゼーキューレの如く冷めたルオンが!?」
「ってか、あの子ってルオンが助けた子だよね!?」
…………騒がしいったらありゃしない。そこまで騒ぐほどのことか?
「ほら、少し煩いぞ。レイ、すまないがこいつを頼んでもいいか?さっきまで雨に濡れていたからびしょ濡れなんだ」
「そ、それは構わないけど…………ルオン、何か悪いものでも食べたの?」
「食うわけないだろ。ほら織斑、レイに着いていけ。あとはあいつがやってくれる」
「は、はい!」
織斑はどこか緊張しているのか、体がぷるぷると震えている。そんな様子がおかしかったのか、俺は自然と顔が綻んでしまう。
「緊張しなくて大丈夫よ。それじゃ着いてきてね」
「よ、よろしくお願いします!」
レイの後を付いていく織斑。その姿がどこかハンターが連れているアイルー、もしくは俺の後ろをいつも付いてきていたアリシアのように見えた。もっとも、レイよりも織斑の方が大きいのだがな。
「ああ、ジン。織斑が戻ってきたら、ココアでも入れてやってくれ。金は俺の方から引き落として構わないけど」
「それは別に構わないが…………お前、そんな甲斐性があったのか?」
「失礼な事を言うな」
そんなに俺は無愛想で無慈悲な奴にみえるのか?まぁ、確かにゼーキューレ半島にいた頃は数々のハンターを返討ちにしてきたし、それ以外で獲物を狩りに行った時も、その付近でアリシアの近縁種とされる獰竜アビオルグにも恐れられたし…………挙げてみれば俺が甲斐性とは無縁な奴だったとわかる。だが、それは生きるためには仕方のないことだ。死んでしまえば、全てがそこで終わってしまうからな。
「まぁ、いいんじゃないのか?俺はお前のしたことが正しかったと思ってるぜ」
壁に寄りかかっているリオはそう言ってきた。正しかった、か…………本当にそうなのか、自分でもよくわからない。だが、少なくとも俺は後悔だけはしていない。今はこれで良かったのだと、自分に言い聞かせておこう。
「そうか…………そう言ってもらえるだけで気が楽になる」
俺は誰にというわけでもなくそう言った。今の俺の心は外の天気とは異なって、少し晴れ間が出てきていた。
◇
「どうだ、少しはマシになったか?」
「はい。とりあえず風邪はひきそうにないです」
「ルオンからの差し入れだ。体も冷えていただろうし、これで温めてくれ」
「あ…………す、すみません…………」
シャワーからあがってきた織斑を俺たちはもてなしていた。雨が止むまではまだ時間がかかるだろう。それに、せっかくの客だ。そうホイホイと帰すわけにもいかない。
織斑はジンから俺の頼んでいたココアを受け取る。しかし、相変わらずの遠慮腰だ。どうしてこいつはこんなにも謙虚なのか、俺は知りたいと思った。俺たちには遠慮とか謙虚とか、そういうものは一切存在していない。例え破滅を導くものであろうと、己の欲望の赴くままに生きてきた。特にジョウはそれが顕著だったな。あいつを止めるのは大変だった。
「冷める前に飲んじまいな」
「あ、はい…………それじゃ、いただきます」
織斑はココアの入ったマグカップを両手で持ってちびちびと飲み始めた。その姿に何故かクロウは「やべえ…………天使だ…………」とかと言っていたが、俺には全くもってその理由がわからない。そもそも天使ってなんだ?
「はぁ…………温かいですぅ」
「それはよかったな」
「はい。あ、そういえば、皆さんに自己紹介してませんでしたね」
織斑はそう言うと徐ろに席を立った。
「一組の織斑一夏です。その…………一組っていうとお高くとまっているイメージがあるんですけど、私は皆さんと仲良くしたいので、よろしくお願いします」
「前にも言ったかもしれないが、俺は帝鋸ルオンだ。別にお前の事は他の一組の奴らとは違うように思えるからな。よろしく」
「俺は影刃ジンだ。一応、こいつらのまとめ役ってところだな」
「俺は黒虎クロウ、ここの厨房は俺が仕切っているぜ」
「蒼天リオだ。こっちにいるのが、俺の彼女の桜花レイだ」
「私達のことは名前で呼んでいいからね。その代わり、私達も名前で呼ぶわね」
「はい!よろしくお願いします!」
屈託の無い笑顔を見せ、元気よく返事をする織斑。今の彼女はどこか遠慮がちな彼女とは違って、本当の姿を見せてくれているように思える。
「いよっ!遊びに来たぜー、ルオン!」
「ぴゃっ!?」
そんな中、場の雰囲気をぶち壊すようなでかい声で乱入してくる奴が一名。間違いなくジョウである。そのあまりにもでかい声に織斑はびっくりしてしまったようだ。
「煩いぞ、ゴーヤ」
「最早あだ名が原型をとどめてねえ!?」
「黙れ大バカ野郎。次騒いだら、ゼーキューレ半島の近海に沈めるぞ」
「すまん、ちょっと黙る」
「それでいい」
ゼーキューレ半島の近海に沈める、つまり氷漬けだ。偶にギアノスが落ちて氷漬けになって浮いていることがある。アリシアはそういうのを見て「可哀想…………」とか言っていたな。
「で、こいつが騒音貪欲救いようのない大バカ野郎こと、暴牙ジョウだ。煩かったら問答無用でしばいて構わない」
「いや、それ理不尽すぎない!?」
「わかりました、ルオンさん!」
「納得しないでくれ!!」
「あ、私は織斑一夏っていいます。よろしくお願いしますね、ジョウさん」
「俺の件に関してはさらりと流された!?」
どうやらジョウはボケよりもツッコミの方が向いているようだ。
「そういえば、ルオンさんとジョウさんは、他の人たちよりも仲よさそうですよね?」
「まぁ、腐れ縁だしな」
「そういう事言うなって。無愛想なお前とこの俺様が合わさって初めて成り立つもんだろ?」
「お前の頭にサマーソルトキックを一発お見舞いしてやりたいとここまで思ったのは初めてだ…………!」
謎のテンションのこのバカにそれだけ強力な攻撃をしようともバカは治らないだろう。それどころか余計に悪化するだけにしか思えない。
「まーまー、落ち着けって。そうカッカするなよ、な?」
「お前に言われると無性に腹が立つな、おい」
「あ、あの…………一回落ち着きましょう?」
「一夏ちゃんの言う通りだぜ?お前が暴れたら、俺たちじゃ止められる自信ないぞ」
「ここは彼女の言う通りにした方がいいだろう」
「チッ…………わかった、落ち着けばいいんだろ」
「そーゆーこと」
「お前は黙っていろ」
織斑とクロウ、止めにジンに言われ少し落ち着くことにした。だが、ジョウにまで言われるのは癪だ。というか、殆どこいつのせいみたいなものだろ。
「で、他に聞きたいことでもあるのか?」
「い、いえ…………ただ、皆さんとお話できたら、私はそれで十分なので…………」
「じゃあさ、なんか好きな事ある?話題もなきゃ、話もできないだろ?」
クロウが織斑に話を振ったようだ。確かに、そうすれば自然と話が進むな。俺はずっと向こうから話しかけてくるのを待っていたようなものだし、何より自分から話しかけようとも思わなかったからな。
「好きな事、ですか…………その、私ゲームが好きなんです」
「へぇ、意外。私はてっきり本とか読む事かと思った」
「やっぱり変ですか…………?」
「いやいやいや、好きな事は人それぞれだからいいんじゃね」
「ありがとうございます…………その中でも、モンハンVRFってゲームが大好きなんです」
「もんはん…………?なんだそりゃ?」
「モンハンVRFです。簡単に言ってしまえば、自分がモンスターを狩るハンターとなって、実際に狩猟しているような臨場感を味わうゲームです。最近はゼーキューレ半島っていうフィールドまで来たんですけど、そこからは——」
それを聞いた瞬間、俺はよくわからない感情が生まれてしまった。織斑がハンター…………だと?ハンターって、俺たちを倒しに来たあいつらの事だよな?それにゼーキューレ半島に来た?この間もゼーキューレ半島にハンターが来たはずだ。嘘だろ…………確かに世界を跨いで俺たちはこの世界に来ている。だとしてもだ、
(俺たちは…………ゲームの中の世界からこっちに来ているのか…………!?)
そう思わずにいられなかった。だってそうだろ、普通自分の住んでいた世界がゲームの中の世界だったなどと誰が想像できるか。
「その時はアノルパティスと遭遇してしまって逃げたんですけど——」
その後、織斑が何か楽しそうに話をしていたようだが、俺の耳には全く入ってこない。寧ろ、今は織斑がハンターであるかもしれないという事に、複雑な感情を抱いてしまっていた。それに苛まされた俺の頭は外界から俺を切り離したのだった。