魔王は逃げ出した。   作:シズりん

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女神セレシアの命により、勇者によって魔王城を差し押さえられた魔王とその従者?の英雄キリト。
2人は新たな生活の基盤を求めて、キリトの部屋のあるグレン領の住宅街に来たのだが・・・


荒野のグレン領

「あ!ほらキリトさん見えて来ましたよ。」

 

グランゼドーラ城を神界の女神セレシアに差し押さえられた魔王シズクと英雄キリトは、執拗に迫る追っ手をかわしアストルティアのオークグリード大陸に来ている。

オークグリードは丘陵地帯と山岳地方に砂漠。

四季折々の美しいアストルティアの中において、驚くほど過酷な環境の大陸である。

 

そんな砂嵐が舞うような大地にそびえるグレン城があり、その城下町に魔界の英雄キリトの部屋はある。

魔王城を差し押さえられた魔王とキリトは、先ずは拠点となる住処を確保し、そこでこれからの事を考える為だ。

有名人である2人はローブのフードを深く被り目立たないように城下町を歩き、住宅街までやってきたのだ。

 

「シズク、気持ちは分かるがそんなに慌てて行ったところでカギを持ってる俺が行かなきゃ入れないんだぜ。」

 

部屋を見つけるなり我慢出来ずに走り出す魔王の、たまに見せる女の子っぽい仕草に顔を綻ばせるキリト。

 

「大丈夫です。ちゃんと合い鍵を造ってありますから♡」

「え?今お前しれっと凄い事を言わなかったか?」

「何を言ってるんですか。妻となるもの、旦那様となる殿方のお部屋を片付けたりするのは当然じゃありませんか。ちゃんとお片づけ(家捜し)しましたよ。ベッドの下にあったあんな本やこんな本もバッチリ捨てましたし、壁にあったアスナとか書かれたビッ◯のポスターも、私の写真に貼り替えておきました♡」

 

キリトは10,000のダメージを受けた。

 

「待て待て待て!!いくらなんでもそれはプライバシーの侵害じゃ・・・ッ!」

そこまで言ってキリトは言葉を飲み込んだ。

なぜなら少し前をスキップでもしだしそうな魔王の振り向いた顔の、普段ならキラキラと彼女を飾るような瞳の虹彩が消え失せているのを見たからだ。

振り向いた魔王がキリトの方へ一歩戻ると、キリトも同じく一歩後ずさる。

暫く2人ジリジリとやっていると、突然魔王は笑いだした。

「そんなに恐れないでくださいよ。冗談ですよ冗談。」

それを聞いて肩の力を抜くキリト。

「ビックリさせるなよシズク。まぁだからと言って後めたいものは何もないがな。」

「じゃあ、改めて入りましょ?新しい2人の家に。」

 

そう言って鼻歌交じりに懐からカギを取り出しドアノブに差し込む魔王。

 

「ちょっと待てシズク。合い鍵が本当にあるじゃねーか!どっからどこまでが冗談なんだ・・・シズク?」

 

魔王の肩に手をかけツッコミを入れようとすると、魔王が不自然な行動をしていることに気が付いた。カギをドアノブに差し込んだまま動かないのだ。

その様子を変に思ったキリトは

「どうしたシズク?」

その質問に力無い声で返す魔王

「・・・カギが開きません。」

「は?お前にしては珍しく錬金に失敗したのか?どれ、じゃあ俺のマスターキーで・・・」

 

やはりカギが合わないのか扉は開かれなかった。

家の場所は間違えていない。周りの景色からも間違いはない。しかしシズクの持つ合い鍵はおろか、自分の持つマスターキーでさえも家の扉が開かないのだ。

キリトが困惑していると、少し黙り込んでいた魔王が

 

「仕方ありません、私が古えの魔法で鍵を開けます。」

 

と言った。

キリトは考えた。そんな便利な魔法が仮にあったとするならば、そもそも合い鍵なんて作らないだろうと。

しかし当の本人はやる気満々のようで、扉の前に立っている。

キリトはハッキリ言って嫌な予感しかしない。

 

「おいシズクやっぱちょっとま・・・」

 

「アバカム!!」

 

魔法は制止しようとするキリトごと、何かしらの呪文の名前を唱えながら扉を蹴破った。

 

ドガァァァァァン!!

 

凄まじい轟音と白煙を吹いてキリトの家の扉は木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

「なんてことするんだ!!これじゃあ扉が・・・ってあれ?何もないぞ?」

 

吹き飛んだ扉だった所を潜るように入った自身の部屋だったが、見渡す限り何もない。

壁に掛けてあったポスターはもちろん、趣味で集めたあらゆる種類の武器類。

家具なんてものは最初からそんなにないが、今は完全にない。ベッドや畳さえも無いのだ。

「シ、シズク?お前本当に片付けたのか??」

「私は何もしていませんよ?まだ。」

「まだって何だよまだって。」

「そんな事より窓に何か貼ってありますよ?」

魔王に言われた方を見ると、小さな出窓に紙切れのような物が貼り付いていた。

 

 

 

魔界の英雄キリト様

 

あなた様はシズクお嬢様の連帯保証人となっているため、お嬢様の財産でまかないきれない借金の肩代わりとして部屋及び、武器やら何やらを差し押さえさせていただきました。

尚、総額で5万ゴールドになりましたので、借金の100億ゴールドから引いておきますね。

 

アストルティアの女神セレシア

 

 

「なにーーー!?何で俺が連帯保証人なんだよ。それにたったの5万って、買い叩きやがったなセレシアのヤツ!」

「仕方ありませんよ、キリトさんは配偶者ですから♡」

 

耳まで真っ赤にした魔王が照れるようにモジモジ言う。

「誰が配偶者誰が!それに可愛く言ってもダメ!!ってか、セレシアのヤツもやりすぎたろ!畳まで売りやがった。」

「セレシアちゃん今回は本気みたいですね。」

相変わらずのん気な魔王は笑っている。

「シズク、お前やけに余裕だがこのままだと野宿だぞ俺らは。」

「な!?嫌ですよ野宿だなんて!どうするんですか!?」

 

ようやく事態の緊急性に気付いた様子の魔王が慌てふためきだした。普段、圧倒的な力を有する魔王は常にどこか余裕をもっていたが、今の魔王の慌てる姿はまるで普通の少女のようでキリトは思わず笑いそうになる。

 

「仕方ない、街に出るか」

差し押さえられたものは仕方ない、キリトはいち早く気持ちを切り替え魔王に提案する。

「え?街を襲うんですか?」

「物騒なこと言うな!悪魔かお前は。」

「魔王ですが何か?」

彼女がソレを本心から言ってそうだから怖いとキリトは思う。

「働くんだよ。正確にはクエストだな。」

「クエストですか?ああ、話しに聞いた事がありますね。たしか困ってる方の悩みとかを解決したりして報酬を得るんですよね?」

「だいたいそんな感じだ。王族のお前がそんなに世間に詳しいとは意外だな。」

「城にずっといると暇なんですよ。それより私たちが街に出て大丈夫なんですか?」

「そこはさすがに変装するしかないな。お前と俺なら高額なクエストも余裕だしな。」

「確かにそうですね。魔王の私と正体がエスタークのキリトさんなら、私の両親でも出てこない限り余裕でしょうね。」

「ああ、しかし問題もある。いきなり高難度クエストをアッサリとクリアしてしまうと悪目立ちしてしまうだろ?俺の得た情報によるとアストルティアでは目ぼしい戦士はセレシアの直属に選ばれるそうだ。おそらくは勇者候補ってとこだろうな。だがそんな事より問題なのはお前だシズク。」

「私ですか?そうですね・・・私のようなか弱い美少女がケガでもしたら・・・」

「そうだ。お前はいつもやり過ぎてしまうから、討伐した証拠として生け捕りとかする前に殺してしまいそうだしな。」

 

魔王は自分の話しを無視して話しを進めるキリトの足をゲシゲシ蹴っている。

他にも色々と問題はありそうだが、新しい部屋を買うにもお金は必要なことから、結局2人はお金を稼ぐ為に街に出る事にした。

 

 

 

 

 

グレン城の城下町に出ると、沢山の人々が陽気に往来している。城下町となると色んな種族が集まる。オーガはもちろんの事エルトナ大陸のエルフ族、ウェナ諸島のウェディ族。プクランドのプクリポにドワチャッカ大陸のドワーフなど、あらゆる種類が街で繁栄を謳歌している。

キリトと魔王は、魔王のマヌーサの応用で魔界レンダーシア大陸の人間の姿に扮している。キリトはもともと人に近い容姿なのだが、魔王は白銀の髪や母親譲りの女神の如き美貌からあまりにも目立ちすぎるため、髪と瞳を黒くして人の姿に似せることにしたのだ。

なるべく目立たないように素知らぬ顔で町を歩くと、2人は気付かれることなくクエストの受付のある酒場へと辿り着いた。

 

「結構いっぱいクエストってあるんですね。」

「皿洗いのような初級クエストから高額な上級クエストまである。俺たちの当面の目的は住処〈すみか〉の確保の為の資金調達だ。欲を言えば土地と物件、それに生活必需品を揃えるのに10万ゴールドは欲しいところだよな。」

 

そう言ってキリトは様々なクエストが掲げられた掲示板に目を通す。高額なクエストだと討伐系が多い。しかしモンスターは魔王軍の、言って見れば仲間だ。あまり討伐はしたくない。最悪捕縛までにしておきたい。それはきっと魔王も同じだと思う。

しかし捕縛系は結構難しいことが多いわりに、討伐系に比べると報酬が少ない。

「何か良いのあったか?俺は一応何点か目ぼしいクエストを見つけたが。」

キリトが隣に並んで掲示板をみている魔王に話しかけると

「・・・キリトさん。私凄いの見つけました。」

「凄いの?」

見れば魔王は自分の見ている通常の掲示板とは違って、五つ星クラスの超高難度クエストを見ていた。

「おいおいシズク。そっちの超高難度クエストはまだ俺たちは受けられないぞ?それはキーエンブレムと言う信用の証を集めた者だけが受けられるんだ。」

「そうなんですか?残念です。せっかく報酬が100億ゴールドのクエストだったんですが・・・」

「なに!?報酬が100億って・・一発で借金が返せる額じゃねーか!どんな内容なんだ?」

「捕縛系のようですね。依頼主は・・・セレシアちゃんみたいですよ?」

「何だと?アストルティアの女王自らの依頼なのか?それなら受ける資格がなくても対象を捕縛して直接セレシアと交渉すれば、もしかしたら100億ゴールドをくれるか借金を帳消しにしてくれるかも。どんな内容なんだシズク。」

「えーと、アストルティアに現れた大いなる災厄の捕縛だそうですよ?」

「ほぉ、大いなる災厄か。それは何とも戦神である俺のやる気を起こさせるようなクエスト名だな。しかしそれ程の相手なら魔王軍の幹部クラスじゃないのか?さすがに仲間を売るような真似はしたくないな。」

「大いなる災厄・・・名前はキリトと言う最強の英雄らしいですよ。」

「そうかキリト・・・って俺じゃねーか!!」

「キリトさん・・・私、あなたのこと忘れないよ♡」

 

いつの間にか手にしている神剣を振り上げた魔王が、恐ろしく冷ややかな瞳でキリトを見つめている。

キリトはサーっと血の引いていく音を聞いた気がした。魔王の赤い瞳の中の虹彩は消え失せている。

 

ブォン!!

 

凄まじい風を伴い振り下ろされた剣がキリトの前髪をかすめた。

 

「お、お前俺を殺す気か!?捕縛だろーが!!」

「チッ、避けましたね。」

 

それからもギャーギャー騒ぐ2人。魔王とアストルティアの英雄の騒ぎは、掲示板のある酒場はおろか、グレン城もあまりの激しさに半壊させていく。

 

「な、なぁアレって・・・まさか魔王じゃないのか?」

「そうだ!あの白銀の悪魔は魔王だ!」

「魔王が現れたぞ!!!」

 

いつの間にか変装が解けていた魔王シズクを見て町中の人がパニックを起こす。

阿鼻叫喚に等しい叫びや悲鳴をあげ逃げ出すグレンの町の人々。騒ぎを聞きつけやって来たグレン城の兵も魔王の姿を見て逃げ腰だ。

そんな中、1人の男が2人に恐れることなく話しかけるものが現れた。

グレン城の主であるバグド王だ。

 

「聞け、魔王にエスタークよ。お前らが暴れてグレン城とグレンの町は滅茶苦茶だ!!よってお前ら2人をアストルティアの女王セレシア様に訴えてやる!家屋を無くした者や城と町の修繕費含め、1億ゴールドを要求する!!」

 

バグド王の声を聞いた魔王とキリトはピタリと動きを止めた。

 

「い、1億ゴールドだ・・と?」

キリトは再び立ち眩みを覚える。

 

「わ、私は知らなーい!!私は悪くないもん!キリトさんが全て悪いんです!!」

 

 

 

魔王はキリトに押し付けて逃げ出した。

 

 

「では、アストルティアの英雄キリト様よ、貴方に1億ゴールドの損害賠償を・・・」

 

 

キリトは逃げ出した。

 

 

「グレンの兵よ、逃げ出した魔王とキリトを追えー!!」

 

 

数百の軍隊が前を走る魔王とキリトを追う。

軍に所属していた兵は後に語る。

2人の逃げ足はメタルスライムも真っ青な速さだったと。

 

2人は後ろから聞こえる怒声に振り向きもせず、ただひたすら走る。

 

悪魔の如き凄まじい形相で追いかけてくるグレンの兵士。魔王と英雄キリトは、どこまでもどこまでも走って逃げて行くのだった。

 

2人は一体何処へ行くのか?

何処へ向かっているのか?

一抹の不安を胸に、目の前を凄まじい速度で走って逃げる魔王の後をキリトは必死に追うのだった。

 

 

 

 

 

 

借金の残額

100億一5万+1億=1009995万ゴールド




前作のヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険のキャラが1部引き継いだ物語ですので、よろしければそちらも宜しくお願い致します。
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