魔王は逃げ出した。   作:シズりん

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闇の奥深くに鎮座する魔王城
苦難を乗り越え辿り着いた勇者一向が魔王に突き出したものは・・・


星の守り人

朝靄のかかるプラットホーム

 

夜明け前と言うこともあり辺りには駅員を除けば2人しか人影はない。

客も殆どいないせいかウェディの駅員もアクビを何とか嚙み殺しているといった具合だ。

 

始発列車を待つ2人は魔王と英雄キリト。

2人はベンチに座って始発列車がホームに入ってくるのをまだかまだかと待っている。

 

「なんで俺たちしかいないのに、わざわざ移動に大陸間鉄道の大地の箱舟なんか使うんだよ。」

 

待つのが苦手なキリトは我慢できなくなったのか、席を立っては座り、座っては立ってを繰り返している。そんなキリトを横目に見た魔王は笑う。

 

「もう、落ち着いてくださいよ。たまには良いじゃありませんか鉄道の旅も。」

「どこがだよ。昔と違って空を駆けることのない大地の箱舟だったら、俺たち2人が飛んだり、ルーラの方が早いし便利だろうが。なんでわざわざ揺れるは遅いはの鉄道なんだよ?」

「フフフ。アホで戦闘バカなキリトさんは知らないでしょうけど大地を駆ける鉄道にも浪漫があるんです!」

「浪漫?」

「そうです。借金を無くしたりするような夢が詰まった乗り物、それが大陸間鉄道なんです!」

 

胸を張って鼻息荒く語る魔王にキリトはため息を吐く。

正直言えばまた始まった。どっかでまた変な情報を得たか、誰かに吹き込まれたのだろう。

キリトは敢えてそれ以上聞くことなくベンチに座って始発列車に待つ。

すると隣りに座っている魔王はチラチラとキリトを見ている。読心術などなくても分かる。彼女はきっと大陸間鉄道の浪漫とやらについて語りたいのだろう。

しかしキリトは気付かないフリして魔王と目を合わせないようにする。

すると魔王は次第にあからさまにチラチラと横目でキリトを見る。だんだん面倒になってきたキリトは深い溜息を一つ吐き、半ば諦め半分に魔王に話しかける。

 

「こんな天文学的な借金が無くなるなんて夢のようなことが大陸間鉄道なんかに本当にあるのか?」

キリトの質問に魔王はフンて鼻をならして横目でみると、全く感情が感じられない声のトーンで応える。

「それがスっごく素晴らしい名案を思い付いた私に聞く態度ですか?」

 

・・・めんどくせぇ。

キリトは内心で本音を呟やき、顔は器用に笑顔をつくる。

 

「どうかわたくしめに教えてください。」

「誰に教えてほしいのですか?」

「・・・アストルティアで一番の美少女シズク様、どうか戦闘狂なわたくしめに教えてください。」

「仕方ありませんね、美の女神も舌を巻く程のアストルティアで唯一無二の美少女の私が、脳まで筋肉な戦闘狂なアホな配偶者様に特別に教えてさしあげます♡」

 

・・・このオンナ、マジでめんどくせぇ。どうせ大した名案でもないくせに、どうして俺がそこまで言われなきゃならないんだよ。

そんなキリトの内心をまるで覗き込むかのように下からキリトの顔を見上げる魔王の瞳にはキラキラと輝く虹彩がない。

身の危険を感じ取ったキリトは咄嗟に愛想笑いをつくり誤魔化す。

魔王は釈然としない表情を見せるが、それ以上追及してくる事はなかった。

 

「まぁ良いです。私が思い付いたスっごく素晴らしい名案は・・・トクセーレーカードです。」

「は?トクセイレイカード?」

「はい。なんでも列車の旅をしていると稀にキーロマスとか言うのに止まるのだそうです。そのキーロマスではあらゆるカードが貰えるそうで、その中でも最強なのが借金を無に帰すトクセーレーカードなんです。」

 

鼻息荒く熱く語る魔王。

早くもダメだこりゃとガックリするキリト。

 

「それだけではないんです。他にもタイ・ラノマサカードって言うのもあって、それは何と一緒にいる人と所持金が均一になるのだそうですよ?タイ・ラノマサカードをアストルティアの金融を管理しているセレシアちゃんと一緒に使えば・・・借金帳消しどころか私たちは億万長者ですよ。私たちの夢のマイホームもグッと近付くってものです♡」

 

どうやったらセレシアにとって何のメリットも無いそのタイラノマサカードを一緒に使ってくれるんだよ。そんなカードがあるないの前に、穴どころか底がない計画にキリトは泣けてくる。

 

「ただ、このカンペキな私の計画にも一つだけ難点があるの。」

「難点?」

「はい、ヒトを呪わば穴2つ。スっごく素晴らしいカードが貰えるキーロマスにも罠があるんです。」

「罠・・だと?」

「そうです。それは・・・キングボン・ビーです。」

「キングボン・ビー?」

「あ!ダメです声に出しては!!」

 

魔王はキリトの口に手を充てて周りをキョロキョロと探っている。今しがた自分で声に発した事など忘れたかのようにだ。

 

 

「良いですか?もしこの最強の魔神に見つかったが最後、私たちの財産は瞬く間にアストルティアの空へと消えていくでしょう。それ程までに危険な魔神なんです。しかし、そんな危険があるからこそ賭けてみる価値があるのではありませんか?」

 

ドヤ顔で魔王はキリトを見つめて微笑んだ。

そんな事を話してる間に、大地の箱舟と言われる列車がジュレットの街のホームに汽笛を鳴らして入ってきた。

すると満面の笑みの魔王はベンチから立ち上がり、キリトに手を差し伸べて言う。

 

「さ、行きますよ?キリトボンビーさん♡」

「誰がキリトボンビーだ!!!」

 

キリトの我慢の限界を超えたツッコミが客のいない夜明け前のプラットホームに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

カタンカタンと一定のリズムを刻んで走る列車の中、キーロマスなんて駅はない事を知った魔王は、この世の終わりのような顔をして窓から外を眺めている。

 

「おいシズク、もう良い加減に立ち直れよ。仕方がないだろ?キーロマスなんて駅がないって駅員が言うんだから。」

「まさか私の計画がこのような所で頓挫するなんて。」

「このような所どころか、計画の入り口から間違っているじゃねーか。まぁ借金は2人で地道に働いて返していくしかないだろ。」

 

魔王は項垂れるように溜息を吐いている。キリトは苦笑いをしながら魔王の頭をそっと撫でてなだめるしかない。

そんなキリトの目の端に2人の人物が入った。

3列くらい前の斜め向かいに座る男女だ。

 

1人は頭にやたらと重そうな兜を被った年寄りの男性で、何やら客室乗務員からお弁当のような物を購入している。

そしてその向かいには、ウェディの若い女性がいた。その女性には見覚えがあった。レーンの村でヒューザとシェルナーの座を賭けて競い合っていたエテーネの民の女の子だ。

 

「おいシズク、またエテーネの民がいたぞ。」

キリトの声に重たそうに顔を上げ見る魔王は

「この前の子ですね。魂が二重になっている。」

「あぁ、それとその前にいる爺さんもみてみろ。あれは賢者ホーローだ。」

「本当だ、彼もエテーネの民のようですよね。」

「そのようだな。それにしてもエテーネの民がアストルティアの至る所で何をやっているのだろうな。彼らの祖先の事を考えると、2人ものエテーネの民が動いていると、何かが起きようとしているのか気になるところだな。」

「何を他人事みたいに。そもそもエテーネの民はあなたの・・・まぁ良いです。」

 

そう言った魔王は口を閉ざす。あまり面白くないはなしなのだろう。そんな魔王を横目にキリトは少しだけアストルティアに何かが起きようとしているのか、既に何かが始まっているのか一抹の不安のようなものを感じた。

そんなキリトとは対照的な魔王は

 

「考えすぎじゃないですか?」

 

と、コロコロと笑う。

そんなのんきな魔王を見ているとキリトも考えても仕方がないとばかりに霧散する。

そんな2人に声をかけてくるものがいる。

先ほどのお弁当を売っていた客室乗務員だった。

 

「あれ?もしかしてシズクお姉ちゃんにキリトお兄ちゃん?ちょー感激なんですケド!!」

 

「「サンディ」ちゃん!」

話しかけてきたのは白い妖精のような女の子で、名前をサンディという。

 

「2人ともちょー久しぶりデスよねー!」

独特な話し方にキリトは顔を綻ばせながら

「サンディとは一緒にアストルティアを一度救ったんだよな・・・懐かしいな。」

「そうなんですか?」

「シズクお姉ちゃん、忘れてるとかちょーウケるんですケド。キリトお兄ちゃんが英雄と言われるようになったゆえんじゃん。」

「ああ!確かキリトさんが翼の無い天使となってセレシアちゃんの所に行ったアレですか。」

 

ポンと自分の手を叩き本当に今思い出したかのような顔をしている魔王にキリトは溜息を吐く。

「シズク、お前なんで普通に忘れるんだよ。だいたいお前の城であるグランゼドーラだってそもそもはサンディやセレシアの父親であるグランゼニスの・・・まぁ良い、お前に昔話ししたって意味がないしな。それよりサンディ、お前日サロやめたの?それにグランゼニスは元気にしてるのか?」

「うん。お姉ちゃんがこれからは美白だって・・お父さんはどうかなぁ〜、たぶん元気なんじゃない?」

「なんで自分の親なのに疑問符が付くんだよ!?」

「え?だってウチのお父さん引き篭もりだし?」

「は?アイツまだ引き篭もってんの?」

「うん。お姉ちゃんに××××ヤローとか、××××××なんて言われたのがよほどショックだったみたいでさー、あのあとからずっと引き篭もりだよ。ね?ウケるっしょ?」

 

キリトはダメ神、グランゼニスがいじけてる姿を思い浮かべて笑う。

「あの白い女神セレシアの口からそんな言葉が出てくるなんて信じられんな。」

「え?お姉ちゃんは案外口悪いよ?家ん中だと上下スウェットだし。」

「そうなのか?シズクじゃあるまいし、そんな姿あまり想像はできないな。なぁシズ・・ク?」

 

そう言ってキリトは隣の魔王を見ると、彼女の美を飾るような瞳の虹彩は消え失せ、代わりにルビーのような真っ赤な瞳が怪しく光を放っている。

「私のことを思い出していただいて、ありがとうございます。」

「べべべ、別に忘れてた訳じゃねーって!な?シズク?」

「この私を放置して他の女と楽しそうに話すなんて・・・キリトさんは勇気ありますね。」

「落ちつけ!ってか、落ち着いて下さい!!」

 

キリトが魔王にしがみついて懇願する姿にサンディは、本当に彼はかつて自分と一緒にアストルティアを救ったあの英雄エスタークかと思わず笑う。

 

「サンディやセレシアは俺たちには昔馴染みの妹みたいなもんだろ!?その妹と久しぶりにあったんだから・・・ちょっとシズクさん?」

 

ゴゴゴゴゴ・・・とか言う擬音を背にしたような魔王の手には小さいながらも強烈な光が集約していく。イオの輝きだ。

光が渦を巻くように魔王の手に集まっていくと、それに伴い光の光度が強くなっていく。列車に乗っていた乗客たちは駅に着くなり一目散に逃げ去っていった。

涙目でガタガタ震えるサンディと、その前に盾になるかのように立つキリトも、英雄の名が泣くほどにガタガタと涙目で震えている。

魔王が手に集めたイオの光を放とうとした時だった。

 

「そこまでだ魔王!!」

 

3人の背後から野太い男の声がかかる。

3人の目に飛び込んできたのは、服の上からでもわかる隆々とした筋肉。見事にたくわえた白いひげ。

 

「テンチョー!!」

「聖天の使いか!?」

 

キリトとサンディが同時に男の名を叫ぶと、魔王もそのまま振り向く。懐かしい顔だった。彼もまたアストルティア創世記からの知り合いだ。

だがキリトと違い魔王にとっては懐かしい顔ではあるが、さほど絡みがあった仲ではなく、ましてや共に冒険した仲でもない。

 

「聖天の使いごときが私に何用だ、退がれ下郎。」

 

普段の絶世の美女たる姿は変わらない。しかし明らかに不機嫌な魔王の周りには魔力の濃度が上がりやがて其れは瘴気となる。

止まることなく溢れ出る瘴気が大地の箱舟をスッポリと包んだそのとき、聖天の使いは怯むことなく魔王を指差して叫ぶ。

 

「魔王!!貴様は列車を止めることの恐怖を知らないようだな。」

「恐怖?この私が何に恐怖するというのですか?」

「列車はな、常に時間にキッチリ動いているんだ。始発のこの列車を止めたという事はこの後のダイヤが全て狂うという事だ。そうなれば通勤ラッシュに多大な遅れが生じる。」

「・・・それがどうしたと言うのですか?」

「魔王、貴様が魔法を列車内で使用すれば当然列車は破壊されるだろう。そうなれば列車の修理費用、乗客のけがの治療費、運休した場合の代替バスの費用など、我々鉄道会社が負担をしたお金を、事故に責任のある人に請求する事になる。まぁ、既に多大な遅れは生じているがな。」

「な、なんですって・・・セイキュー、今一番危険な呪いのコトバ。」

 

魔王は真っ青な顔でブツブツと独り言を始めたかと思うと、ふと何かに気が付いたように列車の窓に向かってイオを放った。

 

ズガァァァァァァン!!

 

凄まじい爆発の轟音と、列車の窓ガラスが全て割れ吹き荒れる破片の嵐。そんななかキリトが見たものは、

 

「賠償はキリトさんが払いまーす!」

 

そう言って蹴破った大地の箱舟の窓から全速力で逃げ出した魔王の後ろ姿だった。

 

そう、魔王は逃げ出した。

 

「シズクちょっと待っ・・」

言葉を発しかけたキリトは鋭い殺気が自身に向いたのを感じ視線を戻すと、ギラリとした目で聖天の使いがこちらを見ている。キリトの頬を冷たいものが流れる。

「キリト・・・いやエスタークよ、確かにお前はかつてアストルティアを救った英雄だ。しかし大地の箱舟を止めた賠償はキッチリ払ってもらうぞ。」

そう言うと聖天の使いは取り出したホイッスルを咥え、ピリリリリ・・・と吹いた。

 

すると、夜明け前の空に輝く星々が次から次へと流れ出した。

その星々はキリトの頭上までくるとピタリと止まり、やがて半透明な人に近い姿となっていく。

やがて数十人の半透明な人間たちが夜空からやってくると、1人の男性が前に出た。

 

「そ、そのハゲ頭は・・・イザヤールか。それに後ろのメガネの女はラフェット・・か?」

かつて共に世界を救う為に戦った仲間の天使たちがそこにいたのだ。今は聖天に輝く星の守り人、半透明な身体を見る限り実体ではなく幻影か何かの類なのかもしれないのだが、本当に・・本当に懐かしいかつての仲間たちがそこにはいた。

 

「キリト久しぶりだな。」

「イザヤール。」

「かつての仲間であるお前に伝えたいことがあるんだ。」

「何だ?何でも言ってくれ。」

 

溢れそうになる涙。今すぐにでも駆け寄って抱きしめたい感情がキリトのなかでたかまっていく。

 

「列車を止めるた損害賠償、キッチリ払ってもらうぞ。」

「は?」

「諸々含めて5000万ゴールドをキリト、お前に請求する。」

「なんだ・・と?」

 

ジリジリと近寄ってくるかつての仲間(天使)たち。その目は天使と言うにはあまりにも非常な眼をしている。

 

キリトは逃げ出した。

 

 

 

 

先に逃げ出した魔王は追ってもない事から一息ついていた。そんな魔王に遠くの方から自身を呼ぶ声が聞こえる。

魔王はやっと自分の相方が追ってを巻いて来たのだと悟り、キリトの声のする方をみた。

そんな魔王の眼に飛び込んできたのは、ドドドドと砂埃を巻き上げ走ってくるキリトと、その後方に数十、いや数百もの星の守り人。

 

「な、何でこっちに逃げてくるんですか!!キリトさんのバカ!!」

「俺を見捨てるなよシズクぅ〜」

「何を情け無いこと言ってるんですか!!あなたは英雄でしょうが!あっちへ行ってください。」

「嫌だ!俺は片時もお前の傍を離れないって決めたんだ!!」

「キリトさん・・・」

 

共に星の守り人から逃げるキリトのコトバ。

普段ならキュンときそうなセリフも今はイラッとしかしない。

 

 

 

まてー!!

 

大勢の天使たちが手に武器を携えて追ってくる。

その目は尋常じゃないほどの怒りの炎を燃やした悪鬼の如くだ。

 

魔王と英雄キリトは、どこまでもどこまでも走って逃げて行くのだった。

 

2人は一体何処へ行くのか?

何処へ向かっているのか?

一抹の不安を胸に、目の前を凄まじい速度で走って逃げる魔王の後をキリトは必死に追うのだった。

 

 

 

 

 

2人の借金

1010093万 + 5000万 =1015093万ゴールド




前作のヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険のキャラが一部引き継がれています。宜しければそちらもよろしくお願いします。
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